上 下
200 / 229
第六章 ケモナーと水のクランと風の宮

精霊が忙しい理由

しおりを挟む
 まぁ、中身がおじいちゃんだとしても俺たちは気にしない…気にしないさ。

「ねぇ、フート。フートの代わりに動物さんは来ないの?」
「動物でござりますか?…はて?何故そのようなことを申されるので?」

 ケルンがそっとフートに尋ねる。俺を気にして…ではないな。ケルンも楽しみにしていたんだ。
 風の動物はなんだろうかとな。

「あのね、水の精霊様と契約をしたんだけど」
「カワウソが来たんだ。ハードボイルドなカワウソが。だからフートが普通に来たからびっくりしたっていうか…」

 本心をいったらさすがに傷つくかもしれないから、オブラートに包み込んだ。
 チェンジで!とはケルンの胸に隠れながらいえないしな。

 とはいえ、普通は契約をした精霊様が来るのが正しいだろう。ルシーネさんが来ない方が異常であるかもしれなかったのだ。
 その考えも間違いではなかった。

「ああ…初級に代行させましたか…許してくだされ。あやつらは今は忙しいのでしょう。我らと違いあやつらは領域を守護する者たちでありまするから」
「忙しい?」
「何かあるのか?…父様?」

 フートが水の精霊様が忙しいと口に出すと、父様の気配が一瞬強まったように感じた。魔力の高まりか?でも何で魔力を高めたりするんだろうか。

「その話を私にも聞かせてくれるか?」
「…ふむ。お主は主殿の父御殿か…王の一角と契約しておる…某の好みではござらんが…彼の王の好みの殿方でござりまするな」
「あいつの話は置いておこうか。来そうだから…」

 げんなりとした父様なんて初めてみた。よほど契約をしている風の精霊様が…セクハラしてきてんだろうなぁ…風の精霊様だもの。

「せくはーら?」
「セクハラな。それだと呪文みたいだから」

 どこかに飛んで行きそうないい方をするから訂正しておく。

「聞いておらぬのか?」
「…中級より上の精霊を捕まえている連中がいるのはわかっている。だが、領域を守護する精霊にも被害が出ているのは知らない…どの属性だ?」

 精霊様を捕まえている連中がいる?そんな話は聞いたことがない。だいたい、精霊様は易々と捕まえれる存在ではない。契約をするのも準備が必要だ。

 契約に適した場所と契約者の魔力。それと相性もあるし、何より契約は精霊様から破棄だってできるのだ。無理矢理何かしようものなら、それこそ天罰がくだる。
 なのに捕まえている?

「…悪い人たちがいるの?」
「ケルン?どうした?」

 暖かったケルンの体がすっと冷える。まるで虚空に何かあるのを見ているようににらむ。
 まるで俺の知らない表情を浮かべる。その表情が理由もなく嫌だった。

「とりゃ!」
「うきゃっ!あはっ!お兄ちゃん!あはは、くすぐったいよぉ!」
「ケルンは笑ってること。わかったか?」
「え?んー?わかったよ?」

 くすぐって笑わせればいつものケルンに戻る。
 きっとケルンはどんな表情を浮かべていたかわかっていない。それに表情に伴うはずの感情は俺にすら届いていない。これだけ触れているのに、ケルンがどう思ったか俺に伝わってこなかったのだ。

 俺が誘拐されたときにいつもは見せないほど攻撃的になったのを思い出すほど…憎悪のようなものを瞳に宿していたというのに。
 何も感じなかった。空虚の二文字が俺の中でざわめきと共に刻まれる。あの瞳を知っているように思うんだが…俺のせいなのだろうな。

 ケルンの変化に俺以外は気付いていない。それよりも、顕著にフートの変化の方が出ていたからだ。

「主殿が知りたいなら話すが、某が父御に話さねばならぬ道理はござらん。父御殿は彼の王より聞くがよろしいのでは?」
「…ちっ…やはり風の精霊か」

 淡々と感情を消し去って話す姿は、どこか人懐っこいように見えていたフートから想像できない。
 それは上に立つ者が話す威厳を醸し出していた。本当に武士というか、武将ののような精霊様だ。

