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第五章 影の者たちとケモナー
他国の友達
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その場で正座で待機していたらミルデイに呆れられた。
「エフデ様。何をなさっているんですか?坊ちゃまが真似をされます。早く立ってください」
「あ、はい」
美少女顔が無表情で腰に手をあてて怒った顔でいれば誰だって正座するだろ。
「今回はエフデ様は悪くありませんから」
「あ、はい」
今回はってとこに力をいれていうのもどうかと思うんだが…いや、確かに何度か俺が悪いのはあるけど。
「口惜しいですが…僕はこいつらの処分…連行についていこうと思うので、ここでお別れになります…坊ちゃま!また授業で!」
「うん!あとでね!」
そういって、ナザドは警備員さんのあとを追っていく。あの男たちがどうなるのかは考えないようにしよう。
たぶん、生きて…ぎりぎり生きてるぐらいは…大丈夫だよな?
「それでねー、お兄ちゃんがうちのケルンにってね…えへへ。守ってくれたんだよー」
「よかったですね…私がいたらすぐに処理したんですが…次からは私も同行します」
ケルンがさっきのことを説明しているが、ミルデイの目付きがどんどんやばくなってるんだけど…ケルンの中にいたときはわかんなかったが、ミルデイはもしかしてケルンに惚れてるのか?…人体について詳しく知識を仕入れておくか。
青春っぽいやりとりではなく、ほのぼのと殺伐の組合せで、まだまだ色恋の気配はないけれど、にやにやとしてしまう。表情筋はねぇけど。
食堂を目指して歩いていると、こちらに小走りでむかってくる人影がみえた。
ミルデイが前に出て構えるが誰かわかったら、一歩下がった。
「あ!ヴォルノ君だ!」
ケルンが名前を呼ぶと飛びかかってきた。
「ケルン、エフデ先生おはよう、わふわふ」
そのまま抱き締めてケルンの頬と俺の顔の部分全部を長い舌がペロペロとせわしなくなめている。
「きゃー!くすぐったいっ!おはよ!」
「おはよう。今日もよい毛並みでとてもいいぞ!」
ヨダレでべたべたになるが、ミルデイが黙ってふいてくれた。そしてミルデイは遠慮しているのか、さらに一歩ヴォルノ君から離れた。
この挨拶もなれたもんだ。最初は食われるかと思ったけれど。
彼は獣人であり、ケルンが学園でできたクウリィエンシアではない国の初めての友達だ。
ヴォルノ君は甲斐犬の顔をしている。獣頭の少年だ。身長はケルンより少しだけ大きいが、歳はケルンの一つ上で、クウリィエンシアのずっと南の島国からサイジャルへと入学してきた。
ヴォルノ君の国では獣頭の獣人は珍しくないらしい。基本的に犬系獣人が多い島国だ。だからこういう変わった挨拶が主流らしい。
初めて出会ったのは、入学式で迷子になったときだ。古い地図を渡されて同じく迷子になっていた子たちの一人だった。
おろおろと一人で困っている彼に声をかけて、他にも古い地図で迷子になっていた子たちと合流してなんとか教室にたどり着けたのは今では楽しい思い出になっている。
迷子組も合流したときは壁があったが、ケルンが間にはいって話すようになって、獣人や他国の子ばかりの迷子組は不思議な団結力が生まれてみんな仲良くなった。今は俺も参加させてもらっている。みんな一芸に秀でていて素直でかわいく、ケルンと仲良くしてくれている。
獣人差別が少なくなったというクウリィエンシアや様々な種族がいるサイジャルでさえも獣頭はあまり好かれないらしいが、俺たちはランディで慣れているから気にしたことはない。それがヴォルノ君にとってとても嬉しかったらしく、こうして挨拶でも最上級なのを毎回してくれているのだ。
それに、ヴォルノ君が人懐っこい子だから話しやすいってのもあってすぐに仲良くなれたってのもある。
この一件が決め手になって、元々どうにかしたいと思ってたのもあったから獣頭の獣人の地位向上を目指すために、彼をモデルに絵を描いた。
