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第六章の裏話
レダート家
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サイジャルから一時間も馬車に揺られて中継地点の街に着いたと思ったらそこから、三回も『転移』をしてようやく王都や。
「それでは、マルティン様よろしいでしょうか?」
「ええで。はよしたって」
王都まできたら今度はうちの屋敷まで飛ぶ。正直、しんどいわ。
「…もうちょいなんとかならんの?」
「申し訳ありません。我らではこれが限界なのです」
もっと楽にならのかと愚痴をいうても無理なもんは無理や。それはしゃあない。安全に『転移』をできる魔法使いは少ないからな…六人前後で交代しつつ『転移』させてもろうて…金貨十枚とかあんま使いたくないわ。
「レダート家ご嫡男様の『転移』は無事に終わりました」
「ご苦労。マルティン様お疲れ様です。さ、お屋敷へ」
「おん…」
ふらふらしてたら屋敷の前の指定位置へ『転移』していた。酔うから好きになれんわ。
うちの執事が支払いを済ましてる間に屋敷へ入る。あー、気分悪っ。
「嫡男ちゃうわ、ボケ…」
まだ決まってないのに、おべんちゃらいいやがって。
あかんあかん。気分を変えんと。
「帰ったで」
「お帰りなさいませ。マルティン様」
ずらっと使用人たちが整列している。久しぶりの家やけど…また人が増えたんちゃうか?おとん、まーた雇ったんか?
とたた。
って足音が聞こえた。これは間違いない!
「あんちゃーん!」
「ルー!」
ああ!そないに走ったらこけてまうやろ!何を慌ててるんや!
「おかーり!」
「くぅぅ!なんちゅうかわいさや!ルー!ただいま!兄ちゃんは会いたかったで!」
俺にお帰りをいうために走ってきたんか!しかも、舌ったらずなんて…めたくそかわええなぁ!
かわええ俺の弟のルシファス・レダート。俺とは四つほど離れてるけど、がたいはええねん。俺より小さいけど…ケルンぐらいはあるやないかな?ケルンにばれたらすねるやろうけど、あいつはちっちゃいねんな。探すの大変やったわ。
尋常やないほど顔がええからすぐわかったけど。
せやけど、ケルンに負けないほどうちの弟もかわええわ!
つぶらな瞳はおかん譲り、茶色の髪に長いウサギの耳。口は人寄りやけど、少し獣人が出てひげがピンピンと生えてる。
挨拶がわりにおもっきしちゅうしたった。
ほっぺやからええやろ。口はルーからならどんとこいや!
「あー、ルーはなんでこないにかわええんや」
「あんちゃん、くすぐったいやん!」
もっかいちゅうしたろ。我慢できん。口でもええやろ。ひげもやわらかで最高の感触や。ほんで、あとで姫ともちゅうしたらんと。
うちの弟と妹がかわいすぎて学園に行きたくなんかなかったんやけど、四年もすればルーが入ってくるんやし…ルーをいじめた奴は髪の毛一本、爪先一つ残さんとすりつぶしたるわ…あー、かわええなぁ、うちの弟。
アシュの姉ちゃんと話が合うのはここやねん。弟妹がかわええ。弟妹は正義!
アシュもたぶん帰ったらちゅうされてるからな。見たことあるし。あのべっぴんな姉ちゃんはぐいぐいいきよるし。
最近、エフデの兄やんも俺らと同じ気がするんや…まぁ、確かにケルンは飛び抜けてるからな…誰が見ても顔が整ってるって思うわ。気になるんは貴族としてやけど…うちのルーと変わらんのやないかな?身長だけやなく中身とかも。
だからなんやろうなぁ。なんとなくなんやけど、エフデ兄やんの気持ちがわかるんよなぁ。同じ兄やからかな?
病弱やったからケルンを構ってやれんかったいうとったけど、病弱やなくても構ってたやろって思うわ。わざわざ人形を使ってケルンと行動するなんてありえへんし。
フェスマルク家やからなんでもやらかしそうや。
だいたい、ばかすか『転移』しまくる人らとかどんだけ魔力があんねん!っちゅう話やし。
ケルンとエフデ兄やんから、法王様がちょくちょく来てるって話を聞いて思ったわ。
親が親なら子は子やなって。
だって、魔力が多くても本体も疲れるやろうに、人形の操作時間がえらい長いって、そんだけケルンのそばにいたいってことやろ?
誰が見たって弟が大好きなんはわかりきったことやん。
飯で補給できるって『思念石』はおもろい特性があるみたいやし…どうにかうちも手に入らんかな?なんかの商売に使えそうやと思うんやけど。
「マルティン様。ご当主様がお呼びでございます」
執事のおっちゃんがルーとの楽しい触れ合いを中断させる。このおっちゃんは新しい人やな。
たぶん身辺警護で増やしたんやろうな…そこまで『鑑定』はできへんけど、もしかしてメルヴィアムの血筋の人か?えらい高いのに。
「わかったわ。ほんなら、ルー。俺はおとんに挨拶してくるわ。あとでな」
「あんちゃん、いってらっさい!」
笑顔で手を振るルーを使用人に託して泣く泣く離れる。
おんとが来いや。どうせおかんも一緒やろうし。
「マティ!よぉ帰ってきた!」
「おとん!ただいま!」
執務室に俺そっくりなおっさんが待ち構えていて俺は捕まってしまう。
おとんのマルティン・レダート。レダート家の当主にして、銀行の頭取、数十の商いをまとめるレダート商会の会長。
ほんで、若くみえるけど、とっくに七十は越えてる。
おかんとの歳の差はわりと犯罪染みてるわ。親やからいうけど、おとんはほんまは悪人ちゃうんかな?