「俺も聞きたいんだがな…ケルンは?」
「僕も聞きたいなー。何のお話しなの?フート教えて?」
「そこからかよ」

 誘拐云々どころか難しい話だからと判断して、話を途中からシャットアウトしていたな。悪人が出てくるときだけ考えたんだろうけど、もしかして、何にも考えず条件反射でああなってるのか?可能性がかなり高いかもしれない。
 ケルンは好きと嫌いの幅がかなりあるからなぁ…俺もというか、俺の方がひどいけど。

「父御殿が申された通り、精霊を拐う馬鹿がおります。それも水の精霊だけではなく、よりにもよって要である火の精霊や闇の精霊を拐かす馬鹿がでておりまする」
「火と闇だと?…北の結界が…」

 北の結界?父様は少し考えてから、人指し指で空中に何か文字を書いているそぶりをする。

「精霊よ、頼む『テレグレム』…魔族がやたらと活発化しているのはそのせいか」
「いかにも。これではそのうち魔物どもを封じる力が弱まりまするからな。しかしながら水が動いておりますれば、じきに始末できましょう」
「だといいが…」

 魔族と魔物か…俺たちはミルディは別として…見たことがないのは精霊様の結界のおかげってことなのか?それともたまたま見ていないだけなのだろうか?

「何の話だったのかな?」
「精霊様がいないと大変だってことだ」
「そっか!精霊様がいないと大変だもんね!」
「そう。大変なんだ」

 よくわかっていないが、俺もケルン同様にわかっていないから説明をしようがない。
 結界とか魔物とか知識にないものは教えれない。サイジャルに戻ったらまた図書館にでも行って調べることにしよう。父様はおそらく、教えてくれない。ティルカなら…あいつも教えてくれそうにないな。
 魔族とか聞くだけで顔色が変わる人たちばかりだから、ケルンの面倒をみつつ調べておくか。

 おっと。ベルザ司教がこちらにやってきて、おそるおそる話しかけようとしている。そういや、風の精霊様を熱心に信仰していたんだった。

「お話し中に申し訳ありませぬ…その装束は…もしや貴方様は、風将王シルフェニア様に連なるお方でありましょうか?」

 風将王シルフェニア?…ケルンに読んでやった絵本にも出ていた精霊様の名前だ。フートと関係しているのか?

「いかにも…今もその名が伝わっておるのか?」
「ええ。ポルト様の伝説と共に」
「…左様か」

 寂しそうにフートは微笑んだ。
 気にはなったが、フートはベルザ司教と何やら昔に起こった話をし始めた。

「ポルト様って、王様?」
「昔話の王様だ。ですよね、父様?」

 ポルト王は昔々の王様だ。そもそもポルティはポルト王の住まいがあった場所にある街なのだ。
 このポルト王は天から来たといわれている。偉大なエルフの王にしてこの地を支配しようとした魔王を討伐した英雄でもある。

 ポルト王が戦った魔王というのがかなり厄介な魔王で、魔王を殺せば殺したはずの魔王に体を徐々に乗っ取られ、最後は魔王になるという呪われたスキルを持っていた。

 スキルの名前は魔王の名前でもある『牛魔王』という。
 スキルによって乗っ取られた者の姿は牛の角と人面を持ち、六本の腕と四本の足を持つ異形になり、身体能力は乗っ取られた種族の特性を追加していく。

 下手に強者が倒せばその強者の能力を丸々奪う。だからこそ討伐は難しく誰も手出しができなかった。

 運の悪いことに魔王と龍が戦い、魔王を倒した龍が体を乗っ取られ新たな魔王となり、人族は滅亡寸前にまで追いやられた。

 そこでボージィンの加護と風の精霊王を側近にしたポルト王が天よりこの地へと降り立った。
 ポルト王はエルフでありながら魔法が何一つ使えなかった。

 代わりにありとあらゆるスキルを使い、その中には『牛魔王』に対応したスキルもあったという。

 物語ではそこで終わるが、史実ではまだ続きがある。

 ポルト王は魔王を倒して国を起こしたが、ポルト王が亡くなってからは魔族との戦いでも負け越しはじめ、しばらくしてクウリイエンシア国の元となった国と併合して滅亡した。
 魔王を倒した呪いを子孫が受けているというような話もあるみたいだが、残念ながらエルフ族はこの地から去ってしまっていて真偽は不明だ。
 と、思っていた。

