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第四章 学園に行くケモナー
お化けは無理
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食堂にはケルン一人で向かっていた。
ミルデイは、たぶん、ケルンが向かえば食堂に来るだろうと思ったのもあるし、いざとなったら、『コール』を使えば問題ないと思ったのもある。
というよりもだ。なによりも早く誰かに会いたいと思ったのだ。
さっきまで、元呪木さんで、今は杖になっている霊木さんの作業で、精神的に疲れたというのが大きい。
早く誰かに会いたいな。
「お兄ちゃん疲れてる?なんで?」
おまっ…あれみてなんとも思わなかったのか?
「あれって?」
樹木さん。
「樹木さん?」
立ち止まってこてんと首をかしげる。本当にわかっていないみたいだ。
ケルンの視界に入っているが認識は俺だけがしているのか?あれをみていないとかありえねぇだろうに。
霊水に浸かった樹木が、それはそれは気持ちよさそうに、ふるふると動くし、削ったのに、削りカスがでないで、削った先から消えていく。
ケルンがこうしたいなと呟けば、しなやかに曲がっていくし…杖に彫刻したあとから、妙に熱く…たぶん、気のせいだけど、脈を打ってるような感じがする。
俺もテンションをあげて考えないようにしたんだが、木があんなに簡単に火や圧力をかけずに加工できるものか?
それに、加工をしていても結局、木の種類の検討さえつかなかったのだ。
あとは細かい見直しをしたりだが…父様にでも一度みてもらうか。
「鈴をつけようね!」
あー。いいんじゃねえか?小さな鐘でもいいけど。
「鐘?…んー…」
杖の飾り付けはあってもなくてもいいらしいが、していいならしてしまうのが俺たちだ。
細かい装飾とかゆっくり考えようと思う。
鈴や鐘といったものをつけようと思った理由は、ケルンの倍もある杖だからだ。音を出さないともし人前に出すときに当たるかもしれない。
さて、ああだこうだと話し合いながら食堂を目指しているわけだが…なんだか視線を感じる。
それが強くなったのは寮を出て、すぐのことだった。
ケルン、辺りを見回してくれ。
「え?誰かいるの?」
誰かに見られている…と、思う。
しかし辺りを見回しても、誰もいない。
また視線だ。さっきまでとは違って、嫌な感じはないが、それにしても…そういえば、エセニアがこんなことをいってたな。
「坊っちゃま。もしも、好意的な視線だと思っても、気を許してはいけませんよ?その何かは…お化けかもしれません…エフデ様も気をつけてくださいよ?」
お化け。
つまり、幽霊。
そしてお化け退治をしてくれるエセニアはいない。
「も、もしかして…お、お化け!やだ!お化けこわい!」
お、おば、お化けな、わけ!ない!だろ!あ、あくまで、エセニアがい、いっていたことだ。そうだ。俺の予測と推測が冴え渡る時がき、きたようだぞ!。
何か見ていると思って、辺りを見回しても誰もいない。つまり、何もない!
気のせいだ!
ぽんと、肩を叩かれた。
ああああ!
「ひゃぁぁぁ!お化け!やぁぁぁ!」
「うわ!落ち着け!ケルン!」
「やぁぁぁ!…え?ミケ君?本物?」
思わず、叫んで、その場で跳び跳ねて、腰が抜けてしまい、這いつくばって逃げようとした。
六年ぐらい前までは、ハイハイしてたからな!早さならなかなかだぞ!
と、全力で逃げようとしたら、捕まえられて、よくよく声を聞けばミケ君だった。
トイレに行ってから外に出て良かった。トイレに行っていなかったら、水溜まりが出来ていた。だ、大丈夫。ちびってもいない。魂は一瞬出たけど。
「人を急にお化け扱いとは、まったく…」
ミケ君は、ため息をつきつつ、手を貸してくれた。ミケ君の手を借りて、起き上がり…猫の手をリアルに借りたな、俺。と、ちょっとテンションあがってきた。
「びっくりした!本当に、びっくりした!」
「こっちの方がびっくりしたぞ」
ぎゅっと抱きついたけど、ミケ君は、ケルンの頭をぽんぽんと叩いてくる。
くっ…最初は照れてたのに、最近、慣れてきたみたいだ。
「ど、どうして、急に出てきたの!いなかったよね?」
そ、そうだ!見渡したのにいなかったぞ?なんでだ?