「おとん、おかんは?」
「今、姫を寝かしつけてるとこや」
「そうか。姫は寝てるんか…」
四六時中おかんを離さんおとんが離れてるっちゅうたら、うちの大事な姫のときだけや。
姫は全獣。しかも生まれたてやから気を張ってる。
全獣の子はよく誘拐されるか殺されるからな…まぁ、姫を狙った瞬間、おとんが金と権力を使いまくって消すやろ。
俺らの前じゃええ父親やで?俺も商売をさせてもろうてるから、聞いて裏を知ってるから思うけど。
この嫁にメロメロなおっさんが金をしこたま使いまくっておかんの実家の島を楽園にしたっちゅうのは有名やけど、島にもぐりこんだやつらを畑の肥やしにしたっちゅうのもほんまやしな。
なんで海に捨てたりせぇへんかったかって、理由がな。
「魚が間違って食うたら腹壊すやん?せやし、わいの将来の奥さんの体にもし入ったらどないするん?そんなん許せへん。海賊やいうて、海からあがればただの賊や。せやったら、情けとして土に還したろって思ったんよ」
意味がわからんし、普通に恐いわ。おかんと結婚して大人しくなったちゅう話やけど、若い頃なんて金を踏み倒そうとしくさった貴族の髪の毛をむしりとってかつらにして売ったあと、犯罪落ちさせて鉱山に送ったとか。
他にも色々とあるけど、レダート家が恐れられてる八割はおとんが原因やからな。
魔法の才能があったら、とんでもない魔法使いになったっちゅうほど魔力がたんまりあるから、それを使って魔道具をばしばし使いよる。
船かておとん一人でなんとかなるんちゃうか。
そんな超人のおとんが、仕事用の顔になってるわ。あかん。はよ逃げよう。
「そんじゃ」
「ちょっと、待ちぃや。おとんと少し話そうや?」
「…仕事でっか?会長はん」
ええ笑顔で親指を立てよって…まぁ、俺も報告をせなならん思うてたからええけど。
「それで、どや?」
「どやって…なんのこと?」
椅子に座った瞬間いうなや。主語はどこいったん?
「頼んでおいたやろ?」
どれのことやろか。
たくさんいわれてるけど、一つずつ話してくか。
「皇子と皇女の病が治ったのは間違いない。特にひどかった皇子が咳の一つもせぇへんかった」
明日もわからないって話やった皇子があそこまで回復してたちゅうのは、この国にとってはええことやろ。
王位継承権が極端に少なくなってるから陛下にはミケーレ皇子の他にも皇子を作ってほしいってのが、貴族たちの考えや。
側室も色んな家から進められてたらしいけど、俺は詳しくは知らん。
いくつかの家は潰れたちゅうのは店の従業員から聞いたけど。
「ただ他の建国貴族の子供らの動きはわからん。正直、顔を知っていてあそこまで皇子たちと接点を持たんようにするなんて、おかしな話や」
アシュのように馬鹿正直にいくやつもおってもおかしくないっちゅうのに…それこそメルヴィアム家とか動くと思ったんやが…噂通りメルヴィアム家は嫡子を外すんかもな。
あそこで動かんとメルヴィアム家としては終わってるわ。
それともけったいな貴族のあれが原因か?
「それは声をかけれへんからやろ」
「身分は同じやろ?まだ候補なんやし」
身分が下の者から上の者へと声をかけてはいけない。
けど、王家と建国貴族は別や。どちらも同列やし、皇子もまだ立太子をしていない。他の家も候補者っちゅうなら一緒やろ。
あ、ケルンだけやないか?正式に嫡子になってるわ。そうしたら、一番身分があるのはケルンやな…いうて、色んな人に声かけまくってたわ。主に兄自慢で。
魔力の操作が苦手らしいからロイヤルメイジにはなれんかもしれんな。フェスマルク家が専属でやってるちゅうのにな。
ミケーレ皇子の代は大変や。どこもかしこも穴だらけになりそうやからな。まぁらあの人なら平気やろうけど。
「噂よりも皇子は頭がきれそうやから、次も安泰やと思うで。このまま育てば…がつくけど」
「ほぉか…で?フェスマルク家はどないや?」
「手紙で知らせた通りや…フェスマルク家のケルンとは友達になったわ。ほんで、エフデの兄やんとも仲良くさせてもろうてます」
エフデ兄やんの話をすればおとんの顔がわかりやすう変わったわ。尊敬できる人やいうてたが、おとんがそういうなんてなかなかないことや。
「ほぉか。せやったらええ。迷惑はあんまりかけんなや?エフデはんも、いつ調子を崩されるかわからんからご本人の周りはピリピリしとるらしいわ」
「エフデ兄やんはそないに悪いんか?」
病弱やっちゅう話は二人から聞いているし、それが原因でほとんど寝たっきりだったってのも聞いた。
少しましになったから、絵を描いたりして過ごしてたっちゅう話やったけど、やっぱり人形の操作で影響がでてるんか?
「ティストールはんいわく、だいぶ落ち着いてきたけど、人前には出せないんやと。代わりに人形を本人同様に接してくれって貴族間でお触れが回ってきたわ」
「本人同様に…そりゃまた…」
人形に手を出したらフェスマルク家に喧嘩を売ったと見なすちゅうことやんか。
誘拐未遂があったからやろうけど、たかたが人形で、本人やないっていうのに、そこまでするってことはなんか思惑がありそうやな。
「大将の面会やザクス家の治療すら断ってるらしいで?古い精霊の守りがある場所でフェスマルク家の血筋以外は入れない場所で静養しているんやと…せやけど、元気なんやろ?」
「ごっつぅな。ほんまに病弱なん?いうほど。人形やけど」
陛下やザクス家の面会を断るのはまた変な話やな。ザクス家なら医療の専門家やし。陛下なら古い精霊っちゅうのも許すと思うたんやが、特殊な精霊か?時とかやろか?
