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第六章 ケモナーと水のクランと風の宮
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二人と映画をまだ見ていないエセニアをつれて、上映会場として借りた教室の前にむかった。
中庭を抜けた先の西棟の三階を借りたのだけど、運がよかったのか、食品関係の展示販売を発表としているクランが多かった。教室には飲食の持込みを可にしていたので、俺たちも気がねなく飲食ができる。
ハルハレ以外だとミックスジュースの店ぐらいしか知らないから、何か飲み物の面白そうなものでもあればいいんだけどな。
飲み物だけはハンクも許可しているから、ケルンと廊下に出店として出している物をみる。教室のだとテイクアウトはできそうにないのと、食事がメインらしくて入る時間はない。
「お兄ちゃん、何がいい?」
「俺はお前のを飲むから、気にするな。ケルンは何が飲みたいんだ?」
「んー…甘いのー!」
あんまり飲んで食事がとれないと困るし、上映中にトイレに行くのもあれだから、二人で飲み物はわければいい。
ミケ君たちはかなり興味深そうにみているな。エセニアがいるから毒の心配はないけど、念のために同じ物を飲んでもらう方がいいな。
エセニアをちらっとみれば、軽くうなづく。変な匂いはない。無臭の毒でもエセニアは気付くだろう。
ティルカと話したとき、エセニアが持っているスキルのことも少し教えてもらった。
エセニアの鼻は毒を嗅ぎ分けることができる。それが無味無臭でも関係がない。
毒があるかないかを判断できるのだ。
カルドも似たスキルを持っているらしいが、元々二人とも鼻がよすぎるから香水に引っ掛かったのを悔いて、あれから二人して鍛えたそうだ。
それを聞いた俺はティルカいわく不機嫌になったといわれたが、そんなことはない。ちょっと負けた気がしただけだし。
思い出してもやってしてきた。映画をみるんだし、炭酸とかねぇかな?しゅわしゅわで胸をすっとさせたい。
「お兄ちゃん、しゅわしゅわって?」
ケルンに触れているから自然と気持ちが繋がっていたからか、ケルンが見上げてくる。
「舌の上で弾ける…甘い果実水…微炭酸じゃなくて、がっつり炭酸なのがいいな」
「タン・サン?」
「誰だよ、どこの人だっての」
区切るとこがそこだと人名にしか聞こえねぇよ。
「舌の上で弾ける…あれですかね?」
エセニアが指差した先には『果実爆弾水』の看板が見えた。
「果実爆弾?兵器か?」
「爆弾水…何のことでしょうか…?」
ミケ君とメリアちゃんも困惑しているが、俺も同じ気持ちだ。
果実が爆弾でも、爆弾の水でも区切るとこを、変えても危険な匂いしかしないんだが。
でも、エセニアの鼻はセーフみたいだし。
「爆弾の果物なんてあるのかなぁ?ミルディ知ってる?」
「そうですね…果物が弾けることはありますけど」
ケルンが目をキラキラさせて、ミルディに聞いている。本当にへんてこなのが好きだよな…俺もだけど。元魔物であるミルディも知らないようだから、本当に爆発するわけでないと思うが、のぞいてみるか。
そこそこ人が並んでいるが一品しかないのか、全員同じ色の液体を持っていく。透明…だけど、気泡が見えたぞ?
