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第七章 ケモナーと精霊の血脈
毛玉の名は
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「お下がりください!」
俺たちを庇うようにミルディが前に出る。
毛玉は一匹の狐だった。赤茶けたような毛並みをしているが、だいぶ汚れている。埃をだいぶ被っているのが原因か。
ただ残念なことにただの狐ではなかった。
「魔物?…しかし…生きている気配も熱もない…」
生きてはいない。
あれは狐の形をしているロボットだ。前足の一部がめくれていてそこに配線が見えている。
それに毛は本物の狐の物ではないようだ…かといって人工物にしては本物のようにも思える…触ってみないとわからないが、おそらく扉同様に謎素材だ。
「し、しし、侵入者ぁ?ピーッ…ガガッ…さ、三名?」
ノイズがある声だ。しかも高音と低音をいったりきたりと安定していない。だが、俺たちを認識している。ってか、俺まできちんと認識するとか、意外と性能が高いのかもしれない。
サイジャルにある機械だと、開発中の自動扉は俺を認識しないからな。
狐型のロボットは見たところかなり古い機械だからだろう。壊れている。
サイジャルで研究されているロボットよりも動きはなめらかに思うんだが、たぶん音声装置に異常が発生しているのかもな。
「始末を」
「ちょっと待て」
殺気だつミルディをなだめて狐型ロボットに話しかけることにする。どこまで対応できるかわからないが、ここを管理しているロボットなら下手に刺激をするわけにはいかない。
もしこのロボットに何かあって部屋から出れなくなるってことになっても困るのもあるが、なんとなく…そう、理由も特にないんだが…こんな場所に一人でいるなんてかわいそうだなって気持ちが沸いてきたんだ。
決して狐の見た目だからってわけじゃない。決してな。
「侵入者…っていわれたらそうなんだが、許可はあんぞ。それに俺たちはフェスマルクの者だから、問題はないはずだ。カードもあるしな。ケルン。カードを出してくれ」
「はーい!えーと、きつねさん?これ見える?」
ケルンにいえば、カードをロボットに見せる。ロボットの瞳がチカチカと輝き、口元のひげがゆらゆらと動く。もしかして、喜んだのか?
「フェ…ルク様…ガガッ…認証スキャンを始めます」
驚いた。耳障りな音声だったのに、後半はすっといいきった。ただ、ノイズが入っている方が抑揚があって、ロボット相手にいうのもなんだが、感情が込められているように思った。
ロボットの瞳からレーザーが音もなく照射され、カードに当たる。それが終わり、ケルンやミルディにもレーザーが照射された。
攻撃性はないように思って黙っていたが、ミルディが警戒を強めるようにおもったのだが、何故か黙ったままだ。
ケルンはくすくすとくすぐったそうにするのに、ミルディはまったく変化がない。というか…レーザーが見えていないのか?
俺にもレーザーは照射されたが、くすぐったくはない。ケルンがくすくすと笑うのはあれか?くすぐったそうと思ったから笑っているってやつか。くすぐったがりだからな。
ミルディに見えないってのはおかしいんだが…俺たちよりも目がいいミルディが見えない…蛇の目でとらえれないとかか?
