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第七章 ケモナーと精霊の血脈

魔法建築家

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 しかしまぁ…トーマお祖父様ってあんまり肖像画とか残っていない人だったから、顔をよく知らなかったけど…土鍋の後ろで手を広げて笑ってるのは、客に振る舞うためなんだろうけど。

 ぱっとみ悪人。よくみてラスボス。しかも魔法使いだから変に似合っていてどうなんだって気分になる。
 悪人顔ってか、目付きが悪いんだよ。たれ目なのに半眼で、にこやかに笑うというより嘲笑じゃね?って感じだし。小さめな彫刻でも顔を見えるってのは嬉しいもんだけどさ。

 かなりの変り者だったらしいってことと、事故で亡くなったってことは知っているが、基本、鍋狂いのイメージしかないんだよなぁ。

 ケルンもまじまじとみて…何か嫌な予感というかよくないこと考えてねぇか?

「トーマお祖父様って、お兄ちゃんに似てるね」
「は?」

 目をキラキラさせてケルンがいったが、何でそういう考えになるんだろうか…俺には体がない。だからこそ顔なんて最初っからない。
 誰も見たことがないものを似ていると判断はさすがにできないだろう。

 それでもケルンはやたらと自信ありげにいう。

「あのね、僕が思うお兄ちゃんに似てるの!」
「あー…どんな風なのを想像してんだ?」

 よくある妄想か。ケルンはわりと夢見がちというか、幼いからな。遊び相手も俺しかいなかった弊害なのか空想をするのが好きなのだ。

 ただ、ちょっと気になるから聞いておこうか。なにせ、俺のイメージだからな。
 悪人顔なイメージをされていたらケルンが寝てから泣こう。

「僕みたいな目でしょー。髪も一緒!」
「たれ目はな…遺伝だから」

 たれ目は優性遺伝だから似ているといわれたら納得だ。父様もケルンもたれ目だもんな。確かに仮に俺に体があればたれ目の可能性は高いだろう。
 でも、たれ目も切れ長なのとか腫れぼったいのとか色々とあるし、父様は切れ長たれ目でケルンはぱっちりとした目だが目尻がたれている。

 俺としては中間がいいが…一歩間違えたら目付きの悪いたれ目になりそうなんだよなぁ。眠た気とかダウナー系ってやつ?そうならないようにきりっとした系がいいが。
 トーマお祖父様は明らかダウナー系のたれ目なんだよなぁ。

「あと、猫さんの背中で、かっこよく笑うの!ね?似てる!」
「トーマお祖父様の笑い方はかっこよくというか、悪人面じゃね?」

 猫背なのは自覚しているが、彫刻のトーマお祖父様と同じ笑い方はないわ。

 あくまで父様から聞いた話だけなんだけど…トーマお祖父様が悪い人ではなかったのはいい。でも気になるのが、ちょっと変な人として伝わっていることだ。

 いきなり奇声をあげたり、週三で鍋を食べないといけないとか…そんな人に似ているといわれても喜べない。しかも、ケルンの想像だからな。

 そういうの求められたらどうしよう。奇声をあげるなんて…ちょっと動物と触れあうときと、週五て触れあわないと禁断症状で、ケルンの世話を六割ましするまけだっていうのに。
 一度、自分への戒めでやって実際やったことだけどな。

 救いというか、トーマお祖父様もイケメンなんだよなぁ。俺としては、そこまでイケメンじゃなくていいんだけど。想像の中とはいえプレッシャーを感じるぜ。

 とりあえず、俺たちならわかるっていうのが、フェスマルク家の人間ならわかるって意味ならこの廊下のことなんだろう。

「ここが目的地なのか?」

 そんな風にいってみるが納得できない。自分でいって思うことなんだが、ここでケルンが遊んだりできるかというと厳しい。
 彫刻があるけど、廊下には変わりない。ここで遊ぶくらいならクランの教室で遊んだ方がましだ。

