上 下
148 / 229
第五章 影の者たちとケモナー

検証

しおりを挟む
 授業は混乱もあったが、早々に終えられて、学長先生の元へとむかうことになった。
 部屋についてすぐ、俺の姿をみて学長は目をかっぴらいて興奮していたが色々と話をさせてもらった。

 話の内容としては、噂を参考にさせてもらった。

 エフデはろくに体を動かせず、空気の綺麗な場所で静養中で家族ともあまり接していなかったが、最近は少しよくなってきたので、芸術や発明などの活動をしている。
 ここまで自由に動かせるものは初めてなので思念石を貸していただきたい。

 結果は条件付きではあるが無事に借用の許可がおりた。

 こっそりどうにかして屋敷と連絡をとろうとしていたケルンもニコニコになっている。学長先生が渋ったり、二人で話そうとケルンやナザドを退室させようとしたとき、父様に『コール』しようとしたときはかなり焦った。

 サイジャルから屋敷まで『コール』ができるなんてわかってしまえば、ケルンの魔力がかなり多いということが知られてしまう。
 いくら家族でも魔力のことは隠しておきたい。

 けれども、俺の存在を黙っているわけにもいかないので、父様たちへの連絡をナザドに頼むことにした。俺だからわかるが、ケルンならおそらくだめだからだ。
 まず説明ができない。

 とにもかくにも、ケルンの喜びぶりが言葉にしにくいほどだった。
 ミルデイに紹介したときは、ミルデイも驚いていたが、ミルデイ自身が姿を変えているのもあってか、そこまで警戒もせずすぐに受け入れてくれた。挨拶自体は何も問題はなかった。

 問題は食堂で会う知らない人にまで紹介してたのはどうかと思う。

「僕のお兄ちゃんなんだよー!エフデって知ってる?ボージィン様の形になれるんだよ!すごいでしょ!」

 と謎の自慢をしまくっていた。腰を抜かしていたり、拝む人も出たんだが…まぁ…そのおかげで、棒人間が動き回っていることを誰も気にしなくなるほどだった。視線は感じまくったけどな。

 見物人でごった返した食堂から、出るときに料理人のみなさんに謝罪をした。そのうち、お菓子でも持っていこう。
 おそらくミルデイが人波を割るために、何かしたのか…失禁者が続出して食堂がアンモニア臭がたちこめてしまったからな。証拠はないが、ミケ君やアシュ君が身構えたということはなにかのスキルを使ったのだろう。

 ケルンの肩に腰かけて寮に帰れば、あのおじリスさんが山ほどの手紙を抱えていた。
 全部ケルンと俺宛だった。

 ほとんどが依頼やお茶会への誘いだったり…リンメギン王様の分厚い手紙は屋敷に送るように頼んだりもした…父様たちからも一通きていて、明日の午前中にハルハレに行くことが決まっている。

 逃げようかな。なんて考えていたんだが。

「ねー、お兄ちゃん。母様が『逃げたら追うわ』って。誰か逃げるの?お兄ちゃん?…いなくなっちゃうの?」
「に、逃げないぞ!いなくなるわけないだろ!」

 泣く子にはかなわん。
 どうも幼児返りをしているのか、俺に甘えっぱなしなのだ。下手なことをいえば、大泣きしてしまうのはかわいそうだし…いや、ケルンは俺なんだし…んー…ケルンから出ているからか、なんだか変な気持ちがずっとしている。

 考えてもわからないことは、後回しだ。今一番の厄介なのは…フェスマルク家の人たちだ。正直なところ屋敷の人たちは俺からすれば…大事な人たちではあるが、俺はケルンの一部なのだ。知識が自我を持った存在が俺なのだ。だからこそ、顔を合わせたくはなかった。
 気味が悪い存在だ。けされても仕方ないんだが…なんでだろうか…なんでか痛い。

 痛みを誤魔化すように部屋に帰ってすぐに、色々な検証をした。
 時間をかけて色々調べたかったがケルンがあくびをしたので、ミルデイに就寝の挨拶をして寝ることにした。

「お兄ちゃーん!あのね…僕ね…お願いがあるの。絵本読んで?」
「おー。それくらいなら、お安いご用だ。それじゃ…これな。昔々。クウリィエンシアには魔法のパン屋さんがいました…」

 風呂も一緒に入って体を洗ってやったり、熊さんのパジャマを着せてやって一緒の布団に入る。
 というか、ケルンからの要望だった。自分のことだし…まぁ、甘えてくるのもわりと嫌ではないので叶えてやった。
 ちなみに、俺は棒人間の姿なので何も着ていない。

 絵本を読んで寝かしつけつつ、どうしようか悩んでいれば、ケルンは寝て絵本を片付けて考えていたら、俺もいつの間にか寝ていて朝になっていた。

 体を得て一夜開けてわかったことをまとめていくとだ。

 まず、飲食が可能だった。
 自分で食べるってなると感動する。あれはいいもんだ。食堂は人だらけで落ち着いて食べれなかったがな。
 面白いのは、棒人間の丸のところに食べようと思ったものは食べられて、食べたくないものは通りすぎていたのだ。

 食べたものはどこに行くかわからなかったが、ケルンに還元されているわけではない。ケルンもいつもどおりに普通に晩飯を食ってたからな。
 体の維持に使っていると思うが…どうなんだろうな。今後研究しよう。