ほぼ一瞬で終わったあと、がががと耳障りな音を立ててロボットが震え出す。
「確認…ガーッ…ルク様の…ピーッ。ガガッ」
ガタガタと痙攣のように震えだした。煙は出ていないが、積もっていた埃が舞ってしまうほどの振動がある。
「おい、大丈夫なのかよ?」
もしかしてショートを起こしたのかもしれない。だとしたらまずい。正直、どんな性能なのか不明なロボットの修理なんてできるわけがない。
声をかけても返答はなく、がくりと力が抜けたように頭を落とし、手足をぴんっと伸ばしてさらに激しくガタガタと揺れ出す。
「あ…ガガッ…ルク様ぁ…ガガッ…」
「しっかりしろよ!」
「きつねさん!」
まずいぞ!震えが激しくなると同時に瞳がチカチカと光だしている…壊れる寸前としか思えない。
いざとなれば『造物』に頼るしかない。自分で作った物じゃないが、少し触れば構造がわかるはずだ。理解するまでこいつがもつかはわからない。
一か八かにかけるしかないのは不安しかないが…このまま壊すわけにはいかない。
「っエフデ様!坊ちゃままで!危険です!」
俺はロボットのところにかけよって様子を観察できたが、ケルンはミルディに肩を掴まれて動きを止めた。
「大丈夫だよミルディ!きつねさんは悪い感じしないもん!」
「ですが!」
二人が口論をしているのを尻目に俺はロボットの観察を続ける。
毛並みは古いが、元はかなり綺麗な色合いだったのだろう。配線が見えている箇所から中をのぞくと血管のように配線が配置しているようだ。内部の骨として材質のわからない物が使われている。
電気や蒸気で動いているわけではないようだ。魔石の可能性もあるが、ここまで精密なロボットが魔石で動くというのは信じれない。会話が可能で、自己判断ができるロボットなんだから、どこかでプログラミングがされていないと…そもそも誰がこんな物を作ったんだ?
どう見ても…この世界の異物としか思えない。
だからこそ、ばらして直すことは不可能だ。正常の状態がわからず、予測が経たないままで修理をしようとすればほぼ破壊してしまう。ケルンのおもちゃを壊したときと同じになってしまう。それは避けたい。
どうしたものかと破損している箇所を見ていると、じわじわと毛の量が増えたように思えた。いや、破損している箇所が少し直っている。
「おい!もしかしてだが、自己修復機能があるんじゃないか!それをもっと起動させろ!」
ここまで異質なロボットだが、メンテナンスフリーで仕舞われていたとするなら、自己修復機能がついているのかもしれない。内部まで直せるかはわからないが、緊急の措置としてできそうなことは、やっていくしかない。
「エネルギー…残量…」
「エネルギー残量?…魔力でいいか?」
痙攣が弱くなっていく。これはよくなっているのではなぬ、痙攣すらできなくなりつつあるように思う。たぶん、俺たちを認識するときに不具合が起きてしまっているのだ。
力なくこくりと頷く。別なものだった場合、どうにもならなかったが、魔力ならなんとか渡すことができそうだ。
魔力で動くというなら、魔道具だが…ロボットで魔道具というのは気になるところだ。
おっと、今は気にしている時間も惜しいな。
「おい、ケルン。ちょっと手を貸してくれ」
「わかった!お兄ちゃんが呼んでるから、放して!」
「坊ちゃま!エフデ様!危険です!」
ミルディはケルンをこちらに寄越す気がないようだが、その問答をするのももったいない。ミルディの立場や気持ちを考えてみれば当然の行動ではある。だが、危険かもしれなくても助けなきゃならんのだ。
トーマお祖父様の手紙にあったんだからな。
「たぶん家族ってのはこいつのことだろ?だったら放っておけない。家族が困っていたら助けるのは当たり前だろ?」
「そうだよ!僕も家族を助けるんだ!」
俺たちは会ったこともないけれど、トーマお祖父様が家族と認めたロボットなんだから、直してやりたい。
「…何かあれば破壊します」
不穏なことをいいつつも、ケルンから手を放してロボットの前に殺気だったままで立つ。何かあったら蹴っ飛ばす気だな。
「何をすればいい?」
「手を出してくれ」
ケルンの手をロボットの首元に置く。魔法を使うわけじゃなく、魔力を長すだけだから杖はいらない。いてもうっとうしいからな…ここ何日かは静かだったが今日の夜くらいからうるさくなりそうだ。
地脈を操作するよりもケルンの魔力を操作する方が簡単だ。触れていれば魔力をロボットに流し入れることも…って、どんだけ入るんだ?…すでに五万ほど入ったんだが…まだ入るのか?
