上 下
79 / 229
第三章 運命の出会いとケモナー

それはまぎれもなく

しおりを挟む
 馬車でものんびりとした会話は続いていた。
 ミルデイは最後まで猛反対していたが、不審者としてだ。やはりお兄さんのことは、悪人とは思えないのだ。

 屋敷につくなり、すぐに作業場に向かった。
 あの偽マルメリーに荒らされたあと、だいぶ改築をした。本棚とか、ヴェルムおじさんが使っていた寝る場所を、将来ケルンが大人になっても使えるように広くしたりした。
 作業場自体も、前の倍くらいの面積になっている。

 一応、エフデの部屋ということで、エフデ宛の手紙や贈り物を置いてあったりもするが、そういったものはほとんど屋敷の使っていない部屋に押し込んでいる。
 引退をしようとしたときの嘆願書とかたくさんあるからな。

「そこそこ大きなお屋敷なんだねぇ」

 そこそこ?
 お兄さんの屋敷をみたときの第一声だ。うちってやっぱりお金ないのだろうか…。

「お兄さんの住んでるところはどんなところなの?」
「俺の住んでるところぉ?んー…外からみるとぉ、きらきらしてるよぉ」

 作業場に行きながら、お兄さんと話をする。ミルデイは告げ口をしないように、右手に確保している。
 馬車は屋敷の馬車置き場に置けばいいし、馬は離せば勝手に森に行くからだ。

 お兄さんは内緒で泊まらせるんだと決めている。
 ケルンがここまで怒っているのは父様が話してくれないこともだが、もう一つ理由がある。それで、俺もケルンの行動をあまり抑えるつもりがないのだ。

「でもいいのぉ?おじさんを泊めてもぉ?」
「いいの!父様は友達を呼んじゃダメ!っていうから、友達じゃなかったらいいの!」
「んー。おじさんも、君のお父様は、厳しいなぁって思うけどぉ…」

 馬車でも愚痴っていたことだ。
 ミケ君とメリアちゃんと遊べない。そのことが、やはり一番ケルンは怒っているのだ。

「王族だから早々会えない」

 そう父様がいうのを信じていたが、ミケ君とメリアちゃんの手紙では、お茶会に誘ったけれど、絵の勉強で忙しいと断られたが、そんなに頑張ったいるなら、作品をぜひみてみたいと書いてあった。

 お茶会の話なんて知らない。
 父様にそのことを聞いたらいわれたのだ。

「王宮にはあがってはいけないから、断った」

 大泣きしたケルンが初めて父様なんて嫌い!っていったもんだから、父様は三日ほど仕事に行かなかった。仲直りはしたが、まだ色々とくすぶっているのだ。
 母様も王宮には行かない方がいいというが、それなら我が家に招けばいいと提案してくれたのに、それも父様はあんまりいい顔をしなかった。

 友達を家に招いたらダメなのかと聞いたら、ミケ君の立場が問題らしい。

 ミケ君は皇子だ。立太子をまだしていないが、立場としては皇太子であり、次期皇帝。
 ただ、どうも身の回りがきな臭いことだらけで、ケルンを近づかせたくないらしい。ミケ君を嫌ってではなく、ケルンにまで危険が及ばないようにとの配慮だ。

 一応もう少ししたら遊べる予定とは手紙でも書いていたがこのことから、あまり信用できていない。

 そのことは、ケルンにも俺から伝えてはいるが、まだ子供だから、家にいたら大丈夫じゃないの?ダメなの?とずっといい続けている。
 しかも、俺のためって気持ちもあるから、諦めるように強くいえない。

 早くいつもどおりのケルンに戻ってほしいが、俺の存在がなくなりかけたのがここまで影響するとはな…俺はあくまでケルンの一部だ。知識が自我を持っているだけだ。主人はケルンであるし、俺はいうなれば、スキルの一つのようなものだ。
 俺は人ではない。だというのに、ケルンは俺を人というか、一つの個としてみている。
 いずれ消えるとき、どんな風になるかはわからないが…変に俺の存在のせいで傷にならないといいな。

 お兄さんは、そんなケルンを困ったようにみながらいう。

「あんまり、お父様を嫌っちゃだめだよぉ?お父様はね、君が大事なんだよぉ。貴族って危ない人もいるし…俺も娘たちには幸せでいてほしいと思ってるけどぉ…なにもできない駄目な父親なんだぁ」

 途中からだんだん涙声だなって思っていたら、ポロポロとまた泣き出したらお兄さんを作業場に連れ込んで、少し話をした。

 お兄さんも、自分の父親が厳しくて、大嫌いだったらしい。それこそ、何年も口を聞かないほどだったそうだ。
 父親のせいでお兄さんの先生のお子さんが亡くなって、しかも大好きなおばさんの子供でもあったから、凄く恨んだそうだ。
 お兄さんはその子を自分の弟みたいに思っていたけど、父親の命令が原因で亡くなったそうだ。
 それからおばさんもあまり遊びに来てくれなくなった。それが悲しかったそうだ。

