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第四章 学園に行くケモナー
怒りの拳
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ハルハレでおやつをすませて、学園に戻ると、ミルデイは次の講義があるとかで、離れていった。
かなり心配していたけどな。
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
「だって、着いてきたら間に合わないよ?それに、一人じゃないもん」
「急げば大じょ」
「だめ。焦っていくのはよくないって、キャスがいってた。勉強の前には落ち着いた気持ちで待ちましょう。って!…それに、学園内だから迷わないよー」
ミルデイはケルンを一人で行かせるのが不安らしいが、すぐそこ中庭で待ち合わせをしている。
それでもなにかと心配をしていいつのっていたが、なだめすかして、見送る。
で、わざわざミルデイを一人で行かせたのはなんでだ?
「…あのね、ちょっとお話したくて」
ケルンが俺と話したいという気持ちは伝わっていた。けれど、その理由はわからなかった。
わざわざ二人で話したいというなら、夜でもいいのに、どうも今話をしたいらしい。
「ごめんね…」
何がだ?
「カフェ…ちゃんと飲めてたら、お兄ちゃんもっと元気になってたよね?…苦くて飲めなかった…」
あー。あれを飲んで頭がはっきりするかもとは思ったけど、ケルンが苦手なら無理することはないぞ?お前は味覚がいいみたいだしな。
さっきのことを気にしているみたいだが、あくまでよくなればいいなと思っただけだ。
知識を蓄えていく方が確実だろう。
「でも!…僕がしなきゃ…お兄ちゃん、体がないから…」
気にすんなっていってるだろ?俺は妖精みたいなもんだからって、最初にいったろ?
「そんなことないよ!僕のお兄ちゃんなの!」
…だったら、あんまり気にするなって。俺は気にしないから。
「…僕、頑張る!」
無理すんなよー。
気にすんなっていっても、かなり気にしているようだ。
何かを決意したみたいだが、次から頑張ってカフェを飲む気か?苦いからほどほどにしてくれ。
そういうのは伝わるんだが、まだ全部は伝わってこないからな。
ミケ君たち三人と待ち合わせしている中庭に向かうと俺たちが作った石像前によく知っている顔がちらほら集まっていた。
なぜ、俺たちが作った石像があるのかというと、たまたま発注があったので作ったのだ。
『法王ティストールとその妻ディアニア』
と、表向きにはそう書いてあるが、本当の題名は違う。
題名『若い頃の父様と母様』
二人ののろけによって制作された石像が、中庭に設置されたのは知っていたが、待ち合わせに使うのではなかったかも。
父様と母様の若い頃ってのが、ケルンに似ているのだ。気づく人が増えるだろうなってぐらいに似ている。
鏡でしかケルンの姿を見たことはないが、最近、顔立がはっきりしだしたからか、容姿をほめられるようになってきた。
ケルンはまったく気にしていないが、ミルデイが誘拐をしきり、気にしだしたのだ。俺から見ればケルンよりもミルデイの方が心配なんだがな。
「ケルン!どこに行ってたんだ?いくらなんでも、遅くないか?」
「お兄様のいうとおりです。こんな時間になっても、私たちに何もいわないなんて、何かあったと思ってしまいますわ」
二人が心配そうにして時間をみれば、つい、うっかりしていたことを思い出した。
あ、そうか。すっかり『コール』するのを忘れていたな。魔法が使えるようになって、まだ日が浅いから、つい忘れてしまうのだ。
「ミケくん、メリアちゃん。とりあえず、深呼吸しようね?」
あまり怒ると毛艶が悪くなるからな。深呼吸は大事なことだ。
「お二人が、心配してあちこちを探しておられたというのに…ケルン、君は何をしていたんだ?」
「あー…探検して、おやつ食べてたんだー。あと、ちょっとデッサン!」
アシュ君は、凄く疲れている…たぶん、二人を宥めていてくれたんだろうな…何だか、キャスみたいで、好感度が、上がってきたぞ。眼鏡かちゃっとさせてるのが、似てるからかな?