オークションに出したらその日で一番の高値がついたのと、今ではヴォルノ君にもファンができたそうだ。
題名『弟の友達とのお茶会』
ケルンと楽しそうにお茶を飲んでいて、猫舌で舌をだしてあちって顔をしたヴォルノ君と笑っているケルンの二人を描いた。
あまりケルンのことを出すのはいけないかと父様や母様に連絡したら許可が出た。
「どんどん、描いていいわよ。どのみち夜会に出なきゃいけなくなってしまったから」
「題名は…お茶会?味気ないな…『弟の友達とのお茶会』にしなさい。ケルンも喜ぶ」
「それがいいわ。弟ってことを宣伝しておけば、夜会も楽になるだろうから…そうしなさい。わかった?」
と父様と母様にいわれたから遠慮なく描いた。
あの二人、わりと二週間に一回ぐらい来ているけど…母様はいいけど、父様は仕事をどうしたんだろうか。まぁ、父様だし上手くやってんだろ。
二人が来たら四人で買い物とかをしている。ケルンは両親と買い物なんて初めてだったから、嬉しそうにしていた。
ときどき二人は見知らぬ人や生徒や職員から声をかけられたりしているが、すごい人たちだから当たり前か。
俺とかいきなり拝まれるだけだってのにな。そろそろサイジャルの人は慣れてほしい。
四人での買い物は楽しいからいいけど今度はポルティでもいいな。ケルンもまだ父様や母様とはポルティで買い物を行ったことがないから楽しそうだ。
まぁ、色々あるがフェスマルク家公認ということで描いたわけだ。
そしたら大傑作だとかいわれてオークションの目玉になった。
かなりの競争で大金貨二十枚まで上がったそうだ。大きな屋敷と庭が買える値段を一枚につけるとは思わなかった。
噂じゃどこかの王族まで出てきたとか。
あまりの高値に伝説になったそうで、競り落とした人は競り落とせると叫んだ話まで残っている。
「アカン!新しい扉がこんにちわ!してはる!」
どんな大商人が落としたんだろうな。
とりあえず、マティ君にはありがとうとだけは伝えておいてくれと頼んだ。
絵は王立の美術館でしばらく飾られてから、購入者の自宅へと運ばれるらしい。
画集でも一応販売予定だ。
ヴォルノ君にはモデル料を支払うと話してご実家に父様が挨拶にまでいった。
街をあげて歓待を受けたとか、ヴォルノ君のご両親から、モデル料で留学費が賄えたから、余剰分を他の留学したい子たちの費用に回したいという申し出でがあったりと、ヴォルノ君の住んでいる街はいい人ばかりみたいで、ほっとした。
下手に金銭が絡むと人は変わるからな。
留学が許可されるのは、優秀である証拠だ。
ヴォルノ君はヴァイオリンの名手で、ケルンの一つ上なのに、卒業後の進路に、自分の国の王立音楽団に入団するのが決まっているほどだ。しかも、他の国からも誘いがあるほどだという。
何度も聴かせてもらっているが…音楽ってすごいものだ。聴いているだけで情景が浮かぶんだからな。ケルンには音楽の才能はないから、音楽の才能がある子の演奏を聴けるのは情操教育に最適だろう。
何より、ヴォルノ君が懐いてくれるのが最高にいい。
今もケルンと二人でお腹をもふもふさせてもらっている。俺は左手はケルンの腰にしがみついてだから、右手一本だが、ケルンは両手でやっている。上半身の一部まで広がっているから、もふもふできる。
ちょっと人前に出せない顔になりつつあるヴォルノ君がはっとした顔になった。
跳び跳ねるようにして俺たちから離れた。
「危ない…ケルンとエフデ先生はなで方うまいから…おしっこもらすとこだった」
「あ、ごめん」
「調子にのり過ぎたな」
森で鍛えているからな。
最初にテンション高く我慢できず、もふもふしすぎて、嬉ションさせて泣かせたのは申し訳なく思った。
立ったままだから全力ではないから、まだ大丈夫だったようだ。
「いいけど、女の子にしたらだめだよ?あ、チールーを知らない?」
「チールーちゃん?見てないよ」
「またどこかで寝ているんじゃないか?」