そないな大物が必要とは思えんほど元気そうなんやけどなー。飯食って茶をしばいてるときとか、人形やけど普通に元気そうやし。
病弱よりも気なることがあったわ。
「あ、それよりな。やっぱりおとんが睨んだ通りやったわ。フェスマルク家の兄弟は箱入りすぎる」
「せやろ?子供を二人とも大事に隠してたぐらいやからな。世間知らずにそらなるわって思ってたわ…どないなん?」
エフデ兄やんのように完全に隠匿しとったわけやないけど、ケルンもほとんど話は聞いたことがなかった。養子っちゅう話が出とったらしいし。今は法王様に似てきたけど、もっと小さい頃はディアニア様に似てたらしいから、ディアニア様の実家のクレエル帝国からの養子っちゅう話もあった。
実際におうたらわかるけど、そないなことはなかったな…フェスマルク家の領地ってポルティだけやったか?確かあの近くの貴族って…やたらとコロコロ変わってるからあそこらが噂の元凶やろうな。
あんな連中と近所付き合いをせにゃらんと思うたらそらぁ、箱入りにさせるわな。
「ケルンはかなり抜けてるとこあんねん。エフデの兄やんも病弱やったから世間を知らんのやろうけど、ありゃあ、周りが何も知らせてなかったんやないかなぁって思うわ…常識がずれてるわ」
「なんや?またおもろいもんでもあったん?」
おもろい?そんな次元やないわ。ケルンと兄やんの二人を放置したらあかんってうちらで決めたぐらいやからな。
たまたま気になったからいうて、兄やんが開発関係のクランに顔をだしたっちゅうのが間違いやった。
髪を乾かしたりする魔道具をさくっと作ったり、片手間やいうて、何でもすぐに小型化するし…本人は普通だろ?っていって木にも止めてないみたいやけど…エフデ印の絵の具が飛ぶように売れてるあたりで気づいてほしいわ。
兄やんの知識は異常や。
何でか金には無頓着ちゅうか、全然稼げてないって愚痴をこぼしてたけど、いや、稼げてるからな?ほんま箱入りはめんどくさいわ。
「あいもかわらず、どえらいもんを開発しまくってるわ。提案しているだけやいうても、どないな頭をしてるんやって思うで」
「またかいな」
冷風機と安眠枕の二つの生産をうちが買い取って販売を始めたけど、材料はフェスマルク家から仕入れて組立てるだけやちゅうても、利益のほとんどをうちに回してもろうてる。
その代わりフェスマルク家の欲しそうなもんは優先して集めて渡してるからお互い納得してるそうなんやけど、おとんが毎回頭を抱えてるんよな。
「ティストールはんから渡された商品を見て思うっとたけど…エフデはんはあれや。フェスマルク家やなかったら、とっくにリンメギンかドラルインに引っ張られてるわ」
うちもやけど。
ってわっるい顔に書いてるわ。金はいくら稼いでも困らんからな。その種になる人は見つけたら囲うのは普通やし。
リンメギンはわかるけど、ドラルインはよく知らん。サイジャルやりも魔道具が発達してるっちゅう話やけど、行ったことがないし、うちの支店もないからなぁ。
魔道具な…そういや映写機いうんも兄やんの考えらしいけど、あれも今度からうちで販売するんやろうな…おとん頑張れ。
そんな風に思ったらおとんが、にやって笑う。ほんま悪人顔が似合うなぁ。
「…それに、商売の知恵もあるんやろ?」
「ばれとったんか…」
「おとんをなめすぎや。すぐわかるわ」
俺の店の売り方に助言をくれたのはエフデの兄やんや。
少し売れ行きが悪くて愚痴ったら、手芸品と何でも小さいもんを集めて売ったらいいといわれたから、試しにやってみた。それまでは服や小物を売る店やって、手芸品やおもちゃみたいな小さいもんは置いてなかった。
大きい方が得かと思ってたんやけど、違ったようや。
女子向けの店でそこそこ稼がせてもろうてる。
それにしてもおとんが…あん?
「おとん疲れてるんか?」
おとんの顔色が悪い。俺にばれるんいうんやから、なんぞ疲れることでもあったんやろうか?
「ここんとこくっそ忙しゅうてな。ティストールはんがえらい勢いで貴族や邪教徒を潰してくれはるから、国庫が潤いすぎて、銀行が動かんと経済が死にそうやねん」
「また邪教徒かいな…」
国庫が潤うのは国としては困るやろうな。一時は潤ってもその金を使わんとあかんし。
潤うほど金を貯めてたもんを還元やいうて民に流したら、市の値がだだ下がってそのうち首を吊る人らも出るからなぁ…うちの仕事やとはいえ、市場操作はおとんやからできることや。下手すりゃ経済が破綻するわ。
ほんで邪教徒な…メルヴィアム家の執事を雇ったんはそこらの絡みか。
邪教徒はおかんたちのような獣人を狙いよるからな。
ご愁傷様やけど。
「せやねん。まぁ、邪教徒は大人しくしてたら見逃すけど…お前らにまで手をのばそうっちゅうやつらは、みな肥やしにしたるねん」
「おーこわ。おとんのそんなとこ、おかんが見たら悲しむで?」
おとんを敵に回したら少なくても王都の邪教徒は尻の毛まで抜かれてまうわ。
腕っぷしはまったくないけど、金の動きでどこに誰がいるかの予測をたてれるんやから、自給自足でもせんとすぐ邪教徒は捕まるわ。
「おかんには内緒にしといてや?おとんはおかんの前じゃ優しい夫やねん。な?」
「ええけど、口止め料はもらうで?」
ただでは何もせぇへんよ?当たり前やん?