「ケルン…辛かったらすぐいえよ?」
「うん!…なんだか、お腹空いてきたかも」
「終わったら帰って飯にしよう。たっぷり食べるんだ」
「すぐに取りに行って参ります」
ロボットも大事だが優先順位の一番はケルンだ。魔法を使っているわけじゃないが、魔力を使っていることに代わりはない。一応反動がないように俺が間に入っているから、平気だと思うんだが…昼飯を抜いているのもよくないし…部屋の詳しい調査はまた後日にしよう。
結局、感覚的に七万ほど注いだ。まさかとは思うがスリーセブンとかじゃねぇよな?
がっつり魔力を注いだおかげなのか、ロボットの痙攣は収まって、配線が見えていた箇所も全て塞がった。
気のせいではなく、毛並みも整っていた。
「エネルギー…充填…ガガッ…完了…」
そりゃあんだけ入れば満タンだろう。こんだけ小さいのにケルンの本気の魔法数発分の魔力が貯められているとは…爆発とかしないよな?
すっと姿勢を正した狐型のロボットは耳をぴんっと立てて頭を下げる。
「マスターの…子孫の方…よく参られました。我が輩は…クヤと申し…ます」
ノイズがなくなって、少年とも少女とも取れるやや高めな声で話だす。しかし、まだ本調子ではないのか、内部の修復をしているのか、言葉の途中で止まる。
「クヤっていうのか?無理して話さなくていいぞ」
処理落ちしているようにも見えたからそういえば、黙ってうなづく。やはり人工知能にしては完成度が高いロボットだ。
もう少し調べたい気持ちがふつふつと沸いてしまうが、ケルンのことを考えてそろそろ部屋を出るべきか。
「よし、今日はもう帰るぞ」
「えー!」
探検をまだしたいらしいが、ミルディが黙って首を振っているんだし、諦めてくれ。
「お腹空いたっていってたろ?また来ればいいんだから」
「そうだけどー…あ、そうだ!お土産に何か持っていっていい?」
納得しないと帰らなさそうだし、本とか持っていけば…っとそうだった。
「土産な…クヤ。ここに置いてある物を持っていってもいいか?本とかになるんだが」
手紙にクヤに声をかけてくれって書いてあったから、クヤに声をかければすぐに頷いた。どうやら許可をしてくれるようだ。
「待っていっていいの?やったー!あ、あの扉の先には何があるのかな?」
あの綺麗な扉の先か…時間があれば中を見たいところだが、見始めたらケルンが帰らなくなるだろう。
それにミルディの首がぶんぶんと振られだしたからな。
「ケルン。それは今度な」
「今度?…あの中にお土産になる物とかあるかもしれないよ?お兄ちゃんも気になるでしょ?」
おう、気になる。
そういいたいが、いえるわけもない。ヘソをまげたミルディは怖くないが密告された後が大変だからな。
そもそもあの扉でわけるってことは貴重品でも置いてあるのかもしれないしな。ちょっと見るだけで済むはずがない。
「クヤ。あの扉の先の物も持ち出していいのか?」
「それ…不可…です」
前もって持ち出しを尋ねれば許可はおりなかった。やはり貴重品を置いてあるのだろう。当主以外持ち出せないとかそういうものでもあるのかもな。
「だってさ」
「ねぇー、お兄ちゃん。ダメっていってるの?」
ケルンが首を傾げる。まるでクヤのいっている言葉が理解しきれていないといった風だ。
「ダメっていっているが…なぁ、さっきは聞き取りにくかったが、今はクヤの言葉わかるよな?」
独特な話し方ではあるが、最初のときよりも断然聞き取りやすくなっている。なのに、なんで俺に聞き返しているんだ?
二人からの言葉は予想外だった。
「僕、きつねさん…んと、クヤっていうの?クヤのいってること、ちょっとしかわかんないよ?」
「その…私はまったくわかりません。エフデ様はどうしておわかりに?そういったスキルですか?」
ケルンは少しだけわかり、ミルディには言葉が理解できない。
もしかして俺が『真なるケモナー』だからとか?ケモナー予備軍のケルンだからちょっとわかるとか?