チールーちゃんもあの入学式の迷子のときに知り合った女の子だ。ネズミの尻尾を持っている好奇心いっぱいの女の子で、噂話とかも集めていたりして、よく体力切れをおこしてその辺で寝ているほどだ。
この前は噴水の前で力尽きていた。
「だといいんだけど」
ヴォルノ君は少ししょげたように耳をぺたんとする。
「どうしたの?」
「元気ないぞ?」
何か嫌なことでもあったのか?誰かにいじめられたとかなら、相談にのるけど。
「それがね…匂いが全然しなくて…こんなこと始めてでさ…おいら鼻には自信あったんだけど、自信なくちゃうよ。チールーのことだし、変な薬とか調合したかもだけどね」
いじめの相談ではなくてほっとした。
「チールーちゃんならありえそうだな」
「この前も色が変わるお薬を作ってたもんね」
チールーちゃんは、調合師を目指していて香水とかの研究をしたくて学園にきたといっていた。ご両親は薬屋をしているが、チールーちゃんはおしゃれな香水を作りたいらしい。
噂話や流行り物に好奇心が行くのも香水を作るためって本人はいってたけど…ただの趣味だろう。
「困ったなぁ…貸してた本がないと課題ができないんだけど」
「ああ…それは困るな」
課題が出せないと単位がもらえないからな。留学するときに高い成績を修める約束になっているとかいってたもんな。
「まぁ、今日中に捕まえるけどね。あ、今日も聴きに来る?」
「行くー!」
「お邪魔させてもらうよ」
ヴォルノ君は音楽系の授業をとっている。他には、歴史の講義をとっていたりしているそうで、ケルンが息抜きで図書館に行ったときには、そこで勉強をしていて再会した。
毎日のように音楽の試験で出された課題を練習している。
その練習を聴かせてもらっている。練習というか、ソロコンサートだ。お代はハンクの作ったお菓子で払っている。
「じゃ、いつものとこで練習してるから、また後で!」
「うん!チールーちゃんを早く見つけてあげてね」
「頑張れよー」
たたっと走っていく様子は狩猟犬のようでかっこよかった。この場合チールーちゃんが狩られるがわになるわけか。
これで何回目の捜索になるか…ケルンも参加したことがあるが、ヴォルノ君ならすぐに見つけれるだろ。
今日の朝食はサンドイッチだ。チーズや薫製肉や干した魚をあぶって挟んでいる。魚用のパンは米粉にゴマをいれてわざわざ、焼いたのかおいしくいただいた。抹茶塩がほどよく苦味があって、俺好み…ってか、ケルンは食べなかったから俺用か。
ハルハレでいれて持ってきたカフェも俺の分しかないし…なかなかやるな。
朝食を終えて食後の一杯を食休めに飲んでいると、ケルンがみんなに尋ねた。
「匂いがしなくなるってあるのかな?」
どうも何か気になったようだ。
「獣人には嗅覚が鋭い者がいるらしい…その者たちがわからないとなると『転移』か?」
「その方はどのような方なんです?」
「僕たちと同じ新入生」
ミケ君とメリアちゃんにケルンが答える。
「…では、確実に『転移』はないな」
「それだけの才能があれば噂になっているはずですものね」
わりと父様たちは簡単に使っているけど『転移』は難しいからな。新入生が使えたら話題に一度はなるだろうからな。
眉間にしわをよせてぼそっとアシュ君が呟いた。
「もしかしたら、神隠しかもしれない。確証はないが」
「なんやアシュ。お得意の情報収集が上手くいってなさそうやな」
「お前の家には負ける」
「そりゃ、うちは商売人やで?情報は大事な生命線やからな」
二人のやりとりはいつもこんな感じだ。
仲がいいからぽんぽんと話をしている。
「それで、神隠しと思う理由はなんだ?」
ミケ君の問いにアシュ君は眉間にしわを寄せたままだ。
「サイジャルでは人が消える…これは聞いたことがあると思います」
「しかし、いきなり神隠しと決めるのはどうかとおもうが?」
何かしらの情報を得ているならわかるが、あくまで匂いがたどれなくなるだけで神隠しだと普通は疑わないだろう。
アシュ君は情報を持っているのか?
