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第五章の裏話
画材屋の店主
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「一昨日きやがれ」
店で暴れたどこぞの小僧どもをほどほどに肉体言語で説教をして店の外へと放り出す。
今週に入ってこれで四度目か。また値段が上がったのが原因なんだろうが…隠すのもかわいそうだしな。もちっと強いやつがきたら考えるが…ここらには来ないだろうな。
掃除中に別なもんを掃除しちまった。
「もし。店主殿。こちらはフェスマルク家御用達の画材屋『ザックとリリアン』で間違いないか?」
お客が来たが、店の品を買いにきたわけではなさそうだ。
ドワーフの団体が店の奥の俺の肖像画に声をかけている。
「おう。間違いないぞ。俺が店主のザックだ。んで、お客さんが声をかけたのはエフデの絵だ」
視覚になっていた棚から顔を出せば目が飛び出るのではないかと驚くドワーフたちにため息をつきつつ、茶の用意をしてやる。
…絵を見て驚いたんだよな?俺の顔じゃないよな?
画材屋だが、品物よりも絵を見にきたお客のおひねりの方が稼げるときがあるのは、どうなんだろうか。
ドワーフたちが拝観料といって置いていった金貨にぞっとする。
一般市民じゃまず見ることがない。
何せ、大銅貨ですら持ち歩いている人間は限られる。
貴族や金持はそこらへんを理解していない。金貨を持って歩くなんてありえねぇ。
金貨や商いをしている者は普通に金貨を扱っているだろうが、そうほいほい出すもんでもない。
「やってるな」
「…お前…忙しいくせに何しにきたんだ?」
金庫にしまおうと考えていると突然声をかけられた。
昔馴染み…歳が近く家も近いから、幼馴染のような男がひょっこり顔を出しやがった。
「…また老けたな。薬は飲んでいるのか?」
「人の顔をみるなりそれかよ…あまり効かないが、気にするな。お前みたいに魔力があるわけじゃないしな」
一度にいきなり老けた幼馴染には驚かせられたが、それでも俺の方がしわは多い。
生れつき魔力が少なく、人族の血が強くですぎて、俺は老化がはやい。
逆にこの男は魔力が多く、いつまで経っても十代で、綺麗な嫁さんとお似合いだったっていうのに…いきなりじじいになったときは、驚いた。
「またいい薬があれば持ってくる。俺たちは長生きしようぜ、ザック」
「それはいいが、言葉が戻ってるぞ?犬っころに叱られるぞ?ティス」
お偉い貴族の幼馴染は、しまったと顔に出ているが毎度のことだ。
見た目は歳を取ったが、中身は若いまま。見た目に引きずられていても、本当ならこいつは今でも二十代ぐらいの若さがあったはずだ。
「まぁ、俺の前じゃ変に貴族らしくすんなよ。俺も貴族様向けにするのめんどくさい」
「はぁ…ザックと話すと昔に戻るから困る。これでも俺は立派な旦那様だってのに」
立派な旦那様。
そうこだわるのはこいつの父親の影響だ。
ポルティ村の領主様。
戦争で村の若者たちを救うため…夫婦共々戦場で亡くなったポルティ村の救い主。
どっしり構えていて、朗らかにされていた。よく村に来ては大人たちと酒を飲み俺たちとも遊んでくれた。
奥様は優しくて綺麗な人だった。少し言葉が訛っていたけど、気品があって、俺らぐらいの村の男たちの初恋相手だ。花の精霊様だっていわれても納得するほど透き通っていた。
とてもいい人たちだった。
だからポルティの住人はフェスマルク家のためなら何でもできた。
守るつもりだったんだろう。俺たちよりも年長の男たちは戦場に出た。けれども、村の男たちを知っている領主様は…決して誰一人死なせなかった。
多くの攻撃を領主様が。
多くの癒しを奥様が。
結果はティスに両親を失わせるだけになってしまった。
「ティスの親父様みたくは難しいだろう。あの人は本当に貴族だった。あの人以上の貴族は俺は見たことがない」
「…ありがとう。俺は少しでも父上に近づくだけだな」
前はもっとギラギラしていたんだがな…冒険者をしていたころなんざ、それこそ魔法使いとして派手な戦い方をしていた。
結婚してから弱くなっちまったのかもしれやい。
「で、犬っころは?一緒じゃないのか?」
「カルドは少し体を鍛えているところだ…この前昇級したんだ」
あの執事におさまっている狂犬が体を鍛え直して…昇級しただぁ?