ミケ君は少し悪い顔をして指輪をみせてきた。
「姿変えの指輪の効果の一つを使ってみたんだ…とはいえ、まだ上手く使えないみたいだな…ケルンにまで姿が見えなくなるとは…練習せねばな」
「その指輪そんなこともできるの?」
知らなかったんだけど。
「ああ。姿を変える指輪だからな。周囲にも溶け込める…まぁ、時間制限はあるし、使用者の腕次第だが…本でしか存在しなかった代物だから扱いが難しい」
へー…頼んでおいてなんだが、そんな凄いものだったのか。
だから、王様が秘密にしてくれるといったわけか。
しかし、いたずらをするよぐらい仲良くなれて嬉しいが、心臓に悪い。そのままミケ君と一緒に食堂に行くことになった。
「ミケ君杖はどう?あとメリアちゃんは?」
ミケ君は、どこか自慢気に笑っている。
「私はこう見えても、細工は得意だ。だから、ほら」
そういって、真っ白い指揮棒のような杖を見せてくれた。
「おー!もう出来たんだ!…んー?…塗ってなくても、白いね、これ。何て木?」
「ナナカマドの宿り木だ」
ん?ナナカマドに寄生した木ってことだよな?しかし、削って白い…骨みたいに真っ白いし、重さがほどほどずっしりしてる。
「名前は何ていう木かわかる?」
「さぁ?霊木だからな…」
なるほどな。この世界だけの木という可能性もあるわけか。別な世界の知識だと、骨の木とか、化石の木とかもあるが、見てきた図鑑によると、そんな木はなかったからな。
もしかして、霊木は白くなるのかもな。
「メリアは…もう少しすれば、おそらく出てくるだろう…手伝ってやらないと、まだかかっただろうがな…」
遠い目をしたので、本当にメリアちゃんは、こういった生産系が苦手なんだろうな。
スキルがないと、とことんダメになるからなー。効率も悪くなるし、しかも、スキルの系統って、偏りがあるらしい。
生産系が基本になっているケルンを元に考えるなら、生産系と、非生産系スキルの二つの系統に分けれる。そして、どちらのスキルも同じぐらい覚えている人は器用貧乏タイプだ。
基本的に、生産系なら生産系スキル。非生産系なら、非生産系スキルが、多く発現するそうだ。
もちろん、スキルがないから、剣が持てないとか、料理ができないというわけではないが、とことん、初期値にマイナスがついているような状態になっている。
でも、普通なら何年もやっていたら、そのうちスキルが発現する…かもしれない。
例えば、いくらやってもスキルが増えないケルンの場合。演奏をしたら…コップが割れた。人が倒れたとかでなく、音を奏でることができない。
部屋でピアノの稽古してみるか!と、やってみたら、お茶を持ってきたエセニアも、軽くふらつくし、置いてあったコップは粉砕するし、あれは酷かった。
それから、家族は楽器をしまっていったんだよな。
でも、不思議なことに、笛とかを削って作ることはできた。演奏はできないけどな。
もしかしたら、『造物』と『魔法同化』のスキルには、まだ何か使い方があるのかもしれない。特に『魔法同化』は、調べたけど本に載っていない。
スキルの本というか、辞典がある。そこに、載っていないスキルも世界にはたくさんあるということだが、あえて隠しあるような気がしてならない。
王族のスキルは、まず載っていない。そして、ケルンが持つ二つのスキルも載っていない。
どこかには世界中のスキルを記した本があるらしいが、見ることはできないだろうな。場所もわかんないし。
学園にある図書館に引きこもって調べてもわからなかったら…諦めるしかない。
俺が少し考え込んでいると、ミケ君は、ケルンに尋ねていた。
「それで、ケルンこそ杖はできたのか?」
「うん!一応…」
「一応?」
まだ人に見せれるような姿じゃないからな。装飾もできてないし。
だから、一応なのだ。
「あのね、お兄ちゃんと話をしてね、飾りをしようって思ってて」
「なるほど。流石、エフデ殿とケルンだな。こだわりがあるわけだ」
「僕とお兄ちゃんだもん。頑張っていいの作るよ!ね?」
ああ。頑張る…ぞ。
まだあの樹木さんの衝撃を忘れるのは難しいがな。
ふふと、ミケ君は上機嫌に笑っている。
そういえば、二人っきりなので、気になっていたことを道すがら聞いておこうかな。
遠くに学生の姿がみえるから、小声で尋ねた。
「ねぇねぇ、ミケ君。何で、僕の中にお兄ちゃんがいるって、メリアちゃんに黙ってるの?お兄ちゃんも別にいいよっていってるのに」
メリアちゃんだけ仲間外れはよくないから、教えてもいいと思ったが、ミケ君からメリアちゃんには話さないようにいわれたのだ。
「ああ…あまり人に知られるのは、良くないだろう?」
すぅっと、目が細められた。皇子モードになったのかな?
