上 下
112 / 229
第四章 学園に行くケモナー

友達にはさまれる

しおりを挟む
「楽しかったね!」
 そうだな。二人ともたくさん話ができたしな。

 ミケ君とメリアちゃんが遊びにきてくれてケルンはとてもはしゃいでいた。
 俺のことを話したいっていうのも、俺は止めなかった。

 ケルンの希望というのもあるが、二人に秘密をあまり作るよりも協力してもらう方がいいと思ったからだ。
 まぁ、その…俺としてもケルンはちょっと天然なところがあるような気がしなくもない。

 いや、自分のことなんだけどな。
 どうもケルンと俺の間に壁があると感じるときがある。
 俺の知らない間にケルンが宿題を済ませていることがあるらしいのだ。
 ケルンと繋がっているはずなんだけどな…ケルンが起きていれば俺も起きているはずなんだけどな。

 まだ後遺症が出ているのだろうか?

「ねぇーお兄ちゃん」
 ん?どうした?

 ケルンは少し元気がない。理由は簡単にわかった。

「ちょっと寂しいね…」
 …友達を見送るのは初めてだもんな。

 父様に王城まで送ってもらう二人に別れをいうときに、また遊ぼう!と約束をしたが、その「また」がいつになるかはわからない。
 下手をすれば学園には入学するまで会えないかもしれないだからな。
 ちょっとすねた気持ちで玄関先で待っていても仕方ない。
 ミルディがチラチラと声をかけようかと考えているみたいだし、屋敷の中からエセニアがはらはらとして見守っているようだしな。

 …なぁ、ケルン。外に立ったままでいると寒いからさ。ミルディと遊ぼうぜ?
「…うん!ミルディ遊ぼう!」
「はい、坊ちゃま!」

 ミルデイとボール蹴りで遊んだり、途中からランディと遊びにきてくれたスラ吉のドリブルを取ろうとしたり、何故か、ハンクが混ざってバスケになって、スラ吉のダンクシュート見ることになったり…みんなでケルンの気分をあげてくれてとても助かった。

 二人にはしばらく会えないのかと思っていたけれど、しかし、二人は一週間後に屋敷に遊びに来てくれた。

「おはよー!あれ?何で、二人がいるのー!」

 朝食を食べようと食堂に行くと、二人がいたのだ。

 我が家の食事は、忙しかったら仕方ないが、極力、みんな揃ってご飯を食べている。みんなが無理でも、二人とかで食べたり、とにかく、一人では食べてはいけない。

 一人で食事をするべからず。
 初代の当主が決めた家訓で、使用人も一緒に食べるようになっている。

 ただ、そうはいっても、使用人が多かった時代なら朝食は交代で食事ができたが、残念ながら使用人が少ない我が家では、カルドは給仕することが多いため、ほとんど一緒に朝食は食べれない。
 一応、朝はハンクと先にすませて、昼は一緒に食べ、代わりにフィオナが給仕をする。という具合に、変則的ではあるが、食事をすることもあるのだ。屋敷のあれこれをまとめているから急がしい。

 そんな和気あいあいとしているはずの我が家の食卓になぜ、王族の二人が腰掛けて…あ、今日の朝御飯…パンにサラダに…ゆで玉子。そして、ベーコンの代わりに鳥ハム…スープは、ジャガイモに、ネギ根の入ったブイヨンか。

 手に入ったら、米のある食事がでることもあるが基本パン食である。
 腹持ちが悪い?いやいや、ただのパンではなく、ジャガイモをすっていれてあるパンとか、全体の量とかで、昼まで持つから問題ない。白パンのふわふわもいいけど、穀物入ってたりする方が、栄養バランスはいい。

「おはよう、ケルン」
「おはようございます、ケルン様」

 まるでうちの子かという具合に、自然と二人が挨拶しながらも、朝御飯を食べたくてそわそわしているのがわかった。
 二人の間が空いていたから、座っていいのだろうか?

「二人の間にお邪魔しまーす!」
「ここはケルンの席だと聞いたんだが?」

 え?いやいや、空いているとこに座るのがうちの流儀なんだけど?
「んー?お兄ちゃんの席は決まってるでしょ?」
 …あのちっちゃいのか?

 にこっと目があった母様の隣にある古めかしい小さなイスは、俺のイスらしい。
 どこから、持ってきたのか知らないけど、父様、ケルン、母様、俺って具合に向かい合わせに座ることが多い。
 というか、母様の横に俺の席が確保されているらしい。

「ほら、ケルン。早く食べないと」

 母様のいうとおりだな。ほら、ケルン。いただきます!
「いただきまーす!」

 二人も食べだしたけど、二人の食べるスピードはやっ。

「あらあら、二人とも」
「ミケ君もメリアちゃんもはやいよ?」

 母様も驚いたようだ。しかし、何でそんなに、飢えてるの?王族の人って大食いなのかな?そう思って尋ねると、ミケ君は、そのままパクパクと食べて、メリアちゃんは、ハッとしたように、止まって、口元をハンカチで押さえた。

「は、はしたないのは、わかっているのですが…その…」

 いや、メリアちゃん。遠慮はいらないんだけど、綺麗に食べてるし、問題はないんだけどね、何か、フォークとかナイフがやたらと早く動いてるから、びっくりしただけだから。

 ミケ君はミケ君で、テーブルマナーがきちんとしているのだけど、口を大きくあけてる…男の子らしいというか、ハグハグと食べてるように見えてしまう。それなのに、きちんとしたテーブルマナーなのだから、流石、皇子様だな。

「申し訳ありません。とても美味しくて」

 美味しいけど、それだけかな?

