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第三章の裏話
追話 エセニアの冒険 ⑥
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「くかかかか」
痩せ細ろえた体からは信じれないほどの大きな笑い声です。洞窟に反響して、見た目と相成って不気味でしかありません。
「身共を殺す?この国の者どもは、道化揃いとみえる」
くかかかか。という笑い声が小さくなりながらも消えません。反響をしているにしても長すぎます。
ふと、出口をみれば揺らいでいます。
まさか、あの一瞬で?笑い声に乗せて結界を張ったというのですか?
「気を抜かるなよ、妹…アルシンドのギルドランクはAだが…Sランクはあるぞ」
一兄さんがアルシンドが術者であることを気にして名前で呼ぶのを控えてくれていて正解のようです。
名前を知ることで魔術をかけられる可能性があります。
それに、Sランク相当なら名前だけで殺される可能性が高いといえます。
クウリィエンシア皇国が誕生する前に定められたギルドランクは今日も強さの指針を表しています。
冒険者や、冒険者でなくても強者であるならギルドが正式に認定をしており、認定をするためだけのスキルを保有する家をギルドは現在も守っているほどです。
ギルドランクはその保有するスキル者がいうには、通常はS、A、B、C、D、E、F、Gまであり、魔力量やスキル量などから強さを決めるそうです。
ただ、生まれ持った要素が強く、ランクをあげることは困難を極めるらしいです。
そして、Sランクは通常の人が到達する最高値です。
ただ、実はランクは最上位二つがあります。
一番上のSSSランクはクウリィエンシア皇国、初代国王ならびに初代建国貴族や伝説の英雄豪傑が名を連ね、現在は空席です。
そこに至れる者はすべからく神話や伝説となるから『神域のランク』といわれております。
二番目のSSランクは、正式ではありませんが旦那様や奥様。それにドラルイン帝国の王が相当しています。冒険者では二人ほどが活躍しています。
父さんでも現役の最盛期でもSに近いAランクでした。
あの父さんでもSランクは無理だった。
人類の到達点のSクラス。
父さんよりも実力を、アルシンドは持っていると考えるのが妥当でしょう。
少なくても、私より強いのは間違いありません。
「ええ。一兄さんも。…私より先に倒さないでくださいね?」
けど、臆病風を吹いているなんて一兄さんに思われたくありません。
私は坊ちゃまの側つきメイド。
坊ちゃまを守るためならこの程度を倒せる気概ぐらい持たねばなりません。
それほど、坊ちゃまを狙っている連中は多いのですから。
そう心に思っての軽口を一兄さんはお見通しのようですが。
「では、ゆるりといくぞ…小手先調べで死んでもよいぞ?」
ぶわりと、アルシンドの体から風が…私は魔力をみる目はありませんが、もしやこれは魔力なのでしょうか?
ちゃきっと、一兄さんが刀を構え直すのを横目に、私も短刀をアルシンドにむけて、動向を見逃さないようにする。
「ひ、ふ、み、よ…招来…死鬼」
アルシンドの詠唱にあわせて、先ほどの髑髏からどろどろと、血液が両目から止めどなく流れていく。
六人の姿を血液がかたどったかと思うと、血液がはぜて、その下からはまぶたのない人間たちが表れました。
その眼は暗く紫に光っています。
「ちっ…人型のネクロマンサーか!」
吐き捨てるように一兄さんがいうのは仕方がありません。私も同じ気持ちになります。
ネクロマンサーはかなり少数ではありますが、嫌われる職業ではありません。動物型のネクロマンサーであれば魔物や動物を使い農業に従事させるなど生きる場があります。
ただ、人を使った場合は別です。
自らが殺した者でなければ死霊術は使えないとされているのです。
つまり、彼らはアルシンドが殺した人たちを傀儡にしているのでしょう。
悪趣味にもほどがあります。
明らかに死体とわかるそれら。みすぼらしい服装の者もいれば、鎧をつけた人間もいます。
「山賊?あれは…騎士ですか…」
「あの騎士は知ってる。王都でも有名なAランクの冒険者だ…最近、話を聞かねぇと思っていたが、死んでたか」
一兄さんが知っているということは、あの騎士は強者であったのでしょう。そうでなければ、一兄さんは興味をなくして忘れているはずですから。
そのAランクの強者を殺して傀儡にしているアルシンドは、確実にランクが上がっていると見て間違いがないでしょう。
「ただのAランクなら、お前でも勝てるが…」
「強いですね…あれは」
山賊をみても、父さんと同じぐらいの圧を感じます。
生前、それほどの強者であったというなら山賊などをせず、王都で冒険者にでもなっていたでしょう。
だとするなら、アルシンドがなにかの術を使ったと考えるべき…っ!
