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第六章の裏話
ピクニック
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「今日ね、僕ね!風の精霊様と契約をしたんだよ!そんでね、フートっていって、中級なんだよ!すごい?」
「ほぉー!坊ちゃまはすごいんだなぁ!」
久しぶりに坊ちゃまがお帰りになられ、旦那様や奥様、ランディおじ様とスラ吉、母さんとミルディに私…そして。
「こら、ケルン。飲み物を持ったままランディの膝に乗らない。こぼしたら大変だろ?」
「はーい」
エフデ様とピクニックに来ている。
ピクニックは貴族の間で古くから行われている息抜きだ。こうして、森や花の咲き乱れる場所や、湖などに軽食を持って行き、ゆったりと過ごす。
何度もピクニックを経験している坊ちゃまも、今日はいつもよりも楽しそうです。
初めてエフデ様とピクニックに来たからでしょう。坊ちゃまはとてもはしゃいで何度もランディおじ様に契約をしたことを嬉しそうに報告なさっています。
さすが坊ちゃまです。あの年頃で中級の精霊と契約をするなんて、なかなかできないことだと旦那様もおっしゃっておりましたから。
三番目の兄は論外です。闇の精霊に好かれるなんて、いったいどのような思考をしているのでしょう。坊ちゃまがお優しいから許していますが、そうでなければ実の兄でも対処したいところです。
ああ、エフデ様の服のボタンがまたゆるくなっている気がします。母さんがちらりと視線を送って来る前に気づいてよかった。後でつけ直しをしないと。
時間はあまりないけれど、今度はしっかりととめよう。
本当はもっとお二人にはお屋敷にいていただきたいけれど、明日にはもうサイジャルにお戻りになられてしまう。
今晩はポルティで坊ちゃまが風の精霊と契約をなさった祝いと、またお屋敷を離れてしまうお二人のためにハンクが腕によりをかけて用意しているはずです。
父さんはゴミの処理に行ってしまっていますが、夕方には戻るでしょう。
それが父さんの仕事とはいえ、残念がるでしょうね。
「若様はいい兄ちゃんをしなさるなぁ。ええことだぁ」
「べ、別にこれぐらい普通だし!」
エフデ様がケルン坊ちゃまの兄として振る舞われている姿を見逃すなんて…ゴミは今ごろ後悔もできない状態でしょう。
「あらあら。エフデったら照れちゃって」
「はっはっはっ。ケルンも男の子らしく腕白になってきたと思ったが、エフデの影響かな?」
旦那様のおっしゃるとおりです。坊ちゃまは最近、すっかり腕白になってこられました。お絵描きの好きなどちらかというと静かなお子でしたが、今は元気がありあまっているというか、上の兄たちを思い出します。
今もエフデ様とじゃれあっていますし、サイジャルでご友人ができた影響もわずかにはあるでしょう。
一番はエフデ様の影響なのは間違いないですけど。
「父様。俺の影響力なんてそんなないですよ」
右手を振るエフデ様の後ろでエフデ様の真似をすら坊ちゃまをみれば誰だって影響を受けたと思うでしょう。
見えていないというよりも、エフデ様はちょっと坊ちゃまに対して盲目的なところがあります。
確かに坊ちゃまは誰よりもかわいらしいお方でありますが、エフデ様は坊ちゃまの笑顔を見るたびに。
「キラキラがすげぇ…」
なんていうんですから。坊ちゃまの笑顔が輝いて見えるなんて、よほど弟好きでなければ思わないでしょう。少なくても私の兄たちがそんなことをいったことはありません。
それに、坊ちゃまもエフデ様が本当に大好きなんでしょうね。それが少し問題なんですが。
「手の動きが…ふふっ」
「すっかりお兄ちゃんの真似をする子になったわね…でも、言葉遣いはきっちりなさい。わかった?」
奥様が微笑まれると、エフデ様は顔の前で振っていた右手をそのまま右に持っていって頬らしき丸い輪郭をかりかりとかかれます。
「うっ…わかってます」
何十回目の反省でしょうね。エフデ様はどうしてだか、旦那様や奥様の前ではきちんとした貴族の振る舞いができるというのに、気を抜くと一兄さんみたいになるんでしょうか。
長男だとああなるのかしら?