教えて棒神様!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
かなり更新があいてしまいした。次の話はすぐ更新できると思います。
俺たちを庇うようにミルディが前に出る。
毛玉は一匹の狐だった。赤茶けたような毛並みをしているが、だいぶ汚れている。埃をだいぶ被っているのが原因か。
ただ残念なことにただの狐ではなかった。
「魔物?…しかし…生きている気配も熱もない…」
生きてはいない。
あれは狐の形をしているロボットだ。前足の一部がめくれていてそこに配線が見えている。
それに毛は本物の狐の物ではないようだ…かといって人工物にしては本物のようにも思える…触ってみないとわからないが、おそらく扉同様に謎素材だ。
「し、しし、侵入者ぁ?ピーッ…ガガッ…さ、三名?」
ノイズがある声だ。しかも高音と低音をいったりきたりと安定していない。だが、俺たちを認識している。ってか、俺まできちんと認識するとか、意外と性能が高いのかもしれない。
サイジャルにある機械だと、開発中の自動扉は俺を認識しないからな。
狐型のロボットは見たところかなり古い機械だからだろう。壊れている。
サイジャルで研究されているロボットよりも動きはなめらかに思うんだが、たぶん音声装置に異常が発生しているのかもな。
「始末を」
「ちょっと待て」
殺気だつミルディをなだめて狐型ロボットに話しかけることにする。どこまで対応できるかわからないが、ここを管理しているロボットなら下手に刺激をするわけにはいかない。
もしこのロボットに何かあって部屋から出れなくなるってことになっても困るのもあるが、なんとなく…そう、理由も特にないんだが…こんな場所に一人でいるなんてかわいそうだなって気持ちが沸いてきたんだ。
決して狐の見た目だからってわけじゃない。決してな。
「侵入者…っていわれたらそうなんだが、許可はあんぞ。それに俺たちはフェスマルクの者だから、問題はないはずだ。カードもあるしな。ケルン。カードを出してくれ」
「はーい!えーと、きつねさん?これ見える?」
ケルンにいえば、カードをロボットに見せる。ロボットの瞳がチカチカと輝き、口元のひげがゆらゆらと動く。もしかして、喜んだのか?
「フェ…ルク様…ガガッ…認証スキャンを始めます」
驚いた。耳障りな音声だったのに、後半はすっといいきった。ただ、ノイズが入っている方が抑揚があって、ロボット相手にいうのもなんだが、感情が込められているように思った。
ロボットの瞳からレーザーが音もなく照射され、カードに当たる。それが終わり、ケルンやミルディにもレーザーが照射された。
攻撃性はないように思って黙っていたが、ミルディが警戒を強めるようにおもったのだが、何故か黙ったままだ。
ケルンはくすくすとくすぐったそうにするのに、ミルディはまったく変化がない。というか…レーザーが見えていないのか?
俺にもレーザーは照射されたが、くすぐったくはない。ケルンがくすくすと笑うのはあれか?くすぐったそうと思ったから笑っているってやつか。くすぐったがりだからな。
ミルディに見えないってのはおかしいんだが…俺たちよりも目がいいミルディが見えない…蛇の目でとらえれないとかか?
