選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
194 / 229
第六章 ケモナーと水のクランと風の宮

大聖堂

しおりを挟む
 慣れ親しんでいる屋敷もそうだが、ポルティもこの体からだと新鮮に感じる。
 昨日は一日屋敷にいてのんびりしてしまった。

 ガタガタと馬車に揺られている。ケルンの膝の上に座っている。対面には父様が座っていた。御者にはエセニアとミルディがしている。
 カルドは父様から追加の仕事を頼まれて朝から出てしまっているから、今回はいない。

「お兄ちゃん、あとでお買い物しよ?父様、いいでしょ?」
「ああ。いいぞ。エフデの部屋に置く物は自分で選んだ方がいいだろうからな。二人とも、何でも好きな物を買いなさい」
「二人ともって…まぁ、いいか。エセニアー、ミルディ!買い物もして帰るからなー!」
「かしこまりました」

 俺も買い物が嫌いってわけじゃない。それに部屋に置きたい物がないわけじゃない。あとはまぁ…ケルンと父様が嬉しそうだから。

 大歓迎の帰宅となったが、ほとんど母様たちとお茶会で話したり、ケルンと部屋で遊んだり、ランディに会いに行き、スラ吉とも顔合わせも済ませた。
 スラ吉のボディは罪作りだ…ウォーターベッドよりもぽよぽよで最高だった。

 それともう一人。ハンクとようやく対面をしたので挨拶をしたのだけど、人見知りのはずなのに、そこまで拒否反応がなかったのは助かったのだが、何だか不思議なことをいわれた。

「兄御殿、坊ちゃま、お家騒動?家督、兄御殿?坊ちゃま?」
「あ?ケルンが継ぐぞ」
「…骨肉…あら、そい。なし。いい」

 ケルンが継ぐのは当たり前だというのに、何を心配したのかはわからない。
 ハンクはやたらと家とかを気にするが、性分なのか元々いたところの風習なんだろうか?

 クウリィエンシアではそもそも指名制だっていうのを知らないのかもしれない。まぁ、断る権利もあるらしいが、血統主義なのは間違いない。
 スキルと魔力のためだが、スキルは必ず遺伝するとは限らないからな。

 あとはやたらと俺の好物とかを把握しているのは、エスパーなのか?晩ご飯の鴨南蛮とか最高だった。

「それで…本当に精霊と契約をしていけば、エフデの体を用意するとおっしゃっていたのか?」
「うん!ね?お兄ちゃん」
「ん?ああ。そういわれました」

 味を思い出していたら父様が真剣に尋ねられたので、思考を切り替える。
 酒を酌み交わしているときにサイジャルでの一件を話したのだ。

 ちなみにだが、俺はまったく酔わなかった。父様も強い方だと思うが、この体だからだろうな。何も問題なく二日酔もしていない。

 ワインを半分ほど開けたんだが、平気とは思わなかったな…樽だったんだけど。
 この小さな体でぱかぱか入るからびびった。あと、普通に美味しかった。

「しかし…呪いか…精霊にもっと早く聞いておけばよかった」

 どこか悔しそうに父様が呟く。昨日から含めて何度目だろうか。

「ユリばあ様いわくだったんですがね…体のことも含めて」

 ユリばあ様だけがあっているだけならそこまで信用はしていなかったが、父様が精霊様に尋ねて得た答えはユリばあ様の言葉を肯定しただけだった。

 まるで絡みつく蛇のような呪いが俺にかけられているそうだ。
 蛇は嫌いじゃないんだけど、呪いは勘弁して欲しいところだ。

「あの方は私の父、お前たちの祖父もよく知っている方だ…わざわざ嘘はいうまい。体もサイジャルなら可能かもしれない…あそこは私でも知らない実験をしているからな」

 そういって、父様は外へと視線をむける。
 ぎゅと俺を掴んでいるケルンの手が強まる。絶対に契約をするという強い気持ちもまた伝わってきた。

 ポルティの大聖堂は古いけど立派な建物だ。
 昔々、まだクウリィエンシアが一つの国になる前にあった国の若者がここで風の精霊様と契約を交わし魔物から国を救った。若者はその後国王になったという伝説がある。