「ほんまマティはわいにそっくりやな」
「じーちゃんもいうてたわ」
おとんほど悪徳商人みたいなことはしてへんけど。結婚するまでかなりギリギリの商売をしてたような人に似てるいわれても素直に喜べんわ。
「…なぁ、わいは子供に無理強いはしたくないんやけど…ほんまにおとんの跡を継ぐ気はないんか?」
「継がんって」
またその話か。
俺は継がんいうてるやんか。
「ええねんで?別にスキルがのうても。わいが誰にも文句をいわせんし、他所かて」
「ええねん。なぁ、おとん。おれはな、ルーが当主になる方がええって思うんよ」
「ルーはお前が継ぐと思ってるんやで?昨日かてわいに将来の店の話をしててんで?」
かわええこというなぁ、ほんま。せやけどそれはあかん。
「しゃーないやん…せやないと、ルーを守れんのやし」
「それこそおとんの仕事や」
「せやかて、俺はルーのあんちゃんやで?…なんやねん。獣人やからって貴族をしたらあかんのか!思い出したら腹立ってきたわ!」
金を借りに来よった貴族のボケが話してるんを聞いて思うたんよ。
うちのルーを立派な当主にしたろ!ってな。
「そういうとったアホはもうおらへんから」
「…やっぱおとんは恐いわ」
淡々というおとんがほんま恐ろしい。あの貴族の家が潰れたあと本人も行方不明なんは…考えんとこ。
「ほんで?本当の理由はなんやねん?」
おとんが今日はええ天気やないうようにいいよった。
どこでわかったんや?
「…おとんはほんま…かなわんわ。まぁ…おとんが生きてるうちに解決できたら考えたるわ」
「おー。いうたな?口から出たもんは戻せんで?」
当主にならんのはルーのことだけやない。俺っちゅうか…まぁ、解決したらええなぁって思うてることがある。
なんでわかったんか。知りたいわ。
「いややなー。レダート家は恐いわー」
「せやろー?お前もレダート家やねんで」
「せやったわー」
ははは。いうて笑うてるけど、ほんま貴族らしさないわ、うちら。
商人って方が楽でええしな。
「せやせや。マティが帰ってきたら渡したろって思ってたんや」
おとんが声をかけたら使用人が持ってきたもんが…ほんまかいな!
「ロウの新作やんか!」
情報誌っちゅう話やったけど、表紙は少年剣士がデカデカと出てる。
あの表紙は見たことがないっちゅうことは『風来ロウ』の新作や!
「興奮しすぎやで」
「当たり前やんか!ロウの新作を待ってたんや!エフデ兄やんも人が悪いわー!はよ教えてくれたってえかったのに!」
おとんが呆れてるけど、そないなもん関係ないわ!
五人の姫の正体がもう少しでわかるってとこで終わってたから気になってたんや!
「夜寝れるんか?明日はエイガ?っちゅうもんを見るんやからはよ寝なあかんよ」
わくわくしながら表紙をめくろうと思ってたらおとんが忘れてたことをいいだしたわ…忘れていたかったわ。
「エイガか…」
「なんや、その顔」
いや、ほんま知らんてええなぁ。
「おとん、絶対にびびるで」
「そないにか?」
「エイガもそのもんもやけど、これからエイガに関わると…とんでもない金が動くと覚悟しとき」
「…腹くくるわ…」
エイガもかなり興行は成功するやろ。
そしたら次はエイガが一つの産業なるっちゅうことや。芝居小屋も影響を受けるやろうし、劇場やそこの役者や劇団も影響を受けるやろうし…それだけやない、エイガの合間に広告を出すっちゅう話をしてたから、王都でやるときは…もめるやろうなぁ。
うちとあの何でも屋になってる八百屋が広告をさせてもらってるけど、次からはおとんが仕切るやろうな。人に知られる手段はうちら商人にとっちゃ変えがたいもんやし。
あ、俺貴族やったわ。
とにかく、新作を読むか。姫が寝たらおかんが来るやろうから待ってる方がええやろうしな。
「わいもちょっことそのマンガを読ませてもろうたけど、おもろいなー」
「せやろ!今度はこれをエイガにしてもらいたいねん!」
おとんもマンガを読んだんか!せやったらわかるやろ?これはええもんやで!エイガにしてもらいたいから、兄やんに頼んでるけど、なかなかうなづいてくれへんのよな。
「そういやエフデはんって何歳やっていってた?」
「三十ぐらいやって聞いたで?」
ケルンから聞いただけやけど、同じ歳の婚約者もいるっちゅうてたし。使用人の一人で獣人らしいけど、フェスマルク家は特別やから変な話とちゃうしな。
使用人とか獣人とか敵国とか…なんでそこ?っちゅうとことしか結婚してない家も珍しい。
二十以上離れてるのも当たり前やしな。
魔力が多いと子供ができにくいっちゅう話やし。うちのおとんもそうやったからなー…おかんと結婚したから俺らがポコポコ産まれてるらしいし。
あと、獣人なのは納得や。逆に普通の人と婚約とかないやろって思うわ。
「ほぉか…大戦のとき、ディアニアはんが寝込んでたんは、産後の肥立ちが…せやったら知っててもおかしないか…」
「何をや?」
訳知りな顔のおとんは腹立つなぁ。
「いやいや、結末を知ったらおもろないやん?」
にやにやしくさってからに!ロウの話の先がわかっても話すなや!絶体絶命やで!ふりやないで!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
GWだったので遊んでいました。今日から復帰です。
マティ君はブラコンでシスコンですが思考の切り替えがレダート家特有です。
エフデの発明はいくつかやっていますが、本人はヒマつぶしなので触れてません。
ケルンが関わるときだけ本気になる、まぁ、ブラコンなんです。
「それでは、マルティン様よろしいでしょうか?」
「ええで。はよしたって」
王都まできたら今度はうちの屋敷まで飛ぶ。正直、しんどいわ。
「…もうちょいなんとかならんの?」
「申し訳ありません。我らではこれが限界なのです」
もっと楽にならのかと愚痴をいうても無理なもんは無理や。それはしゃあない。安全に『転移』をできる魔法使いは少ないからな…六人前後で交代しつつ『転移』させてもろうて…金貨十枚とかあんま使いたくないわ。
「レダート家ご嫡男様の『転移』は無事に終わりました」
「ご苦労。マルティン様お疲れ様です。さ、お屋敷へ」
「おん…」
ふらふらしてたら屋敷の前の指定位置へ『転移』していた。酔うから好きになれんわ。
うちの執事が支払いを済ましてる間に屋敷へ入る。あー、気分悪っ。
「嫡男ちゃうわ、ボケ…」
まだ決まってないのに、おべんちゃらいいやがって。
あかんあかん。気分を変えんと。
「帰ったで」
「お帰りなさいませ。マルティン様」
ずらっと使用人たちが整列している。久しぶりの家やけど…また人が増えたんちゃうか?おとん、まーた雇ったんか?