「カルドが昇級した?引退して何年経ったと思ってるんだ!やっぱり、あいつ執事じゃねぇって!」
ぞっとする話だ。
引退して三十年ほどだろ?鈍っていなかっただろうが、冒険者からは完全に離れていたはずだ。執事の仕事をしながら冒険者に戻れるなんてありえねぇだろ。
「執事で雇ったんだがな…早くに引退させなかったら、もっと早くにSになってたいただろう」
「いや、あのな…年齢を考えろ?現役のやつらもいるってのに…昇級試験は現役のSランクを倒すことが条件だったはずだ。よく倒せたな」
魔法使いとしてならともかく、あいつの戦い方は前衛や斥候だろ?速さはあっても馬力がない。そんなんで、よく現役のやつを倒せたもんだ。
「カルドからしたら弱いんだろ…ザック相手なら負けるだらろうが」
「俺はもうしがない画材屋だ。それに…画材屋だからまだそこまで老けずにすんでる。リリアンも安心してくれているからな」
寿命をのばす薬のために金を稼ごうとして始めた冒険者稼業も、寿命を削るようになってしまってからは、徐々に仕事を抑えていたが、それでも仕事が楽しくて続けていた。
さすがにもう引退しているし、カルドのように戻るつもりはない。
「Sランクのお前が来てくれて助かった…他のやつらもお前が来たから移り住んでくれたんだしな」
俺が声をかけたっていうが、ティスが声をかけたのも大きな理由だ。
何よりここは孤児院もあるからな…仲間の子供や孫が心配だったやつらも今では街の住人だ。
「村を街にしたから来てくれっていわれて来てみれば、立派な建物があるし、商売が軌道に乗るまで援助をするっていわれたらな…俺の場合は故郷だったからだし」
何もなくて寂れていたが、それが逆に故郷らしくてよかった。
久しぶりに帰ってきたときはあまりの変貌にしばらく頭が追い付かなかったが。
「というか、産まれたばかりの息子のために街を用意するとかお前が恐ろしい」
「そうか?全て揃うなら便利がいいと思ったんだが」
子供のために街を作る人脈を持っているのもあるが、レダート家が出資をしていたからな。
『引退した冒険者や孤児たちを救う資金をレダート家が出した』
当時、ティスから聞いたときは騙されているのかと思ったほどだ。確かにレダート家が二十年近く前から寄付をしだしていたが、どこかで回収されるもんだと思って、冒険者は警戒していた。
ところが何もない。引退した冒険者には、五体満足の者は少ない。そういったやつらに仕事や住む場所を与え、孤児院には大量の寄付をする。
この街だって資金提供を受けていたほどだ。
レダート家でしか扱わないような印刷物や工芸品を置くのもその名残だ。
誰のためか。それはこいつの息子のためだ。
あのちびっこ…美男と人間じゃねぇ美女の間に産まれただけはある。確認したが『魅了』持ちではない。年々ひどくなっているが…まだ人間の範疇にいる。
愛らしいというか、無邪気というか…顔をのぞけば、普通の子供だ。
少し独り言が多いとは思っていた。ただ、独り言にしては会話が成立していたような言動だった。
それもそのはずだ。会話をしていたんだから。
「お前のとこの息子が描いた絵の見物人が増えてきた」
「少し有名になったからな」
俺の意図するところを、わかっていて、話をそらしたな?
「少し?噂になっているんだが?…しかもあのおちびが描いたって俺は聞いてたんだが…今、上の子とサイジャルにいるんだってな?…上の子が生きてるってどういうことだ?俺にも黙ってたな?」
こいつの家が一時期ひどいときがあった。それこそ、急に老けて似合わない『法王』なんていう二つ名がついたころにだ。
あのころは、もうだめだと思っていた。理由だって俺は知っている。
「…お前の最初の子は…あのときにダメだったんだろ?だというのに生きてたって…俺に教えてくれてもよかっただろう?」
隠さなくてはならなかったというなら仕方ないが…俺だって幼馴染の子供ぐらい守ってやりたい。
それがこいつの子供なら尚更だった。
「すまん……あまりいえないんだ……だがな、エフデは間違いなく俺の子供だ。今はまだ不自由だが、必ず人間らしく生きていけるようにする」
「…無理をするなよ?親が無理をすると子供は心配する」
「お前のとこの娘みたいにか?」
子供のこととなると親は馬鹿になるもんだ。
ただな、俺の娘は俺を年寄り扱いのしすぎだ!