「身共の死霊術をそこらの雑魚と同列にみるでない…我が神の寵愛のなせる御業なり!」
山賊の手刀を短刀で受けとめましたが、斬れない!確かに肉です。ですが、弾力がありすぎて、斬れない!
「強化!しかも、魔族と混ぜてるな!」
一兄さんが騎士の刀を受けとめています。
しかし、残り4体のうち、三体が一兄さんを狙っています。
私のところにも山賊の後ろから元は狩人のような男性が奇声をあげて、狩りに使っていたのか、短刀を突き刺してきます。
「グルギヤァァァ!」
「下がりなさい!」
山賊を蹴り飛ばし…重い!『身体強化』『剛力』をかけても重いなんて!見た目よりもかなりの質量があると思った方がいいですね。
「『一刀加速』『一点突破』『一閃落涙』!」
持っている戦闘スキルを惜しげもなく使います。
ただ一撃。
一刀を加速させ、振り抜く。
短刀とはいえ、これは特別製です。強化された傀儡でも効果はあるはずです。
それに、死者であるならなおさらです!
「ぐるぅぅ」
「あきゃぁぁ!」
「抜けろぉぉ!」
二体が重なったまま、短刀を振り抜くと、紫色の煙をたてながら二体とも崩れてぱしゃりと血液に戻って地面へと落ちました。
死霊術は呪いのようなものです。それを断ち切ればあるべき姿に戻ります。
断ち切るという動作が必要ですが、この短刀ならば死霊とは相性がいいはずです。
旦那様からお借りさせていただいているこのフェスマルク家に伝わる短刀『ノーン』は死霊狩りに特化しています。
お化けを怖がる坊ちゃまとエフデ様のために、旦那様からお借りしていてよかったです。
「やるなぁ!妹!俺も負けてられねぇな!」
一兄さんは私のようにフェスマルク家から剣を借りてはおりません。どこかに潜って手に入れたアダマンタイトの剣を使っていますが…あのように重いものを軽々振るっていて、まだ身体強化系スキルをかけていないってのは、信じれません。
「『剛刃』…『一閃落涙』!」
騎士の鎧どころか、周りで襲いかかってこようとした四体ともの胴体をなでるように振り抜くと、摩擦で火がついたのか、四体ともが火柱になり、崩れて血の固まりになり、消えていきました。
「お見事です」
汗一つかいていないどころか、呼吸もそのままです。息切れするとかしないんでしょうか?
