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第五章の裏話
ある商人への取材
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よっしゃ、これでええやろ。
「なんですか、これ?」
これか?これはサイジャルで開発された最新の録音魔道具や。なんやったかな?音を切り抜いたりとかも専門のとこにだせばできたり、音楽をいれたりできるんやて。
「すごいですね…私たち記者でも手に入りますか?」
金貨いるで? 出せるんか?
「…無理ですね…金貨なんて予算」
そら、うちら建国貴族が持ってるもんが一記者でも持てるいうんが間違いやろ。
「さすがですね…レーダト家当主モルティン・レーダト様」
モティさんでええで。うちらはご先祖から商売人やからかたいのは苦手なんや。
「それではモティ様…早速ですがお話を聞かせていただけますか?」
話いうたかて…別にあれぐらいの金を動かしたぐらいで取材が来るっちゅうもんも、わいからしたらへんてこやなって思ってたんやけど。
「いえいえ。かのエフデの新作にして傑作と名高い絵画『弟の友達とのお茶会』を王家と争い、競り勝ちするなぞ…なかなかできませんよ?」
うちの大将は貧乏やからな。うちらみたいに他に商売したら使える金もあるんやろうけど…早々に退場してくれてごっつ安う買えるわ!ちゅうて喜んでたら…リンメギンのドワーフがでばってきよったときは、店一個潰そうか悩んだわ。
あっちは代理人やったからギリギリで手を引いてくれて助かったわ…せやなかったら負けてな。
「…それほどご所望だったので?」
あったり前やないか!あのエフデはんが!手がけてるだけやなく、あの精霊か!いうほど麗しいディアニアはんに似ている弟君まで描いたんやで?
あの値段でも安いぐらいとちゃうか?
「…一地方の年間費なんですが」
そら、ど田舎のやろ?クウリイエンシアの貴族の中でも一番小さい領地を治めているティストールはんのとこに負けるとかかわいそうやなって思うわ。
「エフデの作品があるだけで、観光地になっていますからね」
…一応、いうておくけど、エフデはんはフェスマルク家のご長男さんやから、言葉に気を使いはったら?立場を考えて話をしな?不敬やで?
「申し訳ありません!つい、作家として見ていました!…建国貴族の方でしたね」
作家としてなぁ…まぁ、ええわ。ほんで、どういう話を聞きたいんやった?
「そうですね…お時間が許す限り語っていただきたいです。モティ様の半生…なんてどうでしょう?」
わいの?つまらん話やで?そんなんでええの?ここの店に迷惑かけたりせぇへん?
「貸しきりですから。ささ、どうぞ。聞き取りをさせてもらいながら聞かせていただきます」
…熱心やな。まぁ、ええわ。
わいの家はレーダト家っちゅう建国貴族でも下から二番目の序列の家や。
この序列いうんが昔から決まっててな。それこそ初代の建国貴族からやねん。
知ってるやろうけど、一番は大将…この国の王。その次が宰相はん、その次がティストールはんのいうて決まってるねん。なんの基準なんかはわからんし、序列いうたかて、特別なことはそうそうない話なんやで?
ただ、王が不在なら宰相が、王と宰相が不在なら…ちゅうて代わりができるいう順番らしいわ。
「そこが不思議なんですよね…誰も不服に思わなかったんですか?他の貴族のような争いがないですよね?」
そらないわ。
他の貴族とうちらを一緒にしたらあかんよ?いくら派閥を作ろうにも、建国貴族の当主と王はほぼ同列や。
あくまでうちらの大将は、王やから膝をついてるだけや。それ以外は膝をつく気はおきんわ。
「そうですか…ですがお言葉を返すようで申し訳ありませんが…レダート家は一度野心に溺れたのでは?」
なんや。わいの記事を書きたいちゅうてたんは、そのことかいな?
「ご不快になられたのなら」
かまわんかまわん。あない昔の話。本人らもとぼけてますわ。老人になったら覚えが悪うなったちゅうてますわ。にしても、金勘定はまだまたびっちり間違えんとしはるけど。
そこら辺も聞きたいん?
「…ええ。レダート家は獣人を排斥しようとした中でも過激派…その嫡男であるモティ様が獣人解放になぜなったのか。ことの経緯をぜひ」
過激派な…あまり…ええ話やないんやけど…まぁ、ええわ。
さっきもいうたけど建国貴族いうんはな、王と同列や。その当主と嫡男いうたらいうてしまえばなんでもできる、なんでも、許されるんや。
せやけど、うちらの家の勤めを疎かにできん。
うちは銀行…金貸しとかの金融と商売を手広くやってる。小さいときからや。これは知ってるやろ?