「エフデさんの懸念していることはわかります。ですが、神隠しには特徴があるんです」
「特徴?」
「その場からいなくなるんです。なんの痕跡もなく。魔法やスキルの追跡を振り払ってなど、まるで神が関わっているようだと噂になってます」
魔法やスキルの追跡をかわすとか、そんなことが可能なのか?思わず誰もが黙ってしまう。
ケルンはわかってないから黙っているようだけどな。
魔法やスキルはモフーナでは誤魔化しようがない力だ。それを凌駕するにはそれに近い力がいる。
その力を使う何かしらがいるってことか。
「実際、毎年、何人か行方不明者が出ているそうです…卒業間際の者ばかりと聞いていたのですが…」
「今回は違うか…」
しんっとした中でケルンが声をだす。
「あ!そうだった。チールーちゃんは、お薬を作るの上手なんだって」
「そうそう。大事な情報だったな。もしかしたら消臭剤かもしれないんだよな。香水を作るのが好きな子だし」
香水を作りすぎて匂いが消滅したとかありそうだしな。ヴォルノ君がチールーちゃんを探すときに目印にしているのは、香水の匂いかもしれないし。
その事を話せばマティ君が納得した顔をする。
「ああ。知ってる子やわ…うちの取引先の一つや。あの子の両親も有名な薬剤師やから、調合系のスキルで薬でも作ったんやろ」
「確かにそれなら、神隠しはないか…俺の勘違いならいいんだけどな」
推理が外れて恥ずかしかったのか、アシュ君がつい一人称が乱暴になる。
「口が悪いの出てるで?」
「…今のはなかったことにしてください」
そのあとみんなでアシュ君を優しくからかったりしたが、何故だか不安な気持ちになった。
「大丈夫だよね?」
「…きっとすぐ見つけているさ」
ケルンも理由もなく不安に感じながら、約束の時間まで過ごした。
練習室でいつもの時間になって待っていてもその日ヴォルノ君は来なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ブックまーくありがとうございます。
三月までに五百人になるのを目指しています。面白いとおもっていただけたらぜひ、ブックマークをお願いします。
「エフデ様。何をなさっているんですか?坊ちゃまが真似をされます。早く立ってください」
「あ、はい」
美少女顔が無表情で腰に手をあてて怒った顔でいれば誰だって正座するだろ。
「今回はエフデ様は悪くありませんから」
「あ、はい」
今回はってとこに力をいれていうのもどうかと思うんだが…いや、確かに何度か俺が悪いのはあるけど。
「口惜しいですが…僕はこいつらの処分…連行についていこうと思うので、ここでお別れになります…坊ちゃま!また授業で!」
「うん!あとでね!」
そういって、ナザドは警備員さんのあとを追っていく。あの男たちがどうなるのかは考えないようにしよう。
たぶん、生きて…ぎりぎり生きてるぐらいは…大丈夫だよな?