同じ『一閃落涙』でも、一兄さんが使っていると私と比べて無駄がないと一目瞭然です。
「そりゃ、奥様に鍛えられてんだ、これくらい余裕だっての」
奥様は特別でしょう。
六体の傀儡を始末したことで、アルシンドがどのように動くのかみれば、なんと髑髏に顔をよせて震えています。
「気持ち悪っ!」
同感です。
「身共の傀儡を!ああ!神の寵愛を身共はぁぁ!身共はぁぁぁ!無駄にしてしまいぃぃ!おお!お許しをぉぉぉ!」
狂ったよう…いえ、狂っているのでしょう。髑髏をなめまわして、赦しをこう姿は正気ではありません。
一兄さんと顔を見合いますが、一兄さんの仕事です。私は嫌です。
目でそういえば、伝わったのか嫌そうにしつつ…あ、あれは一兄さんのよくない癖がでてますね。
「おい、アルシンド。お前が仕えてるクソ魔王はどの魔王だ?」
煽りを受けてアルシンドが止まりました。
強者を煽って倒す癖を直しなさいと父さんから何度も言われていて直さないなんて。まったく、困った兄です。
「クソ?小童。今、なんと申した?」
髑髏をなめすぎたのか、舌でも切ったのか口からやけに濁った血がたれています。
「我が神を愚弄するかぁ!小童がぁ!」
怒りからの、行動なのか、頭をかきむしり、そこからも、出血をおこし、抱えている髑髏が汚れていきます。
「おー、こえー。急にぶちギレんのは歳のせいか?それとも、それもクソ魔王のご寵愛とかいうやつか?気持ち悪すぎて、泣けてくるなぁ」
涙をふく仕草をして、さらに煽っています。
これぐらいはまだましです。
兄妹の中では、一番口が達者な次兄さんの煽り方を知っていると優しいなと思います。心を折るではなく、砕いてきますからね、次兄さんのあれは。
「神よぉ!貴方様を侮辱するこやつを殺してぇぇ!贄としてささげますぞぉぉ!」
アルシンドが髑髏を強く抱き締めてひびをいれていきます。そこから、さきほどより、紫色の強い粘着性もある血液が流れていきます。
「一兄さん。もう少し上手くやれないんですか?」
「いやいや、妹よ…奥様の試練はもっとすげぇんだぞ?」
巻き込まないでください。
奥様の試練とか、一兄さんだけしか受けていないというのに。
こうして話していても、アルシンドにはまったくスキができません。それどころか、威圧が増しているようです。
障壁も切れていないので、術は精神に影響されないと思った方がいいでしょうか?
「ひふみよいつむななや!ここにぞきたれりぃ!招来!護法三頭鬼!」
アルシンドが呼び出した者は異形です。
ローブを着た男です。
ただ、その頭部は三人の顔がついていました。
「魔法使い…ですか?」
三面の男をみて一兄さんが顔色を変えました。
「…うちの愚弟その二ぐらいの魔力か」
三兄さんの魔力は旦那様の次にあります。
魔法使いの実力を図るには、魔力量と契約した精霊の質によります。
魔力量が少なくて弱いなぞありえません。
「身共の傑作ぅ!Aランクの『エルフの末裔ノーデン』『風天のモリア』『炎のアデル』!こやつらはよい贄であったぞぉ!」
二つ名持ち!
しかもエルフの末裔とつけられるということは、元々かなりの使い手だったといえます。
エルフが表舞台から消えて何十年と経ちますが、いまだにエルフ以上に精霊を扱えるのはこの世に一人『法王ティストール』旦那様だけです。
「ドラルインのAランク魔法使いか!」
一兄さんが間髪いれずに斬り込みますが、三面の男の前にも障壁が築かれています!
「うごぉあ…精霊よ…この地に溢れて…敵をうて」
「精霊…風とともに踊りて…わが声を…こぉおぇば…刃にかえ」
「火の精霊…燃えるこどもたち…いざ…あがぁぁ…戦場を」
三重の詠唱。そしてそれはすぐに魔法となって表れました。
「『アースランス』『ウィンドソード』『フレイムボム』」
土でできた硬質の槍に風と炎が絡み付き三つの魔法が一つとなって私たちへと飛んできます。
それも、三つの巨大な塊となってです。
「くかかかか!やれぇ!やってしまぇぇ!」
逃げ場はありません。障壁を壊さねば倒せも逃げもできない。
そうなってやっと一兄さんが本気で動いてくれました。
「ふぅ…『剛力』『金剛心』…『魔刀三撃』」
ようやく身体強化系スキルを行使した技は『剛力』などが事前に使われたとは思えないほど、静かな技です。
脱力しきった一兄さんが軽く剣を構えれば、三つの魔法の塊のは消失しています。
「なぁぜぇ!なぁぜぇ!消えるぅ?」
「ついでだ。『返し刃』!」
剣が十字を刻めば先ほど消えた三つの塊が、三面の男の前に表れ、飲み込んでしまいました。
「がぁぁ」
「あああ!」
「ぐうきゃ!」
断末魔の叫びと共に、衝撃と火柱があがり、そのあとには何も残っていませんでした。
「身共の傑作の傀儡をぉぉ!」
さすがの一兄さんも呼吸が乱れています。
『返し刃』は本来の剣術ではありません。あれは対魔法用の剣術です。
魔力をあまり持たない一兄さんでは、あまり使えませんが、使用された魔法をそのまま相手に返す『剣魔術』スキル。
「なぜぇ!障壁を…いや、まだ、まだぁ…あぁ!神よぉぉ!身共に祝福をぉぉぉ!」
とうとう、持っていた髑髏が亀裂で割れてしまいそうです。
「これだから狂信者ってのは…言葉を使えよ…」
そうして、待ち望んだスキが生まれたのを見逃すことはしません。
「援護頼むぞ!」
「はい!『一刀加速』『一点突破』!」
ただ一点に攻撃を集中させます。
「『一閃落涙』!」
一兄さんが身体強化をした上での『一閃落涙』です!