「幼いうちから店を切り盛りさせるレダート家の習慣ですね。たしか、ご子息様の店がありましたね?なかなか流行っているそうじゃないですか」
せや。小さいうちにいろはを叩きこんで、親の店より大きくするいうんがうちの家訓や。
倅の店な…あない小さなもん集めて売れるいうんは盲点やったわ。
「婦女子の方々は細々した細工を作られる趣味をお持ちですからね。材料を仕入れて売るだけで流行るなど…才能ですね」
まぁ、わいの頃より平和やからな。
わいの頃なんて戦争やで?あんな時間潰しに使いそうなもん。なかなか売れませんわ。
「それは『亡国戦争』の?」
その前や。わい、これでもええ歳やねん。当主の中でも上の方やし。
「…失礼しました。お若くみえたもので」
知らないんやったら仕方ないわな。魔力あっても使わへんから、若いだけやし。まだ三十代に見えるやろ?
まぁ、わいのことはええわ。わいらの子供の頃なんて戦争ばーっかりやったから、わいの知り合いはみーんな老けてるからな!
わいは魔法も才能がないから戦争には後方支援しかしてへんしな。
あの頃は建国貴族でもぎょうさん亡くなったもんや。
そこの広場で奴隷市をやってたんやで?野菜を売るように人間を並べてな。他国とこぜり合いして、他の領地でもこぜり合いをして…あほな時代やった。
「奴隷市…そこの元締めが」
恥ずかしながらうちや。
おとんが何を思うたかしやがってな…一応な、飯や衛生面、無茶なことはさせんようにいうて厳しく見張ってたそうや。
それでもぎょうさん亡くなったんやけど。
あの頃は見つけた獣人は奴隷にしてなんぼっちゅう時代やってな。
なんでも獣人や。何にでもなったんやからな。ほんま何にでもや…人間いうんは恐ろしい。
レダート家は建国貴族いうても商売人の面が強いやろ?
あの頃の教育方針で若い頃に商品の扱い方と一緒に酒、女、賭け…人の使い方を教わったんや。
獣人はな…人やない。商品や。そう教育もされた。
今の大将が産まれたころにはそんなんはすっかり無くなってたんやけど…わいな、なーんも感じなくなってん。
「何もですか?」
せや。なーんも。
うまい酒や飯、べっぴんのネェちゃん。金。なーんも楽しくなくなっててな。
おとんから後継ぎを作れいわれて、適当な女を回されても子供が全然できんでな。種無しモルティンいうて、裏道界隈じゃ有名でなー。
いやー、そういう商売のねぇちゃんが家に何人もきてな。
『モルティン様のお子が…』
いうからルンルンで『鑑定』したんやけど、全部ハズレ。
「それはレダート家の…『完全鑑定』の力で?」
そうやで。うちの『完全鑑定』やったら、ぜーんぶお見通しやから。
それでな、どないしょうか、いうて。
わいな兄妹ごっつうぅおるんや。今でもみんな仲良くうちの従業員をしてるんやけど…血が薄いっちゅうか…覇気がなくてな…その子供もこれまた覇気がない…こんなんが、商売をしてええんか?いうぐらいや。
何度もザクス家に高い金払って診察してもらっても…あかんのや。異常なし。
うちのおとんたちは、わいが子供のころから、老けてたんやけど、心労がたったんな、さらに老化してきてな、高い薬を飲んでたわ。
ずっといらいらしてて…それもあって弟妹たちは後継ぎにはなりたぁないっちゅうたんやろな…なーんも感じんのがわいだけやし。
心が死んでたんやろうな。
「今では…その失礼ですが…お見受けできませんが」
せやねん!
あんな!運命の出会いをしたんや!
「運命の出会い…ですか?」
あれがあったからわいは…いや、レダート家は不死鳥のごとく甦ったちゅうてもええわ!
