選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
94 / 229
第三章の裏話

追話 エセニアの冒険 ②

しおりを挟む
 ポルティの検問所まで連れてこられ、そのまま奥の個室へと通されました。尋問を受ける部屋だったように思うのですけど、こんな所で会わせたい人とは?

「一兄さん。どなたと私を会わせるつもりなんですか?」

 兄と違って私は犯罪者の知り合いはいないのですけど。

「あー…とりあえず、お客様だと思って接してくれたらいいぞ」
「それは…お屋敷にとってのということですか?」
「ああ…意味はわかるな?」

 兄が珍しく念を押すということは、よほど高貴な方が部屋の中におられるようです。傍若無人が歩いているような人なのに、ここまで気を使うとは、坊ちゃまに関わるどなたかということでしょうか。

「そのような方がどうして私に?」

 私はただのメイドです。身分が高いわけでもありませんし、兄たちのように国へと勤めに行ったことはありません。

 メイドでは兄たちのように出稼ぎはできません。

 たまに勘違いをされた貴族の方が父や母に縁談を持ってきているようですが、兄たちはあくまで出稼ぎです。国に仕えているのではなく、勤めにいっているのですから。

「本当はナザドを…って思ったんだけどよ…あいつ今だいぶキレてるからな。下手に火がつくと国が半分くらい吹き飛びそうでな」
「…勘ですか?」
「おう。奥様も同意見だ。旦那様からは一切の情報を渡すなと厳命されたしな」

 三番目の兄の名前が出ると、少し眉を寄せてしまいます。
 今は人間らしくなりましたけど、血の繋がった兄ながら、あの人は色々と人智を越えることがあります。
 旦那様に一つだけ勝っている属性がある時点で、普通ではありません。

 それに一兄さんが勘といいました。外したことがない勘ですから、国が半分吹き飛ぶのでしょう。
 奥様までもが同意見ならなおさらです。

 坊ちゃまがお屋敷からいなくなってしまったあの事件。
 大事な坊ちゃまのほほを、傷つけた下衆どもは死んだそうですが、あの件を三兄さんが聞いてしまえば、ポルティはよくて半壊…いえ、地図から消えますね。

「坊ちゃまを守れもしない街なんて必要がない」

 などといいながら魔法を行使するでしょう。

 せっかく、あそこまで大きくした街を壊すなんて…もし坊ちゃまが欲しいものがないからと王都なんかに憧れでもしたらどうするつもりなんでしょう。

 古びた大聖堂しかなかった小さな街を建物だけ大急ぎで旦那様と作ったのに、愛着がわかなかったのかしら?
 移民も増えてきてはいますが、引退した冒険者が多いですし、フェスマルク家に逆らう者は街にはいないようにしたのに。

 それにしても、三兄さんの怒りはなかなか下がらないようですね。
 気持ちはわかりますが、深夜に坊ちゃまの部屋の前をうろうろしているのを見かけるのもうんざりなんですが。

「三兄さん、一昨日も坊ちゃまの部屋の前をうろうろしていたの…一兄さんから注意してもらえませんか?」

 一兄さんのいうことなら、多少は聞いてくれる。
 一番はもちろん、坊ちゃまですけど、ケルン坊ちゃまは三兄さんが無理をしているとわかれば、心配をするでしょうし、そうなればエフデ様がケルン坊ちゃまになにかの知恵を貸すかもしれない。そんなのずるいです。
 三兄さんは、好きで出ていったんですから、今さら後悔したって遅いんです。
 それに以前は坊ちゃまに興味がなかったんですから。