ですが、剣はアルシンドを斬り倒せません。
「これでも障壁は抜けねぇか!」
「くかかか!これぞ神の御業なりぃ!地脈がある限り!身共は無敵ぃ!」
もうスキを生まれるのを、待つのは体力と魔力を考えれば厳しいです。
いくら、スキルが魔力をあまり使わないとはいえ、それでも魔力がなければ使用できません。
障壁もアルシンドの魔力だけではなく、地脈を使っているとなると、中級精霊でも召喚せねばなりません。
「…仕方ねぇか…どんなことになるか知らねぇぞ?」
一兄さんが剣を地面に突き刺して、かなり嫌そうにしています。
あれを、使わねばならないのはわかりますが、一兄さんは倒れないでいられるんでしょうか?
「全解放…スキル『審判』」
ゴーンと、低い鐘の音が洞窟の中に響く。
それに合わせて様々なざわめきが起こり、子供の大きさ程度の天秤が地面よりうきでてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は昨日の分もあって、二回更新します。
痩せ細ろえた体からは信じれないほどの大きな笑い声です。洞窟に反響して、見た目と相成って不気味でしかありません。
「身共を殺す?この国の者どもは、道化揃いとみえる」
くかかかか。という笑い声が小さくなりながらも消えません。反響をしているにしても長すぎます。
ふと、出口をみれば揺らいでいます。
まさか、あの一瞬で?笑い声に乗せて結界を張ったというのですか?
「気を抜かるなよ、妹…アルシンドのギルドランクはAだが…Sランクはあるぞ」
一兄さんがアルシンドが術者であることを気にして名前で呼ぶのを控えてくれていて正解のようです。
名前を知ることで魔術をかけられる可能性があります。
それに、Sランク相当なら名前だけで殺される可能性が高いといえます。
クウリィエンシア皇国が誕生する前に定められたギルドランクは今日も強さの指針を表しています。
冒険者や、冒険者でなくても強者であるならギルドが正式に認定をしており、認定をするためだけのスキルを保有する家をギルドは現在も守っているほどです。
ギルドランクはその保有するスキル者がいうには、通常はS、A、B、C、D、E、F、Gまであり、魔力量やスキル量などから強さを決めるそうです。
ただ、生まれ持った要素が強く、ランクをあげることは困難を極めるらしいです。
そして、Sランクは通常の人が到達する最高値です。
ただ、実はランクは最上位二つがあります。
一番上のSSSランクはクウリィエンシア皇国、初代国王ならびに初代建国貴族や伝説の英雄豪傑が名を連ね、現在は空席です。
そこに至れる者はすべからく神話や伝説となるから『神域のランク』といわれております。
二番目のSSランクは、正式ではありませんが旦那様や奥様。それにドラルイン帝国の王が相当しています。冒険者では二人ほどが活躍しています。
父さんでも現役の最盛期でもSに近いAランクでした。
あの父さんでもSランクは無理だった。
人類の到達点のSクラス。
父さんよりも実力を、アルシンドは持っていると考えるのが妥当でしょう。
少なくても、私より強いのは間違いありません。
「ええ。一兄さんも。…私より先に倒さないでくださいね?」
けど、臆病風を吹いているなんて一兄さんに思われたくありません。
私は坊ちゃまの側つきメイド。
坊ちゃまを守るためならこの程度を倒せる気概ぐらい持たねばなりません。
それほど、坊ちゃまを狙っている連中は多いのですから。
そう心に思っての軽口を一兄さんはお見通しのようですが。
「では、ゆるりといくぞ…小手先調べで死んでもよいぞ?」
ぶわりと、アルシンドの体から風が…私は魔力をみる目はありませんが、もしやこれは魔力なのでしょうか?