とたた。
って足音が聞こえた。これは間違いない!
「あんちゃーん!」
「ルー!」
ああ!そないに走ったらこけてまうやろ!何を慌ててるんや!
「おかーり!」
「くぅぅ!なんちゅうかわいさや!ルー!ただいま!兄ちゃんは会いたかったで!」
俺にお帰りをいうために走ってきたんか!しかも、舌ったらずなんて…めたくそかわええなぁ!
かわええ俺の弟のルシファス・レダート。俺とは四つほど離れてるけど、がたいはええねん。俺より小さいけど…ケルンぐらいはあるやないかな?ケルンにばれたらすねるやろうけど、あいつはちっちゃいねんな。探すの大変やったわ。
尋常やないほど顔がええからすぐわかったけど。
せやけど、ケルンに負けないほどうちの弟もかわええわ!
つぶらな瞳はおかん譲り、茶色の髪に長いウサギの耳。口は人寄りやけど、少し獣人が出てひげがピンピンと生えてる。
挨拶がわりにおもっきしちゅうしたった。
ほっぺやからええやろ。口はルーからならどんとこいや!
「あー、ルーはなんでこないにかわええんや」
「あんちゃん、くすぐったいやん!」
もっかいちゅうしたろ。我慢できん。口でもええやろ。ひげもやわらかで最高の感触や。ほんで、あとで姫ともちゅうしたらんと。
うちの弟と妹がかわいすぎて学園に行きたくなんかなかったんやけど、四年もすればルーが入ってくるんやし…ルーをいじめた奴は髪の毛一本、爪先一つ残さんとすりつぶしたるわ…あー、かわええなぁ、うちの弟。
アシュの姉ちゃんと話が合うのはここやねん。弟妹がかわええ。弟妹は正義!
アシュもたぶん帰ったらちゅうされてるからな。見たことあるし。あのべっぴんな姉ちゃんはぐいぐいいきよるし。
最近、エフデの兄やんも俺らと同じ気がするんや…まぁ、確かにケルンは飛び抜けてるからな…誰が見ても顔が整ってるって思うわ。気になるんは貴族としてやけど…うちのルーと変わらんのやないかな?身長だけやなく中身とかも。
だからなんやろうなぁ。なんとなくなんやけど、エフデ兄やんの気持ちがわかるんよなぁ。同じ兄やからかな?
病弱やったからケルンを構ってやれんかったいうとったけど、病弱やなくても構ってたやろって思うわ。わざわざ人形を使ってケルンと行動するなんてありえへんし。
フェスマルク家やからなんでもやらかしそうや。
だいたい、ばかすか『転移』しまくる人らとかどんだけ魔力があんねん!っちゅう話やし。
ケルンとエフデ兄やんから、法王様がちょくちょく来てるって話を聞いて思ったわ。
親が親なら子は子やなって。
だって、魔力が多くても本体も疲れるやろうに、人形の操作時間がえらい長いって、そんだけケルンのそばにいたいってことやろ?
誰が見たって弟が大好きなんはわかりきったことやん。
飯で補給できるって『思念石』はおもろい特性があるみたいやし…どうにかうちも手に入らんかな?なんかの商売に使えそうやと思うんやけど。
「マルティン様。ご当主様がお呼びでございます」
執事のおっちゃんがルーとの楽しい触れ合いを中断させる。このおっちゃんは新しい人やな。
たぶん身辺警護で増やしたんやろうな…そこまで『鑑定』はできへんけど、もしかしてメルヴィアムの血筋の人か?えらい高いのに。
「わかったわ。ほんなら、ルー。俺はおとんに挨拶してくるわ。あとでな」
「あんちゃん、いってらっさい!」
笑顔で手を振るルーを使用人に託して泣く泣く離れる。
おんとが来いや。どうせおかんも一緒やろうし。
「マティ!よぉ帰ってきた!」
「おとん!ただいま!」
執務室に俺そっくりなおっさんが待ち構えていて俺は捕まってしまう。
おとんのマルティン・レダート。レダート家の当主にして、銀行の頭取、数十の商いをまとめるレダート商会の会長。
ほんで、若くみえるけど、とっくに七十は越えてる。
おかんとの歳の差はわりと犯罪染みてるわ。親やからいうけど、おとんはほんまは悪人ちゃうんかな?
