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第五章 影の者たちとケモナー
気晴らしを求める
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「もう魔法のお勉強ばかりなのはやだー!」
ミルディのいれてくれたお茶を楽しみたいが、その前に机につっぷしている。お茶の匂いをかげばリラックスできるかもしれないが、あまり、効果は得られないだろうな。
そんな風に駄々を珍しくこねているケルンに周りの子供たちはため息を吐きながらも励ましている。
「まだ一週間だぞ?それに、別に魔法以外の講義もあるんだから、そちらをとればいいだろ?」
「ほら、ケルン様。制作関係は授業…体を動かすものが多かったでしょ?昨日は楽しみにしていた絵画の授業があったのではなくて?」
ミケ君とメリアちゃんがそういうとケルンはさらにほほをふくらませた。
「お料理とか、鍛冶とかは魔法のお勉強と一緒の時間だったんだ…それでね、楽しみにしてた絵画のお勉強は今年は中止だって。絵画の先生…去年、引退して修行に出ちゃってた。代わりの先生になりそうな人もみんな修行に行ったらしくて…今年は開講しないって」
そういってしょげたままだ。
初めての攻撃魔法で学園側もケルンの魔力操作に疑問を持ったらしく、ほとんどの時間を魔力操作にまわしている。
魔力操作は少しでも上手くなれば時間も減り、やる気もあがるのだがそうもいかない。
魔力操作が本当に苦手なのだ。俺がある程度調整したり操作をすればなんとか普通よりも多い程度ですむのだが、ケルン一人だけや杖を介すると途端に不安定になってとんでもない威力になってしまう。
フェスマルク家の子供はよく起こしている問題らしくそこまで大事にはなっていないのが救いだ。
ちなみに、杖はちゃんと操作をできるようになるまで授業以外では使ってはいけないことになった。ポケットにしまうときに抗議の動きを出すこともあるが黙殺だ。そもそもケルンは杖が動くことに気づいていない。
悪いことは続くもので、俺たちが楽しみにして、ケルンの息抜きになる授業が全滅していた。
「それは…なんと」
「お歳でのご勇退かしら?それにしては…その…修行とは?」
二人が疑問に思うのも無理はない。初めに聞いたとき、俺たちも不思議に思ったのだ。
サイジャルで教鞭を取るというのは、その道の最高位といってもいいほどの人間だ。サイジャルでなければ、王宮勤めか国外から出るのを禁じるほど卓越した人物ばかりらしい。
ナザドは…確かに優秀ではあるが、特殊だからな。ある面では誰も勝てないところがある。だから、勤めれているんだろうな。
分校があるとはいえ、分校はかなり質が落ちるらしく、そこで教鞭をとっている人間を本校のサイジャルへ移動させるのは難しい。それで、休講状態になっているのだ。
しかも、彫刻やら魔道具やら他にも制作関係はほとんどが休講状態か、隔週開講状態になっている。あまり楽しめそうにないのだ。
罰のような魔力操作の授業ではあるが、苦手を克服できるし、単位がもらえるしで卒業には響かないのは救いではある。が、ケルンのモチベーションは下がっている。
まぁ、その担当がナザドだから俺としてはじわじわ疲れがたまっている。
しかも、理由が納得いかないものばかりではよけいにやるせない。
「なんかね『自分よりも素晴しい画家がクウリィエンシアにはいる!』っていって、飛び出したんだって。今はクウリィエンシアの王都でその素晴らしい画家さんを探してるって」
その言葉にお茶を飲むのをやめて、なんともいえない顔をする。
ケルンが学園に入って一番楽しみにしていたのが絵を描く授業だった。
そこを受け持っていた人っていうのが、かなり繊細なタッチで絵を描いていて、かわいい兎や子犬をよくモデルにしていたのだ。
おそらく貴重なケモナーの同士だったろうに…クウリィエンシアにはさらに絵が上手い人がいるとは知らなかったが、その人でもいいから先生になってくれないだろうか。
制作関係以外の授業とか講義はケルンには不向きすぎるし。剣の授業はできないし…調合の講義は人数がいっぱいで入れなかったし…やることが少ない。
眉間にしわを寄せたマティ君が「もしかしてやけど」というので、自然とそちらに目が向いた。
「…それうちで雇うてる人やないかな…たぶんやけど」
「え!マティ君のとこに行っちゃってるの?」
「ちょっとエルフが入ってる人で、ハトルゥエリアっていわん?通称、木陰の森のハトって」
「うん!そう!その人!」
四分の一ほどエルフが入っている人で、木陰の森という森出身のハトゥエリアという男性だ。会ったことはないが、彼の描いた画集も家にある。
人嫌いな芸術家だと思っていたけど、マティ君の家に雇われていたのか。王都で人探しと聞いていたんだけど、マティ君の家なら便利がいいからか?
