選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
84 / 229
第三章 運命の出会いとケモナー

お茶のあいま

しおりを挟む
 そのまま皇太后様に抱えられ庭の中心に設置された東屋まで連れてこられた。

 大理石の机と椅子をうやうやしく引くメイドさんたち。
 男の人はケルンやエレス様以外にはいないみたいだ。うちみたく執事がお茶を用意しないのかもしれないが、護衛も女の人だったしな。

 年配の方が多いから、おそらく皇太后様に長く仕えているんだろうな。
 若い人はやはり慣れていないんだろう、困惑と皇太后様に抱っこされている見たこともない子供をみて、いぶかしそうにしている。

 わからなくもない。ケルンは、そのまま皇太后様の膝の上に座らされたのだ。

 なんでだ。

 向かい側に座ったエレス様が、にこりと笑い、どうやらケルンはそこから動いてはいけないらしい。
 真っ白の鎧姿の女の人は、何かいいたそうに見ているが、できれば意見をしてほしい。

「美味しい茶葉がちょうど届いたから、運がいいわ」
「あの、えーと、皇太后様」
「…ディアの息子から皇太后様っていわれるのって、なんだか変な気分になるわ…リディおばさんでいいわよ?」

 そうリディ様がいうが、さすがにおばさんとはいえない
 ケルンもそこはわかっているようで、かなり緊張している。

「僕、おります」
「だめよ。せっかく捕まえたんだから、おとなしく座ってなさい」

 捕まえたって…まぁ、リディ様がいいならもうなにもいえない。むしろ、文句をいえる立場ではないからな。

「孫もろくに抱っこもできないのよ?しかも男の子なんてすぐ大きくなっちゃうから、こうやってれるのも少しですもの」
「いやぁ…面目ないですぅ」

 エレス様が後ろ頭をかいて笑っているが、そういや、この人がミケ君やメリアちゃんをもう少しみてあげたら、二人はあんなに悲しまないですんだんだよな?
 王様に会ったら一度話をつけたいと思っていたが、エレス様だもんなぁ…悪い人とはやっぱり思えない。

「仕方ないのはわかってるのよ?…この離宮にあの子たちを預けても結果は同じ…いえ、もっと酷いかもしれない。私は、あの子たち以外の孫はいらないわ。わかってるわね?」
「はい、お母様のおっしゃるとおりですぅ」

 リディ様は厳しい顔で、エレス様にそうおっしゃって、エレス様も口調はふわふわとしているが、目は真剣でうなづいた。
 それから、二、三言葉を返すがケルンには関係のない話だ。臣下の誰々が会いにきたとかな。

 ケルン。そろそろ連絡を頼まないといけないぞ?
「あ、そうだねー」

 なにせ、精霊様のイタズラとはいえ、屋敷から黙って飛んできたのだ。
 直接の原因であるナザドが心配だ。なにせフィオナの息子だからな…無事だよな?

「リディ様。あのね、僕『転移』に巻き込まれてきちゃったの。それでお家にね、連絡をしたいんです」
「ああ、そういうこと」

 ケルンがなんとか伝えると、皇太后様はまるで気にしていないようにケルンの頭をなでる。

「さっきディアに息子が来てるわよって伝えたら、精霊のイタズラで飛んだみたいっていわれたわよ?あと、帰ってきたら慰めてあげてって伝言があるわ。気絶させたから無事って、なにをかしらね?」

 眉を寄せて考えているところ申し訳ありません。
 気絶しているのはうちのナザドです。
 どうやら、無事みたいだ。気絶は無事に入るから大丈夫。

 それに気絶させたってことは、カルドあたりかな?うん。だったら、母様の判断だと思う。
 いやに来ないなとは思ったけど、気絶させられていたら、仕方ないな。というか無難だな。
 下手にナザドが思いつめてるより気絶してくれている方が何倍もマシだしな。

 それより、皇太后様はいつ母様に連絡をしたのだろう?そんな素振りはなかったんだけど?

「ふふっ…そういうところはティスに似てるわよ?…どうやって伝えたか知りたいんでしょ?」
「リディ様すごい!当たり!」
こら、ケルン!敬語! 
「あ…ごめんなさい。敬語が苦手で」
「いいのよ?ディアやティスの子供ですもの。むしろ、少なくてもディアよりは礼儀をわきまえてるわよ?あのお転婆姫より、ね」