「おとん、おかんは?」
「今、姫を寝かしつけてるとこや」
「そうか。姫は寝てるんか…」
四六時中おかんを離さんおとんが離れてるっちゅうたら、うちの大事な姫のときだけや。
姫は全獣。しかも生まれたてやから気を張ってる。
全獣の子はよく誘拐されるか殺されるからな…まぁ、姫を狙った瞬間、おとんが金と権力を使いまくって消すやろ。
俺らの前じゃええ父親やで?俺も商売をさせてもろうてるから、聞いて裏を知ってるから思うけど。
この嫁にメロメロなおっさんが金をしこたま使いまくっておかんの実家の島を楽園にしたっちゅうのは有名やけど、島にもぐりこんだやつらを畑の肥やしにしたっちゅうのもほんまやしな。
なんで海に捨てたりせぇへんかったかって、理由がな。
「魚が間違って食うたら腹壊すやん?せやし、わいの将来の奥さんの体にもし入ったらどないするん?そんなん許せへん。海賊やいうて、海からあがればただの賊や。せやったら、情けとして土に還したろって思ったんよ」
意味がわからんし、普通に恐いわ。おかんと結婚して大人しくなったちゅう話やけど、若い頃なんて金を踏み倒そうとしくさった貴族の髪の毛をむしりとってかつらにして売ったあと、犯罪落ちさせて鉱山に送ったとか。
他にも色々とあるけど、レダート家が恐れられてる八割はおとんが原因やからな。
魔法の才能があったら、とんでもない魔法使いになったっちゅうほど魔力がたんまりあるから、それを使って魔道具をばしばし使いよる。
船かておとん一人でなんとかなるんちゃうか。
そんな超人のおとんが、仕事用の顔になってるわ。あかん。はよ逃げよう。
「そんじゃ」
「ちょっと、待ちぃや。おとんと少し話そうや?」
「…仕事でっか?会長はん」
ええ笑顔で親指を立てよって…まぁ、俺も報告をせなならん思うてたからええけど。
「それで、どや?」
「どやって…なんのこと?」
椅子に座った瞬間いうなや。主語はどこいったん?
「頼んでおいたやろ?」
どれのことやろか。
たくさんいわれてるけど、一つずつ話してくか。
「皇子と皇女の病が治ったのは間違いない。特にひどかった皇子が咳の一つもせぇへんかった」
明日もわからないって話やった皇子があそこまで回復してたちゅうのは、この国にとってはええことやろ。
王位継承権が極端に少なくなってるから陛下にはミケーレ皇子の他にも皇子を作ってほしいってのが、貴族たちの考えや。
側室も色んな家から進められてたらしいけど、俺は詳しくは知らん。
いくつかの家は潰れたちゅうのは店の従業員から聞いたけど。
「ただ他の建国貴族の子供らの動きはわからん。正直、顔を知っていてあそこまで皇子たちと接点を持たんようにするなんて、おかしな話や」
アシュのように馬鹿正直にいくやつもおってもおかしくないっちゅうのに…それこそメルヴィアム家とか動くと思ったんやが…噂通りメルヴィアム家は嫡子を外すんかもな。
あそこで動かんとメルヴィアム家としては終わってるわ。
それともけったいな貴族のあれが原因か?
「それは声をかけれへんからやろ」
「身分は同じやろ?まだ候補なんやし」
身分が下の者から上の者へと声をかけてはいけない。
けど、王家と建国貴族は別や。どちらも同列やし、皇子もまだ立太子をしていない。他の家も候補者っちゅうなら一緒やろ。
あ、ケルンだけやないか?正式に嫡子になってるわ。そうしたら、一番身分があるのはケルンやな…いうて、色んな人に声かけまくってたわ。主に兄自慢で。
魔力の操作が苦手らしいからロイヤルメイジにはなれんかもしれんな。フェスマルク家が専属でやってるちゅうのにな。
ミケーレ皇子の代は大変や。どこもかしこも穴だらけになりそうやからな。まぁらあの人なら平気やろうけど。
「噂よりも皇子は頭がきれそうやから、次も安泰やと思うで。このまま育てば…がつくけど」
「ほぉか…で?フェスマルク家はどないや?」
「手紙で知らせた通りや…フェスマルク家のケルンとは友達になったわ。ほんで、エフデの兄やんとも仲良くさせてもろうてます」
エフデ兄やんの話をすればおとんの顔がわかりやすう変わったわ。尊敬できる人やいうてたが、おとんがそういうなんてなかなかないことや。
「ほぉか。せやったらええ。迷惑はあんまりかけんなや?エフデはんも、いつ調子を崩されるかわからんからご本人の周りはピリピリしとるらしいわ」
「エフデ兄やんはそないに悪いんか?」
病弱やっちゅう話は二人から聞いているし、それが原因でほとんど寝たっきりだったってのも聞いた。
少しましになったから、絵を描いたりして過ごしてたっちゅう話やったけど、やっぱり人形の操作で影響がでてるんか?
「ティストールはんいわく、だいぶ落ち着いてきたけど、人前には出せないんやと。代わりに人形を本人同様に接してくれって貴族間でお触れが回ってきたわ」
「本人同様に…そりゃまた…」
人形に手を出したらフェスマルク家に喧嘩を売ったと見なすちゅうことやんか。
誘拐未遂があったからやろうけど、たかたが人形で、本人やないっていうのに、そこまでするってことはなんか思惑がありそうやな。
「大将の面会やザクス家の治療すら断ってるらしいで?古い精霊の守りがある場所でフェスマルク家の血筋以外は入れない場所で静養しているんやと…せやけど、元気なんやろ?」
「ごっつぅな。ほんまに病弱なん?いうほど。人形やけど」
陛下やザクス家の面会を断るのはまた変な話やな。ザクス家なら医療の専門家やし。陛下なら古い精霊っちゅうのも許すと思うたんやが、特殊な精霊か?時とかやろか?