「めんどくせぇ…あいつどんだけこじらせてんだよ…」

 そういっていますが、兄妹の中でも拗らせている二人が比べあってもどっちもどっちです。

「一兄さんもでしょ?」

 そういえば、すぐに一兄さんは否定します。長兄だから常に冷静だといいたいようですが、一兄さんはある意味で三兄さんよりも狂暴です。

 次兄さんが一番常識があります。まぁ、あの人も坊ちゃまを素直に甘やかすような人ではないので、ある意味拗らせているのですけど。

「あ?俺は別に…坊ちゃまは俺の主だし…そりゃ、エフデ様は特別だけど…お前だってそうだろ?」
「…うん」

 つい、言葉が砕けてしまいます。屋敷の外ではフェスマルク家のメイドとして言葉づかいには気をつけているのですが…やはり、ダメね。エフデ様のことになると。

「わりぃ」

 一兄さんが謝るけれど、私は気にしていない。それどころな、一兄さんは当時の記憶が鮮明なぶん、私なんかよりつらいはず。
 それこそ、いまだに夢にみるから、王都から走って坊ちゃまに会いにくるのを坊ちゃま以外のみんな知っているもの。
 坊ちゃまと朝食を食べているけど、毎回、坊ちゃんの顔をみるまで青ざめている。

 きっと一生治らないでしょうね。もし同じことがあったら…私もそうなっていたもの。

「いいの…私ね、ミルデイに全部託してるの」
「ミルデイにか?」
「ほら、三兄さんだけでしょ?学園に行ったのって…私も行かせてもらえたけど…なんだか申し訳なかったんですよね」
「そうだな…あのときは、特に…な」

 学園に行くか?
 と旦那様や、奥様に尋ねられた。けれど、私は断った。

 一兄さんのように武の天才ではない。
 つぐ兄さんのように知識に飢えてない。
 三兄さんのように魔法の才能はない。

 私には一緒に行けた幼馴染はいない。
 私だけが行くなどできるわけがない。

「だから、私の代わりっていうのかな?…託しているの」

 でも今は…坊ちゃまとミルデイをみると、もしかしたら、こうなっていたのかな?って、夢をみてしまう。

「それで、三兄さんですが…」

 うっかり外であるのに、家族だけの話をしてしまっていた。
 頭を切り替えないといけません。

 一兄さんについでとして、気になっていたことを聞くことにしましょう。

「三兄さん…まだあの女を生かしてるんですか?」

 あの暗殺者。裏ギルドからやってきたあの女。
 依頼者の情報を得るために引き渡しましたが、両親も私も…できれば己の手で始末をつけたかったのですが…どこで情報を得たのか三兄さんが横からさらっていったらしい。
 尋問が得意とは知りませんでしたが、容赦はなかったでしょう。

 それと、三兄さんの鬱憤晴らしに使われたのなら、きっと楽に死ねないでしょうから。

「頑丈みたいだからな…まぁ、坊ちゃまを二階から投げたんだ。楽にはならんだろうな」
 
 一兄さんが嫌そうな顔をするということは…三兄さんが契約している精霊までもが喜んでいるということですか…同情はしませんが、あの精霊は恐ろしいですからね。

「んじゃ、いいな?…失礼します」

 一兄さんにしては珍しく、一応は声をかけ、返答を待たずに入室していきますが…いいのでしょうか?

「失礼します」

 一兄さんについて入室すれば、せまい部屋に机と椅子が置いてあり、椅子に座った男性が私をみた。

「こんにちわぁ…よくきてくれたねぇ」

 笑みを張り付けたような男性。瞳はまるでこちらを値踏みするかのような感情がこもっていない瞳です。
 貴族…なんでしょうか。気品はありますが、それよりも独特の威圧感があります。

「君がティルカ将軍の妹さん?いやぁ、素敵な妹さんだねぇ」

 男性がそういっているが、世辞だとすぐにわかります。
 しかし、この男性は何者なんでしょう。

「あ、自己紹介をするねぇ…俺はこの国の」

 突然、ぞくりとするほどの威圧感を増して、男性はにやりと笑った

「王様だよぉ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最近、体調がよくない日もありますができるだけ毎日投稿をしますので、よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...