「デッサン?そういえば、絵を描くのが趣味といっていたな」
アシュ君はちゃんと人の話を聞く子みたいだ。この年頃で自己紹介でちらっと、いったことを聞いてくれてるとは、思っていたなかった。
「ケルン様のお屋敷は、あのエフデ様の作品がたくさんありますもの…それに、直接指導されておられるので、素晴らしい腕前をお持ちです。羨ましいですわ…」
「そういえば、エフデはフェスマルク家の…なるほど、兄の影響で絵が趣味になったのか」
「うん!お兄ちゃん絵が上手なんだー」
いや、アシュ君納得してるけど、エフデはケルンだからな。ケルンの活動を隠すために、エフデがこの世に出ることになったんだから、逆だよ、逆。
あと、ケルンもアシュ君に、嘘をつかないでくれ。
「なるほどな…この石像も、フェスマルク家あるから、作る許可も得れたし…モデルもいたと…」
納得してるけど…アシュ君…君も名探偵ではなく、迷探偵の仲間入りだな。
「しかし…その…噂で聞いたのだが…体が不自由なのだろう?どのようにして、このような作品を?」
「んーと、お兄ちゃんが絵を描いて、石に写して、父様が削ったの。何枚も描いて削るときに…えっと、しゅうせい?したんだよー」
「そうか…緻密な作業をティストール様が行うことで作り上げたということか…」
「顔とか細かいところは、時間をかけてお兄ちゃんが、削ったよ」
絵を描いて下絵を転写して、父様に削りとってもらい、細かいとこらケルンが彫刻刀で修正をしたというのが真実だ。
時間がなかったのと、父様がケルンや俺と一緒に作りたいといいだしたから、協力してもらった。
短時間でできたし、俺もケルンを通して父様と何かをするなんて経験がなかったから、楽しかったな。
「ああ…ディアニア様は…何でこんなにも、お美しいのでしょう…昔のお姿よりも今のお姿の方がさらに綺麗なんて…」
「ケルンは二人に似ているが…笑い方は、ディアニア様によく似ているな」
メリアちゃんは、母様に憧れているけど、『フォーム』で普通の女の子の状態のメリアちゃんも、やっぱり、似てるよね。親戚だからかな?ケルンよりは、母様に似ているように思う。
ミケ君の言い分も…まぁ、カルドいわく。
「坊っちゃまは、旦那様の少年の頃に似ておられますが……お二人によく似ておられます…将来が少々不安になってきましたので、少しミルデイをお借りします」
あのあと、ミルデイは新しくスキルを得れたと、死んだ魚の目で教えてくれた。どんだけ特訓したんだろうか。
鬼軍曹の父親は、鬼教官だったんだな。
「ん?」
何か騒がしい四人組が来たんだけど…何あの、チャラチャラ…金とか銀の細工をした成金趣味な制服!改造したの?趣味悪いな…同級生かな。
「あー。獣臭い」
びくっと、二人が揺れた。
「やだやだ、獣と暮らすと、匂いがしみつくんだろうな」
「私たちにも移ってしまったら、困りますわ」
ここまで匂ってくる、ただ一人の女の子で、香水臭い女の子が、けばけばしい化粧顔で、悪態をついている。
というか、こっちを見ながらいうってことは、鼻がいいのか?そんなスキル持ちで、鼻が効きすぎるから自分の香水を強めにしているとかか?
ってことは、ヤバい!ミケくんとメリアちゃんに、クレシェちゃんの存在がばれてしまう!
猫の縄張り争いの凄さは、キャットファイト!なんてもんじゃない。仁義なき戦いだ。威嚇からして、どこの不良だよってなるぐらい、激しい。いつものにゃーんではなく、あーん?に変わってるんだから、猫は普段本気を出してない。
そっと、服の匂いをかいでみる。汗臭くもないし、カフェの匂いがちょっとするかな?
でも、クレシェちゃんって、猫の匂いってより、お店の匂いなのか、お香の所為なのか、甘い匂いがするんだがな…?
「ごめんね。たぶん、僕のせいだよね?さっきまで、色んな動物と触れあってたからかな?」
動物好きなのを知っている二人だから、これで納得だろう!
スケッチブックには、クレシェちゃん以外にも、画材屋のカメレオンのモティ君や、パン屋の亀のプレナちゃん。八百屋の鳩三兄弟、ポー、ポル、ポト。他たくさん描いてるからな!