順番がきて店員をみてびっくりした。
「へい、らっしゃい!」
「あっ!チールーちゃんだぁ!」
眼鏡を額の上にかけた栗毛の女の子。この前、誘拐されたチールーちゃんが店員の一人として働いていた。
「しししっ。ケルン、やっほぉなんだよ」
鼠の獣人ではあるけど、尻尾があるだけでほとんど人族のチールーちゃんは、同じクランらしい女性徒の顔色を伺って挨拶を返した。先輩なのだろう、女性徒はウィンクをチールーちゃんにしていた。
新入生のお祭りのような水のクラン戦だし、少しだけ会話をしてもいいってことだろう。
「チールーちゃんもクランに入ってたんだぁ」
「『趣味と実益の魔化学研究所』ってクランなんだよぉ。売り物はこれしかないけどね、しししっ。大発見の新しい飲み物!買うなら記章登録してね」
教室の前に出店をしているので、外から教室の内部が少し見えたが、フラスコだらけの上、ポコポコと湯気がでている。その液体と果実水を混ぜた物を出しているようだ。
「ひょっとして、芋を発酵させた物を使っているのか?」
「ありゃ?エフデ先生知ってた?」
「おいも?これっておいもなの?」
チールーちゃんは、香水を作りたいっていっていたから、こういう化学系のクランに入るのもわかる。
そういやケルンに教えてなかったから教えてやるか。
「芋というかデンプンがとれたらなんでもいい。デンプンは糖に変化するから、糖をカビで発酵させてクエン酸を取り出すんだ。そんで…簡単にいうと塩を混ぜた水に電気を流して、二酸化炭素…息を吐いたときに出るやつを混ぜたら重曹ってのができるんだけど、クエン酸と重曹を水で混ぜたら炭酸水の完成だ」
説明の途中からまったくわかっていなかったから、なるべくケルンでもわかるように噛み砕いて説明をする。わからないはずはないんだけど、実感はあっても理解はしていないんだろう。
「なんとなくわかったけど、難しいねー」
まぁ、子供だしな。処理が追い付いてないんだろ。
「なんで!誰もわかっていない現象なのに!」
女性徒とチールーちゃんが口を揃えていう。
「百年課題っていわれてた『趣味と実益の魔化学研究所』の問題がそんな簡単にぃ!」
「パイセン、これで研究が売れる!」
キャーキャーと騒いでいる二人はいいだろう。
尊敬の目をむけるケルンもいい。
あと四人からのやれやれってため息と、そのうち一人からの「目立ちすぎです」という視線が痛い。
「…一杯ください」
購入して即座に離れることにした。話が長引けば映画の時間に間に合わないからな。
決してエセニアの視線から逃れたいわけじゃないぞ。
ケルンと飲んだ果実水はブドウ味の炭酸だ。ちょっとしょっぱいのは化合が甘いんだろうな。塩の調整がまだまだだな。
上映会場の一番いい席は予約しておいた。初回の上映だからできたことだ。
エフデの新作だからとかなりの人数が来ているそうだ。学長先生も忙しい中で来ているのが見えた。
大画面のスクリーンにこの日のために用意した二百人が座る座席は、クッションまで、こだわった。
ケルンを中心に右側にミケ君とエセニア、左側にメリアちゃんとミルディだ。俺はケルンの頭から肩に移動している。後ろの席の…気のせいだよなぁ…付けひげをしたティルカそっくりな人と目をそらしているけど、キャスがいる。
他人の空似にしよう。とくにキャスがいるわけない。決算の会議があるからこれるわけがない。
「しゅわしゅわーおいしいね」
「あとはハンクが用意してくれたポップコーンを…でかくね?」
すっとミルディが席を立って渡してくれポップコーンの入った入れ物をみて、思わずいってしまう。
なお、エセニアは後ろの人物を睨んでいた。他人の空似なのに睨んではいけないぞ。
ハンクに干したトウモロコシ炒めたものを作ってくれと頼んだら送られてきたポップコーンがやたらとでかい。
一粒がケルンの拳ほどある。
弾けすぎだろ。根性ありすぎるぞモフーナのトウモロコシ。
「キャラメル味とバター味…塩コショウ…うむ。でかいが完璧だ」
「大きさが問題ではないですか?」
入れ物に書いてある文字を読んでいれば、遠くからエセニアの突っ込みを受けた。
ケルンと半分こするからいいし、みんなで食うから問題なし!
