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第四章 学園に行くケモナー

初めての攻撃魔法

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 杖の子にいちゃもんをつけられながらもケルンはもう気にしていない。好奇心が強いから新しいことに目移りするからな。
「お兄ちゃんと一緒だもんね」
 …否定はしない。

 元は同じだからな。

 今もきょろきょろとしている。そのおかげといっていいのか、再度整列し直してわかったことがある。
 聴講生は新入生を値踏みしにきているようなのだ。 

 その理由として、聴講生は新入生が作った杖をみて何事か話している。出来映えとかをみているのだろうか?

 視線をケルンに固定している者も何人かいる。中にはケルンと同じくらい長い杖を携えたあの銀髪の女の子がみていた。新入生かと思ったけど、聴講生だったのか。

「じゃあ、早速実技で杖の出来をみせてもらおうかな。攻撃魔法を撃ってもらいます」

 ナザドがケルンの方に顔をむけてにこりと笑った。その顔をみてサーシャル先生がドン引きしていたが、あまりナザドの笑顔をみたことがないんだろう。

 説明を聞いていると、集まっているこの場所は魔法の訓練場だった。確かに、土をもった土塀や、鎧の上半身が案山子みたいに置いてあったりと運動場にしては変ではあるからな。

 壁にむけていくつも案山子の鎧が並べられている。目標はそれみたいだ。壁のむこうは湖だからもしも壁を越えても問題はないといえば、失笑が起こった。そりゃ、ありえないからな。飛び越えるほどの魔法っていうのは、狙わなきゃ無理だろう。

「攻撃魔法って難しいからやだなぁ」
 失敗しまくってたからな。でも!水の精霊様と契約したからできるはすだぞ!

 屋敷で練習していたが、あの元気な水の精霊様が許可を出してくれたからきっと使えるようになっているはずだ。

「今回は一番簡単で安全性の高い水の攻撃魔法を使ってもらいます」

 説明を聞いていて思うんだが、攻撃魔法で安全ってどうなんだ。
「攻撃なのに安全?変だね?」

 その疑問をメリアちゃんがこそっと耳打ちで教えてくれた。

「土魔法は範囲設定が難しく、風魔法は制御が難しく、どちらも個人差があまりにも出ます。それに火魔法は威力が高すぎますから、失敗した場合は怪我をするかもしれないのです。ですから、初めての場合は水から覚えていくのです」
「そうなんだ」

 メリアちゃんの説明はわかりやすかった。さすが、趣味で魔道書を読んでいるっていってただけはある。
 だとすると水が一番無難になるというこたか。失敗してもぬれるだけだろうからな。

「水の精霊と契約をできた人なら、攻撃魔法の威力もあがっているはずです。もちろん、水の精霊と相性が悪くて契約に失敗して杖作りで協力してもらったという人でも、杖の機能を実感できるでしょう」

 今回は杖の機能を学ぶのが目的であるから、攻撃魔法の威力は二の次ってところだな。
 そういやケルンは初級ではあるけど、属性としてはもう一つ使えるんだけど。

「光魔法は?」

 本とかにも光魔法についての記述があまりなかったから、攻撃魔法とかはないのかもしれないが、メリアちゃんなら知っているかな?

「光魔法は…初級でも使える者はほとんどいませんし、攻撃魔法は…ティストール様がお使いになられたことがありますよ」

 へぇ。光魔法は使える人が少ないのか。ケルンは父様の子だから素質があったんだろうな。とはいえ、初級だから攻撃には使えないだろうけどな。

「父様すごいんだ!」
「そりゃ…法王だからな」

 ミケ君が会話に参加してきたが…いまいちその『法王』っていうのにまだ実感がないんだよな。

「今回は杖の出来をみますので、魔法速度は気にしません。完全詠唱でも、短縮詠唱でも成績には影響をしませんから、しっかり目標に当ててください。きちんと、魔力を流せるかをみますからね。では、まずやってみたい人は挙手をしてください」