そして、悪態をつく四人組も納得する!これで、一件落着。
「下等な獣と暮らしてきた者は、どこにいっても、獣と一緒なのか」
「あーやだやだ。家畜と一緒なんて、クウリィエンシア皇国も、やはり五百年で貴族の誇りすらなくなってしまうとは…」
ん?あれ?うちの山と森の動物たちの悪口いってるのか?
ちょっといらってしてきた。
「ケルン…あいつらは、北の…おそらく神聖クレエル帝国の属国の貴族だ」
ミケ君はそういったけど、母様の出身国の貴族の息子や娘か。
「ふーん」
話には聞いてたけど、動物嫌いの獣人嫌いらしいな。
俺たちとは絶対に仲良くなれないな。
「我慢しろ。手を出せば、ケルン。これ幸いと連れていかれる可能性もある」
連れていかれるって、まさか、クレエルに?いやいや、どんだけ拉致してまで、嫌がらせする気なの?
連れてかれるのは勘弁だな。
「それは、やだなー」
無視が一番だな!
そう思って離れようと背を向けた。
その時に聞こえた言葉に、どんな顔をしていたかはわからない。
「獣風情が、屋敷に入り浸り、主人の世話をするそうだぞ」
「獣の使用人ばかりと聞きましたわ」
「庭師にいたっては、猟師に弓を射たれるような姿だとか」
使用人…エセニア達のことか?庭師はランディのことをいってるのか?
あいつら…エセニアたちを馬鹿にしたのか?
「お兄ちゃん…落ち着かないと…僕もむってしてるけど」
…大丈夫。俺は怒ったりなんかしないぞ。
そう、気のせいだろう。ははっ、まさか、そんなはずはないよな。いくら、獣人嫌いとはいえ、そんなこと、言うはずないよな?
俺たちの家のことなんて、知らないはずだからな。きっと、勘違いだ。
「メス犬が給仕をしているとは」
そんなことを真ん中の意地の悪そうな顔のクソガキがいった。
メス犬?今、メス犬っていったか?
「…ねぇ、それはもしかして、僕の家の人をいってるとかいわないよね?」
「ケルン!放っておけ!」
ミケ君はそういって、肩をつかんで止めるけど、ははは。肉球に触れていると思うと幸せだな!
でも、ごめん。今はそれどころじゃない。
「勘違いだよね?」
ケルンの声量が少し大きくなってきた。それに対してクソガキどもも、声を荒げ出した。
「何だ…本当のことをいって、悪いのか?その態度は、気にくわないな!」
「お父様達が、あなたと仲良くしなさいとか申してたけど、家畜と仲良くしているなんて、信じられないわ!」
ぎゃいぎゃいとうるさいな。ケルンの質問に答えろよ。あと、仲良くしろって親がいったら、するとか自分の考えはないのか?
それより、質問したら答えろよ。
「ねぇ…答えてよ?勘違いなら謝るけど、僕の家の使用人のことをいってるの?」
ミケ君、メリアちゃん。小声でも「やはり、ディアニア様にそっくり」とか、父様と同じこといわないで。
ケルンも俺もそれどこじゃねぇから。
聞こえた言葉にまず俺がキレた。
「人?家畜のことか?若いメス犬を飼ってるんだろ?」
家畜?俺の家族をメス犬つったな。
ぶん殴りたい。
でも我慢しろ。
「お兄ちゃん…僕、怒ってる…」
だが、我慢だ。相手にしたらいうことを認めたことになる。とりあえず、深呼吸して落ち着こう。
入学した初日で喧嘩を売られて買うなんて、ありえないからな。とりあえず、顔と名前を覚えて後で徹底的に仕返ししてやればいい。
黙って引き下がるわけねぇが、ここじゃ人の目があるからな。
無言でいると、四人組は、調子をさらに乗っていくのか、石像を見上げて、馬鹿にするように笑った。
「しかし、我が国の英雄とはいえ、歳を取ると、スキルもカスしか残らないのか?」
「しょせんは、老害か」
「男に逃げた英雄など、未来の英雄たる、我らには関係ないことだ」
父様たちまで馬鹿にするか。絶対に許さねぇからな。
「しかも…最初の子は呪われているらしいぞ?体がまともでないから、長男でも嫡子になれず、こんなものしか作れない…無様なことだ」
「まぁ、体が自由でも…役に立たないからこそ、世に出さなかったんだろう」
「エフデなぞ、貴族の恥だ。貴族は品位と立場を理解してこそ…石工ではないわ」
俺って呪われてんの?ってか、一回どんな噂が流れているか調べてみないとな。
別にエフデがなんといわれても気にしない。実際役に立たないといわれたら、全力で肯定だ。
しょせん、ケルンの隠れ蓑なわけ…あれ?