「楽しみだな」
「どんなものなのでしょうね」
ミケ君とメリアちゃんの二人がスクリーンをみている。珍しくミケ君もわかりやすくわくわくとしているようだ。
開演を告げるブザーがなった。
「あ、はじまるよー!」
ケルンが二人に教える。
さて、ポップコーンをつまんで何度目かの映画をみるか…恥ずかしいけどな。
このとき、ポップコーンを頼むんじゃなかったと後悔した。俺とケルンしか食べなかったので、後ろの人に上映後に残りを全部あげた。
ミケ君もメリアちゃんも、エセニアも。ポップコーンどころか飲み物さえ手をつけなかった。それどころか、呑気に飲食をしていたのは俺とケルンの二人だけだった。
スタッフロールまで流れてから突如巻き起こったスタンディングオベーション。謎の歓声。俺たちのところへ押し寄せようとしたお客さんが突然気絶するなど大混乱が起こった。
結果として『劇場版ペンギンさん物語~お魚くわえてどこ行くの?~』はモフーナ初のアニメ映画として大成功を収めたのだった。
それどころか、噂が噂を読んで満員御礼となり、初日から上映時間を変更した。まさかの二十四時間の上映でも満員だったそうだ。
大成功の裏には初めてみる動く絵ということもあるが声の演技がよかったという評判もあった。
「主人公のペギン君がかわいい」
その声を担当した本人は、父様からのご褒美の図鑑を俺を頭に乗せて読んでいるところだ。
ペギン君の声はケルンが担当した。初めての演技ではあるけど、演技指導はとても楽だった。
まず病気になったペギンママを母様。仕事に出ていてペギンが迷子になったことを知って探しにやってきたペギンパパを父様にしたら、一発で上手くいった。
子役の知り合いとかいないから、ケルンにやらせたが、こんな才能もあったんだな。
初めて魚をとるシーンなど迫真の演技であり、カモメさんが嵐の中ペギンを見つけるシーンは、迫力もあってよかった。
まぁ、父様たちにも映画に参戦をしてもらったってのもよかったな。
カモメ役はティルカにしてもらったけど、かっこよすぎて原作の絵本よりも男前になった気がする。
元々が絵本であるから大人受けはしないかと思ったが、声のおかげもあってか、大人の方がたくさん見ている気がする。新入生へ向けてだったんだけど、予想外だった。
もう一つ予想外だったことがある。
迷子になってすぐに、サメに襲われるときに助けてくれた謎ペンギン役を俺がやるとは思いもしなかった。
最新作の『ペンギンさん物語~ペギン君と謎ペンギンさん。悲しみの空を越えて~』で、陰ながらペギン君を助ける謎ペンギンは卵のときに悪者のアザラシ一家に拐われたペギン君の兄って設定を出したのが間違いだった。
よくあるじゃん。影ながら支える親兄弟設定って。かっこいいなと思って話を書いて、絵を描いた。それを読んでやってから、そればかり読ませられているほど、ケルンが気に入ったのだ。
だからか、ケルンが駄々をこねたのだ。
「お兄ちゃんが謎ペンギンさん!じゃないとやらないからね!」
なんていうもんだから、頑張った。
二度としない。なんだよ、あのニヒルで天の邪鬼なペンギン。無理。心臓にくる。心臓はないけど。
ハトさんたちからも続編のオファーがたんまり来ているけど…俺は出ないぞ。恥ずかしい。
絵コンテと動画は一応、作ってはいるんだがな…最新作まで。でも出ないぞ。あんな恥ずかしいセリフをいえるかってんだ。
しかもミケ君から教えてもらったが、王都や他の場所でも上映したいとか…やめてほしい。王妃様がファンだからってミケ君たちが教えたのか…サイジャルへ来ようとしたとか。
アシュ君とマティ君も別の回で見たらしく、特にマティ君が飛んできて土下座の勢いで頼み込んできた。