問題なのは坊ちゃまがエフデ様の口調を真似するようになってしまっていることです。
夜会も近づいてきています。夜会の場で下手に親しげに話しかければ婚約者候補にすぐにでも名乗り出そうとする貴族の中に行かねばならないのですから、しっかり対策をしておかねばなりません。
坊ちゃまのご容姿があまりにも整いすぎているのも、原因なのですが、一番は坊ちゃまに婚約者候補がいないことでしょう。
「おい、エセニア」
「はい、何ですか?エフデ様」
夜会の付き添いに私は行けませんが父さんなら…なんて考えているとエフデ様が腕を組んでいます。何を怒っているのかしら?
「母様にチクったろ!内緒にしてくれって頼んだってのに!」
「一回目は内緒にしましたよ。何度も同じことをするエフデ様が悪いんです」
ぶーぶーと文句をいっていますが、私だって黙っていたんです。それでもミルディからあまりにも坊ちゃまがエフデ様の真似をすると報告を聞いてからは黙っていられません。
『やんよー』とか『なうでやんぐでごー』とか『もふらねば、もふるまでだよ、けだまごと』ってなんですか。
兄なら兄らしく立派にしゃんとしてほしいところです。
口喧嘩みたいになってしまいました。使用人にあるまじきことですが…エフデ様の前だとどうも私も親しくなってしまう。どうしてでしょう。
「むむ…ふん!俺が体をもらったら、絶対に仕返ししてやるんだからな!」
体。
エフデ様の体がもしかしたら手にはいるかもしれないと聞いて、喜びと不安が一緒にやってきました。
だって、エフデ様は今のお姿でも何でもできるんだもの。
「ねぇ、エフデ様」
「何だ?」
「体をご用意していただいて…自由になったからって、お一人でどこかに行かないでくださいね」
私はすごく怖い。エフデ様が体を得たとき、どこかに黙って行ってしまうんじゃないかとなぜだか思ってしまった。
私たちを置いていくなんてあるわけない。少なくても坊ちゃまを置いてなんて…ですよね?
「ん?…まぁ、俺もちょこっとだけ方向音痴みたいだからな。誰かと行動するようにするさ」
ミルディからの報告を聞くかぎりでは、かなりの方向音痴です。お二人とも興味のあるところにすぐふらふらと行くため、かなり苦労をしているんですから。
私がいれば…なんてね。
「なんなら、お前がついてきてくれたっていいんだぜ?」
ずるい。どうしてエフデ様はずるいんだろう。
「やっぱり…ずるいです」
私がほしい言葉をすぐいうなんて…きっと体を得たら様々な女性から婚約を求められるでしょうね。
眠たげな目つきをしていて、猫背で…エフデ様だから、きっと。
「何がずるいんだ?」
「内緒です」
「なんだよー。教えろよー」
少々、腹立たしいので教えません。そうやって女心を手玉にとるように坊ちゃまに教えたら許しませんからね!
「内緒の数は私の方が少ないですからね!」
「…それをいわれちゃいい返せねぇ…」
エフデ様の内緒にしてくれを数えたら送られてくる手紙でも二回に一回の割合ですから。そろそろその内緒が内緒ではないと教えてあげてもいいけど…やっぱり、エフデ様はずるいから黙っていよう。
「んだよ…」
「若様」
「どうした、フィオナ?お茶ならあるぜ?」
母さんがエフデ様に声をかけた。何かあったのかしら?
「今日は一番上の息子と何か約束をしておられましたか?」
「ティルカと?いや、そんなことして…あ」
エフデ様の視線の先をみれば、木陰に隠れるように一兄さんがいました。
何で、一兄さんがお屋敷に?
「ふぅ…奥様からのお役目を放って戻ってきたのですか!この馬鹿息子!」
母さんが雷を落としました。詠唱を早口にいって正確に一兄さんに落としましたが、一兄さんもさっと避けてしまいました。そのまま逃げたようですが、何しに来たのでしょう?…というか、いつからいたんでしょうか…一兄さんもエフデ様と坊ちゃまを見守るからと軍の訓練を抜け出しすぎて、旦那様からお叱りを受けたと聞いたんだけど…効果はなかったようね。
母さんは大きくため息をついて、奥様へと頭を下げ…あら?