ぷっつんて良い音がした。
「みんなだけじゃなく…お兄ちゃんまで馬鹿にした…」
とても小さく呟いた声は俺以外は聞いていない。
「貴方達!今すぐ謝罪を求めます!」
「ケルン、下がっていろ。クウリィエンシア皇国の英雄とその細君を馬鹿にされては、国の…ケルン?」
さて、突然ではあるが、我が家の母様の特技を教えてあげよう。ダンスが得意なんだ。
「ねぇ…ちょっと、踊ってみてよ?」
この石像は、ケルンが作った。実在の人物ではあるから、意志がある石像ではない。
でもな、魔石でできてるんだ。
右手に魔力が集まるようにイメージしていくケルン。
俺の補助をなしでどんどん集めていく。
こんなに上手く制御できるようになるなんて!
つい嬉しくて魔力の量を止め忘れた。
「お仕置きするの!精霊様、お願い!『マリオネットワルツ』」
人形劇で使われる魔法を石像にかける。魔力の量によって、強度や機敏さが増す。制作者以外には、効果がでない魔法だけど、問題ない。
「お兄ちゃんに代わって、悪い子にお尻ぺんぺんだよー!」
右手を降り下ろすと、地面が揺れた。
父様と母様の石像の杖と剣が、クソガキどもの前に降り下ろされていた。
鉄槌、いや、石杖と石剣がくだったようだ。
さすが、父様と母様の石像。折れてないし、ひび割れもない。
漏らしている集団には、お灸ということにしておこう。ケルンが少しかわいそうに思っても、さすがにパンツは貸せないぞ。たぶん、断られるだろうし。
「初日からか…キャス様が心配なさっていたわけだ」
あれ?アシュ君、キャスのこと知ってるの?
それなら、そうと早くいってよー。
減点されないように心がけたのに。
「流石、法王様のご子息ですわ…」
「そうだな…でもな、ケルン…学園の備品に魔法をかけては…」
よくみると、地面のレンガがわれ、芝生にも亀裂が走っている。
誰だ!魔力を止めなかった奴は!
俺だよ!
かなり心配していたけどな。
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
「だって、着いてきたら間に合わないよ?それに、一人じゃないもん」
「急げば大じょ」
「だめ。焦っていくのはよくないって、キャスがいってた。勉強の前には落ち着いた気持ちで待ちましょう。って!…それに、学園内だから迷わないよー」
ミルデイはケルンを一人で行かせるのが不安らしいが、すぐそこ中庭で待ち合わせをしている。
それでもなにかと心配をしていいつのっていたが、なだめすかして、見送る。
で、わざわざミルデイを一人で行かせたのはなんでだ?
「…あのね、ちょっとお話したくて」
ケルンが俺と話したいという気持ちは伝わっていた。けれど、その理由はわからなかった。
わざわざ二人で話したいというなら、夜でもいいのに、どうも今話をしたいらしい。
「ごめんね…」
何がだ?
「カフェ…ちゃんと飲めてたら、お兄ちゃんもっと元気になってたよね?…苦くて飲めなかった…」
あー。あれを飲んで頭がはっきりするかもとは思ったけど、ケルンが苦手なら無理することはないぞ?お前は味覚がいいみたいだしな。
さっきのことを気にしているみたいだが、あくまでよくなればいいなと思っただけだ。
知識を蓄えていく方が確実だろう。
「でも!…僕がしなきゃ…お兄ちゃん、体がないから…」
気にすんなっていってるだろ?俺は妖精みたいなもんだからって、最初にいったろ?