「…エレスがうちに二人を預けるほどだものね…あの人もまた王城に戻ったし…大変だったわね」

 エレス様か…ケルンは気に入っているからいいんだけど、俺はなんか苦手だ。

「ねぇ、ミケ君、なにがあったの?」
「ちょっとな…昨日の夜から何も食べれてなくてな。我慢できない…しかし、ティストール様から聞いていたが…朝食が温かいと、こんなにも美味くなるんだな」

 昨日の夜から食べてない?健康診断か何かあったのだろうか?
 朝食が温かいのは、普通…ではないか…貴族の食事でも、かなりの確率で冷たいだろう。だって、揃って食べないからな。作りおきの食事を食べることになるだろう。

 そして、王族は毒味をして、ある程度時間をみて、即効性と遅効性であるかの判断をしてから、食事をする。温かく食べることができるのは、目の前で温めれる物だけだろう。

 ただ、ハンクはその気になったら、冷たい料理も出せるけどな。冷麺とか。ひやじるとか。

「今は寒いよ?お兄ちゃん、僕冷たいのは食べたくないよー」
 あ、いや。俺も食べたいわけじゃないからな?お腹を冷やさないようにしないといけないぞ?
「うん!あ、父様はお仕事?」
「ええ。お昼には戻ってくるわ…エフデ、内緒よ?」

 母様の言葉にどきっとした。秘密にしろってことか。ケルンには流さないけど…毒味で引っ掛かったんだろうな。

 急遽料理人を、変えても…食事をする気力はなくなるからな。

「そういえば、ミルディはもうご飯を食べたの?」
「はい、坊ちゃま。ランディさんと食べました」
「んー…学園じゃ一緒に食べようね?」
「給仕をしないといけませんが…わかりましたから、そんなお顔をしないでください」

 ミルディとはそれこそ全然食べれない。いつも、給仕役をしてもらっているからな。ケルンは不満なのだ。
 そもそもミルディが入学式にでれないのも不満の一つなのだ。

 執事は例え入学しても、重要な式典には出れないらしい。そういう決まりだといわれたが、俺も不服だ。
 学園内では、身分はないといいつつ、実際は身分格差はあるものだ。

「待っている間は控え室で、学内の過ごし方などの講義を受けるそうです」

 学園ってのは色々なルールがあるらしいからな。

「そうだ!ミケ君とメリアちゃん、一緒に行こうね!入学式!」

 二人にいえば、微妙な顔をされた。なんだ?

「それがだな…少し厳しいかもしれない」
「え?なんで?」
「私たちは、この姿をあまり見せるべきではないのです。ですからお互いに『フォーム』を、かけあうのですが…効果時間を考えるとあまり長くは…」

 メリアちゃんが説明してくれたが、そうか。その問題を解決しないといけなかったな。
 というか『フォーム』か。

「二人は普段は『フォーム』を使っているの?」
「そうだ。この身をさらせないからな。偽装だ」
「ぎそー?」
 姿を誤魔化すってことだ。
「まぁ…長くは使えないから、病を理由にあまり出ていないんだがな」
「獣人であることを気に入らない方は残念ながらいらっしゃいますから」

 こんなにかっこよくてかわいい二人なのだが、確かに獣人差別はあるからな…身を守るのは当然か。

 そういえば、ミルディも危ないんじゃねぇか?
「え!ミルディも気をつけるんだよ?嫌なこといわれないようにしようね?ずっと一緒にいよ?」
「ええ。私は鱗を隠せば大丈夫ですから…お側を離れません。ずっと一緒です」

 ミルデイはそういいつつ…ちらっとミケ君を見た。

「ねぇ、お兄ちゃん。どう思う?」
んー…ちょっと仲が悪い。ちょっとだけな。
「だよねー」

 話さない、目を合わさない
 なにか知らないところであったのか?

 こうなったら、仲良くできるきっかけ作りをしないとな。

「ねぇ、ミケ君、メリアちゃん。今日は、朝ご飯のあとに、予定はあるの?」
「ん?今日は午後から稽古と勉強だったよな?」
「ええ。そのように聞いております。申し訳ありませんが、お昼もこちらでお世話になります」
「あら、気にしなくていいのよ?ケルンも嬉しそうだから」

 ふむ。二人はお昼ご飯を食べて帰るということは、午後までは時間があるということだ。
 つまり、遊べるな!ケルンの勉強も午後からだしな。

「じゃあさ、それまで一緒に遊ぼ?ダメ?」

 ミケ君とミルデイの仲をちょっとでも、良くしたいなーっていう作戦だ。

 なぜだか、メリアちゃんにはミルデイはまだ普通な感じなんだけど、あれかな?主人と同じ年頃で、主人よりも立場が上だからとか気にしているのかな?
 それともケルンを盗られちゃうとか思っているのか?そうだとすれば、かわいいことを思ってくれているな。

「いいですわね!遊びましょう、ね?お兄様」

 流石、メリアちゃん。目を合わせた時に、こちらの思惑を読んでくれたようだ。女の子って、こういう時には強いからな。

「ああ、いいぞ」

 ミケ君も、気づいているな…表情というか、雰囲気がね…よくわかる。

 不服!

 って文字が見えてるもんな。

「よーし!遊ぼう!」
怪我はすんなよー?

 その後、ミルデイをいれてドッジボールした。白熱どころか、メリアちゃんとその後、話し合って決めた。

 今度、遊ぶ時は、あの二人は敵チームにしない。高笑いするミケ君も、口調が俺に戻ってるミルデイも、子供らしさどこに捨ててきたんだよ。

「二人ともちょっと、こわい…」

 そう、ケルンがいえば、すごく慌てて元に戻ってくれたけどな。

 あのあと、何度か遊んだけど…友達と、友達の友達って関係は、色々板挟みになるんだな。ケルンが気づかいを覚えたから、よかったと思うことにしよう。

しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...