「お兄ちゃんー」
「おう。何だ?眠くなったか?」
お腹も膨らんだからでしょう。坊ちゃまがお昼寝になられたいようです。奥様の膝の上で眠たそうに目をこすってエフデ様をお呼びになられています。
すぐにエフデ様は坊ちゃまのところに行かれ、坊ちゃまの上に飛び乗って頭をなでておられます。
その手慣れた優しい手つきをみれば、思わず涙ぐんでしまいました。母さんも私のように涙ぐんでいます。ランディおじ様も鼻をすすっています。
本当ならばエフデ様が坊ちゃまに飛び乗るのではなく、坊ちゃまが兄であるエフデ様に飛び乗ってその膝の上で甘えながらお昼寝をなされていたというのに。
戦争なんてなければ。そう思ってしまいます。
「あのねー…楽しいねー…」
「ああ。楽しいぞ…母様重くないですか?」
お二人が楽しいとおっしゃることで、心が軽くなるような気がします。
それは奥様もでしょう。
「大きくなってきた喜びはあれども、苦には思わないわ…子供の成長ってあっという間なのね…残念だったけど、エフデの成長を見守れなかったわ…でもね、体をもらったら、ケルンを抱っこしてあげてね?」
「はい。ケルンが嫌になるほど抱っこしてやりますよ。母様もおんぶしてあげましょうか?」
「もう、エフデったら。誰に似たのかしら?」
「父様と母様の子ですから」
奥様とエフデ様のやりとりを旦那様は顔を背けて肩を震わせておられます。
少ししんみりとした空気になりましたが、奥様がそれを壊しました。
「将来の練習にもなるから。ね、エセニア?」
「母様!」
「お、奥様!」
急に奥様がおっしゃるものだから、エフデ様と二人で大きな声をだしてしまった。
あくまで、エフデ様の将来の練習であって、私は関係のないことなのに!いえ、エフデ様のお子様なら私が世話をするんでしょうけど、でも、その。
「んにゅあーお兄ちゃん、うるさぃー」
「ぐえっ!」
うるさくしたからでしょう、坊ちゃまがむずがって、エフデ様を胸に強く抱えてしまいました。エフデ様は大丈夫なんでしょうか。
しばらくすると、お二人とも夢の中にはいられたようで、くぅくぅとお二人とも寝息をたてて始めて、思わずみんなで笑ってしまいました。
「ほぉー!坊ちゃまはすごいんだなぁ!」
久しぶりに坊ちゃまがお帰りになられ、旦那様や奥様、ランディおじ様とスラ吉、母さんとミルディに私…そして。
「こら、ケルン。飲み物を持ったままランディの膝に乗らない。こぼしたら大変だろ?」
「はーい」
エフデ様とピクニックに来ている。
ピクニックは貴族の間で古くから行われている息抜きだ。こうして、森や花の咲き乱れる場所や、湖などに軽食を持って行き、ゆったりと過ごす。
何度もピクニックを経験している坊ちゃまも、今日はいつもよりも楽しそうです。
初めてエフデ様とピクニックに来たからでしょう。坊ちゃまはとてもはしゃいで何度もランディおじ様に契約をしたことを嬉しそうに報告なさっています。
さすが坊ちゃまです。あの年頃で中級の精霊と契約をするなんて、なかなかできないことだと旦那様もおっしゃっておりましたから。
三番目の兄は論外です。闇の精霊に好かれるなんて、いったいどのような思考をしているのでしょう。坊ちゃまがお優しいから許していますが、そうでなければ実の兄でも対処したいところです。
ああ、エフデ様の服のボタンがまたゆるくなっている気がします。母さんがちらりと視線を送って来る前に気づいてよかった。後でつけ直しをしないと。
時間はあまりないけれど、今度はしっかりととめよう。
本当はもっとお二人にはお屋敷にいていただきたいけれど、明日にはもうサイジャルにお戻りになられてしまう。
今晩はポルティで坊ちゃまが風の精霊と契約をなさった祝いと、またお屋敷を離れてしまうお二人のためにハンクが腕によりをかけて用意しているはずです。
父さんはゴミの処理に行ってしまっていますが、夕方には戻るでしょう。
それが父さんの仕事とはいえ、残念がるでしょうね。