「そんなことないよ!僕のお兄ちゃんなの!」
…だったら、あんまり気にするなって。俺は気にしないから。
「…僕、頑張る!」
無理すんなよー。
気にすんなっていっても、かなり気にしているようだ。
何かを決意したみたいだが、次から頑張ってカフェを飲む気か?苦いからほどほどにしてくれ。
そういうのは伝わるんだが、まだ全部は伝わってこないからな。
ミケ君たち三人と待ち合わせしている中庭に向かうと俺たちが作った石像前によく知っている顔がちらほら集まっていた。
なぜ、俺たちが作った石像があるのかというと、たまたま発注があったので作ったのだ。
『法王ティストールとその妻ディアニア』
と、表向きにはそう書いてあるが、本当の題名は違う。
題名『若い頃の父様と母様』
二人ののろけによって制作された石像が、中庭に設置されたのは知っていたが、待ち合わせに使うのではなかったかも。
父様と母様の若い頃ってのが、ケルンに似ているのだ。気づく人が増えるだろうなってぐらいに似ている。
鏡でしかケルンの姿を見たことはないが、最近、顔立がはっきりしだしたからか、容姿をほめられるようになってきた。
ケルンはまったく気にしていないが、ミルデイが誘拐をしきり、気にしだしたのだ。俺から見ればケルンよりもミルデイの方が心配なんだがな。
「ケルン!どこに行ってたんだ?いくらなんでも、遅くないか?」
「お兄様のいうとおりです。こんな時間になっても、私たちに何もいわないなんて、何かあったと思ってしまいますわ」
二人が心配そうにして時間をみれば、つい、うっかりしていたことを思い出した。
あ、そうか。すっかり『コール』するのを忘れていたな。魔法が使えるようになって、まだ日が浅いから、つい忘れてしまうのだ。
「ミケくん、メリアちゃん。とりあえず、深呼吸しようね?」
あまり怒ると毛艶が悪くなるからな。深呼吸は大事なことだ。
「お二人が、心配してあちこちを探しておられたというのに…ケルン、君は何をしていたんだ?」
「あー…探検して、おやつ食べてたんだー。あと、ちょっとデッサン!」
アシュ君は、凄く疲れている…たぶん、二人を宥めていてくれたんだろうな…何だか、キャスみたいで、好感度が、上がってきたぞ。眼鏡かちゃっとさせてるのが、似てるからかな?
「デッサン?そういえば、絵を描くのが趣味といっていたな」
アシュ君はちゃんと人の話を聞く子みたいだ。この年頃で自己紹介でちらっと、いったことを聞いてくれてるとは、思っていたなかった。
「ケルン様のお屋敷は、あのエフデ様の作品がたくさんありますもの…それに、直接指導されておられるので、素晴らしい腕前をお持ちです。羨ましいですわ…」
「そういえば、エフデはフェスマルク家の…なるほど、兄の影響で絵が趣味になったのか」
「うん!お兄ちゃん絵が上手なんだー」
いや、アシュ君納得してるけど、エフデはケルンだからな。ケルンの活動を隠すために、エフデがこの世に出ることになったんだから、逆だよ、逆。
あと、ケルンもアシュ君に、嘘をつかないでくれ。
「なるほどな…この石像も、フェスマルク家あるから、作る許可も得れたし…モデルもいたと…」
納得してるけど…アシュ君…君も名探偵ではなく、迷探偵の仲間入りだな。
「しかし…その…噂で聞いたのだが…体が不自由なのだろう?どのようにして、このような作品を?」
「んーと、お兄ちゃんが絵を描いて、石に写して、父様が削ったの。何枚も描いて削るときに…えっと、しゅうせい?したんだよー」
「そうか…緻密な作業をティストール様が行うことで作り上げたということか…」
「顔とか細かいところは、時間をかけてお兄ちゃんが、削ったよ」
絵を描いて下絵を転写して、父様に削りとってもらい、細かいとこらケルンが彫刻刀で修正をしたというのが真実だ。
時間がなかったのと、父様がケルンや俺と一緒に作りたいといいだしたから、協力してもらった。
短時間でできたし、俺もケルンを通して父様と何かをするなんて経験がなかったから、楽しかったな。
「ああ…ディアニア様は…何でこんなにも、お美しいのでしょう…昔のお姿よりも今のお姿の方がさらに綺麗なんて…」
「ケルンは二人に似ているが…笑い方は、ディアニア様によく似ているな」
メリアちゃんは、母様に憧れているけど、『フォーム』で普通の女の子の状態のメリアちゃんも、やっぱり、似てるよね。親戚だからかな?ケルンよりは、母様に似ているように思う。
ミケ君の言い分も…まぁ、カルドいわく。
「坊っちゃまは、旦那様の少年の頃に似ておられますが……お二人によく似ておられます…将来が少々不安になってきましたので、少しミルデイをお借りします」
あのあと、ミルデイは新しくスキルを得れたと、死んだ魚の目で教えてくれた。どんだけ特訓したんだろうか。
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「ん?」
何か騒がしい四人組が来たんだけど…何あの、チャラチャラ…金とか銀の細工をした成金趣味な制服!改造したの?趣味悪いな…同級生かな。
「あー。獣臭い」
びくっと、二人が揺れた。
「やだやだ、獣と暮らすと、匂いがしみつくんだろうな」
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ここまで匂ってくる、ただ一人の女の子で、香水臭い女の子が、けばけばしい化粧顔で、悪態をついている。
というか、こっちを見ながらいうってことは、鼻がいいのか?そんなスキル持ちで、鼻が効きすぎるから自分の香水を強めにしているとかか?