「ん?天より来たりしポルト王か…うちも関係なくはないんだぞ?」
「そうなの?」
「関係あるんですか?」

 昔話に出てくる王様とうちが関係あるのか?クウリイエンシアの建国よりもさらに昔の王様だったと思うんだけど。

「トーマお祖父様の父上であるデルクお祖父様。あの奥さんがたくさんいたお祖父様だ。その奥さんの一人がポルト王の子孫だったそうだ。まぁ、トーマお祖父様を産んだのはその方ではないから、私たちとは血の繋りはないんだがな」
「へー」  
「なるほど」

 ハーレムのご先祖様か。奥さんが多くてももめないとか…俺には無理だな。
 ケルンは…たぶんデルクお祖父様の血が出たんだろうな。

 男の子も混ざっているけど…兄ちゃんは自主性を尊重するけど…複雑だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セクハーラ=バ〇ルー〇。ドラゴンなんちゃらの三です
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

ローゼンクランツ王国再興記 〜前王朝の最高傑作が僕の内に宿る事を知る者は誰もいない〜

神崎水花
ファンタジー
暗澹たる世に一筋の光明たるが如く現れた1人の青年。 ローゼリア伯フランツの嫡子アレクス。 本を読むのが大好きな優しい男の子でした。 ある不幸な出来事で悲しい結末を迎えますが、女神シュマリナ様の奇跡により彼の中に眠るもう1人のアレク『シア』が目覚めます。 前世も今世も裏切りにより両親を討たれ、自身の命も含め全てを失ってしまう彼達ですが、その辛く悲しい生い立ちが人が生きる世の惨たらしさを、救いの無い世を変えてやるんだと決意し、起たせることに繋がります。   暗澹たる世を打ち払い暗黒の中世に終止符を打ち、人の有り様に変革を遂げさせる『小さくも大きな一歩』を成し遂げた偉大なる王への道を、真っすぐに駆け上る青年と、彼に付き従い時代を綺羅星の如く駆け抜けた英雄達の生き様をご覧ください。 神崎水花です。 デビュー作を手に取って下さりありがとうございます。 ほんの少しでも面白い、続きが読みたい、または挿絵頑張ってるねと思って頂けましたら 作品のお気に入り登録や♥のご評価頂けますと嬉しいです。 皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。どうか応援よろしくお願いいたします。 *本作品に使用されるテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。 *本作品に使用される挿絵ですが、作者が1枚1枚AIを用い生成と繰り返し調整しています。  ただ服装や装備品の再現性が難しく統一できていません。  服装、装備品に関しては参考程度に見てください。よろしくお願いします。

婚約破棄されたのだが、友人がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ・ロレーヌ・ローザリア。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを王族に迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国第2皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第2皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。乙女ゲーム転生要素入れてみたのだけど。 キャラ名は使いまわしてます← …やっぱり、ざまァ感薄い…

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~

白梅 白雪
ファンタジー
乙女ゲームにハマっていた結城マナは見知らぬ者に襲われ、弟ソウシと共に異世界へ転生した。 目覚めれば見覚えがあるその姿──それは課金に課金を重ねて仕上げた、完璧な美しき公爵令嬢マナリエル・ユーキラスであった。 転生した異世界は、精霊や魔法が存在するファンタジーな世界──だけならまだよかったのだが、実はこの世界、弟のソウシが中学生の頃に妄想で作り上げた世界そのものだという。 『絶世の美女』『自動課金』というスキルを持つマナリエルと、『創造主』というスキルを持つソウシ。 悪女ルートを回避しようとするも、婚約破棄する気配を一切見せない隣国の王太子。 苛めるつもりなんてないのに、何かと突っかかってくるヒロイン。 悠々自適に暮らしたいのに、私を守るために生まれたという双子の暗殺者。 乙女ゲームかと思えば聖獣に呼ばれ、命を狙われ、目の前には救いを求める少年。 なに、平穏な生活は?ないの?無理なの? じゃぁこっちも好きにするからね? 絶世の美女というスキルを持ち、聖獣王に選ばれ、魔力も剣術も口の悪さも最強クラスのマナリエルが、周囲を巻き込み、巻き込まれ、愛し、愛され、豪快に生きていく物語。

処理中です...