「ぜひ、お聞かせください」
あれはな、もう二十年前のことや。
おとんやおかんが倒れて、家がごたごたしてたときに、どうしても当主がいないと話にならんいう商いがあってな…わいが当主を継いで行くことにしたんや。
商談を終えて、さて、帰ろうかちゅうて、船で向かってたら大嵐があってな…あれよあれよというまに、船は沈没。
わいは見知らぬ島に流されてしもうとった。
そこはな…見たこともない花々が咲き乱れ…木にはみたことがない果実がこれでもかっちゅうて実っていてな…砂浜もきらきらしとって、天国にきたんやと思うた。
せやけど、体は冷たいんや。きっと心が死んでるわいは、ここでも死人なんやって思ったらな。
人がきてん。
「人…ですか?」
人や。
あの当時の馬鹿なわいはそう思わんかった…今なら殴り殺すでほんま。
そのお人はな、びくびく震えながら、わいを気づかってくれて…他の人たちを呼んで村まで運んでくれたんや。
驚いたんや。
「驚いた?」
せやねん。そこの村人がな。みーんな獣人やねん。人族はだーれもおらん。
わいはな、恥ずかしいことに死にぞこなって地獄にきたんやと思うた。
だってな。
獣人は人やない。商品の家畜と同じや。
そう教わってきたんやで?なのに、その人やない、商品に助けられたんや。
頭にがつんってきたわ。家畜に助けられるわいは家畜以下やないかって。
「それは…心中お察しします」
…ほんで、わいを見つけた子が世話をしてくれたんや。えらい気にかけてくれてな。
『お体はどうですか?』
『無理はしないでください』
『大丈夫です。私が貴方を助けます』
いうて…看病をずっとしてくれた。
わいはそのお人にな。
『金がいるんか!』
『人みたいにすな!』
いうてずっと罵っててん。
せやけどな、その人はそんなわいの世話をずーっとしてくれたんや。
そしたら…まぁ、惚れるわな。一樹月ほどで、わいを見つけた船が来たときにはすっかり骨抜きでな。
連れて帰ろうとしたんや。でも断られてん。
『だめです。私はここで生きます。貴方は…貴方に相応しい人と生きてください』
いうてフラれてな…ほんま心折れたわ。
帰ってからも、いつまでもあの天国が忘れられんでな…住人たちもみんな明るいし、働き者。病人や子供や年寄にやさしゅうて…他人を蹴落とさない。
楽園やった。
商品に関わるからいうてわいに連絡がきたんや。
『誰の物でもない土地に、商品がいます』
あの人の島やった。
聞いたとき初めて涙が出るほど頭にきてな…あんな、みーんや優しい人やってん…きっと抵抗もせぇへんやろ。
せやからな。わいのものにしてん。
「海賊を一斉に拿捕した話ですね?」
海賊だけやなかったけどな。あんときはそら、わいの持てる金を全部使こうたで。
引退したちゅうてた最強、最高の冒険者を雇ったんや!
「Sランクの冒険者を集団で雇うなんて…できませんよ」
相手からすりゃ、地獄やろ?
わいには金しかない。せやから金を使ったんや。
やってくる裏家業のもんを全員沈めたって、あの人らに指一本触れさせんかってん。
島を買ってあの人に何度も何度も一緒になってくれ頼んだわ。
でもな、あかんかった。
『貴方はきっと罪悪感で私が好きなだけです』
罪滅ぼし…やったんかな…でもな、そこで気づいてん。
あの人にわいは似合ってない。似合う人間になったろうってな…ほんで、手始めにこの国をあの人の住んでる島みたいにしたろう思うて寄付をしまくった。
「冒険者基金と遺児制度…ですね?」
せや。病人や年寄、子供に優しい国になったらええ。わいは金やら調達する。大将が整備する。
知ってるか?冒険者は年取るのが不幸やったんやて。働けなくなる前に死なないと人やなくなる…そないな話があるか!
冒険者には獣人も多いんや…そんな彼らはさらに生きるのはつらいんや。
まぁ、ポルティ村を引退した冒険者やその関係者にして、街にまで大きくさせたティストールはんには勝てませんけど。
「寄付もされたのでしょ?」
そりゃ、ポルティ村の聖堂は風の精霊が降り立つちゅう神聖な場所や!風はどこにでも吹く。吹くは福になるから、商売をしているもんは信仰してるやろ?船も持ってるしな。
あとは…あ、愛情にもご利益あるねん。
そしたらな、あの人のために!いうてやってたんが、だんだんそういう人らのために!ってなってな…あの人に心配させるほどになってたわ。
初めて口説いてから十年や…わいが張り切りすぎるから、私がお世話しますいうて…ようやく結婚してな…ほんま奥さん最高やで。
「ご家族から反対はされなかったんですか?」
そら、おとんやおかんは寝たっきりやったけど、猛反対や。
せやから島流しをしたったわ。
「島流しですか!」
せや。奥さんの実家で療養せぇいうてな。あないけったいな薬を飲まなあかんと思うほど耄碌してはるおとんは死んだら死んだでええわって思うてな。
そしたら二樹月後には元気に店やってたわ。
「…回復されたんですか。寝たっきりとお聞きしましたが」
前はな。老化はそのままやけど、健康には違いないで。
今じゃ孫バカになってもうてるけど、昔よりも元気やな。もうええ歳やねんけどな。
島の人らとも仲良くしてるで?奥さんのおじさんと釣り仲間におとんはなってて、親友やいうてるし。おかんは奥さんの妹と遊びに来るしな。あの人ら管理人の仕事すぐ投げよるんよ。
「避暑地で有名な『レダートの宝島』ですね…行ける人間は限られているとか」
そらそうやろ。獣人たちの島やで?変な病気が流行っても困るからな。徹底してるわ。
うちの奥さんも病気をせぇへんようにしてたしな。変なやつがたまーにうろつくけど、沈めてるし。
「それは…なかなかできませんね」
奥さんのためならできるやろ?
「とても仲がいいですね」
そら今でも一緒に寝てるし。奥さんのことを思うだけわいは少年に戻るねん。
まだ子供を作るしな!
