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第六章の裏話

?ちがえ??り

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 私はここにいる。見よ。
 ここは薄暗い。死臭に満ちた揺り籠。神や精霊すら見放した場所。
 私がここにいる。聞け。
 全ての闇の中に私がいる。全ての血肉に私はいる。私が愛するものたちよ。私のために歌え。

 私のために食べられておくれ!

「なんともなんとも…知恵ある獣を使えばここまで成長するとは…なんともなんとも」

 耳障りな独演に言葉を返す人影は愉快そうに笑む。
 独壇場で叫んでいる存在はなめらかに演説をしている。聴衆はわーわーと機械的に喝采をあげる。

 何十人もの観衆の視線の先には美しい女性が演説を繰り返す。
 彼女に魅せられたかのように、集められた聴衆者は男女を問わず、どの顔も鍛えあげられた精悍な顔立ちをしていた。

 のだろう。

 彼らは真っ白な顔色だ。
 なにせ、頭しかない。

 何十人もの観衆は頭部だけが、黒い液体のような物に持ち上げられ、声帯を無理やり震わせられてわーわーと叫んでいるだけだ。

 頭部から下は彼らの視線の先にある。
 美しい女性が立つその足元にうず高くつまれている。

 ああ、けれども。美しいはずの彼女の瞳は何も写してはいない。
 彼女の背面は大きく開き、体の中身はとうになく、人形劇で使われる人形のように、黒い液体のようなものに犯されている。
 どろりどろりと彼女の中身をすすりながら、独演は続く。

 またも私の元へと来た!
 彼らはすでに私の中に!私は彼らで彼らは私!
 私は得たのだ!私は私になったのだ!
 人よ!精霊よ!神よ!私を祝福せよ!
 わた、わた、わわわ。

「わた…ころし…私は…死にた」

 中身をほとんど吸い尽くされた彼女に一瞬だけ瞳が生き返ったように思えた。
 だが、黒い液体に飲みこれ長い断末魔をあげながら、それまで溜められていた痛みを味わいながらも彼女はまだ死ねない。
 ソレが飽きるまでの玩具なのだから。

「これはいかに、いかに」

 影は首をかしげる。食事をせずに遊ぶのは初めてではない。戯れに人の中に入りああして演説をするのもだ。
 けれど断末魔をあげさせ続けるなどそれまではできなかった。

『次をもて』

 低く陰鬱な声が響く。それは先ほどまで聞こえていた女性の声ではなく、いくつもの叫びすぎて潰れ枯れた声が重なった声音だ。

「…かしこまりました」

 影は膝をつき震えていた。
 そらは恐怖ではない。歓喜だ。

「満ちた満ちた。還りしかな還りしかな」

 影は笑う。
 ----の帰還を喜ぶために。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あと一話で裏話はおわりです。
その後七章を始めます
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