ちゃきっと、一兄さんが刀を構え直すのを横目に、私も短刀をアルシンドにむけて、動向を見逃さないようにする。
「ひ、ふ、み、よ…招来…死鬼」
アルシンドの詠唱にあわせて、先ほどの髑髏からどろどろと、血液が両目から止めどなく流れていく。
六人の姿を血液がかたどったかと思うと、血液がはぜて、その下からはまぶたのない人間たちが表れました。
その眼は暗く紫に光っています。
「ちっ…人型のネクロマンサーか!」
吐き捨てるように一兄さんがいうのは仕方がありません。私も同じ気持ちになります。
ネクロマンサーはかなり少数ではありますが、嫌われる職業ではありません。動物型のネクロマンサーであれば魔物や動物を使い農業に従事させるなど生きる場があります。
ただ、人を使った場合は別です。
自らが殺した者でなければ死霊術は使えないとされているのです。
つまり、彼らはアルシンドが殺した人たちを傀儡にしているのでしょう。
悪趣味にもほどがあります。
明らかに死体とわかるそれら。みすぼらしい服装の者もいれば、鎧をつけた人間もいます。
「山賊?あれは…騎士ですか…」
「あの騎士は知ってる。王都でも有名なAランクの冒険者だ…最近、話を聞かねぇと思っていたが、死んでたか」
一兄さんが知っているということは、あの騎士は強者であったのでしょう。そうでなければ、一兄さんは興味をなくして忘れているはずですから。
そのAランクの強者を殺して傀儡にしているアルシンドは、確実にランクが上がっていると見て間違いがないでしょう。
「ただのAランクなら、お前でも勝てるが…」
「強いですね…あれは」
山賊をみても、父さんと同じぐらいの圧を感じます。
生前、それほどの強者であったというなら山賊などをせず、王都で冒険者にでもなっていたでしょう。
だとするなら、アルシンドがなにかの術を使ったと考えるべき…っ!
「身共の死霊術をそこらの雑魚と同列にみるでない…我が神の寵愛のなせる御業なり!」
山賊の手刀を短刀で受けとめましたが、斬れない!確かに肉です。ですが、弾力がありすぎて、斬れない!
「強化!しかも、魔族と混ぜてるな!」
一兄さんが騎士の刀を受けとめています。
しかし、残り4体のうち、三体が一兄さんを狙っています。
私のところにも山賊の後ろから元は狩人のような男性が奇声をあげて、狩りに使っていたのか、短刀を突き刺してきます。
「グルギヤァァァ!」
「下がりなさい!」
山賊を蹴り飛ばし…重い!『身体強化』『剛力』をかけても重いなんて!見た目よりもかなりの質量があると思った方がいいですね。
「『一刀加速』『一点突破』『一閃落涙』!」
持っている戦闘スキルを惜しげもなく使います。
ただ一撃。
一刀を加速させ、振り抜く。
短刀とはいえ、これは特別製です。強化された傀儡でも効果はあるはずです。
それに、死者であるならなおさらです!