「…そういえば、実子でしたね。お子さんができるんですね」
種無しやったのにな。
大将のとこみたいに愛の力…なんやろうな…うちの子たちはみんな可愛いんや…長男はわいそっくりやし。次男は奥さんそっくり。一番下はわいの姫やで…ほんまに。おおきゅうなっても、みんなわいのとこにおらそう思うてるわ。
「今日もお連れになっているんですよね?」
奥さんが連れているからな!わいら夫婦はずーっと一緒に過ごすって誓ってるからな。
「娘さんは珍しい全獣なんですよね?」
そうやでー。奥さんも顔と手足が獣人やけど、うちの姫は全部がうさぎさんや。
「かわいんでしょうね」
そらなー。あんさんも、フルモッフしたいやろ?
「ええ」
…そうか。
なら、あんさんは敵や。
「え?」
フルモッフちゅうんは、むかーしのクウリイエンシアの言葉で「愛を形づくる」いうねん。
…うちら『獣人解放同盟』はな、愛する人にしか使わんし、いわないんや。
そのことを知らんなんて…あんさん、あほちゃう?
「いえ、その」
隠さへんでええで。わい。人を見る目はあんねん。普通の記者が…人を殺しているとは思わんわ。
「…大人しくしてれば貴方の命だけは助かりますよ?もちろん、奥さんもね。うさぎはもらいますが」
なんや。あんさん刃物いうてもそないなもんしかないんか?
邪教徒の助祭にしては、金がないんやな。
「なぜ、私のことを知っている!」
驚くことはないやろ。『完全鑑定』は全部わかるんやで?
お前の所属なんざ、一目見たときから、わかっとったわ。このボケ。
「なるほど…厄介な…貴方も死んでもらいます。いくら建国貴族でも…一人ではどうにもできないでしょ?汚ならしい獣人と執事を守れますかね?」
それ、脅しか?
汚ならしいとか殺すで?
…まぁ、搾り取ってから肥料にしたるわ。
お前らは昔からうちの金を狙っておとんらに薬を盛ってたやろ?えらい高い金とっていかれたもんやで、ほんま。
「くくくっ…レダート家は我らの銀行ですよ?よい資金源でしたのに…また傀儡に変わってもらわねばなりません」
…使用人を騙して少しずつ薬を含ませるなんざみみっちい…おかげで『完全鑑定』でも読むのは時間がかかることをしくさりやがって…おとんらの寿命を削ったんやから、代金を支払ってもらうで?
「はっ!状況がわかっていませんね!貴方の家畜はもうすでに取り押さえているんですよ!金を払う?それはお前だろ!」
無駄やで。わいな。金ならいくらでもあるんよ。
せやから今回雇ってん。家族を守るためならいくらでも出すわ。
「何を…ぐっ」
…死んでへんか?それ。
「ご安心ください。首の骨を外しただけです。これぐらいでは死にません」
せやったら構わんわ。他も片付いたんですか?
「ええ。高くてもたかがBランク。ほとんどがCランクを四十人集めても、問題はございませんから。ご家族には危険はございません…全て始末しております。ご依頼はこれでよろしかったですか?」
おおきに。あの頭でっかちから情報をもろうて、待ってたらのこのこやってきて…拍子抜けしましたわ。
それにしても…いやー…名高い『影狼』はんを雇えて嬉しいですわ。島を救ってくれてから、完全に引退したいうて聞いてたんやけど、復帰されたんや。
「少々思うところがありまして…たまには体を動かそうかと」
もったいなかったから、ええんちゃいます?
あ、せや。エフデはんには倅が世話になってるんで…これ、他国の図鑑とその図鑑にある鳥の羽ですわ。ケルン君のもありますんで、どうぞ。
「これは…ありがとうございます。若様と坊ちゃまがお喜びになります」
いやいや。エフデはんは、同士ですから。ぜひ会合にも出てもらいたいんやけど…無理そうでっか?
「会合は難しいですね…若様のお体とご相談ですが…ただ…坊ちゃまがモルティン様のご子息のところに遊びに行かれることがあればあるいは…」
ほんまですか!もし来られるんやったら、うちでしっかり歓待できるようにさせてもらいまっせ!そのときは、ティストールはんもぜひ!
「モルティン様には、坊ちゃまのことでお世話になっておりますからね。旦那様もご一緒になると思います」
いやいや。奥さんの実家にたまたま薬草が生えてただけやし。
それに薬はザクス家の領分やないですか。うちは提供しただけですわ。うちの子もかかったんやし。
「いえ。あの薬がなければ国中の子供があの病にかかっていたことでしょう。坊ちゃまの命に関わったことです。我らも恩を感じております」
…の割りには…ええ金額ですな。
「安いですよ?…詳しくは奥方に確認してください。またご依頼があれば受けさせていただきますね。では」
…すごいな。魔法やないのにもう消えてしもうた。あの男も持って帰ってしもうたか…わいがぶっ叩いたろ思うたんやが…まぁ、ええわ。
さーて、うちの子たちを狙ったつけはきっちり払ろうてもらいましょうか…レダート家をゆすろうなんざ、身の程知らずやで。
久しぶりにわいの情報網を全力で使こうて、邪教徒探しをせなならんな。
その前に…英気を養わならんで…奥さーん!膝枕ー!…おん?何を持ってるんや?…ふぁぁぁ!こ、これ!わいや!わ、わいと動物がた、戯れてる!ほ、ほんまか?こんな…わいが…ええんかいな…な、泣いてへん!目からよだれが出るんや!わい、動物に好かれへんから…なんか許された気がする!