「せやろな…ハトさんな、たぶんやけどうちが探し人と繋りあるから襲撃…いや、ほんま襲撃やったんだけど…まぁ、もろもろあってな。今はおとんがうちの弟や妹の肖像画を描かせてる人やねん…あの人、おとんと趣味が一緒やから弟らを変な目で見んから…ある意味変な目なんやけど」
若干冷めた目をしたマティ君の言葉に心底残念に思った。
やっぱり、ケモナーだったか!くっ!
「お兄ちゃんと仲良くなれそうだったのに、残念だったね…そうだ!ハトさんが素晴らしいっていってた人を先生にしてもらおうよ!マティ君は知ってるんでしょ?」
なるほど。ハトさんは残念だったが、マティ君の所にいるならば一度は会えるかもしれない。
それならば、ケルンのためにもその上手い人が来てくれたら大助かりだ。
「知ってるいうか…」
マティ君が目をそらしてほほをかいた。
代わりにアシュ君が答えてくれた。
「君の兄君…エフデ殿のことだろう」
「お兄ちゃんのことだったの?」
は?俺?
「サイジャルが指名して教鞭を頼んでいたという話があるからな…まぁ、フェスマルク家が断っていたが」
そん話は聞いたことがなかったが、そりゃぁ、断れるだろう。
エフデはケルンで、しかもケルンの中にいるんだから。架空の存在を呼べるわけはない。
「…お兄ちゃん…体が元気じゃないもん。空気が綺麗なとこじゃなきゃだめって、母様もいってたし」
ケルンが目を下にむけて、母様が作った設定の話をしだした。あくまで設定だというのに、いやに感情が込められている。
「お兄ちゃんが元気なら先生になってもらうのになー」
無理なことをいうもんじゃねえって。
そもそも俺はケルンが元気なら元気なんだしな。
だというのに、ケルンは叶わない望みを口に出す。
「どこかに病気の人とか、身体が動かない人が元気になるお薬とか魔道具あればいいのにな…」
あったとしても俺には無意味なものだ。そう思っていると、アシュ君が口を開いた。
「そういえば…どこかの国でそんな研究がされていたな…丈夫な体になれるとか…体を作るとか…」
「じょうぶ?」
健康とか、元気な体ってことだ。
そうケルンに教えてやると、椅子を引っくり返す勢いで立ち上がった。ミルディがすぐに直してくれたが、ケルンのやつ、どうしたんだ?
