選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
209 / 229
第六章の裏話

?ちがえ??り

しおりを挟む
 私はここにいる。見よ。
 ここは薄暗い。死臭に満ちた揺り籠。神や精霊すら見放した場所。
 私がここにいる。聞け。
 全ての闇の中に私がいる。全ての血肉に私はいる。私が愛するものたちよ。私のために歌え。

 私のために食べられておくれ!

「なんともなんとも…知恵ある獣を使えばここまで成長するとは…なんともなんとも」

 耳障りな独演に言葉を返す人影は愉快そうに笑む。
 独壇場で叫んでいる存在はなめらかに演説をしている。聴衆はわーわーと機械的に喝采をあげる。

 何十人もの観衆の視線の先には美しい女性が演説を繰り返す。
 彼女に魅せられたかのように、集められた聴衆者は男女を問わず、どの顔も鍛えあげられた精悍な顔立ちをしていた。

 のだろう。

 彼らは真っ白な顔色だ。
 なにせ、頭しかない。

 何十人もの観衆は頭部だけが、黒い液体のような物に持ち上げられ、声帯を無理やり震わせられてわーわーと叫んでいるだけだ。

 頭部から下は彼らの視線の先にある。
 美しい女性が立つその足元にうず高くつまれている。

 ああ、けれども。美しいはずの彼女の瞳は何も写してはいない。
 彼女の背面は大きく開き、体の中身はとうになく、人形劇で使われる人形のように、黒い液体のようなものに犯されている。
 どろりどろりと彼女の中身をすすりながら、独演は続く。

 またも私の元へと来た!
 彼らはすでに私の中に!私は彼らで彼らは私!
 私は得たのだ!私は私になったのだ!
 人よ!精霊よ!神よ!私を祝福せよ!
 わた、わた、わわわ。

「わた…ころし…私は…死にた」

 中身をほとんど吸い尽くされた彼女に一瞬だけ瞳が生き返ったように思えた。
 だが、黒い液体に飲みこれ長い断末魔をあげながら、それまで溜められていた痛みを味わいながらも彼女はまだ死ねない。
 ソレが飽きるまでの玩具なのだから。

「これはいかに、いかに」

 影は首をかしげる。食事をせずに遊ぶのは初めてではない。戯れに人の中に入りああして演説をするのもだ。
 けれど断末魔をあげさせ続けるなどそれまではできなかった。

『次をもて』

 低く陰鬱な声が響く。それは先ほどまで聞こえていた女性の声ではなく、いくつもの叫びすぎて潰れ枯れた声が重なった声音だ。

「…かしこまりました」

 影は膝をつき震えていた。
 そらは恐怖ではない。歓喜だ。

「満ちた満ちた。還りしかな還りしかな」

 影は笑う。
 ----の帰還を喜ぶために。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あと一話で裏話はおわりです。
その後七章を始めます
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...