この布は?めくってみって?なんで、隠し…こ、これ!ボージィン様が!わいを祝福してはるで!奥さん!だ、代金!え?支払い済み?
「なんですか、これ?」
これか?これはサイジャルで開発された最新の録音魔道具や。なんやったかな?音を切り抜いたりとかも専門のとこにだせばできたり、音楽をいれたりできるんやて。
「すごいですね…私たち記者でも手に入りますか?」
金貨いるで? 出せるんか?
「…無理ですね…金貨なんて予算」
そら、うちら建国貴族が持ってるもんが一記者でも持てるいうんが間違いやろ。
「さすがですね…レーダト家当主モルティン・レーダト様」
モティさんでええで。うちらはご先祖から商売人やからかたいのは苦手なんや。
「それではモティ様…早速ですがお話を聞かせていただけますか?」
話いうたかて…別にあれぐらいの金を動かしたぐらいで取材が来るっちゅうもんも、わいからしたらへんてこやなって思ってたんやけど。
「いえいえ。かのエフデの新作にして傑作と名高い絵画『弟の友達とのお茶会』を王家と争い、競り勝ちするなぞ…なかなかできませんよ?」
うちの大将は貧乏やからな。うちらみたいに他に商売したら使える金もあるんやろうけど…早々に退場してくれてごっつ安う買えるわ!ちゅうて喜んでたら…リンメギンのドワーフがでばってきよったときは、店一個潰そうか悩んだわ。
あっちは代理人やったからギリギリで手を引いてくれて助かったわ…せやなかったら負けてな。
「…それほどご所望だったので?」
あったり前やないか!あのエフデはんが!手がけてるだけやなく、あの精霊か!いうほど麗しいディアニアはんに似ている弟君まで描いたんやで?
あの値段でも安いぐらいとちゃうか?
「…一地方の年間費なんですが」
そら、ど田舎のやろ?クウリイエンシアの貴族の中でも一番小さい領地を治めているティストールはんのとこに負けるとかかわいそうやなって思うわ。
「エフデの作品があるだけで、観光地になっていますからね」
…一応、いうておくけど、エフデはんはフェスマルク家のご長男さんやから、言葉に気を使いはったら?立場を考えて話をしな?不敬やで?
「申し訳ありません!つい、作家として見ていました!…建国貴族の方でしたね」
作家としてなぁ…まぁ、ええわ。ほんで、どういう話を聞きたいんやった?
「そうですね…お時間が許す限り語っていただきたいです。モティ様の半生…なんてどうでしょう?」
わいの?つまらん話やで?そんなんでええの?ここの店に迷惑かけたりせぇへん?
「貸しきりですから。ささ、どうぞ。聞き取りをさせてもらいながら聞かせていただきます」
…熱心やな。まぁ、ええわ。
わいの家はレーダト家っちゅう建国貴族でも下から二番目の序列の家や。
この序列いうんが昔から決まっててな。それこそ初代の建国貴族からやねん。
知ってるやろうけど、一番は大将…この国の王。その次が宰相はん、その次がティストールはんのいうて決まってるねん。なんの基準なんかはわからんし、序列いうたかて、特別なことはそうそうない話なんやで?
ただ、王が不在なら宰相が、王と宰相が不在なら…ちゅうて代わりができるいう順番らしいわ。
「そこが不思議なんですよね…誰も不服に思わなかったんですか?他の貴族のような争いがないですよね?」
そらないわ。
他の貴族とうちらを一緒にしたらあかんよ?いくら派閥を作ろうにも、建国貴族の当主と王はほぼ同列や。
あくまでうちらの大将は、王やから膝をついてるだけや。それ以外は膝をつく気はおきんわ。
「そうですか…ですがお言葉を返すようで申し訳ありませんが…レダート家は一度野心に溺れたのでは?」
なんや。わいの記事を書きたいちゅうてたんは、そのことかいな?
「ご不快になられたのなら」
かまわんかまわん。あない昔の話。本人らもとぼけてますわ。老人になったら覚えが悪うなったちゅうてますわ。にしても、金勘定はまだまたびっちり間違えんとしはるけど。
そこら辺も聞きたいん?
「…ええ。レダート家は獣人を排斥しようとした中でも過激派…その嫡男であるモティ様が獣人解放になぜなったのか。ことの経緯をぜひ」
過激派な…あまり…ええ話やないんやけど…まぁ、ええわ。
さっきもいうたけど建国貴族いうんはな、王と同列や。その当主と嫡男いうたらいうてしまえばなんでもできる、なんでも、許されるんや。
せやけど、うちらの家の勤めを疎かにできん。
うちは銀行…金貸しとかの金融と商売を手広くやってる。小さいときからや。これは知ってるやろ?