「ぐるぅぅ」
「あきゃぁぁ!」
「抜けろぉぉ!」
二体が重なったまま、短刀を振り抜くと、紫色の煙をたてながら二体とも崩れてぱしゃりと血液に戻って地面へと落ちました。
死霊術は呪いのようなものです。それを断ち切ればあるべき姿に戻ります。
断ち切るという動作が必要ですが、この短刀ならば死霊とは相性がいいはずです。
旦那様からお借りさせていただいているこのフェスマルク家に伝わる短刀『ノーン』は死霊狩りに特化しています。
お化けを怖がる坊ちゃまとエフデ様のために、旦那様からお借りしていてよかったです。
「やるなぁ!妹!俺も負けてられねぇな!」
一兄さんは私のようにフェスマルク家から剣を借りてはおりません。どこかに潜って手に入れたアダマンタイトの剣を使っていますが…あのように重いものを軽々振るっていて、まだ身体強化系スキルをかけていないってのは、信じれません。
「『剛刃』…『一閃落涙』!」
騎士の鎧どころか、周りで襲いかかってこようとした四体ともの胴体をなでるように振り抜くと、摩擦で火がついたのか、四体ともが火柱になり、崩れて血の固まりになり、消えていきました。
「お見事です」
汗一つかいていないどころか、呼吸もそのままです。息切れするとかしないんでしょうか?
同じ『一閃落涙』でも、一兄さんが使っていると私と比べて無駄がないと一目瞭然です。
「そりゃ、奥様に鍛えられてんだ、これくらい余裕だっての」
奥様は特別でしょう。
六体の傀儡を始末したことで、アルシンドがどのように動くのかみれば、なんと髑髏に顔をよせて震えています。
「気持ち悪っ!」
同感です。
「身共の傀儡を!ああ!神の寵愛を身共はぁぁ!身共はぁぁぁ!無駄にしてしまいぃぃ!おお!お許しをぉぉぉ!」
狂ったよう…いえ、狂っているのでしょう。髑髏をなめまわして、赦しをこう姿は正気ではありません。
一兄さんと顔を見合いますが、一兄さんの仕事です。私は嫌です。
目でそういえば、伝わったのか嫌そうにしつつ…あ、あれは一兄さんのよくない癖がでてますね。
「おい、アルシンド。お前が仕えてるクソ魔王はどの魔王だ?」
煽りを受けてアルシンドが止まりました。
強者を煽って倒す癖を直しなさいと父さんから何度も言われていて直さないなんて。まったく、困った兄です。
「クソ?小童。今、なんと申した?」
髑髏をなめすぎたのか、舌でも切ったのか口からやけに濁った血がたれています。
「我が神を愚弄するかぁ!小童がぁ!」
怒りからの、行動なのか、頭をかきむしり、そこからも、出血をおこし、抱えている髑髏が汚れていきます。
「おー、こえー。急にぶちギレんのは歳のせいか?それとも、それもクソ魔王のご寵愛とかいうやつか?気持ち悪すぎて、泣けてくるなぁ」
涙をふく仕草をして、さらに煽っています。
これぐらいはまだましです。
兄妹の中では、一番口が達者な次兄さんの煽り方を知っていると優しいなと思います。心を折るではなく、砕いてきますからね、次兄さんのあれは。
「神よぉ!貴方様を侮辱するこやつを殺してぇぇ!贄としてささげますぞぉぉ!」
アルシンドが髑髏を強く抱き締めてひびをいれていきます。そこから、さきほどより、紫色の強い粘着性もある血液が流れていきます。
「一兄さん。もう少し上手くやれないんですか?」
「いやいや、妹よ…奥様の試練はもっとすげぇんだぞ?」
巻き込まないでください。
奥様の試練とか、一兄さんだけしか受けていないというのに。
こうして話していても、アルシンドにはまったくスキができません。それどころか、威圧が増しているようです。
障壁も切れていないので、術は精神に影響されないと思った方がいいでしょうか?
