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第六章 ケモナーと水のクランと風の宮

契約

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「それはどうして?」

 ほら、精霊様だって…真面目な顔のまま聞いてきている。
 このふざけたような精霊様なら茶化すように聞いてくると思ったんだが、かなり真剣な雰囲気だ。

「お兄ちゃんと一緒にいたいって思うもん!僕の気持ちはね、自由!あ、でもみんなともいたいなぁ…僕、一人は嫌なの。さみしいもん。あとね、遊んで、お絵描きして、お勉強して…いっぱいあるけど、どれも僕の気持ち!」

 相手が精霊様でもケルンは変わることがない。にこりと笑いかけて答えた。

 心、か。
 それがケルンの答えだ。
 風の精霊は真剣だった表情を崩してとろけるような笑顔をみせた。その笑みは人外の美しさもあいまって、ただ綺麗だった。

「そうよぉ。一つのところにあって、変わらずでも、確実に変わる。心の自由…いいわねぇ。情熱をビンビン!に感じるわ!ビンビンよ!」
「正解?わーい!僕ね、めいたんてーなの!」

 精霊様のお気に召したようだが、おかしいな。何だか教育によくない存在だとそれこそビンビンに感じるんだけど。
 すげぇ残念なんだけど。

 ケルンは迷探偵かなぁ。

「あたちが『許可します』」

 風の精霊様からの許可の言葉とともに響き渡る声がする。

 ---風系統中級までの魔法がアンロックされました。
 ---風系統の魔法での魔力消費が半減されました。

 よっしゃ!これでケルンは風系統の攻撃ができるようになったぞ!確か身を守る方法も風系統の方が多いって話だし、杖も補助をしてくれるだろ。

 ポケットから葉先をだして、丸を作っているから任せていいな。
 あれ?気のせいか?何だか…俺の感覚…にぶくなったような。

 ---水系統と風系統の魔法がアンロックされたことにより氷系魔法が上級までアンロックされました。
 ---魔杖に情報が上書きされます。

「氷系魔法の上級?そんなのあるのか?」
「氷…かき氷できるかなぁ?」
「かっちかちになるんじゃないか?上級だしな」

 他の魔法が中級な中でいきなり上級が使えるって変な話だ。しかも、氷とか。
 中級であり得ない惨状を引き起こしてきたんだが、上級魔法ってどんだけの規模になるんだろうか。

 …ご先祖様みたく湖を凍らすとかしないように、ケルンと調子に乗るであろう杖を気にかけておかないとな。

 きっと葉先でアピールをしているであろう杖をみれば、びくびくとけいれんしている。
 …大丈夫だな。ろくでもないことしか考えてない。
 ドMだもんな。
 知識として保管する価値もないので、全力でなかったことにしよう。
 抗議の合間に喘ぐな、うぜぇ。

 俺の精神を削るのは今は止めてほしい。
 いつの間にかケルンの目の前で、胸をはだけさせながら立っていた風の精霊様をどうしようか考えるだけでだいぶ削れてるから。

「それじゃ…味見…あっふぅ。まずは脱ぎ脱ぎしてぇん」

 罰を受けるのを承知で、伸ばしてくる手を足で蹴りあげてやろうかと身構えていたがそれは無駄になった。

「ふぎゃあ!」

 バチィ!っとすさまじい音をたてて手は弾かれ、精霊様も数メートルほど吹き飛んだ。
 そのまま地面に倒れた。

 と思うと飛び起きて一瞬で目の前に出現した。転移ではなく、風の精霊様らしく風のようにしてやってきた。
 草原の一部がぺったんこになってしまった。

「くそがぁ!いてぇ!俺の手が吹き飛ぶかと思ったぞ!あの大騒ぎ野郎が!結界なんぞ張りやがって…死んだくせに、厄介なもんを」
「精霊様…怖いなぁ」
「おっさんみたいだな」

 ケルンの教育に悪いんで巻き舌で怒鳴るのは止めてほしい。
 あと一人称が変わるってかそれが本性なんだろうか…とにかく、結界を作った人には感謝だ。

 父様が絶対に動くなっていった理由はこれだな。
 契約したらお触りしてくる。

 痴漢は許しません。うちには痴女る杖もいるから痴漢は撲滅だ。

「おっほん…なんでもないわぁ。あと、あんた。あたちをおっさんっていうんじゃないわよ。あんたの本体を探して…つっこむわよ」
「何をだよ!」

 舌舐めずりしながらいうな!ゾッとした。ガチの目だ。

「おおさわぎやろー?って?」
「ケルン言葉使い。俺が怒られるから」

 待機しているエセニアに正座で説教をまた受けるのは嫌だ。

「大騒ぎ野郎の話はしないわ。あんの野郎…あたちよりもあの小娘を選びやがって…」

 精霊様はぶつぶつといいつつも、どこか悲しそうな目をした。
 死んだっていっていたから、この結界を作った人は亡くなっているってことだろう。
 あの数字の羅列が結界になっていたってことなのか?杖が魔法関連の知識を持っているから、あとで聞くとしよう。

「次は土ね…あれ、野暮ったいのよぉねぇん…さて、何か気になることは?答えられるなら答えるわよぉん」
「はーい!風の精霊様に教えてほしいです!何で火の精霊様は最後なんですか?」
「あぁん!ケルンは本当にかわいいわねぇ!…火の精霊はねぇ…ちょーっと問題があるのよ。だから、順番を守りなさいね?まぁ、相性のいい水も今は大荒れしているんだけどね」

 ケルンの出すキラキラは精霊様にも効くみたいだ。精霊様の目がハートになって教えてくれる。
 とはいえ、詳しくはわからないが、順番を守る方がいいだろうな。水の精霊様からも火は最後にしなさいっていわれたし。

 まだ聞きたいことがあったのか、ケルンが口を開けた瞬間、精霊様が空を見上げて舌打ちをした。

「ごめんなさいね。本当はもっと話したいところなんだけどぉ…あたちは残念だけど…本当にほんとーに!残念だけどぉ!忙しくてぇ…ケルンの若い情熱を受けてあげたいんだけどぉ、あたちって、やっすい女じゃないの」
「女?」

 思わずつっこんでしまったら、にらまれた。

「黙らっしゃい。あんた見た目はあたち好みでも、信用してないんだから…あぁん!熱っぽくみたって…だ、め、よ?」
「見てません」
「んもぉ…いけずなのが、あの方みたいで…トロトロになっちゃうわぁん」

 すげぇぞ。俺の中で精霊様への信仰が少し下がった。
 風の精霊様は教育に超絶悪いと知識に叩き込んだ。

「もっとお話してしっぽり仲良くしたいのだけどぉ…会えないから代わりにあたちの部下を貸してあげるから、喚んであげてねぇん」
「はーい!」
「試しに喚んであげて。あの子も久しぶりに人と関わらないとねぇん…引きずってるなんて、風の精霊らしくなくて…かわいそうなのよ…ああん!あの方があたちを喚んでる!んじゃ、またねぇん!」

 精霊様がいうやないなや、つむじ風が発生しておさまるときには精霊様は消えていた。

「ねえ、お兄ちゃん。風の精霊様って、男の子だったの?女の子だったの?」
「…ああいう精霊様だったんだろ…風の精霊様ってみんなあんなだったらどうしよう」

 いや、偏見はないんだ。ただ濃い存在が続いたなぁって思ってな。
 濃い存在ではあったけど、精霊様はやはり人外の存在だったな…色んな意味で。
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