「幼いうちから店を切り盛りさせるレダート家の習慣ですね。たしか、ご子息様の店がありましたね?なかなか流行っているそうじゃないですか」
せや。小さいうちにいろはを叩きこんで、親の店より大きくするいうんがうちの家訓や。
倅の店な…あない小さなもん集めて売れるいうんは盲点やったわ。
「婦女子の方々は細々した細工を作られる趣味をお持ちですからね。材料を仕入れて売るだけで流行るなど…才能ですね」
まぁ、わいの頃より平和やからな。
わいの頃なんて戦争やで?あんな時間潰しに使いそうなもん。なかなか売れませんわ。
「それは『亡国戦争』の?」
その前や。わい、これでもええ歳やねん。当主の中でも上の方やし。
「…失礼しました。お若くみえたもので」
知らないんやったら仕方ないわな。魔力あっても使わへんから、若いだけやし。まだ三十代に見えるやろ?
まぁ、わいのことはええわ。わいらの子供の頃なんて戦争ばーっかりやったから、わいの知り合いはみーんな老けてるからな!
わいは魔法も才能がないから戦争には後方支援しかしてへんしな。
あの頃は建国貴族でもぎょうさん亡くなったもんや。
そこの広場で奴隷市をやってたんやで?野菜を売るように人間を並べてな。他国とこぜり合いして、他の領地でもこぜり合いをして…あほな時代やった。
「奴隷市…そこの元締めが」
恥ずかしながらうちや。
おとんが何を思うたかしやがってな…一応な、飯や衛生面、無茶なことはさせんようにいうて厳しく見張ってたそうや。
それでもぎょうさん亡くなったんやけど。
あの頃は見つけた獣人は奴隷にしてなんぼっちゅう時代やってな。
なんでも獣人や。何にでもなったんやからな。ほんま何にでもや…人間いうんは恐ろしい。
レダート家は建国貴族いうても商売人の面が強いやろ?
あの頃の教育方針で若い頃に商品の扱い方と一緒に酒、女、賭け…人の使い方を教わったんや。
獣人はな…人やない。商品や。そう教育もされた。
今の大将が産まれたころにはそんなんはすっかり無くなってたんやけど…わいな、なーんも感じなくなってん。
「何もですか?」
せや。なーんも。
うまい酒や飯、べっぴんのネェちゃん。金。なーんも楽しくなくなっててな。
おとんから後継ぎを作れいわれて、適当な女を回されても子供が全然できんでな。種無しモルティンいうて、裏道界隈じゃ有名でなー。
いやー、そういう商売のねぇちゃんが家に何人もきてな。
『モルティン様のお子が…』
いうからルンルンで『鑑定』したんやけど、全部ハズレ。
「それはレダート家の…『完全鑑定』の力で?」
そうやで。うちの『完全鑑定』やったら、ぜーんぶお見通しやから。
それでな、どないしょうか、いうて。
わいな兄妹ごっつうぅおるんや。今でもみんな仲良くうちの従業員をしてるんやけど…血が薄いっちゅうか…覇気がなくてな…その子供もこれまた覇気がない…こんなんが、商売をしてええんか?いうぐらいや。
何度もザクス家に高い金払って診察してもらっても…あかんのや。異常なし。
うちのおとんたちは、わいが子供のころから、老けてたんやけど、心労がたったんな、さらに老化してきてな、高い薬を飲んでたわ。
ずっといらいらしてて…それもあって弟妹たちは後継ぎにはなりたぁないっちゅうたんやろな…なーんも感じんのがわいだけやし。
心が死んでたんやろうな。
「今では…その失礼ですが…お見受けできませんが」
せやねん!
あんな!運命の出会いをしたんや!
「運命の出会い…ですか?」
あれがあったからわいは…いや、レダート家は不死鳥のごとく甦ったちゅうてもええわ!