「ひふみよいつむななや!ここにぞきたれりぃ!招来!護法三頭鬼!」
アルシンドが呼び出した者は異形です。
ローブを着た男です。
ただ、その頭部は三人の顔がついていました。
「魔法使い…ですか?」
三面の男をみて一兄さんが顔色を変えました。
「…うちの愚弟その二ぐらいの魔力か」
三兄さんの魔力は旦那様の次にあります。
魔法使いの実力を図るには、魔力量と契約した精霊の質によります。
魔力量が少なくて弱いなぞありえません。
「身共の傑作ぅ!Aランクの『エルフの末裔ノーデン』『風天のモリア』『炎のアデル』!こやつらはよい贄であったぞぉ!」
二つ名持ち!
しかもエルフの末裔とつけられるということは、元々かなりの使い手だったといえます。
エルフが表舞台から消えて何十年と経ちますが、いまだにエルフ以上に精霊を扱えるのはこの世に一人『法王ティストール』旦那様だけです。
「ドラルインのAランク魔法使いか!」
一兄さんが間髪いれずに斬り込みますが、三面の男の前にも障壁が築かれています!
「うごぉあ…精霊よ…この地に溢れて…敵をうて」
「精霊…風とともに踊りて…わが声を…こぉおぇば…刃にかえ」
「火の精霊…燃えるこどもたち…いざ…あがぁぁ…戦場を」
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「『アースランス』『ウィンドソード』『フレイムボム』」
土でできた硬質の槍に風と炎が絡み付き三つの魔法が一つとなって私たちへと飛んできます。
それも、三つの巨大な塊となってです。
「くかかかか!やれぇ!やってしまぇぇ!」
逃げ場はありません。障壁を壊さねば倒せも逃げもできない。
そうなってやっと一兄さんが本気で動いてくれました。
「ふぅ…『剛力』『金剛心』…『魔刀三撃』」
ようやく身体強化系スキルを行使した技は『剛力』などが事前に使われたとは思えないほど、静かな技です。
脱力しきった一兄さんが軽く剣を構えれば、三つの魔法の塊のは消失しています。
「なぁぜぇ!なぁぜぇ!消えるぅ?」
「ついでだ。『返し刃』!」
剣が十字を刻めば先ほど消えた三つの塊が、三面の男の前に表れ、飲み込んでしまいました。
「がぁぁ」
「あああ!」
「ぐうきゃ!」
断末魔の叫びと共に、衝撃と火柱があがり、そのあとには何も残っていませんでした。
「身共の傑作の傀儡をぉぉ!」
さすがの一兄さんも呼吸が乱れています。
『返し刃』は本来の剣術ではありません。あれは対魔法用の剣術です。
魔力をあまり持たない一兄さんでは、あまり使えませんが、使用された魔法をそのまま相手に返す『剣魔術』スキル。
「なぜぇ!障壁を…いや、まだ、まだぁ…あぁ!神よぉぉ!身共に祝福をぉぉぉ!」
とうとう、持っていた髑髏が亀裂で割れてしまいそうです。
「これだから狂信者ってのは…言葉を使えよ…」
そうして、待ち望んだスキが生まれたのを見逃すことはしません。
「援護頼むぞ!」
「はい!『一刀加速』『一点突破』!」
ただ一点に攻撃を集中させます。
「『一閃落涙』!」
一兄さんが身体強化をした上での『一閃落涙』です!
ですが、剣はアルシンドを斬り倒せません。
「これでも障壁は抜けねぇか!」
「くかかか!これぞ神の御業なりぃ!地脈がある限り!身共は無敵ぃ!」
もうスキを生まれるのを、待つのは体力と魔力を考えれば厳しいです。
いくら、スキルが魔力をあまり使わないとはいえ、それでも魔力がなければ使用できません。
障壁もアルシンドの魔力だけではなく、地脈を使っているとなると、中級精霊でも召喚せねばなりません。
「…仕方ねぇか…どんなことになるか知らねぇぞ?」
一兄さんが剣を地面に突き刺して、かなり嫌そうにしています。
あれを、使わねばならないのはわかりますが、一兄さんは倒れないでいられるんでしょうか?
「全解放…スキル『審判』」
ゴーンと、低い鐘の音が洞窟の中に響く。
それに合わせて様々なざわめきが起こり、子供の大きさ程度の天秤が地面よりうきでてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は昨日の分もあって、二回更新します。
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食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
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