「若様はいい兄ちゃんをしなさるなぁ。ええことだぁ」
「べ、別にこれぐらい普通だし!」
エフデ様がケルン坊ちゃまの兄として振る舞われている姿を見逃すなんて…ゴミは今ごろ後悔もできない状態でしょう。
「あらあら。エフデったら照れちゃって」
「はっはっはっ。ケルンも男の子らしく腕白になってきたと思ったが、エフデの影響かな?」
旦那様のおっしゃるとおりです。坊ちゃまは最近、すっかり腕白になってこられました。お絵描きの好きなどちらかというと静かなお子でしたが、今は元気がありあまっているというか、上の兄たちを思い出します。
今もエフデ様とじゃれあっていますし、サイジャルでご友人ができた影響もわずかにはあるでしょう。
一番はエフデ様の影響なのは間違いないですけど。
「父様。俺の影響力なんてそんなないですよ」
右手を振るエフデ様の後ろでエフデ様の真似をすら坊ちゃまをみれば誰だって影響を受けたと思うでしょう。
見えていないというよりも、エフデ様はちょっと坊ちゃまに対して盲目的なところがあります。
確かに坊ちゃまは誰よりもかわいらしいお方でありますが、エフデ様は坊ちゃまの笑顔を見るたびに。
「キラキラがすげぇ…」
なんていうんですから。坊ちゃまの笑顔が輝いて見えるなんて、よほど弟好きでなければ思わないでしょう。少なくても私の兄たちがそんなことをいったことはありません。
それに、坊ちゃまもエフデ様が本当に大好きなんでしょうね。それが少し問題なんですが。
「手の動きが…ふふっ」
「すっかりお兄ちゃんの真似をする子になったわね…でも、言葉遣いはきっちりなさい。わかった?」
奥様が微笑まれると、エフデ様は顔の前で振っていた右手をそのまま右に持っていって頬らしき丸い輪郭をかりかりとかかれます。
「うっ…わかってます」
何十回目の反省でしょうね。エフデ様はどうしてだか、旦那様や奥様の前ではきちんとした貴族の振る舞いができるというのに、気を抜くと一兄さんみたいになるんでしょうか。
長男だとああなるのかしら?
問題なのは坊ちゃまがエフデ様の口調を真似するようになってしまっていることです。
夜会も近づいてきています。夜会の場で下手に親しげに話しかければ婚約者候補にすぐにでも名乗り出そうとする貴族の中に行かねばならないのですから、しっかり対策をしておかねばなりません。
坊ちゃまのご容姿があまりにも整いすぎているのも、原因なのですが、一番は坊ちゃまに婚約者候補がいないことでしょう。
「おい、エセニア」
「はい、何ですか?エフデ様」
夜会の付き添いに私は行けませんが父さんなら…なんて考えているとエフデ様が腕を組んでいます。何を怒っているのかしら?
「母様にチクったろ!内緒にしてくれって頼んだってのに!」
「一回目は内緒にしましたよ。何度も同じことをするエフデ様が悪いんです」
ぶーぶーと文句をいっていますが、私だって黙っていたんです。それでもミルディからあまりにも坊ちゃまがエフデ様の真似をすると報告を聞いてからは黙っていられません。
『やんよー』とか『なうでやんぐでごー』とか『もふらねば、もふるまでだよ、けだまごと』ってなんですか。
兄なら兄らしく立派にしゃんとしてほしいところです。
口喧嘩みたいになってしまいました。使用人にあるまじきことですが…エフデ様の前だとどうも私も親しくなってしまう。どうしてでしょう。
「むむ…ふん!俺が体をもらったら、絶対に仕返ししてやるんだからな!」
体。
エフデ様の体がもしかしたら手にはいるかもしれないと聞いて、喜びと不安が一緒にやってきました。
だって、エフデ様は今のお姿でも何でもできるんだもの。
「ねぇ、エフデ様」
「何だ?」
「体をご用意していただいて…自由になったからって、お一人でどこかに行かないでくださいね」
私はすごく怖い。エフデ様が体を得たとき、どこかに黙って行ってしまうんじゃないかとなぜだか思ってしまった。
私たちを置いていくなんてあるわけない。少なくても坊ちゃまを置いてなんて…ですよね?