「アシュ君、それって本当!?お兄ちゃんの体が、んーと、じょうぶ?…えっと、元気な体を作ってもらえるのかな?」
食い気味なケルンの態度に驚きつつ、世話焼きなのか、アシュ君は丁寧に答えてくれる。本当に迷惑をかけてばかりだな。
「さあ。あくまで聞いただけのことだ…どこの国だったかもうろ覚えだが…確か体の悪い所を移すだったか…いつだったかの夜会で話を聞いただけなんだ。すまないな」
落ち込んだケルンの顔を見て、申し訳なさそうにしている。
「夜会は噂話が多いですからね」
「よくある話だろ。不老不死は貴族の願望によくあがる話だからな」
権力者が願いそうなことだもんな。そういった噂話はどんな時代でも、どんな国でも語られているだろう。
「そっか…お兄ちゃん…元気にしてあげたいな…一緒に遊びたいもん…」
すっかり元気をなくしてしまい、じんわりと涙目になってしまった。
どうにか盛り上げてやろうかと思案しているとマティ君が手を叩きながら話し出した。
「いやいや、ほんまみなさんに迷惑かけてますな。アシュはむっつりやから噂話を集めるのが趣味なんですわ」
「むっつりとはなんだ!『例え噂話でも情報は集めておけ』が我が家の家訓なんだぞ!お前のとこと同じだからな!」
「うちは『稼げるときに稼げ!』と『うちの大将には金を貸すな!』だけや」
漫才のようなやりとりに空気が軽くなった。ケルンの気分も変わってきている。家訓は確かに気になるからな。
でも大将って誰のことかとミケ君をケルンがみれば、いいにくそうにしてミケ君が教えてくれる。
「あー…初代様は…問題をよく起こしていて…レーダト家の初代にはよく融資してもらっていたからな」
「融資いうか…うちのご先祖さんが法ぎりぎりを攻めるんがお好きやったから、賠償金でちゃらにされたと伝わってますけど」
お金もうけで賠償金ということは…それは法をぎりぎり越えてるのでは?
そんなつっこみをしたいが、ケルンも話の輪に入っていく。
「僕のとこはねー『困った人は助けよう』と『みんな仲良く』と『面倒は最後まで。終わったと思ったら続きがあるから気を抜くな』ってのと『後悔は、行動してからすればいい!』があるよ!」
ご先祖様は人助けが趣味だったのかこんな家訓が伝わっている。あと、イベントは大事にしているな。
「…ケルンのところの初代はわざわざ問題のあるところへ首を突っ込んで行ってたらしいからな…だからこそうちに使えてくれたのかもしれない」
「有名なのは二代目の方ですが…」
「二代目のご先祖様って有名なの?僕、あんまり知らないんだけど」
建国貴族ということを知ってから、建国貴族の本とかも解禁になって詳しい本も読み出したが、歴史の本でケルンには難しくて、あまり読めてない。
初代様はとんでもない魔法使いだったぐらいしかわかってない。あとは父様が教えてくれるご先祖様の話を何人か知っているぐらいかな
二代目のご先祖様はまったく知らない人だ。
「初代のドラルインの皇帝と殴りあって陸を割った話を聞いたことはないのか?」
「魔王と一騎討ちして無傷で勝てたとかの話は?」
ミケ君とメリアちゃんがいってるのは、どこの不良?それともボクサー?将軍?間違ってない?
「王国史でも『その顔貌は絶望を表し、その体は世の苦悩を背負っていて曲がり、なれど人々に代わりその拳により魔を打ち払う』と記されてましたね」
「伝説の魔拳士で舞台もちょこちょこやってはるな。わかりやすくて人気やで。悪い役人とかを成敗して回ってる世直し人って」
どこの世紀末覇者ですか。というか、その話は読んだことあるぞ。龍を殴った人だよな?ご先祖様だったのかよ。
なんで、魔法使ってないんだ。うち、魔法使いの家じゃなかったのか。
話の流れからお互いのご先祖様の逸話が語られだした。
「アシュのところの三代目も有名ではないか」
「いえいえ。お恥ずかしい話です…宰相家に生まれながら、ろくに国へ奉仕もせず…冒険者として名を残しても三代目様は少し乱暴者でしたからすぐ家督を譲られましたからね」
「アシュはその人に似たんやな。こわいわー」
そういったマティ君の頭をがきんという音をたてるほど強く殴っているけど、お互い痛くないのだろうか。
しかし、二代目のご先祖様は魔法じゃなく魔拳士か。
魔拳士は拳に魔力をためて殴る武闘家だ。魔力操作はそこまで必要ではないが体が頑丈でないと魔力が暴発して…四肢が吹き飛ぶそうだ。
「二代目のご先祖様って魔法苦手だったのかな?」
かもしれないな。もしかして、魔力操作がめんどくさくて物理で殴る人だったのかも。
「僕も鍛えた方がいいかな?」
やめとけ。手は大事だぞ?怪我をしないのが一番だ。
「はーい」