「頼んます!弟にも見せたいんや!兄やん!頼んます!」
所長さんからも同じような手紙がきてたし、弟のためっていうマティ君の願いが叶うように父様に頼むことになった。どうなるかわからないけど、世話になっている人限定でも構わないからどこかでみせれたらいいな。
まぁ、そんなわけで、我が絵画教室所属の大人げないプロたちの本気によって作られたアニメ映画は誰がみても一番の功績になった。
クラン『エフデの愉快な教室』はめでたく『水のクラン戦』で優勝をもらえた。
今回の商品は特別室でのお茶会らしいが…どんなとこで、どんなお茶をするんだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どんな映画だったかは裏話で書きます。
中庭を抜けた先の西棟の三階を借りたのだけど、運がよかったのか、食品関係の展示販売を発表としているクランが多かった。教室には飲食の持込みを可にしていたので、俺たちも気がねなく飲食ができる。
ハルハレ以外だとミックスジュースの店ぐらいしか知らないから、何か飲み物の面白そうなものでもあればいいんだけどな。
飲み物だけはハンクも許可しているから、ケルンと廊下に出店として出している物をみる。教室のだとテイクアウトはできそうにないのと、食事がメインらしくて入る時間はない。
「お兄ちゃん、何がいい?」
「俺はお前のを飲むから、気にするな。ケルンは何が飲みたいんだ?」
「んー…甘いのー!」
あんまり飲んで食事がとれないと困るし、上映中にトイレに行くのもあれだから、二人で飲み物はわければいい。
ミケ君たちはかなり興味深そうにみているな。エセニアがいるから毒の心配はないけど、念のために同じ物を飲んでもらう方がいいな。
エセニアをちらっとみれば、軽くうなづく。変な匂いはない。無臭の毒でもエセニアは気付くだろう。
ティルカと話したとき、エセニアが持っているスキルのことも少し教えてもらった。
エセニアの鼻は毒を嗅ぎ分けることができる。それが無味無臭でも関係がない。
毒があるかないかを判断できるのだ。
カルドも似たスキルを持っているらしいが、元々二人とも鼻がよすぎるから香水に引っ掛かったのを悔いて、あれから二人して鍛えたそうだ。
それを聞いた俺はティルカいわく不機嫌になったといわれたが、そんなことはない。ちょっと負けた気がしただけだし。
思い出してもやってしてきた。映画をみるんだし、炭酸とかねぇかな?しゅわしゅわで胸をすっとさせたい。
「お兄ちゃん、しゅわしゅわって?」
ケルンに触れているから自然と気持ちが繋がっていたからか、ケルンが見上げてくる。
「舌の上で弾ける…甘い果実水…微炭酸じゃなくて、がっつり炭酸なのがいいな」
「タン・サン?」
「誰だよ、どこの人だっての」
区切るとこがそこだと人名にしか聞こえねぇよ。
「舌の上で弾ける…あれですかね?」
エセニアが指差した先には『果実爆弾水』の看板が見えた。
「果実爆弾?兵器か?」
「爆弾水…何のことでしょうか…?」
ミケ君とメリアちゃんも困惑しているが、俺も同じ気持ちだ。
果実が爆弾でも、爆弾の水でも区切るとこを、変えても危険な匂いしかしないんだが。
でも、エセニアの鼻はセーフみたいだし。
「爆弾の果物なんてあるのかなぁ?ミルディ知ってる?」
「そうですね…果物が弾けることはありますけど」
ケルンが目をキラキラさせて、ミルディに聞いている。本当にへんてこなのが好きだよな…俺もだけど。元魔物であるミルディも知らないようだから、本当に爆発するわけでないと思うが、のぞいてみるか。
そこそこ人が並んでいるが一品しかないのか、全員同じ色の液体を持っていく。透明…だけど、気泡が見えたぞ?