 リディ様な口から信じれないようなことを聞いてしまった。
 あの母様をお転婆なんていう人を初めてみたぞ。しかも、母様の礼儀作法は完璧なのに。

「ティスと結婚する前はいつも木の棒をふっていてね…男だったら今頃クレエルで皇帝でもやってるんじゃないかしら?」
「母様が?」

 信じれないと、口を大きくあけてしまった。そりゃ、ケルンの驚きももっもだ。母様にそんなときがあったとは思ってもいなかった。

「…あの子どんだけ息子の前で猫を被ってるのかしら?」
「ディアおばさんはぁ、優しいけどぉ?ね?ケルン君」

 エレス様の言葉にはすぐうなづいた。母様は優しい。そんな木の棒を振るような人には見えない。

「今でも思い出すわ…私があの人…先王陛下と恋をしていると話して、あの子もティスと恋に落ちて…父を縛ってふんづけて『二人の結婚と私たちのデートを許可して!伯父様!いいわね!』って…一国の王を二人も縛ったのって、ディアだけじゃないかしら?」
「お祖父様がよくいってたなぁ…フェスマルク家の奥方に逆らってはいけない。ってぇ」
「父も義父もあれで懲りたようだもの。でもさすがに舞台とかじゃ、もう少し美化したみたいだけど、実際はす巻きよ、す巻き」

 昔話で会話が弾んで笑顔になるのは、とてもいいことだと思う。
 ただ、思うのは母様なにやってんの!

 舞台ってなんのことかわからないが、そうじゃなく、どうやって伝えたかってことなんだけどな。

「あのぉ…それで、どうやって、母様に連絡をしたんですか?」
「ああ。ごめんなさいね。歳をとるとすぐに脱線しちゃうのよ…私は『伝心』っていうスキルを持っているの」

『伝心』?聞いたことがないな。

「元々は同じ血筋の人間とか、仲間に心で思ったことを伝えるスキルでね、クウリィエンシアの王族にたまに出るのよ」

 テレパシーのようなものか?でも血筋のみってのは、特殊だな。

「先王も私の先祖も同じ初代クウリィエンシアの血を引いているから、それで連絡を私がしていたのよ。で、ディアは私の従妹。すぐに連絡をしたってわけ」
「疲れたりしないんですか?」
「スキルを使うから、少しはね…でも『コール』よりは断然楽よ?魔力が多い人は『コール』でしょうけど、あいにく私は魔力が少ないの。それに『伝心』だと距離も関係ないから重宝しているわ」

 リディ様のスキルっていうのは、限定的ではあるけど、かなり使い勝手がいいな。
 まぁ、ケルンは魔力がかなりあるし、王族の…あ、そうか。母様に使えるから、ケルンにも使えるのか。

「僕にもリディ様はお話しできるんですか?」
「もちろんよ?あんまり血筋が薄いと難しいけど、ケルン君ならお話しできるわよ?」
「お母様…ずるいですよぉ。ケルン君。おじさんともお話しをしてくれるよねぇ?」

 エレス様がそういうが、いや、貴方王様じゃないか。リディ様はまだ皇太后様だし…いや、偉い人なんだけどな?王様の方が話をしにくいと思うんだけど。

 お茶の準備をしているメイドさんたちも困惑しっぱなしだろう。

 それとなく、やんわり…えーと、優しくお断りしなさい、ケルン
「えーと、エレス様は」
「おじさんでいいよぉ?あ、お義父様でもいいよぉ?うちの娘と結婚するんでしょ?」

 エレス様は突然そんなことをいった。
 そんなことをいうもんだから、若いメイドさんが茶器の音をたててしまい、年配の人に睨まれてしまったぞ。

「…初耳なのだけど」
「俺も二人からぁ『将来を考えて』なんていわれましてぇ…婚約の儀とかいつ頃がいいのかなぁ?っておばさんと相談しようと出たんですよ…『転移』に失敗したんですけどねぇ」

 こ、婚約!?いや、まだ文通からってお話しをですね!というか、ケルン、二人と結婚かぁ!って喜ばない!少なくてもミケ君は男の子!メリアちゃんは皇女様なんだから!

 ケルンをたしなめていると、リディ様が声を荒げてエレス様を叱りだした。

「まさか、魔法を貴方が?…立場を考えなさい!貴方は王ですよ!…今、貴方に何かあれば…」
「申し訳ありません。お母様。必要があったのです」
「ですが」
「頼むわけにも行きません。どこに目があるかはわかりませんからね…まぁ、結果は今の状態なんでぇ、よしとしてくださいねぇ」

 ふわりと空気ががらりと変わったが、さっきまでのエレス様は、雰囲気が違った。
有無をいわせない。あれが王としてのエレス様なのかもしれない。逆らえないとリディ様ですら思ったのか、それ以上の反論はなかった。

「あ、そうだ。ケルン君。あとで先生…君のお父様の職場に行ってみようか」
「父様の?」

 父様の職場か…なにをしているんだろうな。どんな仕事かも聞いたことがないから、興味があるな。

「仲直りするためにもぉ、お父様のお仕事をみておくのはおすすめだよぉ」

 お茶のよい香りを漂うなかで、ケルンはこくりと縦に首をふった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...