 なるほど。魔道具と同じ感じってところだな。
 さて、誰からやってくのかな?お手本にさせてもらおう。

「まずは私からだ!」

 杖の子が自信満々に手をあげた。お手本には厳しいな。あんまり凄そうには見えないからな。

「では、水の攻撃魔法をやってください。詠唱はわかるかな?」
「馬鹿にするな!」

 杖の子がそういうと、目が笑っていない笑顔を浮かべた。
 杖の子は気づいていないようだけど、ナザドの顔をみた他の子やサーシャル先生は若干顔色が悪くなっている。

 一人だけ平和なケルンはどんな風なのかとわくわくしている。まぁ、お手並み拝見といこうか。

 杖の子は白線の引かれた場所に立つと杖を鎧にむけた。

「水の精霊よ!我が呼びかけに答えよ!我が魔力を糧に敵を貫く槍となれ!『ウォーターランス』!」

 指揮者のように軽く振るうとナイフのような水の塊が出現して、鎧に当たる。ガンっと鈍い音をしてぱしゃりと水のナイフが消える。

「どうだ!」

 取り巻きらしい子たちが拍手をして称賛を述べている。そんなに、凄いのか。

「杖の力なのだろうが…クレエル帝国はまだ衰退しないみたいだな」
「わずかではありますが、凹んで…穴も空いていますね。短縮詠唱を使ってあの威力とは」
「アシュは『目』がええから確かやな。つけくわえでいうなら、あの鎧は弱い守りの魔法がかかった品やで…口だけやないっちゅうことか」

 ミケ君たちが分析してくれていることを聞くと凄いことをしたらしい。守りの魔法がかかった品を傷つけるってことは、もしかして杖の子はできる子なのか。
 聴講生たちの視線も杖の子へと向かったからな。

 でも、あんまり凄いと感じなかったんだけどな。なんというかしょぼく見えた。フィオナやナザドの雷みたいな派手さがなかったからだろう。

 肩をいからせるようにして、杖の子はケルンの前に立つ。

「お前もやってみせろ。できるもんならな!」

 そういって、鼻で笑って取り巻きたちの元へとむかう。

「坊ちゃまに対して生意気なんだけど。黒焦げにしていいかな?」

 おっと、やべぇ奴がそろそろきれそうだ。

 ほら、ケルン。どうせやるんだから、今でもいいだろ?さっさとすまそうぜ。
「そうだね。早く終わらしちゃおっか。ねぇ、ナザドー」
 先生をつけろよ。
「あ、ナザド先生!僕が次いいですか?」
「もちろんです!」

 機嫌が一瞬で変わるナザドのスイッチはほんと、どこにあるんだろうな。

「坊ちゃま。詠唱はわかりますか?」
「うん!お兄ちゃんが覚えてるから平気!」

 先生が依怙贔屓はよくないだろ。
 一応、詠唱は完璧に覚えているから問題はないんだ。

『あまねく世界にある水の精霊よ。我が呼び声に応えたまえ。我が呼び声に応えたのならば、我が魔力、我が祈りを糧に世界に力を示したまえ。願わくば水の槍となりて我が敵を貫きて我の願いを叶えたまえ『ウォーターランス』』

 だからな。長い。つっかえずにいえるかというとたぶん、無理だ。

「杖さん。よろしくね」

 ケルンはそんな俺の心配をまったく気にせず、杖に話しかけていた。
 葉っぱが力こぶ作るな。ってか、なんで葉っぱで、こぶができんだよ。

「詠唱って…んー…呪文…難しいよね」
 まぁ、あんな長いのを噛まずにいえないだろうから…試しにいつも通りに、魔法の名前をいえばいいだろ。失敗したらそのときやりなおせばいいし。
「そうだね!じゃあいくよー。精霊様、お願いします!『ウォーターランス』」
 ちゃんとや…れ…え。

 はしょりすぎじゃね?って思ったが、やる気満々なケルンはお構い無しに魔力の操作もそこそこに魔法を発動させた。
 すると杖の先に拳ほどの水の塊が出現した。

「短縮詠唱!」

 聴講生から声が上がった。けれどすぐに否定的な声が満ちていく。

「でも、あれぐらいじゃ失敗だろ。みろよ」
「おっせぇな」

 ケルンの放った攻撃魔法は弱々しく、杖の子のような大きさでもない。なによりも、ふらふらと前に進まずまだ杖の先をただよっている。

「はっ!やはりしょせんはその程度か!やはりカスだな!」

 杖の子が罵倒している。そう思うだろ。
 俺だってそう思いたい。

 何してんだ!ケルン!
「お、お兄ちゃん。失敗しちゃったかも!」
 すぐに逃げるぞ!走れるか?
「う、動けない!なんで!」
 つ、杖が!ケルン!早く手放せ!
「放れないよ!」