「ぜひ、お聞かせください」
あれはな、もう二十年前のことや。
おとんやおかんが倒れて、家がごたごたしてたときに、どうしても当主がいないと話にならんいう商いがあってな…わいが当主を継いで行くことにしたんや。
商談を終えて、さて、帰ろうかちゅうて、船で向かってたら大嵐があってな…あれよあれよというまに、船は沈没。
わいは見知らぬ島に流されてしもうとった。
そこはな…見たこともない花々が咲き乱れ…木にはみたことがない果実がこれでもかっちゅうて実っていてな…砂浜もきらきらしとって、天国にきたんやと思うた。
せやけど、体は冷たいんや。きっと心が死んでるわいは、ここでも死人なんやって思ったらな。
人がきてん。
「人…ですか?」
人や。
あの当時の馬鹿なわいはそう思わんかった…今なら殴り殺すでほんま。
そのお人はな、びくびく震えながら、わいを気づかってくれて…他の人たちを呼んで村まで運んでくれたんや。
驚いたんや。
「驚いた?」
せやねん。そこの村人がな。みーんな獣人やねん。人族はだーれもおらん。
わいはな、恥ずかしいことに死にぞこなって地獄にきたんやと思うた。
だってな。
獣人は人やない。商品の家畜と同じや。
そう教わってきたんやで?なのに、その人やない、商品に助けられたんや。
頭にがつんってきたわ。家畜に助けられるわいは家畜以下やないかって。
「それは…心中お察しします」
…ほんで、わいを見つけた子が世話をしてくれたんや。えらい気にかけてくれてな。
『お体はどうですか?』
『無理はしないでください』
『大丈夫です。私が貴方を助けます』
いうて…看病をずっとしてくれた。
わいはそのお人にな。
『金がいるんか!』
『人みたいにすな!』
いうてずっと罵っててん。
せやけどな、その人はそんなわいの世話をずーっとしてくれたんや。
そしたら…まぁ、惚れるわな。一樹月ほどで、わいを見つけた船が来たときにはすっかり骨抜きでな。
連れて帰ろうとしたんや。でも断られてん。
『だめです。私はここで生きます。貴方は…貴方に相応しい人と生きてください』
いうてフラれてな…ほんま心折れたわ。
帰ってからも、いつまでもあの天国が忘れられんでな…住人たちもみんな明るいし、働き者。病人や子供や年寄にやさしゅうて…他人を蹴落とさない。
楽園やった。
商品に関わるからいうてわいに連絡がきたんや。
『誰の物でもない土地に、商品がいます』
あの人の島やった。
聞いたとき初めて涙が出るほど頭にきてな…あんな、みーんや優しい人やってん…きっと抵抗もせぇへんやろ。
せやからな。わいのものにしてん。
「海賊を一斉に拿捕した話ですね?」
海賊だけやなかったけどな。あんときはそら、わいの持てる金を全部使こうたで。
引退したちゅうてた最強、最高の冒険者を雇ったんや!
「Sランクの冒険者を集団で雇うなんて…できませんよ」
相手からすりゃ、地獄やろ?
わいには金しかない。せやから金を使ったんや。
やってくる裏家業のもんを全員沈めたって、あの人らに指一本触れさせんかってん。
島を買ってあの人に何度も何度も一緒になってくれ頼んだわ。
でもな、あかんかった。
『貴方はきっと罪悪感で私が好きなだけです』
罪滅ぼし…やったんかな…でもな、そこで気づいてん。
あの人にわいは似合ってない。似合う人間になったろうってな…ほんで、手始めにこの国をあの人の住んでる島みたいにしたろう思うて寄付をしまくった。
「冒険者基金と遺児制度…ですね?」
せや。病人や年寄、子供に優しい国になったらええ。わいは金やら調達する。大将が整備する。
知ってるか?冒険者は年取るのが不幸やったんやて。働けなくなる前に死なないと人やなくなる…そないな話があるか!
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そら、おとんやおかんは寝たっきりやったけど、猛反対や。
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「島流しですか!」
せや。奥さんの実家で療養せぇいうてな。あないけったいな薬を飲まなあかんと思うほど耄碌してはるおとんは死んだら死んだでええわって思うてな。
そしたら二樹月後には元気に店やってたわ。
「…回復されたんですか。寝たっきりとお聞きしましたが」
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今じゃ孫バカになってもうてるけど、昔よりも元気やな。もうええ歳やねんけどな。
島の人らとも仲良くしてるで?奥さんのおじさんと釣り仲間におとんはなってて、親友やいうてるし。おかんは奥さんの妹と遊びに来るしな。あの人ら管理人の仕事すぐ投げよるんよ。
「避暑地で有名な『レダートの宝島』ですね…行ける人間は限られているとか」
そらそうやろ。獣人たちの島やで?変な病気が流行っても困るからな。徹底してるわ。
うちの奥さんも病気をせぇへんようにしてたしな。変なやつがたまーにうろつくけど、沈めてるし。
「それは…なかなかできませんね」
奥さんのためならできるやろ?
「とても仲がいいですね」
そら今でも一緒に寝てるし。奥さんのことを思うだけわいは少年に戻るねん。
まだ子供を作るしな!
「…そういえば、実子でしたね。お子さんができるんですね」
種無しやったのにな。
大将のとこみたいに愛の力…なんやろうな…うちの子たちはみんな可愛いんや…長男はわいそっくりやし。次男は奥さんそっくり。一番下はわいの姫やで…ほんまに。おおきゅうなっても、みんなわいのとこにおらそう思うてるわ。
「今日もお連れになっているんですよね?」
奥さんが連れているからな!わいら夫婦はずーっと一緒に過ごすって誓ってるからな。
「娘さんは珍しい全獣なんですよね?」
そうやでー。奥さんも顔と手足が獣人やけど、うちの姫は全部がうさぎさんや。
「かわいんでしょうね」
そらなー。あんさんも、フルモッフしたいやろ?