そないな大物が必要とは思えんほど元気そうなんやけどなー。飯食って茶をしばいてるときとか、人形やけど普通に元気そうやし。
病弱よりも気なることがあったわ。
「あ、それよりな。やっぱりおとんが睨んだ通りやったわ。フェスマルク家の兄弟は箱入りすぎる」
「せやろ?子供を二人とも大事に隠してたぐらいやからな。世間知らずにそらなるわって思ってたわ…どないなん?」
エフデ兄やんのように完全に隠匿しとったわけやないけど、ケルンもほとんど話は聞いたことがなかった。養子っちゅう話が出とったらしいし。今は法王様に似てきたけど、もっと小さい頃はディアニア様に似てたらしいから、ディアニア様の実家のクレエル帝国からの養子っちゅう話もあった。
実際におうたらわかるけど、そないなことはなかったな…フェスマルク家の領地ってポルティだけやったか?確かあの近くの貴族って…やたらとコロコロ変わってるからあそこらが噂の元凶やろうな。
あんな連中と近所付き合いをせにゃらんと思うたらそらぁ、箱入りにさせるわな。
「ケルンはかなり抜けてるとこあんねん。エフデの兄やんも病弱やったから世間を知らんのやろうけど、ありゃあ、周りが何も知らせてなかったんやないかなぁって思うわ…常識がずれてるわ」
「なんや?またおもろいもんでもあったん?」
おもろい?そんな次元やないわ。ケルンと兄やんの二人を放置したらあかんってうちらで決めたぐらいやからな。
たまたま気になったからいうて、兄やんが開発関係のクランに顔をだしたっちゅうのが間違いやった。
髪を乾かしたりする魔道具をさくっと作ったり、片手間やいうて、何でもすぐに小型化するし…本人は普通だろ?っていって木にも止めてないみたいやけど…エフデ印の絵の具が飛ぶように売れてるあたりで気づいてほしいわ。
兄やんの知識は異常や。
何でか金には無頓着ちゅうか、全然稼げてないって愚痴をこぼしてたけど、いや、稼げてるからな?ほんま箱入りはめんどくさいわ。
「あいもかわらず、どえらいもんを開発しまくってるわ。提案しているだけやいうても、どないな頭をしてるんやって思うで」
「またかいな」
冷風機と安眠枕の二つの生産をうちが買い取って販売を始めたけど、材料はフェスマルク家から仕入れて組立てるだけやちゅうても、利益のほとんどをうちに回してもろうてる。
その代わりフェスマルク家の欲しそうなもんは優先して集めて渡してるからお互い納得してるそうなんやけど、おとんが毎回頭を抱えてるんよな。
「ティストールはんから渡された商品を見て思うっとたけど…エフデはんはあれや。フェスマルク家やなかったら、とっくにリンメギンかドラルインに引っ張られてるわ」
うちもやけど。
ってわっるい顔に書いてるわ。金はいくら稼いでも困らんからな。その種になる人は見つけたら囲うのは普通やし。
リンメギンはわかるけど、ドラルインはよく知らん。サイジャルやりも魔道具が発達してるっちゅう話やけど、行ったことがないし、うちの支店もないからなぁ。
魔道具な…そういや映写機いうんも兄やんの考えらしいけど、あれも今度からうちで販売するんやろうな…おとん頑張れ。
そんな風に思ったらおとんが、にやって笑う。ほんま悪人顔が似合うなぁ。
「…それに、商売の知恵もあるんやろ?」
「ばれとったんか…」
「おとんをなめすぎや。すぐわかるわ」
俺の店の売り方に助言をくれたのはエフデの兄やんや。
少し売れ行きが悪くて愚痴ったら、手芸品と何でも小さいもんを集めて売ったらいいといわれたから、試しにやってみた。それまでは服や小物を売る店やって、手芸品やおもちゃみたいな小さいもんは置いてなかった。
大きい方が得かと思ってたんやけど、違ったようや。
女子向けの店でそこそこ稼がせてもろうてる。
それにしてもおとんが…あん?
「おとん疲れてるんか?」
おとんの顔色が悪い。俺にばれるんいうんやから、なんぞ疲れることでもあったんやろうか?
「ここんとこくっそ忙しゅうてな。ティストールはんがえらい勢いで貴族や邪教徒を潰してくれはるから、国庫が潤いすぎて、銀行が動かんと経済が死にそうやねん」
「また邪教徒かいな…」
国庫が潤うのは国としては困るやろうな。一時は潤ってもその金を使わんとあかんし。
潤うほど金を貯めてたもんを還元やいうて民に流したら、市の値がだだ下がってそのうち首を吊る人らも出るからなぁ…うちの仕事やとはいえ、市場操作はおとんやからできることや。下手すりゃ経済が破綻するわ。
ほんで邪教徒な…メルヴィアム家の執事を雇ったんはそこらの絡みか。
邪教徒はおかんたちのような獣人を狙いよるからな。
ご愁傷様やけど。
「せやねん。まぁ、邪教徒は大人しくしてたら見逃すけど…お前らにまで手をのばそうっちゅうやつらは、みな肥やしにしたるねん」
「おーこわ。おとんのそんなとこ、おかんが見たら悲しむで?」
おとんを敵に回したら少なくても王都の邪教徒は尻の毛まで抜かれてまうわ。
腕っぷしはまったくないけど、金の動きでどこに誰がいるかの予測をたてれるんやから、自給自足でもせんとすぐ邪教徒は捕まるわ。
「おかんには内緒にしといてや?おとんはおかんの前じゃ優しい夫やねん。な?」
「ええけど、口止め料はもらうで?」
ただでは何もせぇへんよ?当たり前やん?