「あいつは!…なにが『お父さんが依頼を受けないようにする!』だ!ふざけんな!」
「仕事のしすぎなんだよ、お前は」
呆れられるが、仕事をしていないと落ち着かなかったのだ。
どうせ人より早くに死ぬんだから名前を残したかった。
今は心配で死ねないがな。
「王都のギルドで受付なんざなりやがって!…うちの娘にちょっかいかけてきやがる男がいるって聞いたら、ギルドの男は全員ぶっ殺してやる」
「『鬼食い』のお前がいうとやりそうだな」
恥ずかしい二つ名で呼びやがって…うまいんだからしかたねぇだろ。若返るんだし。
「あ、そうそう。今日来た用件を思い出した。ポルティにはギルドがないだろ?」
「そりゃ…元は村だったんだからな」
古くさい聖堂があるだけのしがない領地だったのはお前が一番知っているはすだ。
大昔はまだ他にも領地があったらしいが、領地経営がめんどくさい。他種族と婚姻するから。
そんな理由で手放していった結果、残ったのは、ポルティとあの大森林だけだ。
素材集めにはいい場所なんだが…いかんせんギルドの支部がないから素材集めに俺が行かねばならない。
「申請して設置することになった」
「は?」
「そこの主座はお前になってるから」
「はぁ!」
主座ってのは、ギルド支部の親玉じゃねぇか!
「Sランク以上だった者が主座になる資格があるんだから当然だろ?」
「ちょっと待て!王都にいる俺の知り合いを呼ぶ!だから俺はやめろ!」
今、街にいて主座にむいてそうなやつはいるが、ランクが足りない。ランクがあっても主座向きじゃないやつばかりだが、王都に残っている知り合いなら大丈夫だ。
ドーナッツ売りがもう少し上ならやつを…パン屋は…いや、あいつは戦闘狂だった。肉屋…あの『解体屋』はだめだ。孤児院の院長は…Sランクだったが、難しいか。あの人は孤児院の護衛だしな。
人材がたくさんいるのに、暇してそうなのが性格に難があるってどういうこった!
「葬儀屋…だめだ…あいつもやばい…家具屋…ランクが…」
「あーめんどくさい。いいからお前がやれよ。承認はとってるから。あ、うちの息子たちには知られるなよ?酒場をギルドにしているが、興味を持たれても困るんだ」
おい、これは俺に拒否権はないのか。
「この野郎…そうだ!おい、ティス!俺には店があるんだぞ!」
「リリアンには許可を得ているから安心しろ」
「…嫁を仲間にするな…くそが」
リリアンめ!ティスにころっと騙されてやがって!
「うちの息子たちの画材採集のために頑張れ」
「それが目的かよ」
仕入れ先に素材を渡す役目が解放されるのはいいが、お前のとこの息子が欲しがるものが普通の値段ではないことを注意しろよ。
筆一本が俺の昼飯一週間分だぞ?
「あ、そうそう。受付には王都の看板娘を連れてくる。明後日には戻るだろうから…しっかり孝行されろ。じゃあ、俺は仕事に戻る」
だから、リリアンのやつ、朝から掃除と買いだしに行ってんのか…てっきり、親父たちの所に行くからだと…俺に黙ってたのは…ティスめ…昔っから思いこんだら周りが見えなくなる癖をなおせ!
「ったく!…家族ができたら弱くなる…んなことねぇな」
足を洗ったっていうのに、変に胸が高まる…楽しい老後の息抜きと思ってやらせてもらうか。
娘が帰ってきたら…まずは肖像画で驚くだろうな。楽しみだ。
ってか、王都から帰ってきているなら護衛がいるよな?一人旅なんて危険なことしていないよな?冒険者を雇うはずだ。ちゃんと女だらけだよな?王都の男はいらないぞ?