「ええ」
…そうか。
なら、あんさんは敵や。
「え?」
フルモッフちゅうんは、むかーしのクウリイエンシアの言葉で「愛を形づくる」いうねん。
…うちら『獣人解放同盟』はな、愛する人にしか使わんし、いわないんや。
そのことを知らんなんて…あんさん、あほちゃう?
「いえ、その」
隠さへんでええで。わい。人を見る目はあんねん。普通の記者が…人を殺しているとは思わんわ。
「…大人しくしてれば貴方の命だけは助かりますよ?もちろん、奥さんもね。うさぎはもらいますが」
なんや。あんさん刃物いうてもそないなもんしかないんか?
邪教徒の助祭にしては、金がないんやな。
「なぜ、私のことを知っている!」
驚くことはないやろ。『完全鑑定』は全部わかるんやで?
お前の所属なんざ、一目見たときから、わかっとったわ。このボケ。
「なるほど…厄介な…貴方も死んでもらいます。いくら建国貴族でも…一人ではどうにもできないでしょ?汚ならしい獣人と執事を守れますかね?」
それ、脅しか?
汚ならしいとか殺すで?
…まぁ、搾り取ってから肥料にしたるわ。
お前らは昔からうちの金を狙っておとんらに薬を盛ってたやろ?えらい高い金とっていかれたもんやで、ほんま。
「くくくっ…レダート家は我らの銀行ですよ?よい資金源でしたのに…また傀儡に変わってもらわねばなりません」
…使用人を騙して少しずつ薬を含ませるなんざみみっちい…おかげで『完全鑑定』でも読むのは時間がかかることをしくさりやがって…おとんらの寿命を削ったんやから、代金を支払ってもらうで?
「はっ!状況がわかっていませんね!貴方の家畜はもうすでに取り押さえているんですよ!金を払う?それはお前だろ!」
無駄やで。わいな。金ならいくらでもあるんよ。
せやから今回雇ってん。家族を守るためならいくらでも出すわ。
「何を…ぐっ」
…死んでへんか?それ。
「ご安心ください。首の骨を外しただけです。これぐらいでは死にません」
せやったら構わんわ。他も片付いたんですか?
「ええ。高くてもたかがBランク。ほとんどがCランクを四十人集めても、問題はございませんから。ご家族には危険はございません…全て始末しております。ご依頼はこれでよろしかったですか?」
おおきに。あの頭でっかちから情報をもろうて、待ってたらのこのこやってきて…拍子抜けしましたわ。
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「少々思うところがありまして…たまには体を動かそうかと」
もったいなかったから、ええんちゃいます?
あ、せや。エフデはんには倅が世話になってるんで…これ、他国の図鑑とその図鑑にある鳥の羽ですわ。ケルン君のもありますんで、どうぞ。
「これは…ありがとうございます。若様と坊ちゃまがお喜びになります」
いやいや。エフデはんは、同士ですから。ぜひ会合にも出てもらいたいんやけど…無理そうでっか?
「会合は難しいですね…若様のお体とご相談ですが…ただ…坊ちゃまがモルティン様のご子息のところに遊びに行かれることがあればあるいは…」
ほんまですか!もし来られるんやったら、うちでしっかり歓待できるようにさせてもらいまっせ!そのときは、ティストールはんもぜひ!
「モルティン様には、坊ちゃまのことでお世話になっておりますからね。旦那様もご一緒になると思います」
いやいや。奥さんの実家にたまたま薬草が生えてただけやし。
それに薬はザクス家の領分やないですか。うちは提供しただけですわ。うちの子もかかったんやし。
「いえ。あの薬がなければ国中の子供があの病にかかっていたことでしょう。坊ちゃまの命に関わったことです。我らも恩を感じております」
…の割りには…ええ金額ですな。
「安いですよ?…詳しくは奥方に確認してください。またご依頼があれば受けさせていただきますね。では」
…すごいな。魔法やないのにもう消えてしもうた。あの男も持って帰ってしもうたか…わいがぶっ叩いたろ思うたんやが…まぁ、ええわ。
さーて、うちの子たちを狙ったつけはきっちり払ろうてもらいましょうか…レダート家をゆすろうなんざ、身の程知らずやで。
久しぶりにわいの情報網を全力で使こうて、邪教徒探しをせなならんな。
その前に…英気を養わならんで…奥さーん!膝枕ー!…おん?何を持ってるんや?…ふぁぁぁ!こ、これ!わいや!わ、わいと動物がた、戯れてる!ほ、ほんまか?こんな…わいが…ええんかいな…な、泣いてへん!目からよだれが出るんや!わい、動物に好かれへんから…なんか許された気がする!
この布は?めくってみって?なんで、隠し…こ、これ!ボージィン様が!わいを祝福してはるで!奥さん!だ、代金!え?支払い済み?
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