 他にも軽く検証した中でも重要なことがある。
 魔法のことだ。

 ケルンに触れていると魔法が使えるが俺単体では魔法は使えなかった。
 試しに『オープンカード』を使ってみたが俺だけでは何も出なかった。

 ケルンに触れながらだとちゃんと『オープンカード』が使え、何度か見た板が出が、内容はなんだか普通ではなかった。

 ケルンの場合だと一部以外は平均的だ。目ぼしいところだと。

 ケルン・ディエル・フェスマルク 年齢 六歳
 筋力 二十
 魔力 七千  (精霊により秘匿中 那由多)
 スキル 『身体強化』『造物』『魔法同化』
 称号 ボージィンの同好者 精霊の保護対象 寵愛者

 筋力がついてきたことに、二人して喜んだ。ムキムキにはなれなくても、少しは欲しいからな。
 脱非力を目指したい所存だ。あとの俊敏さとかは見ないことにしている。
 少なくても…平均には近くなった。

 俺の場合はだいぶ違った。

 エフデ・フェスマルク 年齢 自称三十歳
 筋力 不明 そもそも筋がない
 魔力 測定不明 底無し沼の底を探すようなもの
 スキル 『造物』『魔法同化』『地脈誘導』
 称号 真なるケモナー イムルの後継者

 知識ではなく『エフデ・フェスマルク』としての名称を使っていた。騙すのはいいんだが、俺のアイデンティティーが消失の危機になっている。

 とりあえず『オープンカード』を担当している精霊様ってどうやったら文句をいえるんだろうか。教会に行けばいいか?

 元が一つだから同じスキルを持っているのは不思議ではない。
 おかしな点として、ケルンの持っていた『身体強化』が消えて代わりに『地脈誘導』というスキルが出ていた。

 称号は…確かにエフデが『イムルの後継者』といわれていたからわかる。
 でも、棒神様。真なるケモナーって称号はどうかと。
 ケルンの方にも『寵愛者』というのがあったんだが、主語がない称号だったので、どういうことでつけられたかはわからない。

 称号はあると何かしらの効果や恩恵がある。一般的な称号だと『領主』なら領民に対して威圧感を増すとか、かなり地味な効果が多いみたいだが、棒神様や精霊様が絡むと色々な効果が出るみたいだからな…まぁ、称号は全て隠す方向にしよう。

 他の魔法の検証はどこかを借りてやってみようと思う。部屋でするもんでもないしな。一応『ウォッシュアップ』で手をきれいにできたから、おそらく使えるはすだ。

 そして、今まではケルンが寝れば俺も寝ていたし、起きれば起きていた。昨日は同時に寝ていないし、今日は同時に起きていない。
 これも研究対象だな。

 さてと…パニックな思考がようやく整理できた。
 目を覚まして死ぬかと思った。

 今、俺の前にはあり得ねぇくらいの美少年が寝ている。

 黒髪に白い透き通る肌。苺のような赤い唇。何かいい夢を見ているのか、やわらかちほほえみを浮かべている。
 そんな美少年に抱きしめられているなんて普通にびびる。

 いや、ケルンなんだがな。外から見るとこんな顔だったのかと。意識がはっきりすると、誰だぁー!って叫びそうになった。
 百人に聞いたら百人が天使か!っていうレベルだ。
 体がケルンよりも小さくなっているからか、視界が異なるからそう思うのかもしれない。

 確かに母様が異常なほど綺麗な人ではあるんだが、それでも父様に似ているケルンなんだ。
 まさかの、いいとこどりとは思ってなかった。
 目が潰れる…俺、どこで視界を得ているか謎なんだが…これも検証要項に入れておこう。

 ケルンの中にいるときは、ケルンの感情に大きく影響されていたんだが…どんだけ無頓着かよーくわかった。
 そりゃ、誘拐とか心配する。この前まではまだまだ幼児っぽかったと思うが…顔立ちがはっきりしてきたからな…いやいや、きっと大人になればもう少し落ち着いた顔になるだろ。よくいうじゃないか。子供の頃はかわいくても大人になればそうじゃないって。

 あれ?ケルンの目からも、母様は異常なほど綺麗な人に見えているのなら…俺、心臓が止まるんじゃねえかな。
 あ、心臓なんてもんなかったわ。

「んっ…むぅ」
「起きたか。おはよう。早く顔を洗おうぜ」

 うっすらと青い瞳がぼーと俺をみている。寝ぼけてるな。

「おはよー…んー…お兄ちゃん、まだ眠いよ…お兄ちゃん!」
「ど、どうした!」

 ぱちりと目をまばたかせて、意識がはっきりしたのか、飛び起きて俺の借り物の体を持ち上げる。

「夢じゃなかったんだ!」
「夢じゃないんだよなぁ…」

 夢ならどんなによかったか…面倒なことになる未来しか想像がつかないからな。そのためにも今日の話し合いを乗り越えないと。
 そんな風に考えている俺の気持ちはケルンにはどうも伝わっていないみたいだ。どこまで伝わるかの検証も追加だな。

「えへへー…お兄ちゃん、あのね」
「なんだよ?」
「いつもありがとう!大好きだよ」
「くっ…!顔面フラッシュだとっ!」

 ふらっす?といい間違えて聞き返すケルンの顔は本当にキラキラしていた。もしかしてこれは『寵愛者』の効果なんだろうか。
 それも調べないといけないが、まずは俺の視界の場所を探そう。サングラスも必要だな。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...