「それでねー、お兄ちゃんがうちのケルンにってね…えへへ。守ってくれたんだよー」
「よかったですね…私がいたらすぐに処理したんですが…次からは私も同行します」
ケルンがさっきのことを説明しているが、ミルデイの目付きがどんどんやばくなってるんだけど…ケルンの中にいたときはわかんなかったが、ミルデイはもしかしてケルンに惚れてるのか?…人体について詳しく知識を仕入れておくか。
青春っぽいやりとりではなく、ほのぼのと殺伐の組合せで、まだまだ色恋の気配はないけれど、にやにやとしてしまう。表情筋はねぇけど。
食堂を目指して歩いていると、こちらに小走りでむかってくる人影がみえた。
ミルデイが前に出て構えるが誰かわかったら、一歩下がった。
「あ!ヴォルノ君だ!」
ケルンが名前を呼ぶと飛びかかってきた。
「ケルン、エフデ先生おはよう、わふわふ」
そのまま抱き締めてケルンの頬と俺の顔の部分全部を長い舌がペロペロとせわしなくなめている。
「きゃー!くすぐったいっ!おはよ!」
「おはよう。今日もよい毛並みでとてもいいぞ!」
ヨダレでべたべたになるが、ミルデイが黙ってふいてくれた。そしてミルデイは遠慮しているのか、さらに一歩ヴォルノ君から離れた。
この挨拶もなれたもんだ。最初は食われるかと思ったけれど。
彼は獣人であり、ケルンが学園でできたクウリィエンシアではない国の初めての友達だ。
ヴォルノ君は甲斐犬の顔をしている。獣頭の少年だ。身長はケルンより少しだけ大きいが、歳はケルンの一つ上で、クウリィエンシアのずっと南の島国からサイジャルへと入学してきた。
ヴォルノ君の国では獣頭の獣人は珍しくないらしい。基本的に犬系獣人が多い島国だ。だからこういう変わった挨拶が主流らしい。
初めて出会ったのは、入学式で迷子になったときだ。古い地図を渡されて同じく迷子になっていた子たちの一人だった。
おろおろと一人で困っている彼に声をかけて、他にも古い地図で迷子になっていた子たちと合流してなんとか教室にたどり着けたのは今では楽しい思い出になっている。
迷子組も合流したときは壁があったが、ケルンが間にはいって話すようになって、獣人や他国の子ばかりの迷子組は不思議な団結力が生まれてみんな仲良くなった。今は俺も参加させてもらっている。みんな一芸に秀でていて素直でかわいく、ケルンと仲良くしてくれている。
獣人差別が少なくなったというクウリィエンシアや様々な種族がいるサイジャルでさえも獣頭はあまり好かれないらしいが、俺たちはランディで慣れているから気にしたことはない。それがヴォルノ君にとってとても嬉しかったらしく、こうして挨拶でも最上級なのを毎回してくれているのだ。
それに、ヴォルノ君が人懐っこい子だから話しやすいってのもあってすぐに仲良くなれたってのもある。
この一件が決め手になって、元々どうにかしたいと思ってたのもあったから獣頭の獣人の地位向上を目指すために、彼をモデルに絵を描いた。
オークションに出したらその日で一番の高値がついたのと、今ではヴォルノ君にもファンができたそうだ。
題名『弟の友達とのお茶会』
ケルンと楽しそうにお茶を飲んでいて、猫舌で舌をだしてあちって顔をしたヴォルノ君と笑っているケルンの二人を描いた。
あまりケルンのことを出すのはいけないかと父様や母様に連絡したら許可が出た。
「どんどん、描いていいわよ。どのみち夜会に出なきゃいけなくなってしまったから」
「題名は…お茶会?味気ないな…『弟の友達とのお茶会』にしなさい。ケルンも喜ぶ」
「それがいいわ。弟ってことを宣伝しておけば、夜会も楽になるだろうから…そうしなさい。わかった?」
と父様と母様にいわれたから遠慮なく描いた。
あの二人、わりと二週間に一回ぐらい来ているけど…母様はいいけど、父様は仕事をどうしたんだろうか。まぁ、父様だし上手くやってんだろ。
二人が来たら四人で買い物とかをしている。ケルンは両親と買い物なんて初めてだったから、嬉しそうにしていた。
ときどき二人は見知らぬ人や生徒や職員から声をかけられたりしているが、すごい人たちだから当たり前か。
俺とかいきなり拝まれるだけだってのにな。そろそろサイジャルの人は慣れてほしい。
四人での買い物は楽しいからいいけど今度はポルティでもいいな。ケルンもまだ父様や母様とはポルティで買い物を行ったことがないから楽しそうだ。