 ちょっと怪しい話なんだけど、一振りで百の魔物を木端微塵にしたとか…伝説ってのは脚色されてなんぼだが、他にも若者は突如現れたとか、突拍子もない話が多かった。

 そんな様々な伝説があるおかげなのか、やたらと立派な大聖堂が建立されている。ポルティの街の建物が新しく綺麗なのに、ここだけ古いからもしかしたら、ずっと昔からこのまま…なんてな。ありえないか。

 馬車から出てケルンの服に入り、顔を出しながら大聖堂を見渡す。

「風の精霊様って女の人なのかな?」
「水はそうだったな」

 大聖堂には女の人の姿の風の精霊様の像が置かれている。
 あとケルンが描いた絵とかも飾られているはずだ。奉納したその日に盛大な儀式をした話を聞いたからな。

 綺麗な風の精霊様の横に棒神様ではちょっとインパクトにかけるかと思うんだけどな。
 あとは、ケルンと契約をしてくれる精霊様がどんな女の人なのかはわりと気になる。

 天使のおねぇさんや、水の陸上女子とメイド…見事に濃い目の女の人に囲まれてしまったからな。カワウソの癒しは大事な枠だったと今でも思う。

 そんな疑問を父様に尋ねれば、エセニアが開けてくれた扉をくぐろうとして、立ち止まってしまう。

「風はな…普段がな…」

 父様は顔をしかめて黙ってしまった。そして、そのまま無言で大聖堂に入っていく。
 え、父様がいいよどむとか、どんな精霊様なんだろうか。

 怖くて聞き返せないでいると、父様が事前に知らせておいたために、大聖堂を管理する司教様がすぐに来てくれたようだ。
 父様が壁になっている間に俺はケルンの服の中に予定通りに潜り込む。俺の姿は教会の人が驚くため隠すようにいわれていたからだ。

「これはティストール様。それにケルン様。ようこそいらっしゃいました」
「ベルザ司教。ご無沙汰しています」
「こんにちわ!」

 ベルザ司教はかなり高齢のおじいちゃんだ。髪の毛はまったくなく、腰も曲がってしまっているが、帽子だけはまっすぐで落とさずに歩くという器用な人だ。
 それだけじゃなく、歯はなんと自前だ。入れ歯なんてない。ケルンも見習わそうと思うほど、健康長寿な人で、御歳百九十七歳だ。

「はい、こんにちわ。ご健勝でよかったです。それで本日は何用でございましょうか?ご子息もお連れになるとは…何かよからぬことでもありましたか?」

 服のすきまから覗けば、曲がった腰をわずかにまっすぐに戻してベルザ司教は口調もしっかりと話し出した。

「いざとなれば、我らポルティの者たちは全員戦いますぞ?拙僧もわずかではありますがお力になりましょう」
「いえいえ。そのような話ではありません大丈夫です。息子が風の精霊と契約をしたいというので連れてきただけですので」
「契約をしたいです!」

 ベルザ司教はすぐに戦いがあると判断してしまう。たくさんの戦争を経験してきていて、貴族が子供を連れてくるときは匿ってほしいときが多かったからだろう。
 まぁ、それとは関係なくても毎度同じやりとりになっている…お歳だから仕方ないことだ。

「そうでございましたか。いや、お恥ずかしい…拙僧も歳でボケてしまいました。ですがよろしいので?いささか契約をするには時期がよくありませんが」
「構いません。そこまで強い精霊を求めておりませんから」

 時期?精霊様と契約をするのにいい時期とかあるのか。そういうのは意識して調べていなかったからまた調べておかないと。

 ベルザ司教は納得したのか、父様にうなづいて控えている従僕に指示を出している。

「それでは、大鐘楼の間を開けましょう。用意してくれ…では、ケルン様。ささ、参りますぞ」
「はーい!…お兄ちゃん、僕、頑張るからね!」

 小声で俺に伝えるケルンの声を聞きながら少し不安が強まった。
 目的の大鐘楼から何だか濃密な気配を感じるのだ…それもかなり濃い目の。
 …どうか勘違いでありますように。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...