…リリアンが帰ったら、久々に散歩に行こうと誘うか。店番は親父たちに任せよう。畑の世話より店番する方が金になるからな。
俺の装備とリリアンの装備を出しながら俺はそう決めた。
店で暴れたどこぞの小僧どもをほどほどに肉体言語で説教をして店の外へと放り出す。
今週に入ってこれで四度目か。また値段が上がったのが原因なんだろうが…隠すのもかわいそうだしな。もちっと強いやつがきたら考えるが…ここらには来ないだろうな。
掃除中に別なもんを掃除しちまった。
「もし。店主殿。こちらはフェスマルク家御用達の画材屋『ザックとリリアン』で間違いないか?」
お客が来たが、店の品を買いにきたわけではなさそうだ。
ドワーフの団体が店の奥の俺の肖像画に声をかけている。
「おう。間違いないぞ。俺が店主のザックだ。んで、お客さんが声をかけたのはエフデの絵だ」
視覚になっていた棚から顔を出せば目が飛び出るのではないかと驚くドワーフたちにため息をつきつつ、茶の用意をしてやる。
…絵を見て驚いたんだよな?俺の顔じゃないよな?
画材屋だが、品物よりも絵を見にきたお客のおひねりの方が稼げるときがあるのは、どうなんだろうか。
ドワーフたちが拝観料といって置いていった金貨にぞっとする。
一般市民じゃまず見ることがない。
何せ、大銅貨ですら持ち歩いている人間は限られる。
貴族や金持はそこらへんを理解していない。金貨を持って歩くなんてありえねぇ。
金貨や商いをしている者は普通に金貨を扱っているだろうが、そうほいほい出すもんでもない。
「やってるな」
「…お前…忙しいくせに何しにきたんだ?」
金庫にしまおうと考えていると突然声をかけられた。
昔馴染み…歳が近く家も近いから、幼馴染のような男がひょっこり顔を出しやがった。
「…また老けたな。薬は飲んでいるのか?」
「人の顔をみるなりそれかよ…あまり効かないが、気にするな。お前みたいに魔力があるわけじゃないしな」
一度にいきなり老けた幼馴染には驚かせられたが、それでも俺の方がしわは多い。
生れつき魔力が少なく、人族の血が強くですぎて、俺は老化がはやい。
逆にこの男は魔力が多く、いつまで経っても十代で、綺麗な嫁さんとお似合いだったっていうのに…いきなりじじいになったときは、驚いた。
「またいい薬があれば持ってくる。俺たちは長生きしようぜ、ザック」
「それはいいが、言葉が戻ってるぞ?犬っころに叱られるぞ?ティス」
お偉い貴族の幼馴染は、しまったと顔に出ているが毎度のことだ。
見た目は歳を取ったが、中身は若いまま。見た目に引きずられていても、本当ならこいつは今でも二十代ぐらいの若さがあったはずだ。
「まぁ、俺の前じゃ変に貴族らしくすんなよ。俺も貴族様向けにするのめんどくさい」
「はぁ…ザックと話すと昔に戻るから困る。これでも俺は立派な旦那様だってのに」
立派な旦那様。
そうこだわるのはこいつの父親の影響だ。
ポルティ村の領主様。
戦争で村の若者たちを救うため…夫婦共々戦場で亡くなったポルティ村の救い主。
どっしり構えていて、朗らかにされていた。よく村に来ては大人たちと酒を飲み俺たちとも遊んでくれた。
奥様は優しくて綺麗な人だった。少し言葉が訛っていたけど、気品があって、俺らぐらいの村の男たちの初恋相手だ。花の精霊様だっていわれても納得するほど透き通っていた。
とてもいい人たちだった。
だからポルティの住人はフェスマルク家のためなら何でもできた。
守るつもりだったんだろう。俺たちよりも年長の男たちは戦場に出た。けれども、村の男たちを知っている領主様は…決して誰一人死なせなかった。
多くの攻撃を領主様が。
多くの癒しを奥様が。
結果はティスに両親を失わせるだけになってしまった。
「ティスの親父様みたくは難しいだろう。あの人は本当に貴族だった。あの人以上の貴族は俺は見たことがない」
「…ありがとう。俺は少しでも父上に近づくだけだな」
前はもっとギラギラしていたんだがな…冒険者をしていたころなんざ、それこそ魔法使いとして派手な戦い方をしていた。
結婚してから弱くなっちまったのかもしれやい。
「で、犬っころは?一緒じゃないのか?」
「カルドは少し体を鍛えているところだ…この前昇級したんだ」
あの執事におさまっている狂犬が体を鍛え直して…昇級しただぁ?