それからお互いのご先祖様の話とかで盛り上がった。安心したのはみんなのご先祖様もうちと似たり寄ったりだった。
変り者だらけだったんだな。王族と建国貴族って。
ミルディのいれてくれたお茶を楽しみたいが、その前に机につっぷしている。お茶の匂いをかげばリラックスできるかもしれないが、あまり、効果は得られないだろうな。
そんな風に駄々を珍しくこねているケルンに周りの子供たちはため息を吐きながらも励ましている。
「まだ一週間だぞ?それに、別に魔法以外の講義もあるんだから、そちらをとればいいだろ?」
「ほら、ケルン様。制作関係は授業…体を動かすものが多かったでしょ?昨日は楽しみにしていた絵画の授業があったのではなくて?」
ミケ君とメリアちゃんがそういうとケルンはさらにほほをふくらませた。
「お料理とか、鍛冶とかは魔法のお勉強と一緒の時間だったんだ…それでね、楽しみにしてた絵画のお勉強は今年は中止だって。絵画の先生…去年、引退して修行に出ちゃってた。代わりの先生になりそうな人もみんな修行に行ったらしくて…今年は開講しないって」
そういってしょげたままだ。
初めての攻撃魔法で学園側もケルンの魔力操作に疑問を持ったらしく、ほとんどの時間を魔力操作にまわしている。
魔力操作は少しでも上手くなれば時間も減り、やる気もあがるのだがそうもいかない。
魔力操作が本当に苦手なのだ。俺がある程度調整したり操作をすればなんとか普通よりも多い程度ですむのだが、ケルン一人だけや杖を介すると途端に不安定になってとんでもない威力になってしまう。
フェスマルク家の子供はよく起こしている問題らしくそこまで大事にはなっていないのが救いだ。
ちなみに、杖はちゃんと操作をできるようになるまで授業以外では使ってはいけないことになった。ポケットにしまうときに抗議の動きを出すこともあるが黙殺だ。そもそもケルンは杖が動くことに気づいていない。
悪いことは続くもので、俺たちが楽しみにして、ケルンの息抜きになる授業が全滅していた。
「それは…なんと」
「お歳でのご勇退かしら?それにしては…その…修行とは?」
二人が疑問に思うのも無理はない。初めに聞いたとき、俺たちも不思議に思ったのだ。
サイジャルで教鞭を取るというのは、その道の最高位といってもいいほどの人間だ。サイジャルでなければ、王宮勤めか国外から出るのを禁じるほど卓越した人物ばかりらしい。
ナザドは…確かに優秀ではあるが、特殊だからな。ある面では誰も勝てないところがある。だから、勤めれているんだろうな。
分校があるとはいえ、分校はかなり質が落ちるらしく、そこで教鞭をとっている人間を本校のサイジャルへ移動させるのは難しい。それで、休講状態になっているのだ。
しかも、彫刻やら魔道具やら他にも制作関係はほとんどが休講状態か、隔週開講状態になっている。あまり楽しめそうにないのだ。
罰のような魔力操作の授業ではあるが、苦手を克服できるし、単位がもらえるしで卒業には響かないのは救いではある。が、ケルンのモチベーションは下がっている。
まぁ、その担当がナザドだから俺としてはじわじわ疲れがたまっている。
しかも、理由が納得いかないものばかりではよけいにやるせない。
「なんかね『自分よりも素晴しい画家がクウリィエンシアにはいる!』っていって、飛び出したんだって。今はクウリィエンシアの王都でその素晴らしい画家さんを探してるって」
その言葉にお茶を飲むのをやめて、なんともいえない顔をする。
ケルンが学園に入って一番楽しみにしていたのが絵を描く授業だった。
そこを受け持っていた人っていうのが、かなり繊細なタッチで絵を描いていて、かわいい兎や子犬をよくモデルにしていたのだ。
おそらく貴重なケモナーの同士だったろうに…クウリィエンシアにはさらに絵が上手い人がいるとは知らなかったが、その人でもいいから先生になってくれないだろうか。
制作関係以外の授業とか講義はケルンには不向きすぎるし。剣の授業はできないし…調合の講義は人数がいっぱいで入れなかったし…やることが少ない。
眉間にしわを寄せたマティ君が「もしかしてやけど」というので、自然とそちらに目が向いた。
「…それうちで雇うてる人やないかな…たぶんやけど」
「え!マティ君のとこに行っちゃってるの?」
「ちょっとエルフが入ってる人で、ハトルゥエリアっていわん?通称、木陰の森のハトって」
「うん!そう!その人!」
四分の一ほどエルフが入っている人で、木陰の森という森出身のハトゥエリアという男性だ。会ったことはないが、彼の描いた画集も家にある。
人嫌いな芸術家だと思っていたけど、マティ君の家に雇われていたのか。王都で人探しと聞いていたんだけど、マティ君の家なら便利がいいからか?