「エフデ殿のことは、知る者は少ない方がいい。メリアにもだが、私はアシュのことは、あまり信じれないからな」
アシュ君を信じていないという、ミケ君の言葉に驚いた。最初は少し険悪だったけど、すぐに一緒にご飯を食べに行ったり、講義を受けてたりしてるのに、信じていないとはな。
「アシュ…いや、宰相家や他の建国貴族の情報を知っているか?」
「知らないー。父様とか他の貴族の話をしないもん」
父様から貴族の話を聞いたことがない。そもそも、話題にすらならなかったからな。フェスマルク家が建国貴族の一族ときいても、何もいってくれなかった。
「そうか…あのことも知らないか」
「何かあったの?」
ミケ君が、かなり声を潜めるので、顔を寄せると、少し、顔が赤くなった。
あ、この距離はまだ慣れてないのか。覚えておこう。
「神聖クレエルでも同じことが起きているのだが…王族と、その国で古くからある貴族の子供が病になり、死んでいるのだ」
「病気?」
前にミケ君が家で苦しんでいたのが、病気なんだろうか?
「優秀であれば優秀であるほど、病に倒れているからな…流行り病という、貴族同士の争いかも知れない」
流行り病という貴族の争い…つまり、毒とか?
まぁ、確かにあの苦しみ方は異常だったからな。それにしてもあの紫の煙…あれは何だったんだろうか?
ミケ君は、あくまで、私の推測だがと言葉をきった。
「もしもだ。宰相家が新たな王を求めているとしたら、各国との繋がりや後ろ楯を考えれば、手土産がいるだろう?ケルン…いや、エフデ殿は、我が国でも名が知られているが、リンメギン国の王位継承権があることは、私でなくても知っている」
「え!お兄ちゃんそんなの持ってないよ!」
ないない!
王権を、王剣と勘違いしてたけど、ちゃんと断ったぞ!
それに、リンメギン国とフェスマルク家は、まったく関係がない。王家との繋がりも、個人的な手紙のやり取りはしていても、血筋はまったく関係がない。
「リンメギンは、血統での王位継承はしない。あくまで実力主義で、血統でスキルが受け継がれているから、今までは、今の王朝を保ってきたのだ。それに…イムルは、王家の者ではなく、イムルの死後にイムル以前の王家の者が再度、王位継承している」
そういえば、前にヴェルムおじさんがいってたな…実力があれば、国民が従うってことは、国一番の職人が王様になる。そして、スキルは、遺伝しやすいから、必然的に王朝が続く。
イムルが王族ではなかったというのは、初耳だが、ならば、疑問がある。
「イムルは結婚してなかったの?」
王様になったのなら、結婚していると思った。宰相家が婿を取ったように、王家の誰かしらと婚姻を結びさえすれば、王朝が続くうえに、優秀なスキルを得られる可能性もあったのだ。
だが、ミケ君の話では、イムルの子供ではなく、前の王朝がもう一度王位を継いだということだ。結婚をしても、子供がいなかったとも考えられるが、なら、イムルの奥さんである王妃の話が出てこなかったのは、少々気にかかった。
「報告によればそうだな。いかに、リンメギンが大国であれど、他の国の歴史だ。詳しく調べるのには、時間がかかるが…」
ミケ君は、俺の予測が当たっていると肯定しつつ、かなり悪い笑顔を浮かべた。
悪代官?いや、悪皇子?
「仮にだ。サイジャルで、ケルンの中にエフデ殿がいると判明したら、この学園にいるドワーフ達や、リンメギン国の縁者達が何をすると思う?」
「んー…わかんない」
何をするかといわれてもな…リンメギン王様の反応からみるに、観光とかに誘われるとか?
それとも、いや…ありえないや。
悪い予感がしたのだが、その予感が当たったことを、ミケ君の口から聞いてしまう。
「崇拝するか、連れ去るかだ」
す、崇拝?