まぁ、色々あるがフェスマルク家公認ということで描いたわけだ。
そしたら大傑作だとかいわれてオークションの目玉になった。
かなりの競争で大金貨二十枚まで上がったそうだ。大きな屋敷と庭が買える値段を一枚につけるとは思わなかった。
噂じゃどこかの王族まで出てきたとか。
あまりの高値に伝説になったそうで、競り落とした人は競り落とせると叫んだ話まで残っている。
「アカン!新しい扉がこんにちわ!してはる!」
どんな大商人が落としたんだろうな。
とりあえず、マティ君にはありがとうとだけは伝えておいてくれと頼んだ。
絵は王立の美術館でしばらく飾られてから、購入者の自宅へと運ばれるらしい。
画集でも一応販売予定だ。
ヴォルノ君にはモデル料を支払うと話してご実家に父様が挨拶にまでいった。
街をあげて歓待を受けたとか、ヴォルノ君のご両親から、モデル料で留学費が賄えたから、余剰分を他の留学したい子たちの費用に回したいという申し出でがあったりと、ヴォルノ君の住んでいる街はいい人ばかりみたいで、ほっとした。
下手に金銭が絡むと人は変わるからな。
留学が許可されるのは、優秀である証拠だ。
ヴォルノ君はヴァイオリンの名手で、ケルンの一つ上なのに、卒業後の進路に、自分の国の王立音楽団に入団するのが決まっているほどだ。しかも、他の国からも誘いがあるほどだという。
何度も聴かせてもらっているが…音楽ってすごいものだ。聴いているだけで情景が浮かぶんだからな。ケルンには音楽の才能はないから、音楽の才能がある子の演奏を聴けるのは情操教育に最適だろう。
何より、ヴォルノ君が懐いてくれるのが最高にいい。
今もケルンと二人でお腹をもふもふさせてもらっている。俺は左手はケルンの腰にしがみついてだから、右手一本だが、ケルンは両手でやっている。上半身の一部まで広がっているから、もふもふできる。
ちょっと人前に出せない顔になりつつあるヴォルノ君がはっとした顔になった。
跳び跳ねるようにして俺たちから離れた。
「危ない…ケルンとエフデ先生はなで方うまいから…おしっこもらすとこだった」
「あ、ごめん」
「調子にのり過ぎたな」
森で鍛えているからな。
最初にテンション高く我慢できず、もふもふしすぎて、嬉ションさせて泣かせたのは申し訳なく思った。
立ったままだから全力ではないから、まだ大丈夫だったようだ。
「いいけど、女の子にしたらだめだよ?あ、チールーを知らない?」
「チールーちゃん?見てないよ」
「またどこかで寝ているんじゃないか?」
チールーちゃんもあの入学式の迷子のときに知り合った女の子だ。ネズミの尻尾を持っている好奇心いっぱいの女の子で、噂話とかも集めていたりして、よく体力切れをおこしてその辺で寝ているほどだ。
この前は噴水の前で力尽きていた。
「だといいんだけど」
ヴォルノ君は少ししょげたように耳をぺたんとする。
「どうしたの?」
「元気ないぞ?」
何か嫌なことでもあったのか?誰かにいじめられたとかなら、相談にのるけど。
「それがね…匂いが全然しなくて…こんなこと始めてでさ…おいら鼻には自信あったんだけど、自信なくちゃうよ。チールーのことだし、変な薬とか調合したかもだけどね」
いじめの相談ではなくてほっとした。
「チールーちゃんならありえそうだな」
「この前も色が変わるお薬を作ってたもんね」
チールーちゃんは、調合師を目指していて香水とかの研究をしたくて学園にきたといっていた。ご両親は薬屋をしているが、チールーちゃんはおしゃれな香水を作りたいらしい。
噂話や流行り物に好奇心が行くのも香水を作るためって本人はいってたけど…ただの趣味だろう。
「困ったなぁ…貸してた本がないと課題ができないんだけど」
「ああ…それは困るな」
課題が出せないと単位がもらえないからな。留学するときに高い成績を修める約束になっているとかいってたもんな。
「まぁ、今日中に捕まえるけどね。あ、今日も聴きに来る?」
「行くー!」
「お邪魔させてもらうよ」
ヴォルノ君は音楽系の授業をとっている。他には、歴史の講義をとっていたりしているそうで、ケルンが息抜きで図書館に行ったときには、そこで勉強をしていて再会した。
毎日のように音楽の試験で出された課題を練習している。
その練習を聴かせてもらっている。練習というか、ソロコンサートだ。お代はハンクの作ったお菓子で払っている。
「じゃ、いつものとこで練習してるから、また後で!」