ほぼ一瞬で終わったあと、がががと耳障りな音を立ててロボットが震え出す。
「確認…ガーッ…ルク様の…ピーッ。ガガッ」
ガタガタと痙攣のように震えだした。煙は出ていないが、積もっていた埃が舞ってしまうほどの振動がある。
「おい、大丈夫なのかよ?」
もしかしてショートを起こしたのかもしれない。だとしたらまずい。正直、どんな性能なのか不明なロボットの修理なんてできるわけがない。
声をかけても返答はなく、がくりと力が抜けたように頭を落とし、手足をぴんっと伸ばしてさらに激しくガタガタと揺れ出す。
「あ…ガガッ…ルク様ぁ…ガガッ…」
「しっかりしろよ!」
「きつねさん!」
まずいぞ!震えが激しくなると同時に瞳がチカチカと光だしている…壊れる寸前としか思えない。
いざとなれば『造物』に頼るしかない。自分で作った物じゃないが、少し触れば構造がわかるはずだ。理解するまでこいつがもつかはわからない。
一か八かにかけるしかないのは不安しかないが…このまま壊すわけにはいかない。
「っエフデ様!坊ちゃままで!危険です!」
俺はロボットのところにかけよって様子を観察できたが、ケルンはミルディに肩を掴まれて動きを止めた。
「大丈夫だよミルディ!きつねさんは悪い感じしないもん!」
「ですが!」
二人が口論をしているのを尻目に俺はロボットの観察を続ける。
毛並みは古いが、元はかなり綺麗な色合いだったのだろう。配線が見えている箇所から中をのぞくと血管のように配線が配置しているようだ。内部の骨として材質のわからない物が使われている。
電気や蒸気で動いているわけではないようだ。魔石の可能性もあるが、ここまで精密なロボットが魔石で動くというのは信じれない。会話が可能で、自己判断ができるロボットなんだから、どこかでプログラミングがされていないと…そもそも誰がこんな物を作ったんだ?
どう見ても…この世界の異物としか思えない。
だからこそ、ばらして直すことは不可能だ。正常の状態がわからず、予測が経たないままで修理をしようとすればほぼ破壊してしまう。ケルンのおもちゃを壊したときと同じになってしまう。それは避けたい。
どうしたものかと破損している箇所を見ていると、じわじわと毛の量が増えたように思えた。いや、破損している箇所が少し直っている。
「おい!もしかしてだが、自己修復機能があるんじゃないか!それをもっと起動させろ!」
ここまで異質なロボットだが、メンテナンスフリーで仕舞われていたとするなら、自己修復機能がついているのかもしれない。内部まで直せるかはわからないが、緊急の措置としてできそうなことは、やっていくしかない。
「エネルギー…残量…」
「エネルギー残量?…魔力でいいか?」
痙攣が弱くなっていく。これはよくなっているのではなぬ、痙攣すらできなくなりつつあるように思う。たぶん、俺たちを認識するときに不具合が起きてしまっているのだ。
力なくこくりと頷く。別なものだった場合、どうにもならなかったが、魔力ならなんとか渡すことができそうだ。
魔力で動くというなら、魔道具だが…ロボットで魔道具というのは気になるところだ。
おっと、今は気にしている時間も惜しいな。
「おい、ケルン。ちょっと手を貸してくれ」
「わかった!お兄ちゃんが呼んでるから、放して!」
「坊ちゃま!エフデ様!危険です!」
ミルディはケルンをこちらに寄越す気がないようだが、その問答をするのももったいない。ミルディの立場や気持ちを考えてみれば当然の行動ではある。だが、危険かもしれなくても助けなきゃならんのだ。
トーマお祖父様の手紙にあったんだからな。
「たぶん家族ってのはこいつのことだろ?だったら放っておけない。家族が困っていたら助けるのは当たり前だろ?」
「そうだよ!僕も家族を助けるんだ!」
俺たちは会ったこともないけれど、トーマお祖父様が家族と認めたロボットなんだから、直してやりたい。
「…何かあれば破壊します」
不穏なことをいいつつも、ケルンから手を放してロボットの前に殺気だったままで立つ。何かあったら蹴っ飛ばす気だな。
「何をすればいい?」
「手を出してくれ」
ケルンの手をロボットの首元に置く。魔法を使うわけじゃなく、魔力を長すだけだから杖はいらない。いてもうっとうしいからな…ここ何日かは静かだったが今日の夜くらいからうるさくなりそうだ。
地脈を操作するよりもケルンの魔力を操作する方が簡単だ。触れていれば魔力をロボットに流し入れることも…って、どんだけ入るんだ?…すでに五万ほど入ったんだが…まだ入るのか?