「遊ぶとこってこの廊下?」
「いや、廊下ではだめだからな」
「そうだよね?でもまだ探検するの?」

 ケルンもまさか廊下で遊ぶとは思っていないが、探検もあきてきている。ここは警備員さんを呼んで引き上げる方がいいかもしれないな。
 晩ご飯はすき焼きだし、帰るのもアリか。

「そうだな…カードもよくわからないし…別なとこかもしれないし…そろそろ」
「あっ!僕わかった!」

 突然、ケルンがいうので、俺だけではなくミルディまでもが驚いた。そしてすぐに帰れそうにないと諦めた顔になった。
 俺にも表情筋とかあればミルディと同じ顔になっていたことだろう。

 また何かをしようとしてますか?帰りますよ?
 というミルディからの圧力に気づいてくれないか?無理か。鈍いもんな。

「ケルン…あの、そろそろ切り上げて」
「お兄ちゃん、何がわかったの?って聞いてよ!めーたんていの、めーすいりなだよ!」

 頬を膨らませてへそを曲げても、迷探偵の迷推理はよくならないぞ。
 それよりもミルディの変化に気づこうぜ。探偵さん。

 聞かないでいるとますます口を曲げるから一応やってやるけど…はぁ。

「迷探偵さん。何がわかったんだ?」

 迷宮入りするだろう謎解きなのだし、もう戻るだけだからと話に乗れば意外なことになった。
 ケルンが指差しているのはトーマお祖父様の前にある土鍋だった。土鍋がどうしたっていうんだ?

「お鍋!これトーマお祖父様の宝物の!でも、なんか違うよ!きっとこれが答え!」
「宝物?違う?」

 トーマお祖父様の土鍋は紋章が刻まれた特注品だ。現在は王都にある『世界鍋博物館』に委託保管されている。

 トーマお祖父様の遺言でたまに返してもらって鍋をする。嘘か本当か竜の鱗を砕いて混ぜて作った土鍋は、保温効果だけでなく最高の温度で調理できる調理器具として、展示品の中で目玉らしい。

 トーマお祖父様の宝物の土鍋。それが彫刻の題材に使われていても変ではないが、違う?

「ほら。杖が足りないよ?」

 ケルンがそういってよく見れば杖が一本しかない。トーマお祖父様の土鍋はフェスマルク家の紋章が入っていて、杖は二本でクロスしてある。
 彫刻の土鍋は杖が右上がりだ。
 ユリばあ様からの手紙に同封されていたカードは左上がりの杖が刻まれていた。

「ケルン。土鍋にカードをかざしてみてくれ」
「うん!」

 俺の言葉にうなづいたケルンがカードを土鍋の上にかざす。するとどうだ。音もなくトーマお祖父様の彫刻を中心として扉一枚分壁が消えた。

 消えた壁の向こうは乳白色のもやに包まれているが、部屋が先にあることが推測される。おそらく、この先にユリばあ様がいっていたいい物があるのだろう。
 だけれど、何よりも俺たちは驚いた。

 魔道具であるならば魔力を少なからず使うはずだ。それなのに、ケルンからの魔力は一切魔力は使わなかった。
 カードキーの建物なんてモフーナには存在しないのだが、イメージとしてはそれだ。ただ動力源が電気ではなく、俺たちの魔力でもなく、前もってプログラムされたこの建物の仕様というのに驚いてしまっている。

 いや、建物と思うから違和感を覚えるのだ。
 トーマお祖父様は『大嵐』鍋狂いで鍋料理の第一人者にして、他に類をみない『魔法建築家』だったのだ。
 この学園の大部分は増改築を現在も行っているが、基礎の部分や古い部分はトーマお祖父様が建てたままなのだろう。

 ここは魔法でできた場所なのだ。

「…魔法建築家ってすごいな…」
「びっくり」



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体調不良と忙しさとが重なって更新が遅れました。なるべく更新速度を戻します。
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