順番がきて店員をみてびっくりした。
「へい、らっしゃい!」
「あっ!チールーちゃんだぁ!」
眼鏡を額の上にかけた栗毛の女の子。この前、誘拐されたチールーちゃんが店員の一人として働いていた。
「しししっ。ケルン、やっほぉなんだよ」
鼠の獣人ではあるけど、尻尾があるだけでほとんど人族のチールーちゃんは、同じクランらしい女性徒の顔色を伺って挨拶を返した。先輩なのだろう、女性徒はウィンクをチールーちゃんにしていた。
新入生のお祭りのような水のクラン戦だし、少しだけ会話をしてもいいってことだろう。
「チールーちゃんもクランに入ってたんだぁ」
「『趣味と実益の魔化学研究所』ってクランなんだよぉ。売り物はこれしかないけどね、しししっ。大発見の新しい飲み物!買うなら記章登録してね」
教室の前に出店をしているので、外から教室の内部が少し見えたが、フラスコだらけの上、ポコポコと湯気がでている。その液体と果実水を混ぜた物を出しているようだ。
「ひょっとして、芋を発酵させた物を使っているのか?」
「ありゃ?エフデ先生知ってた?」
「おいも?これっておいもなの?」
チールーちゃんは、香水を作りたいっていっていたから、こういう化学系のクランに入るのもわかる。
そういやケルンに教えてなかったから教えてやるか。
「芋というかデンプンがとれたらなんでもいい。デンプンは糖に変化するから、糖をカビで発酵させてクエン酸を取り出すんだ。そんで…簡単にいうと塩を混ぜた水に電気を流して、二酸化炭素…息を吐いたときに出るやつを混ぜたら重曹ってのができるんだけど、クエン酸と重曹を水で混ぜたら炭酸水の完成だ」
説明の途中からまったくわかっていなかったから、なるべくケルンでもわかるように噛み砕いて説明をする。わからないはずはないんだけど、実感はあっても理解はしていないんだろう。
「なんとなくわかったけど、難しいねー」
まぁ、子供だしな。処理が追い付いてないんだろ。
「なんで!誰もわかっていない現象なのに!」
女性徒とチールーちゃんが口を揃えていう。
「百年課題っていわれてた『趣味と実益の魔化学研究所』の問題がそんな簡単にぃ!」
「パイセン、これで研究が売れる!」
キャーキャーと騒いでいる二人はいいだろう。
尊敬の目をむけるケルンもいい。
あと四人からのやれやれってため息と、そのうち一人からの「目立ちすぎです」という視線が痛い。
「…一杯ください」
購入して即座に離れることにした。話が長引けば映画の時間に間に合わないからな。
決してエセニアの視線から逃れたいわけじゃないぞ。
ケルンと飲んだ果実水はブドウ味の炭酸だ。ちょっとしょっぱいのは化合が甘いんだろうな。塩の調整がまだまだだな。
上映会場の一番いい席は予約しておいた。初回の上映だからできたことだ。
エフデの新作だからとかなりの人数が来ているそうだ。学長先生も忙しい中で来ているのが見えた。
大画面のスクリーンにこの日のために用意した二百人が座る座席は、クッションまで、こだわった。
ケルンを中心に右側にミケ君とエセニア、左側にメリアちゃんとミルディだ。俺はケルンの頭から肩に移動している。後ろの席の…気のせいだよなぁ…付けひげをしたティルカそっくりな人と目をそらしているけど、キャスがいる。
他人の空似にしよう。とくにキャスがいるわけない。決算の会議があるからこれるわけがない。
「しゅわしゅわーおいしいね」
「あとはハンクが用意してくれたポップコーンを…でかくね?」
すっとミルディが席を立って渡してくれポップコーンの入った入れ物をみて、思わずいってしまう。
なお、エセニアは後ろの人物を睨んでいた。他人の空似なのに睨んではいけないぞ。
ハンクに干したトウモロコシ炒めたものを作ってくれと頼んだら送られてきたポップコーンがやたらとでかい。
一粒がケルンの拳ほどある。
弾けすぎだろ。根性ありすぎるぞモフーナのトウモロコシ。
「キャラメル味とバター味…塩コショウ…うむ。でかいが完璧だ」
「大きさが問題ではないですか?」
入れ物に書いてある文字を読んでいれば、遠くからエセニアの突っ込みを受けた。
ケルンと半分こするからいいし、みんなで食うから問題なし!