ってことは、ヤバい!ミケくんとメリアちゃんに、クレシェちゃんの存在がばれてしまう!
猫の縄張り争いの凄さは、キャットファイト!なんてもんじゃない。仁義なき戦いだ。威嚇からして、どこの不良だよってなるぐらい、激しい。いつものにゃーんではなく、あーん?に変わってるんだから、猫は普段本気を出してない。
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「あーやだやだ。家畜と一緒なんて、クウリィエンシア皇国も、やはり五百年で貴族の誇りすらなくなってしまうとは…」
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ちょっといらってしてきた。
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「ふーん」
話には聞いてたけど、動物嫌いの獣人嫌いらしいな。
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「それは、やだなー」
無視が一番だな!
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あいつら…エセニアたちを馬鹿にしたのか?
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…大丈夫。俺は怒ったりなんかしないぞ。
そう、気のせいだろう。ははっ、まさか、そんなはずはないよな。いくら、獣人嫌いとはいえ、そんなこと、言うはずないよな?
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それより、質問したら答えろよ。
「ねぇ…答えてよ?勘違いなら謝るけど、僕の家の使用人のことをいってるの?」
ミケ君、メリアちゃん。小声でも「やはり、ディアニア様にそっくり」とか、父様と同じこといわないで。
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俺って呪われてんの?ってか、一回どんな噂が流れているか調べてみないとな。
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しょせん、ケルンの隠れ蓑なわけ…あれ?
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「ケルン、下がっていろ。クウリィエンシア皇国の英雄とその細君を馬鹿にされては、国の…ケルン?」
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「ねぇ…ちょっと、踊ってみてよ?」
この石像は、ケルンが作った。実在の人物ではあるから、意志がある石像ではない。
でもな、魔石でできてるんだ。
右手に魔力が集まるようにイメージしていくケルン。
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こんなに上手く制御できるようになるなんて!
つい嬉しくて魔力の量を止め忘れた。
「お仕置きするの!精霊様、お願い!『マリオネットワルツ』」
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「お兄ちゃんに代わって、悪い子にお尻ぺんぺんだよー!」
右手を降り下ろすと、地面が揺れた。
父様と母様の石像の杖と剣が、クソガキどもの前に降り下ろされていた。
鉄槌、いや、石杖と石剣がくだったようだ。
さすが、父様と母様の石像。折れてないし、ひび割れもない。
漏らしている集団には、お灸ということにしておこう。ケルンが少しかわいそうに思っても、さすがにパンツは貸せないぞ。たぶん、断られるだろうし。
「初日からか…キャス様が心配なさっていたわけだ」
あれ?アシュ君、キャスのこと知ってるの?
それなら、そうと早くいってよー。
減点されないように心がけたのに。
「流石、法王様のご子息ですわ…」
「そうだな…でもな、ケルン…学園の備品に魔法をかけては…」
よくみると、地面のレンガがわれ、芝生にも亀裂が走っている。
誰だ!魔力を止めなかった奴は!
俺だよ!
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お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
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旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
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いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
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