連れ去るのは予感がしたのだけど…うちの家族が何をするのかわからないから、ないとは思うんだけどな。
スキルの質や量がこの世界においては、重要である。魔法が使えても、魔力がずば抜けて高くないと、スキルに負けてしまう。
棒神様が、スキルが多く使えると孤独になるといっていたのは、スキルがたくさんあればあるほど、人から妬まれ、孤立化をするということだったのだ。
魔力が高くても、魔法が使えるか使えないかで、宝の持ち腐れ…耳が痛い話だが、ケルンが持つ魔力は、那由多だそうだ。
だが、使える魔法は威力がかなり強くても少ない。つまりは、手札がないということだ。
毒耐性とかのスキルがないから、毒殺されるかもしれないし、何より、魔法を使う前に、暗殺されてしまうかもしれない。
だから、スキルはかなり重要なのだけど、何故、イムルが崇拝されてて、俺…いや、エフデが崇拝されるようになるんだ?
「私が調べたら、イムルは崇拝されている。エフデ殿は、その後継者、生まれ変わりと、リンメギンではいわれているのだ…何をするかわからないだろ?」
う、生まれ変わり…残念ながら、イムルの生まれ変わりではないんだけどな。
もしも、イムルの生まれ変わりならば、俺は『造物』スキルの全てを把握している。
確かに、スキルや魔法がある世界にいた知識はある。けれども、それは別の世界においてだ。
だから、スキルから推測はかろうじてできるが、正しいとはいいきれない。
ミケ君の情報から、イムル=エフデと思う者が出てくるということを考えていなかったことに気がついた。まったく関係のない者にスキルが出るのなら、生まれ変わりだとでも考えて自分で納得するだろう。そう思う可能性がないわけではないからな。
そうエフデのせいでケルンに迷惑がかかるのは不本意だ。
「お兄ちゃんを守んなきゃ!」
「いや、ケルンがドワーフに気をつけるんだぞ?」
ケルン…なんでそうなるんだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
感想にいただいたのですが、杖の詳細についてはのちほど物語に詳しくでますのでお待ちいただけたらなと。
あと、もうじき書きたい場所までいけるので更新の速度をあげていきたいと思います
ミルデイは、たぶん、ケルンが向かえば食堂に来るだろうと思ったのもあるし、いざとなったら、『コール』を使えば問題ないと思ったのもある。
というよりもだ。なによりも早く誰かに会いたいと思ったのだ。
さっきまで、元呪木さんで、今は杖になっている霊木さんの作業で、精神的に疲れたというのが大きい。
早く誰かに会いたいな。
「お兄ちゃん疲れてる?なんで?」
おまっ…あれみてなんとも思わなかったのか?
「あれって?」
樹木さん。
「樹木さん?」
立ち止まってこてんと首をかしげる。本当にわかっていないみたいだ。
ケルンの視界に入っているが認識は俺だけがしているのか?あれをみていないとかありえねぇだろうに。
霊水に浸かった樹木が、それはそれは気持ちよさそうに、ふるふると動くし、削ったのに、削りカスがでないで、削った先から消えていく。
ケルンがこうしたいなと呟けば、しなやかに曲がっていくし…杖に彫刻したあとから、妙に熱く…たぶん、気のせいだけど、脈を打ってるような感じがする。
俺もテンションをあげて考えないようにしたんだが、木があんなに簡単に火や圧力をかけずに加工できるものか?
それに、加工をしていても結局、木の種類の検討さえつかなかったのだ。
あとは細かい見直しをしたりだが…父様にでも一度みてもらうか。
「鈴をつけようね!」
あー。いいんじゃねえか?小さな鐘でもいいけど。
「鐘?…んー…」
杖の飾り付けはあってもなくてもいいらしいが、していいならしてしまうのが俺たちだ。
細かい装飾とかゆっくり考えようと思う。
鈴や鐘といったものをつけようと思った理由は、ケルンの倍もある杖だからだ。音を出さないともし人前に出すときに当たるかもしれない。
さて、ああだこうだと話し合いながら食堂を目指しているわけだが…なんだか視線を感じる。
それが強くなったのは寮を出て、すぐのことだった。
ケルン、辺りを見回してくれ。
「え?誰かいるの?」
誰かに見られている…と、思う。
しかし辺りを見回しても、誰もいない。
また視線だ。さっきまでとは違って、嫌な感じはないが、それにしても…そういえば、エセニアがこんなことをいってたな。
「坊っちゃま。もしも、好意的な視線だと思っても、気を許してはいけませんよ?その何かは…お化けかもしれません…エフデ様も気をつけてくださいよ?」
お化け。
つまり、幽霊。
そしてお化け退治をしてくれるエセニアはいない。
「も、もしかして…お、お化け!やだ!お化けこわい!」
お、おば、お化けな、わけ!ない!だろ!あ、あくまで、エセニアがい、いっていたことだ。そうだ。俺の予測と推測が冴え渡る時がき、きたようだぞ!。
何か見ていると思って、辺りを見回しても誰もいない。つまり、何もない!