「せやろな…ハトさんな、たぶんやけどうちが探し人と繋りあるから襲撃…いや、ほんま襲撃やったんだけど…まぁ、もろもろあってな。今はおとんがうちの弟や妹の肖像画を描かせてる人やねん…あの人、おとんと趣味が一緒やから弟らを変な目で見んから…ある意味変な目なんやけど」
若干冷めた目をしたマティ君の言葉に心底残念に思った。
やっぱり、ケモナーだったか!くっ!
「お兄ちゃんと仲良くなれそうだったのに、残念だったね…そうだ!ハトさんが素晴らしいっていってた人を先生にしてもらおうよ!マティ君は知ってるんでしょ?」
なるほど。ハトさんは残念だったが、マティ君の所にいるならば一度は会えるかもしれない。
それならば、ケルンのためにもその上手い人が来てくれたら大助かりだ。
「知ってるいうか…」
マティ君が目をそらしてほほをかいた。
代わりにアシュ君が答えてくれた。
「君の兄君…エフデ殿のことだろう」
「お兄ちゃんのことだったの?」
は?俺?
「サイジャルが指名して教鞭を頼んでいたという話があるからな…まぁ、フェスマルク家が断っていたが」
そん話は聞いたことがなかったが、そりゃぁ、断れるだろう。
エフデはケルンで、しかもケルンの中にいるんだから。架空の存在を呼べるわけはない。
「…お兄ちゃん…体が元気じゃないもん。空気が綺麗なとこじゃなきゃだめって、母様もいってたし」
ケルンが目を下にむけて、母様が作った設定の話をしだした。あくまで設定だというのに、いやに感情が込められている。
「お兄ちゃんが元気なら先生になってもらうのになー」
無理なことをいうもんじゃねえって。
そもそも俺はケルンが元気なら元気なんだしな。
だというのに、ケルンは叶わない望みを口に出す。
「どこかに病気の人とか、身体が動かない人が元気になるお薬とか魔道具あればいいのにな…」
あったとしても俺には無意味なものだ。そう思っていると、アシュ君が口を開いた。
「そういえば…どこかの国でそんな研究がされていたな…丈夫な体になれるとか…体を作るとか…」
「じょうぶ?」
健康とか、元気な体ってことだ。
そうケルンに教えてやると、椅子を引っくり返す勢いで立ち上がった。ミルディがすぐに直してくれたが、ケルンのやつ、どうしたんだ?