「カルドが昇級した?引退して何年経ったと思ってるんだ!やっぱり、あいつ執事じゃねぇって!」
ぞっとする話だ。
引退して三十年ほどだろ?鈍っていなかっただろうが、冒険者からは完全に離れていたはずだ。執事の仕事をしながら冒険者に戻れるなんてありえねぇだろ。
「執事で雇ったんだがな…早くに引退させなかったら、もっと早くにSになってたいただろう」
「いや、あのな…年齢を考えろ?現役のやつらもいるってのに…昇級試験は現役のSランクを倒すことが条件だったはずだ。よく倒せたな」
魔法使いとしてならともかく、あいつの戦い方は前衛や斥候だろ?速さはあっても馬力がない。そんなんで、よく現役のやつを倒せたもんだ。
「カルドからしたら弱いんだろ…ザック相手なら負けるだらろうが」
「俺はもうしがない画材屋だ。それに…画材屋だからまだそこまで老けずにすんでる。リリアンも安心してくれているからな」
寿命をのばす薬のために金を稼ごうとして始めた冒険者稼業も、寿命を削るようになってしまってからは、徐々に仕事を抑えていたが、それでも仕事が楽しくて続けていた。
さすがにもう引退しているし、カルドのように戻るつもりはない。
「Sランクのお前が来てくれて助かった…他のやつらもお前が来たから移り住んでくれたんだしな」
俺が声をかけたっていうが、ティスが声をかけたのも大きな理由だ。
何よりここは孤児院もあるからな…仲間の子供や孫が心配だったやつらも今では街の住人だ。
「村を街にしたから来てくれっていわれて来てみれば、立派な建物があるし、商売が軌道に乗るまで援助をするっていわれたらな…俺の場合は故郷だったからだし」
何もなくて寂れていたが、それが逆に故郷らしくてよかった。
久しぶりに帰ってきたときはあまりの変貌にしばらく頭が追い付かなかったが。
「というか、産まれたばかりの息子のために街を用意するとかお前が恐ろしい」
「そうか?全て揃うなら便利がいいと思ったんだが」
子供のために街を作る人脈を持っているのもあるが、レダート家が出資をしていたからな。
『引退した冒険者や孤児たちを救う資金をレダート家が出した』
当時、ティスから聞いたときは騙されているのかと思ったほどだ。確かにレダート家が二十年近く前から寄付をしだしていたが、どこかで回収されるもんだと思って、冒険者は警戒していた。
ところが何もない。引退した冒険者には、五体満足の者は少ない。そういったやつらに仕事や住む場所を与え、孤児院には大量の寄付をする。
この街だって資金提供を受けていたほどだ。
レダート家でしか扱わないような印刷物や工芸品を置くのもその名残だ。
誰のためか。それはこいつの息子のためだ。
あのちびっこ…美男と人間じゃねぇ美女の間に産まれただけはある。確認したが『魅了』持ちではない。年々ひどくなっているが…まだ人間の範疇にいる。
愛らしいというか、無邪気というか…顔をのぞけば、普通の子供だ。
少し独り言が多いとは思っていた。ただ、独り言にしては会話が成立していたような言動だった。
それもそのはずだ。会話をしていたんだから。
「お前のとこの息子が描いた絵の見物人が増えてきた」
「少し有名になったからな」
俺の意図するところを、わかっていて、話をそらしたな?
「少し?噂になっているんだが?…しかもあのおちびが描いたって俺は聞いてたんだが…今、上の子とサイジャルにいるんだってな?…上の子が生きてるってどういうことだ?俺にも黙ってたな?」
こいつの家が一時期ひどいときがあった。それこそ、急に老けて似合わない『法王』なんていう二つ名がついたころにだ。
あのころは、もうだめだと思っていた。理由だって俺は知っている。
「…お前の最初の子は…あのときにダメだったんだろ?だというのに生きてたって…俺に教えてくれてもよかっただろう?」
隠さなくてはならなかったというなら仕方ないが…俺だって幼馴染の子供ぐらい守ってやりたい。
それがこいつの子供なら尚更だった。
「すまん……あまりいえないんだ……だがな、エフデは間違いなく俺の子供だ。今はまだ不自由だが、必ず人間らしく生きていけるようにする」
「…無理をするなよ?親が無理をすると子供は心配する」
「お前のとこの娘みたいにか?」
子供のこととなると親は馬鹿になるもんだ。
ただな、俺の娘は俺を年寄り扱いのしすぎだ!