気のせいだ!
ぽんと、肩を叩かれた。
ああああ!
「ひゃぁぁぁ!お化け!やぁぁぁ!」
「うわ!落ち着け!ケルン!」
「やぁぁぁ!…え?ミケ君?本物?」
思わず、叫んで、その場で跳び跳ねて、腰が抜けてしまい、這いつくばって逃げようとした。
六年ぐらい前までは、ハイハイしてたからな!早さならなかなかだぞ!
と、全力で逃げようとしたら、捕まえられて、よくよく声を聞けばミケ君だった。
トイレに行ってから外に出て良かった。トイレに行っていなかったら、水溜まりが出来ていた。だ、大丈夫。ちびってもいない。魂は一瞬出たけど。
「人を急にお化け扱いとは、まったく…」
ミケ君は、ため息をつきつつ、手を貸してくれた。ミケ君の手を借りて、起き上がり…猫の手をリアルに借りたな、俺。と、ちょっとテンションあがってきた。
「びっくりした!本当に、びっくりした!」
「こっちの方がびっくりしたぞ」
ぎゅっと抱きついたけど、ミケ君は、ケルンの頭をぽんぽんと叩いてくる。
くっ…最初は照れてたのに、最近、慣れてきたみたいだ。
「ど、どうして、急に出てきたの!いなかったよね?」
そ、そうだ!見渡したのにいなかったぞ?なんでだ?
ミケ君は少し悪い顔をして指輪をみせてきた。
「姿変えの指輪の効果の一つを使ってみたんだ…とはいえ、まだ上手く使えないみたいだな…ケルンにまで姿が見えなくなるとは…練習せねばな」
「その指輪そんなこともできるの?」
知らなかったんだけど。
「ああ。姿を変える指輪だからな。周囲にも溶け込める…まぁ、時間制限はあるし、使用者の腕次第だが…本でしか存在しなかった代物だから扱いが難しい」
へー…頼んでおいてなんだが、そんな凄いものだったのか。
だから、王様が秘密にしてくれるといったわけか。
しかし、いたずらをするよぐらい仲良くなれて嬉しいが、心臓に悪い。そのままミケ君と一緒に食堂に行くことになった。
「ミケ君杖はどう?あとメリアちゃんは?」
ミケ君は、どこか自慢気に笑っている。
「私はこう見えても、細工は得意だ。だから、ほら」
そういって、真っ白い指揮棒のような杖を見せてくれた。
「おー!もう出来たんだ!…んー?…塗ってなくても、白いね、これ。何て木?」
「ナナカマドの宿り木だ」
ん?ナナカマドに寄生した木ってことだよな?しかし、削って白い…骨みたいに真っ白いし、重さがほどほどずっしりしてる。
「名前は何ていう木かわかる?」
「さぁ?霊木だからな…」
なるほどな。この世界だけの木という可能性もあるわけか。別な世界の知識だと、骨の木とか、化石の木とかもあるが、見てきた図鑑によると、そんな木はなかったからな。
もしかして、霊木は白くなるのかもな。
「メリアは…もう少しすれば、おそらく出てくるだろう…手伝ってやらないと、まだかかっただろうがな…」
遠い目をしたので、本当にメリアちゃんは、こういった生産系が苦手なんだろうな。
スキルがないと、とことんダメになるからなー。効率も悪くなるし、しかも、スキルの系統って、偏りがあるらしい。
生産系が基本になっているケルンを元に考えるなら、生産系と、非生産系スキルの二つの系統に分けれる。そして、どちらのスキルも同じぐらい覚えている人は器用貧乏タイプだ。
基本的に、生産系なら生産系スキル。非生産系なら、非生産系スキルが、多く発現するそうだ。
もちろん、スキルがないから、剣が持てないとか、料理ができないというわけではないが、とことん、初期値にマイナスがついているような状態になっている。
でも、普通なら何年もやっていたら、そのうちスキルが発現する…かもしれない。
例えば、いくらやってもスキルが増えないケルンの場合。演奏をしたら…コップが割れた。人が倒れたとかでなく、音を奏でることができない。