「うん!チールーちゃんを早く見つけてあげてね」
「頑張れよー」
たたっと走っていく様子は狩猟犬のようでかっこよかった。この場合チールーちゃんが狩られるがわになるわけか。
これで何回目の捜索になるか…ケルンも参加したことがあるが、ヴォルノ君ならすぐに見つけれるだろ。
今日の朝食はサンドイッチだ。チーズや薫製肉や干した魚をあぶって挟んでいる。魚用のパンは米粉にゴマをいれてわざわざ、焼いたのかおいしくいただいた。抹茶塩がほどよく苦味があって、俺好み…ってか、ケルンは食べなかったから俺用か。
ハルハレでいれて持ってきたカフェも俺の分しかないし…なかなかやるな。
朝食を終えて食後の一杯を食休めに飲んでいると、ケルンがみんなに尋ねた。
「匂いがしなくなるってあるのかな?」
どうも何か気になったようだ。
「獣人には嗅覚が鋭い者がいるらしい…その者たちがわからないとなると『転移』か?」
「その方はどのような方なんです?」
「僕たちと同じ新入生」
ミケ君とメリアちゃんにケルンが答える。
「…では、確実に『転移』はないな」
「それだけの才能があれば噂になっているはずですものね」
わりと父様たちは簡単に使っているけど『転移』は難しいからな。新入生が使えたら話題に一度はなるだろうからな。
眉間にしわをよせてぼそっとアシュ君が呟いた。
「もしかしたら、神隠しかもしれない。確証はないが」
「なんやアシュ。お得意の情報収集が上手くいってなさそうやな」
「お前の家には負ける」
「そりゃ、うちは商売人やで?情報は大事な生命線やからな」
二人のやりとりはいつもこんな感じだ。
仲がいいからぽんぽんと話をしている。
「それで、神隠しと思う理由はなんだ?」
ミケ君の問いにアシュ君は眉間にしわを寄せたままだ。
「サイジャルでは人が消える…これは聞いたことがあると思います」
「しかし、いきなり神隠しと決めるのはどうかとおもうが?」
何かしらの情報を得ているならわかるが、あくまで匂いがたどれなくなるだけで神隠しだと普通は疑わないだろう。
アシュ君は情報を持っているのか?
「エフデさんの懸念していることはわかります。ですが、神隠しには特徴があるんです」
「特徴?」
「その場からいなくなるんです。なんの痕跡もなく。魔法やスキルの追跡を振り払ってなど、まるで神が関わっているようだと噂になってます」
魔法やスキルの追跡をかわすとか、そんなことが可能なのか?思わず誰もが黙ってしまう。
ケルンはわかってないから黙っているようだけどな。
魔法やスキルはモフーナでは誤魔化しようがない力だ。それを凌駕するにはそれに近い力がいる。
その力を使う何かしらがいるってことか。
「実際、毎年、何人か行方不明者が出ているそうです…卒業間際の者ばかりと聞いていたのですが…」
「今回は違うか…」
しんっとした中でケルンが声をだす。
「あ!そうだった。チールーちゃんは、お薬を作るの上手なんだって」
「そうそう。大事な情報だったな。もしかしたら消臭剤かもしれないんだよな。香水を作るのが好きな子だし」
香水を作りすぎて匂いが消滅したとかありそうだしな。ヴォルノ君がチールーちゃんを探すときに目印にしているのは、香水の匂いかもしれないし。
その事を話せばマティ君が納得した顔をする。
「ああ。知ってる子やわ…うちの取引先の一つや。あの子の両親も有名な薬剤師やから、調合系のスキルで薬でも作ったんやろ」
「確かにそれなら、神隠しはないか…俺の勘違いならいいんだけどな」
推理が外れて恥ずかしかったのか、アシュ君がつい一人称が乱暴になる。
「口が悪いの出てるで?」
「…今のはなかったことにしてください」
そのあとみんなでアシュ君を優しくからかったりしたが、何故だか不安な気持ちになった。
「大丈夫だよね?」
「…きっとすぐ見つけているさ」
ケルンも理由もなく不安に感じながら、約束の時間まで過ごした。
練習室でいつもの時間になって待っていてもその日ヴォルノ君は来なかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ブックまーくありがとうございます。
三月までに五百人になるのを目指しています。面白いとおもっていただけたらぜひ、ブックマークをお願いします。
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