選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章の裏話

???り

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 暗い洞窟でそれは何度目かの眠りから覚めた。時間の感覚などありはしない。それにはどれほど長く時間が過ぎても自分というものがなかったのだから。
 それでもそれはまどろむのをやめた。新しい食事が落ちてきていたからだ。
 
 それまではすでに動かない物ばかりだったというのに、新しい食事は動きままわっていたが、次第に、動きをやめて、それの中にとけていった。

 とたんに、それの中に一つの感情が芽生えた。
 死への恐怖。
 新しい食事が最後の時まで持っていた感情をそれは得てしまったのだ。

 死ぬのは嫌だ。
 死ぬのは嫌だ。
 死ぬのは嫌だ。

 死ぬとはなんだ?
 得た感情を、もてあましつつ、それは死とはなにかを考えた。

 ただ、それは思考とよぶにはまだ希薄であり、食したものの残骸といえる思考の欠片だ。

 新しい食事は動いているものがほとんどになった。もしかしたら、今までも何度か投げ込まれたのかもしれないが、それはそこまで興味を覚えなかった。

 ただ、死を理解してからは投げ込まれるもの興味をもつようになった。それは執着に近いものだ。

 四つ足のものばかりだが、それは今までに感じたことのない感情がもう一つ増えた。

 足りない。
 足りない。
 欲しい。
 食べたい。

 生きるため。
 生きるとはなんだ?

 ヘドロのようだったそれは寄せ集めのような思考を持ち始めた。

 それにむけて、また新しい食事が投げ込まれた。
 
 二足の生き物がわめきながら、すぐに静かになった。

 投げ込んだ者の不気味な笑い声と、その者が放った言葉が初めて洞窟に響いた。

「まもなく、まもなく」

 それは次の食事を待ち遠しいと思うようになった。
 まるで生き物のように。
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