部屋でピアノの稽古してみるか!と、やってみたら、お茶を持ってきたエセニアも、軽くふらつくし、置いてあったコップは粉砕するし、あれは酷かった。
それから、家族は楽器をしまっていったんだよな。
でも、不思議なことに、笛とかを削って作ることはできた。演奏はできないけどな。
もしかしたら、『造物』と『魔法同化』のスキルには、まだ何か使い方があるのかもしれない。特に『魔法同化』は、調べたけど本に載っていない。
スキルの本というか、辞典がある。そこに、載っていないスキルも世界にはたくさんあるということだが、あえて隠しあるような気がしてならない。
王族のスキルは、まず載っていない。そして、ケルンが持つ二つのスキルも載っていない。
どこかには世界中のスキルを記した本があるらしいが、見ることはできないだろうな。場所もわかんないし。
学園にある図書館に引きこもって調べてもわからなかったら…諦めるしかない。
俺が少し考え込んでいると、ミケ君は、ケルンに尋ねていた。
「それで、ケルンこそ杖はできたのか?」
「うん!一応…」
「一応?」
まだ人に見せれるような姿じゃないからな。装飾もできてないし。
だから、一応なのだ。
「あのね、お兄ちゃんと話をしてね、飾りをしようって思ってて」
「なるほど。流石、エフデ殿とケルンだな。こだわりがあるわけだ」
「僕とお兄ちゃんだもん。頑張っていいの作るよ!ね?」
ああ。頑張る…ぞ。
まだあの樹木さんの衝撃を忘れるのは難しいがな。
ふふと、ミケ君は上機嫌に笑っている。
そういえば、二人っきりなので、気になっていたことを道すがら聞いておこうかな。
遠くに学生の姿がみえるから、小声で尋ねた。
「ねぇねぇ、ミケ君。何で、僕の中にお兄ちゃんがいるって、メリアちゃんに黙ってるの?お兄ちゃんも別にいいよっていってるのに」
メリアちゃんだけ仲間外れはよくないから、教えてもいいと思ったが、ミケ君からメリアちゃんには話さないようにいわれたのだ。
「ああ…あまり人に知られるのは、良くないだろう?」
すぅっと、目が細められた。皇子モードになったのかな?
「エフデ殿のことは、知る者は少ない方がいい。メリアにもだが、私はアシュのことは、あまり信じれないからな」
アシュ君を信じていないという、ミケ君の言葉に驚いた。最初は少し険悪だったけど、すぐに一緒にご飯を食べに行ったり、講義を受けてたりしてるのに、信じていないとはな。
「アシュ…いや、宰相家や他の建国貴族の情報を知っているか?」
「知らないー。父様とか他の貴族の話をしないもん」
父様から貴族の話を聞いたことがない。そもそも、話題にすらならなかったからな。フェスマルク家が建国貴族の一族ときいても、何もいってくれなかった。
「そうか…あのことも知らないか」
「何かあったの?」
ミケ君が、かなり声を潜めるので、顔を寄せると、少し、顔が赤くなった。
あ、この距離はまだ慣れてないのか。覚えておこう。
「神聖クレエルでも同じことが起きているのだが…王族と、その国で古くからある貴族の子供が病になり、死んでいるのだ」
「病気?」
前にミケ君が家で苦しんでいたのが、病気なんだろうか?
「優秀であれば優秀であるほど、病に倒れているからな…流行り病という、貴族同士の争いかも知れない」
流行り病という貴族の争い…つまり、毒とか?
まぁ、確かにあの苦しみ方は異常だったからな。それにしてもあの紫の煙…あれは何だったんだろうか?
ミケ君は、あくまで、私の推測だがと言葉をきった。
「もしもだ。宰相家が新たな王を求めているとしたら、各国との繋がりや後ろ楯を考えれば、手土産がいるだろう?ケルン…いや、エフデ殿は、我が国でも名が知られているが、リンメギン国の王位継承権があることは、私でなくても知っている」
「え!お兄ちゃんそんなの持ってないよ!」
ないない!