「ほんまマティはわいにそっくりやな」
「じーちゃんもいうてたわ」
おとんほど悪徳商人みたいなことはしてへんけど。結婚するまでかなりギリギリの商売をしてたような人に似てるいわれても素直に喜べんわ。
「…なぁ、わいは子供に無理強いはしたくないんやけど…ほんまにおとんの跡を継ぐ気はないんか?」
「継がんって」
またその話か。
俺は継がんいうてるやんか。
「ええねんで?別にスキルがのうても。わいが誰にも文句をいわせんし、他所かて」
「ええねん。なぁ、おとん。おれはな、ルーが当主になる方がええって思うんよ」
「ルーはお前が継ぐと思ってるんやで?昨日かてわいに将来の店の話をしててんで?」
かわええこというなぁ、ほんま。せやけどそれはあかん。
「しゃーないやん…せやないと、ルーを守れんのやし」
「それこそおとんの仕事や」
「せやかて、俺はルーのあんちゃんやで?…なんやねん。獣人やからって貴族をしたらあかんのか!思い出したら腹立ってきたわ!」
金を借りに来よった貴族のボケが話してるんを聞いて思うたんよ。
うちのルーを立派な当主にしたろ!ってな。
「そういうとったアホはもうおらへんから」
「…やっぱおとんは恐いわ」
淡々というおとんがほんま恐ろしい。あの貴族の家が潰れたあと本人も行方不明なんは…考えんとこ。
「ほんで?本当の理由はなんやねん?」
おとんが今日はええ天気やないうようにいいよった。
どこでわかったんや?
「…おとんはほんま…かなわんわ。まぁ…おとんが生きてるうちに解決できたら考えたるわ」
「おー。いうたな?口から出たもんは戻せんで?」
当主にならんのはルーのことだけやない。俺っちゅうか…まぁ、解決したらええなぁって思うてることがある。
なんでわかったんか。知りたいわ。
「いややなー。レダート家は恐いわー」
「せやろー?お前もレダート家やねんで」
「せやったわー」
ははは。いうて笑うてるけど、ほんま貴族らしさないわ、うちら。
商人って方が楽でええしな。
「せやせや。マティが帰ってきたら渡したろって思ってたんや」
おとんが声をかけたら使用人が持ってきたもんが…ほんまかいな!
「ロウの新作やんか!」
情報誌っちゅう話やったけど、表紙は少年剣士がデカデカと出てる。
あの表紙は見たことがないっちゅうことは『風来ロウ』の新作や!
「興奮しすぎやで」
「当たり前やんか!ロウの新作を待ってたんや!エフデ兄やんも人が悪いわー!はよ教えてくれたってえかったのに!」
おとんが呆れてるけど、そないなもん関係ないわ!
五人の姫の正体がもう少しでわかるってとこで終わってたから気になってたんや!
「夜寝れるんか?明日はエイガ?っちゅうもんを見るんやからはよ寝なあかんよ」
わくわくしながら表紙をめくろうと思ってたらおとんが忘れてたことをいいだしたわ…忘れていたかったわ。
「エイガか…」
「なんや、その顔」
いや、ほんま知らんてええなぁ。
「おとん、絶対にびびるで」
「そないにか?」
「エイガもそのもんもやけど、これからエイガに関わると…とんでもない金が動くと覚悟しとき」
「…腹くくるわ…」
エイガもかなり興行は成功するやろ。
そしたら次はエイガが一つの産業なるっちゅうことや。芝居小屋も影響を受けるやろうし、劇場やそこの役者や劇団も影響を受けるやろうし…それだけやない、エイガの合間に広告を出すっちゅう話をしてたから、王都でやるときは…もめるやろうなぁ。
うちとあの何でも屋になってる八百屋が広告をさせてもらってるけど、次からはおとんが仕切るやろうな。人に知られる手段はうちら商人にとっちゃ変えがたいもんやし。
あ、俺貴族やったわ。
とにかく、新作を読むか。姫が寝たらおかんが来るやろうから待ってる方がええやろうしな。
「わいもちょっことそのマンガを読ませてもろうたけど、おもろいなー」
「せやろ!今度はこれをエイガにしてもらいたいねん!」
おとんもマンガを読んだんか!せやったらわかるやろ?これはええもんやで!エイガにしてもらいたいから、兄やんに頼んでるけど、なかなかうなづいてくれへんのよな。
「そういやエフデはんって何歳やっていってた?」
「三十ぐらいやって聞いたで?」
ケルンから聞いただけやけど、同じ歳の婚約者もいるっちゅうてたし。使用人の一人で獣人らしいけど、フェスマルク家は特別やから変な話とちゃうしな。
使用人とか獣人とか敵国とか…なんでそこ?っちゅうとことしか結婚してない家も珍しい。
二十以上離れてるのも当たり前やしな。
魔力が多いと子供ができにくいっちゅう話やし。うちのおとんもそうやったからなー…おかんと結婚したから俺らがポコポコ産まれてるらしいし。
あと、獣人なのは納得や。逆に普通の人と婚約とかないやろって思うわ。
「ほぉか…大戦のとき、ディアニアはんが寝込んでたんは、産後の肥立ちが…せやったら知っててもおかしないか…」
「何をや?」
訳知りな顔のおとんは腹立つなぁ。
「いやいや、結末を知ったらおもろないやん?」
にやにやしくさってからに!ロウの話の先がわかっても話すなや!絶体絶命やで!ふりやないで!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
GWだったので遊んでいました。今日から復帰です。
マティ君はブラコンでシスコンですが思考の切り替えがレダート家特有です。
エフデの発明はいくつかやっていますが、本人はヒマつぶしなので触れてません。
ケルンが関わるときだけ本気になる、まぁ、ブラコンなんです。
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