 杖に彫りこんだ狼の顔が青白く光ってまるで咆哮するようにみえたと思ったら、狼の口辺りにふよふよと、浮かんでいた水が集まっていく。

 しかしただの水の塊じゃない。あれは魔力の塊なんだ。

「坊ちゃま!我が精霊よ!全てを防げ『プロテクト』」
「風の精霊よ!壁となりて我らを守れ!『ウィンドウォール』!重ねて!世にある精霊たちよ、我が魔力を糧に全てを防げ!『プロテクト』」

 杖の先から水の塊がふよふよと発射されて、周囲が馬鹿にしている中で異変に気づいたナザドがケルンの前に出て庇うように魔法を行使する。
 サーシャル先生は見学している全員を守るようにして魔法を重ねがけした。

 ナザドたちが魔法を使ってすぐに水の塊は豹変した。

 高音を高鳴らせて水の塊は槍のようになっていったのだ。
 完全な槍の姿になると、ひゅっという音を残して弾丸のように飛んでいった。

 そして鎧に当たった。
 そのあとは轟音と土砂と濁流で見えなくなる。

 ナザドがケルンを庇うようにして守っていても轟音は地面づたいに伝わってくる。
 鉄砲水のようなそれが引いて見えたものは変わり果てた訓練場だった。

「な、なんだよ!こんなのありえないだろ!」

 誰かの叫びが聞こえるが激しく同意したい。

 辺りは酷いことになっていた。

 鎧の胸あたりを貫いて、そのまま背面を弾き飛ばすようにして射出した水の塊はそのまま学園の壁をこえるほどの大量の水をうみだした。
 水がおさまって地面をみれば並んでいた鎧は洗い流されている。

 ケルンの魔法が当たった鎧は、土に半分埋もれているがよくみれば、背面が完全に破壊されている。その延長線上にあった壁にも穴が空いているほどだ。
 爆風ともとれる水滴をナザドが放った透明な壁の魔法が受け止めてくれたため、ケルンは無事だ。

 た、助かった。
「こ、こわ、こわかった…ひぐっ…」
 怪我はないな?
「ない…ナザド…ありがと…」

 かなり怖かったのか、ナザドに抱きついて涙をぽろぽろと流している。

「もう!坊ちゃま!力を込めすぎですよ!でも…僕と同じことをするなんて、さすがは僕の主ですけどね!」

 ここまで顔と言葉が一致しない奴も珍しいな。ケルンに抱きつかれてデロッデロな顔をしている。

 あとでどうにかしてエセニアに手紙でも送るか。ケルンに頼られてなんかむかつく。俺は中からしかいえないってのに。
 いや、あれ?別に気にする必要はないはずだ。

 変な感情だが、ケルンから流れてきたのは感謝の気持ちだけだ。俺だってそう思うべきだというのに。変だな。

 そういえば、見学してた人たちは!

「みんな無事ね?こら、ナザド先生!他の生徒も守りなさいよ!」
「そっちはお前がいたからいいだろ。僕はもっと大変だったんだぞ?」

 サーシャル先生の魔法が濁流を防いでくれたようだった。よかった。

「あ、あいつ…どんな魔力量だよ!」

 怯えがだいぶ含まれた声が新入生から聞こえる。

「杖の機能じゃねえのか?」
「杖は効率をよくするだけだろ?ってことはあいつの実力ってことだ」
「…法王の息子が入るって聞いたけど、あいつか?」

 聴講生はあまり気にしていないどころか、なにか思うところがあるのかヒソヒソと話し出している。
 というか、ケルンのことがばれたな。

「とりあえず、列に…すぐに直しますので」

 ナザドにいわれてみんなの元へと戻った。
 そのとき、新入生からの視線は恐怖が混じっていたように思う。

「…ケルンの出自が確実に知られたな」
「遅かれ早かれ…でしたでしょうね」

 ちなみに、ケルンはまだべそをかいて慰められている。ビックリしたからな。二人に頭をなでてもらったり、両脇から抱きしめてもらっているが、まだ泣き止まない。かなり、怖かったようだ。