「アシュ君、それって本当!?お兄ちゃんの体が、んーと、じょうぶ?…えっと、元気な体を作ってもらえるのかな?」
食い気味なケルンの態度に驚きつつ、世話焼きなのか、アシュ君は丁寧に答えてくれる。本当に迷惑をかけてばかりだな。
「さあ。あくまで聞いただけのことだ…どこの国だったかもうろ覚えだが…確か体の悪い所を移すだったか…いつだったかの夜会で話を聞いただけなんだ。すまないな」
落ち込んだケルンの顔を見て、申し訳なさそうにしている。
「夜会は噂話が多いですからね」
「よくある話だろ。不老不死は貴族の願望によくあがる話だからな」
権力者が願いそうなことだもんな。そういった噂話はどんな時代でも、どんな国でも語られているだろう。
「そっか…お兄ちゃん…元気にしてあげたいな…一緒に遊びたいもん…」
すっかり元気をなくしてしまい、じんわりと涙目になってしまった。
どうにか盛り上げてやろうかと思案しているとマティ君が手を叩きながら話し出した。
「いやいや、ほんまみなさんに迷惑かけてますな。アシュはむっつりやから噂話を集めるのが趣味なんですわ」
「むっつりとはなんだ!『例え噂話でも情報は集めておけ』が我が家の家訓なんだぞ!お前のとこと同じだからな!」
「うちは『稼げるときに稼げ!』と『うちの大将には金を貸すな!』だけや」
漫才のようなやりとりに空気が軽くなった。ケルンの気分も変わってきている。家訓は確かに気になるからな。
でも大将って誰のことかとミケ君をケルンがみれば、いいにくそうにしてミケ君が教えてくれる。
「あー…初代様は…問題をよく起こしていて…レーダト家の初代にはよく融資してもらっていたからな」
「融資いうか…うちのご先祖さんが法ぎりぎりを攻めるんがお好きやったから、賠償金でちゃらにされたと伝わってますけど」
お金もうけで賠償金ということは…それは法をぎりぎり越えてるのでは?
そんなつっこみをしたいが、ケルンも話の輪に入っていく。
「僕のとこはねー『困った人は助けよう』と『みんな仲良く』と『面倒は最後まで。終わったと思ったら続きがあるから気を抜くな』ってのと『後悔は、行動してからすればいい!』があるよ!」
ご先祖様は人助けが趣味だったのかこんな家訓が伝わっている。あと、イベントは大事にしているな。
「…ケルンのところの初代はわざわざ問題のあるところへ首を突っ込んで行ってたらしいからな…だからこそうちに使えてくれたのかもしれない」
「有名なのは二代目の方ですが…」
「二代目のご先祖様って有名なの?僕、あんまり知らないんだけど」
建国貴族ということを知ってから、建国貴族の本とかも解禁になって詳しい本も読み出したが、歴史の本でケルンには難しくて、あまり読めてない。
初代様はとんでもない魔法使いだったぐらいしかわかってない。あとは父様が教えてくれるご先祖様の話を何人か知っているぐらいかな
二代目のご先祖様はまったく知らない人だ。
「初代のドラルインの皇帝と殴りあって陸を割った話を聞いたことはないのか?」
「魔王と一騎討ちして無傷で勝てたとかの話は?」
ミケ君とメリアちゃんがいってるのは、どこの不良?それともボクサー?将軍?間違ってない?
「王国史でも『その顔貌は絶望を表し、その体は世の苦悩を背負っていて曲がり、なれど人々に代わりその拳により魔を打ち払う』と記されてましたね」
「伝説の魔拳士で舞台もちょこちょこやってはるな。わかりやすくて人気やで。悪い役人とかを成敗して回ってる世直し人って」
どこの世紀末覇者ですか。というか、その話は読んだことあるぞ。龍を殴った人だよな?ご先祖様だったのかよ。
なんで、魔法使ってないんだ。うち、魔法使いの家じゃなかったのか。
話の流れからお互いのご先祖様の逸話が語られだした。
「アシュのところの三代目も有名ではないか」
「いえいえ。お恥ずかしい話です…宰相家に生まれながら、ろくに国へ奉仕もせず…冒険者として名を残しても三代目様は少し乱暴者でしたからすぐ家督を譲られましたからね」
「アシュはその人に似たんやな。こわいわー」
そういったマティ君の頭をがきんという音をたてるほど強く殴っているけど、お互い痛くないのだろうか。
しかし、二代目のご先祖様は魔法じゃなく魔拳士か。
魔拳士は拳に魔力をためて殴る武闘家だ。魔力操作はそこまで必要ではないが体が頑丈でないと魔力が暴発して…四肢が吹き飛ぶそうだ。
「二代目のご先祖様って魔法苦手だったのかな?」
かもしれないな。もしかして、魔力操作がめんどくさくて物理で殴る人だったのかも。
「僕も鍛えた方がいいかな?」
やめとけ。手は大事だぞ?怪我をしないのが一番だ。
「はーい」
それからお互いのご先祖様の話とかで盛り上がった。安心したのはみんなのご先祖様もうちと似たり寄ったりだった。
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