「ケルン…辛かったらすぐいえよ?」
「うん!…なんだか、お腹空いてきたかも」
「終わったら帰って飯にしよう。たっぷり食べるんだ」
「すぐに取りに行って参ります」
ロボットも大事だが優先順位の一番はケルンだ。魔法を使っているわけじゃないが、魔力を使っていることに代わりはない。一応反動がないように俺が間に入っているから、平気だと思うんだが…昼飯を抜いているのもよくないし…部屋の詳しい調査はまた後日にしよう。
結局、感覚的に七万ほど注いだ。まさかとは思うがスリーセブンとかじゃねぇよな?
がっつり魔力を注いだおかげなのか、ロボットの痙攣は収まって、配線が見えていた箇所も全て塞がった。
気のせいではなく、毛並みも整っていた。
「エネルギー…充填…ガガッ…完了…」
そりゃあんだけ入れば満タンだろう。こんだけ小さいのにケルンの本気の魔法数発分の魔力が貯められているとは…爆発とかしないよな?
すっと姿勢を正した狐型のロボットは耳をぴんっと立てて頭を下げる。
「マスターの…子孫の方…よく参られました。我が輩は…クヤと申し…ます」
ノイズがなくなって、少年とも少女とも取れるやや高めな声で話だす。しかし、まだ本調子ではないのか、内部の修復をしているのか、言葉の途中で止まる。
「クヤっていうのか?無理して話さなくていいぞ」
処理落ちしているようにも見えたからそういえば、黙ってうなづく。やはり人工知能にしては完成度が高いロボットだ。
もう少し調べたい気持ちがふつふつと沸いてしまうが、ケルンのことを考えてそろそろ部屋を出るべきか。
「よし、今日はもう帰るぞ」
「えー!」
探検をまだしたいらしいが、ミルディが黙って首を振っているんだし、諦めてくれ。
「お腹空いたっていってたろ?また来ればいいんだから」
「そうだけどー…あ、そうだ!お土産に何か持っていっていい?」
納得しないと帰らなさそうだし、本とか持っていけば…っとそうだった。
「土産な…クヤ。ここに置いてある物を持っていってもいいか?本とかになるんだが」
手紙にクヤに声をかけてくれって書いてあったから、クヤに声をかければすぐに頷いた。どうやら許可をしてくれるようだ。
「待っていっていいの?やったー!あ、あの扉の先には何があるのかな?」
あの綺麗な扉の先か…時間があれば中を見たいところだが、見始めたらケルンが帰らなくなるだろう。
それにミルディの首がぶんぶんと振られだしたからな。
「ケルン。それは今度な」
「今度?…あの中にお土産になる物とかあるかもしれないよ?お兄ちゃんも気になるでしょ?」
おう、気になる。
そういいたいが、いえるわけもない。ヘソをまげたミルディは怖くないが密告された後が大変だからな。
そもそもあの扉でわけるってことは貴重品でも置いてあるのかもしれないしな。ちょっと見るだけで済むはずがない。
「クヤ。あの扉の先の物も持ち出していいのか?」
「それ…不可…です」
前もって持ち出しを尋ねれば許可はおりなかった。やはり貴重品を置いてあるのだろう。当主以外持ち出せないとかそういうものでもあるのかもな。
「だってさ」
「ねぇー、お兄ちゃん。ダメっていってるの?」
ケルンが首を傾げる。まるでクヤのいっている言葉が理解しきれていないといった風だ。
「ダメっていっているが…なぁ、さっきは聞き取りにくかったが、今はクヤの言葉わかるよな?」
独特な話し方ではあるが、最初のときよりも断然聞き取りやすくなっている。なのに、なんで俺に聞き返しているんだ?
二人からの言葉は予想外だった。
「僕、きつねさん…んと、クヤっていうの?クヤのいってること、ちょっとしかわかんないよ?」
「その…私はまったくわかりません。エフデ様はどうしておわかりに?そういったスキルですか?」
ケルンは少しだけわかり、ミルディには言葉が理解できない。
もしかして俺が『真なるケモナー』だからとか?ケモナー予備軍のケルンだからちょっとわかるとか?
教えて棒神様!
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かなり更新があいてしまいした。次の話はすぐ更新できると思います。
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