 杖がしょんぼりとしなっているが、別に杖が悪いとは思ってないぞ。
 そう思えば葉先がまたもぶんぶんと否定をしているが、効率化された魔力というのをわかっていなかった俺の落ち度だ。もっと上手く調整できたはずだからな。

 ケルン意外にも泣いている子たちもいる。誰も怪我をしていないのが救いだが、ミケ君たちまでも危険にさせてしまったんだな。
 俺がしっかりしなかったからだ。

「僕のせいだもん…僕ができなくて」
 ほら、大丈夫だぞ。ケルンは悪くない。俺がもっとしっかり調整しなかったからだからな。ケルンは頑張ったんだ。
「お兄ちゃんは悪くないよ!僕…お兄ちゃんにほめてもらいたくて…」
 そうか…俺が見たいからって頑張ったもんな。

 俺が攻撃魔法をみたいと思っていたから、ケルンも乗り気で頑張ったんだ。ただ、結果として多くの人が怪我をしかけた。
 自分が悪いとケルンは反省してミケ君たちへ頭を下げた。

「みんな…ごめんね…怖かったよね?あのね…僕ね…魔力操作が苦手なんだ…」

 ケルンは魔力の量が多いから調整がかなり難しい。那由多なんて巨大すぎる魔力を操作するなんてまだ産まれてから二桁にすらなっていないケルンには到底不可能なのだ。
 だから俺がある程度押さえた魔力を渡して、ケルンはそこから必要な分を使っている。
 ただ、ケルンも今回は初めての攻撃魔法だったのもあるし、杖の効果を計算にいれていなかったのがよくなかった。張り切りすぎて、多めに魔力を使ってしまったらしい。

「大丈夫だ。怪我はしていない」
「そうですわ。魔力が強いのはすばらしいです。あとは操作を頑張っていきましょう?」

 二人にそういってもらえるとケルンも安心できた。もしも、恐れられてしまったらと思うと、ケルンにはそれも怖かったのだから。

 アシュ君は冷静に辺りを見渡してから、口を開けて目を白黒させて固まっているマティ君の頭にチョップをして再起動させた。

「気にするな…とは少しいいにくいな…確かにこれでは魔法使いとしては問題が多いかもしれない…魔法の結果が殲滅だけではな」
「なんであないにえげつない魔法を使うんや?」

 えげつないとかいうな。またケルンが涙目になってしまったじゃないか。メリアちゃんが頭をなでてくれて、ミケ君が手を握ってくれてるからいいけど。

「あまりいってやるな…魔力操作が苦手だといったろ?…つまりはそういうことだろ」
「そら…魔法使いとして致命的やんか…ケルン君もうちらみたいなもんか…『血のスキル』…あないなもんなんであるんやろか」

 そういって二人揃ってケルンを見る目は、憐れみと悲観の混ざったものにみえた。

 あと、漏らした子は早く着替えた方がいいが、誰か医務室とかにつれていってあげてくれ。
 失禁して気絶しているのはさすがにかわいそうだからな。

 それとだ…杖。魔法のぶつかる先を杖の子に当たるようにしただろ。あの子の前が一番ひどかったぞ。

 そう杖に語りかけてみれば、葉先を丸めて口笛を吹くようにしらばっくれやがった。
 まぁ、気持ちはわかる。ケルンを馬鹿にしたんだからな。でもそこそこにしてほしい。ケルンが怖がられたらかわいそうだ。

 そのあと、すぐに場を整えてさくさくと授業は終わった。聴講生たちはさらに、ケルンをじっと見ていたがケルンは落ち込んでいてそれどころではなかった。

 授業が終わってすぐに学長先生に再度呼び出されて注意を受けた。
 ケルンには特別課題として魔力操作の講義を強制でとるようにいわれてしまった。

「次の授業…何もないといいのですが…フェスマルク家ですから…はぁ…」

 そんな風に学長先生がいうので気にはなったが、何もないと思ったのだ。
 それが学園の最初の一歩であり、今後の俺やケルンにも深く関わるとは思いもしなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遅くなりました。
風邪はなんとか落ち着いたんですが、まだ体がだるいです。
これでこの章は終わりです。明日は出きれば更新します。
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