王権を、王剣と勘違いしてたけど、ちゃんと断ったぞ!
それに、リンメギン国とフェスマルク家は、まったく関係がない。王家との繋がりも、個人的な手紙のやり取りはしていても、血筋はまったく関係がない。
「リンメギンは、血統での王位継承はしない。あくまで実力主義で、血統でスキルが受け継がれているから、今までは、今の王朝を保ってきたのだ。それに…イムルは、王家の者ではなく、イムルの死後にイムル以前の王家の者が再度、王位継承している」
そういえば、前にヴェルムおじさんがいってたな…実力があれば、国民が従うってことは、国一番の職人が王様になる。そして、スキルは、遺伝しやすいから、必然的に王朝が続く。
イムルが王族ではなかったというのは、初耳だが、ならば、疑問がある。
「イムルは結婚してなかったの?」
王様になったのなら、結婚していると思った。宰相家が婿を取ったように、王家の誰かしらと婚姻を結びさえすれば、王朝が続くうえに、優秀なスキルを得られる可能性もあったのだ。
だが、ミケ君の話では、イムルの子供ではなく、前の王朝がもう一度王位を継いだということだ。結婚をしても、子供がいなかったとも考えられるが、なら、イムルの奥さんである王妃の話が出てこなかったのは、少々気にかかった。
「報告によればそうだな。いかに、リンメギンが大国であれど、他の国の歴史だ。詳しく調べるのには、時間がかかるが…」
ミケ君は、俺の予測が当たっていると肯定しつつ、かなり悪い笑顔を浮かべた。
悪代官?いや、悪皇子?
「仮にだ。サイジャルで、ケルンの中にエフデ殿がいると判明したら、この学園にいるドワーフ達や、リンメギン国の縁者達が何をすると思う?」
「んー…わかんない」
何をするかといわれてもな…リンメギン王様の反応からみるに、観光とかに誘われるとか?
それとも、いや…ありえないや。
悪い予感がしたのだが、その予感が当たったことを、ミケ君の口から聞いてしまう。
「崇拝するか、連れ去るかだ」
す、崇拝?
連れ去るのは予感がしたのだけど…うちの家族が何をするのかわからないから、ないとは思うんだけどな。
スキルの質や量がこの世界においては、重要である。魔法が使えても、魔力がずば抜けて高くないと、スキルに負けてしまう。
棒神様が、スキルが多く使えると孤独になるといっていたのは、スキルがたくさんあればあるほど、人から妬まれ、孤立化をするということだったのだ。
魔力が高くても、魔法が使えるか使えないかで、宝の持ち腐れ…耳が痛い話だが、ケルンが持つ魔力は、那由多だそうだ。
だが、使える魔法は威力がかなり強くても少ない。つまりは、手札がないということだ。
毒耐性とかのスキルがないから、毒殺されるかもしれないし、何より、魔法を使う前に、暗殺されてしまうかもしれない。
だから、スキルはかなり重要なのだけど、何故、イムルが崇拝されてて、俺…いや、エフデが崇拝されるようになるんだ?
「私が調べたら、イムルは崇拝されている。エフデ殿は、その後継者、生まれ変わりと、リンメギンではいわれているのだ…何をするかわからないだろ?」
う、生まれ変わり…残念ながら、イムルの生まれ変わりではないんだけどな。
もしも、イムルの生まれ変わりならば、俺は『造物』スキルの全てを把握している。
確かに、スキルや魔法がある世界にいた知識はある。けれども、それは別の世界においてだ。
だから、スキルから推測はかろうじてできるが、正しいとはいいきれない。
ミケ君の情報から、イムル=エフデと思う者が出てくるということを考えていなかったことに気がついた。まったく関係のない者にスキルが出るのなら、生まれ変わりだとでも考えて自分で納得するだろう。そう思う可能性がないわけではないからな。
そうエフデのせいでケルンに迷惑がかかるのは不本意だ。
「お兄ちゃんを守んなきゃ!」
「いや、ケルンがドワーフに気をつけるんだぞ?」
ケルン…なんでそうなるんだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
感想にいただいたのですが、杖の詳細についてはのちほど物語に詳しくでますのでお待ちいただけたらなと。
あと、もうじき書きたい場所までいけるので更新の速度をあげていきたいと思います
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アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
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