「ん?…まぁ、俺もちょこっとだけ方向音痴みたいだからな。誰かと行動するようにするさ」
ミルディからの報告を聞くかぎりでは、かなりの方向音痴です。お二人とも興味のあるところにすぐふらふらと行くため、かなり苦労をしているんですから。
私がいれば…なんてね。
「なんなら、お前がついてきてくれたっていいんだぜ?」
ずるい。どうしてエフデ様はずるいんだろう。
「やっぱり…ずるいです」
私がほしい言葉をすぐいうなんて…きっと体を得たら様々な女性から婚約を求められるでしょうね。
眠たげな目つきをしていて、猫背で…エフデ様だから、きっと。
「何がずるいんだ?」
「内緒です」
「なんだよー。教えろよー」
少々、腹立たしいので教えません。そうやって女心を手玉にとるように坊ちゃまに教えたら許しませんからね!
「内緒の数は私の方が少ないですからね!」
「…それをいわれちゃいい返せねぇ…」
エフデ様の内緒にしてくれを数えたら送られてくる手紙でも二回に一回の割合ですから。そろそろその内緒が内緒ではないと教えてあげてもいいけど…やっぱり、エフデ様はずるいから黙っていよう。
「んだよ…」
「若様」
「どうした、フィオナ?お茶ならあるぜ?」
母さんがエフデ様に声をかけた。何かあったのかしら?
「今日は一番上の息子と何か約束をしておられましたか?」
「ティルカと?いや、そんなことして…あ」
エフデ様の視線の先をみれば、木陰に隠れるように一兄さんがいました。
何で、一兄さんがお屋敷に?
「ふぅ…奥様からのお役目を放って戻ってきたのですか!この馬鹿息子!」
母さんが雷を落としました。詠唱を早口にいって正確に一兄さんに落としましたが、一兄さんもさっと避けてしまいました。そのまま逃げたようですが、何しに来たのでしょう?…というか、いつからいたんでしょうか…一兄さんもエフデ様と坊ちゃまを見守るからと軍の訓練を抜け出しすぎて、旦那様からお叱りを受けたと聞いたんだけど…効果はなかったようね。
母さんは大きくため息をついて、奥様へと頭を下げ…あら?
「お兄ちゃんー」
「おう。何だ?眠くなったか?」
お腹も膨らんだからでしょう。坊ちゃまがお昼寝になられたいようです。奥様の膝の上で眠たそうに目をこすってエフデ様をお呼びになられています。
すぐにエフデ様は坊ちゃまのところに行かれ、坊ちゃまの上に飛び乗って頭をなでておられます。
その手慣れた優しい手つきをみれば、思わず涙ぐんでしまいました。母さんも私のように涙ぐんでいます。ランディおじ様も鼻をすすっています。
本当ならばエフデ様が坊ちゃまに飛び乗るのではなく、坊ちゃまが兄であるエフデ様に飛び乗ってその膝の上で甘えながらお昼寝をなされていたというのに。
戦争なんてなければ。そう思ってしまいます。
「あのねー…楽しいねー…」
「ああ。楽しいぞ…母様重くないですか?」
お二人が楽しいとおっしゃることで、心が軽くなるような気がします。
それは奥様もでしょう。
「大きくなってきた喜びはあれども、苦には思わないわ…子供の成長ってあっという間なのね…残念だったけど、エフデの成長を見守れなかったわ…でもね、体をもらったら、ケルンを抱っこしてあげてね?」
「はい。ケルンが嫌になるほど抱っこしてやりますよ。母様もおんぶしてあげましょうか?」
「もう、エフデったら。誰に似たのかしら?」
「父様と母様の子ですから」
奥様とエフデ様のやりとりを旦那様は顔を背けて肩を震わせておられます。
少ししんみりとした空気になりましたが、奥様がそれを壊しました。
「将来の練習にもなるから。ね、エセニア?」
「母様!」
「お、奥様!」
急に奥様がおっしゃるものだから、エフデ様と二人で大きな声をだしてしまった。
あくまで、エフデ様の将来の練習であって、私は関係のないことなのに!いえ、エフデ様のお子様なら私が世話をするんでしょうけど、でも、その。
「んにゅあーお兄ちゃん、うるさぃー」
「ぐえっ!」
うるさくしたからでしょう、坊ちゃまがむずがって、エフデ様を胸に強く抱えてしまいました。エフデ様は大丈夫なんでしょうか。
しばらくすると、お二人とも夢の中にはいられたようで、くぅくぅとお二人とも寝息をたてて始めて、思わずみんなで笑ってしまいました。
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