「あいつは!…なにが『お父さんが依頼を受けないようにする!』だ!ふざけんな!」
「仕事のしすぎなんだよ、お前は」
呆れられるが、仕事をしていないと落ち着かなかったのだ。
どうせ人より早くに死ぬんだから名前を残したかった。
今は心配で死ねないがな。
「王都のギルドで受付なんざなりやがって!…うちの娘にちょっかいかけてきやがる男がいるって聞いたら、ギルドの男は全員ぶっ殺してやる」
「『鬼食い』のお前がいうとやりそうだな」
恥ずかしい二つ名で呼びやがって…うまいんだからしかたねぇだろ。若返るんだし。
「あ、そうそう。今日来た用件を思い出した。ポルティにはギルドがないだろ?」
「そりゃ…元は村だったんだからな」
古くさい聖堂があるだけのしがない領地だったのはお前が一番知っているはすだ。
大昔はまだ他にも領地があったらしいが、領地経営がめんどくさい。他種族と婚姻するから。
そんな理由で手放していった結果、残ったのは、ポルティとあの大森林だけだ。
素材集めにはいい場所なんだが…いかんせんギルドの支部がないから素材集めに俺が行かねばならない。
「申請して設置することになった」
「は?」
「そこの主座はお前になってるから」
「はぁ!」
主座ってのは、ギルド支部の親玉じゃねぇか!
「Sランク以上だった者が主座になる資格があるんだから当然だろ?」
「ちょっと待て!王都にいる俺の知り合いを呼ぶ!だから俺はやめろ!」
今、街にいて主座にむいてそうなやつはいるが、ランクが足りない。ランクがあっても主座向きじゃないやつばかりだが、王都に残っている知り合いなら大丈夫だ。
ドーナッツ売りがもう少し上ならやつを…パン屋は…いや、あいつは戦闘狂だった。肉屋…あの『解体屋』はだめだ。孤児院の院長は…Sランクだったが、難しいか。あの人は孤児院の護衛だしな。
人材がたくさんいるのに、暇してそうなのが性格に難があるってどういうこった!
「葬儀屋…だめだ…あいつもやばい…家具屋…ランクが…」
「あーめんどくさい。いいからお前がやれよ。承認はとってるから。あ、うちの息子たちには知られるなよ?酒場をギルドにしているが、興味を持たれても困るんだ」
おい、これは俺に拒否権はないのか。
「この野郎…そうだ!おい、ティス!俺には店があるんだぞ!」
「リリアンには許可を得ているから安心しろ」
「…嫁を仲間にするな…くそが」
リリアンめ!ティスにころっと騙されてやがって!
「うちの息子たちの画材採集のために頑張れ」
「それが目的かよ」
仕入れ先に素材を渡す役目が解放されるのはいいが、お前のとこの息子が欲しがるものが普通の値段ではないことを注意しろよ。
筆一本が俺の昼飯一週間分だぞ?
「あ、そうそう。受付には王都の看板娘を連れてくる。明後日には戻るだろうから…しっかり孝行されろ。じゃあ、俺は仕事に戻る」
だから、リリアンのやつ、朝から掃除と買いだしに行ってんのか…てっきり、親父たちの所に行くからだと…俺に黙ってたのは…ティスめ…昔っから思いこんだら周りが見えなくなる癖をなおせ!
「ったく!…家族ができたら弱くなる…んなことねぇな」
足を洗ったっていうのに、変に胸が高まる…楽しい老後の息抜きと思ってやらせてもらうか。
娘が帰ってきたら…まずは肖像画で驚くだろうな。楽しみだ。
ってか、王都から帰ってきているなら護衛がいるよな?一人旅なんて危険なことしていないよな?冒険者を雇うはずだ。ちゃんと女だらけだよな?王都の男はいらないぞ?
…リリアンが帰ったら、久々に散歩に行こうと誘うか。店番は親父たちに任せよう。畑の世話より店番する方が金になるからな。
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