「楽しみだな」
「どんなものなのでしょうね」
ミケ君とメリアちゃんの二人がスクリーンをみている。珍しくミケ君もわかりやすくわくわくとしているようだ。
開演を告げるブザーがなった。
「あ、はじまるよー!」
ケルンが二人に教える。
さて、ポップコーンをつまんで何度目かの映画をみるか…恥ずかしいけどな。
このとき、ポップコーンを頼むんじゃなかったと後悔した。俺とケルンしか食べなかったので、後ろの人に上映後に残りを全部あげた。
ミケ君もメリアちゃんも、エセニアも。ポップコーンどころか飲み物さえ手をつけなかった。それどころか、呑気に飲食をしていたのは俺とケルンの二人だけだった。
スタッフロールまで流れてから突如巻き起こったスタンディングオベーション。謎の歓声。俺たちのところへ押し寄せようとしたお客さんが突然気絶するなど大混乱が起こった。
結果として『劇場版ペンギンさん物語~お魚くわえてどこ行くの?~』はモフーナ初のアニメ映画として大成功を収めたのだった。
それどころか、噂が噂を読んで満員御礼となり、初日から上映時間を変更した。まさかの二十四時間の上映でも満員だったそうだ。
大成功の裏には初めてみる動く絵ということもあるが声の演技がよかったという評判もあった。
「主人公のペギン君がかわいい」
その声を担当した本人は、父様からのご褒美の図鑑を俺を頭に乗せて読んでいるところだ。
ペギン君の声はケルンが担当した。初めての演技ではあるけど、演技指導はとても楽だった。
まず病気になったペギンママを母様。仕事に出ていてペギンが迷子になったことを知って探しにやってきたペギンパパを父様にしたら、一発で上手くいった。
子役の知り合いとかいないから、ケルンにやらせたが、こんな才能もあったんだな。
初めて魚をとるシーンなど迫真の演技であり、カモメさんが嵐の中ペギンを見つけるシーンは、迫力もあってよかった。
まぁ、父様たちにも映画に参戦をしてもらったってのもよかったな。
カモメ役はティルカにしてもらったけど、かっこよすぎて原作の絵本よりも男前になった気がする。
元々が絵本であるから大人受けはしないかと思ったが、声のおかげもあってか、大人の方がたくさん見ている気がする。新入生へ向けてだったんだけど、予想外だった。
もう一つ予想外だったことがある。
迷子になってすぐに、サメに襲われるときに助けてくれた謎ペンギン役を俺がやるとは思いもしなかった。
最新作の『ペンギンさん物語~ペギン君と謎ペンギンさん。悲しみの空を越えて~』で、陰ながらペギン君を助ける謎ペンギンは卵のときに悪者のアザラシ一家に拐われたペギン君の兄って設定を出したのが間違いだった。
よくあるじゃん。影ながら支える親兄弟設定って。かっこいいなと思って話を書いて、絵を描いた。それを読んでやってから、そればかり読ませられているほど、ケルンが気に入ったのだ。
だからか、ケルンが駄々をこねたのだ。
「お兄ちゃんが謎ペンギンさん!じゃないとやらないからね!」
なんていうもんだから、頑張った。
二度としない。なんだよ、あのニヒルで天の邪鬼なペンギン。無理。心臓にくる。心臓はないけど。
ハトさんたちからも続編のオファーがたんまり来ているけど…俺は出ないぞ。恥ずかしい。
絵コンテと動画は一応、作ってはいるんだがな…最新作まで。でも出ないぞ。あんな恥ずかしいセリフをいえるかってんだ。
しかもミケ君から教えてもらったが、王都や他の場所でも上映したいとか…やめてほしい。王妃様がファンだからってミケ君たちが教えたのか…サイジャルへ来ようとしたとか。
アシュ君とマティ君も別の回で見たらしく、特にマティ君が飛んできて土下座の勢いで頼み込んできた。
「頼んます!弟にも見せたいんや!兄やん!頼んます!」
所長さんからも同じような手紙がきてたし、弟のためっていうマティ君の願いが叶うように父様に頼むことになった。どうなるかわからないけど、世話になっている人限定でも構わないからどこかでみせれたらいいな。
まぁ、そんなわけで、我が絵画教室所属の大人げないプロたちの本気によって作られたアニメ映画は誰がみても一番の功績になった。
クラン『エフデの愉快な教室』はめでたく『水のクラン戦』で優勝をもらえた。
今回の商品は特別室でのお茶会らしいが…どんなとこで、どんなお茶をするんだろう。
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