 そして、父親が病気になっても一切会わなかったらしい。
 いよいよ亡くなる直前に会って、こんなにも小さい人だったのかと驚いたそうだ。こんな小さな人が家を取り仕切っていたのかと。
 最期の会話は、謝罪と、どれほど会いたかったという言葉だったそうだ。

「俺のねぇ、お父様とお母様は、すごく仲がよくてねぇ…二人の愛の証は、お前なんだってずっといっててね…お父様ってば、最期のときもいってたんだよぉ。自分たちの愛に形があるなら、それはお前だって…それでねぇ、俺も子供ができて思ったんだぁ…子供には幸せでいてほしいってぇ。だって、愛って幸せの塊なんだものぉ」
「僕の…父様も…そうなのかなぁ?」
「んー?君は愛されてないって思う?」
「ううん。それは…違うと思う。父様も母様も…みんな大事にしてくれてる」

 お兄さんは、とても優しい顔でケルンをみる。

「じゃあ、君も愛の証だねぇ…もちろん、君もだよぉ」

 ミルデイにもお兄さんはいう。ミルデイが少し照れたように目をそらした。
 ケルンの中でくすぶっていた気持ちも少しは消えていったようだ。

「…ちゃんと父様とお話する」
 それがいいな。ゆっくり、たくさん話そうな。

「あ、じゃあそのときは、おじさんも挨拶するねぇ。いやぁ、知ってる人だったらどうしよう、あははは」

 お兄さんはそんな冗談をいって、笑っているが、父様を知っているかはわからないな…有名ではあるから、知ってるかもしれないか。世界一の魔法使いらしいからな。

「とりあえず、お兄さんここで待っててねー。お布団とかご飯とか頼んでくるから」
「わぁー。ありがとぉ!」

 作業場にお兄さんを残してミルデイと二人で屋敷にむかう。
 エセニアか、フィオナに布団を頼んで、カルドを通してハンクに食事の追加を頼めばいいか。

 カルドとエセニアは帰りをいまかいまかと、待ち構えているはずだ。ポルティのあとに、作業場に行くのは何回もやっているが、二人はまだ顔をだしていない。
 二人とも屋敷の中で待っているのだ。

 これは頼んだのだ。屋敷の外で待っていたらミルデイを信頼していないように思えるから、待っててほしいと。

 ミルデイは完璧に執事ができるほど頑張ってきた。あとは自信だけだからな。

「ミルデイ。今日もありがとう!」
「いえ…坊ちゃま。あの方は不思議な人ですね」

 ミルデイもお兄さんに危険性がないと判断してくれたようだ。
 そうなると、やはり気になるんだよなあ。

「うん…いい人だと思う…でも、なんかお兄ちゃんが、みたことあるっていうんだよねぇー」
「エフデ様がですか?坊ちゃま、どこかでお会いしたことがありますか?」

 エフデ様とはいうが、ミルデイはエフデがケルンであると知っているから、後半はケルンへの確認だ。

「ないよぉ?お兄ちゃんがいってるんだもん」
 いや、ケルン。お前だって思うだろ? 
「あ、でも、あのね」

 ケルンがいいかけた言葉は飲み込まれた。
 突然の浮遊感。
 そして。

「坊ちゃま!あー!坊ちゃま!坊ちゃま!あー!坊ちゃまがいらっしゃるぅ!今日も世界は明るいです!」

 やつがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

ローゼンクランツ王国再興記 〜前王朝の最高傑作が僕の内に宿る事を知る者は誰もいない〜

神崎水花
ファンタジー
暗澹たる世に一筋の光明たるが如く現れた1人の青年。 ローゼリア伯フランツの嫡子アレクス。 本を読むのが大好きな優しい男の子でした。 ある不幸な出来事で悲しい結末を迎えますが、女神シュマリナ様の奇跡により彼の中に眠るもう1人のアレク『シア』が目覚めます。 前世も今世も裏切りにより両親を討たれ、自身の命も含め全てを失ってしまう彼達ですが、その辛く悲しい生い立ちが人が生きる世の惨たらしさを、救いの無い世を変えてやるんだと決意し、起たせることに繋がります。   暗澹たる世を打ち払い暗黒の中世に終止符を打ち、人の有り様に変革を遂げさせる『小さくも大きな一歩』を成し遂げた偉大なる王への道を、真っすぐに駆け上る青年と、彼に付き従い時代を綺羅星の如く駆け抜けた英雄達の生き様をご覧ください。 神崎水花です。 デビュー作を手に取って下さりありがとうございます。 ほんの少しでも面白い、続きが読みたい、または挿絵頑張ってるねと思って頂けましたら 作品のお気に入り登録や♥のご評価頂けますと嬉しいです。 皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。どうか応援よろしくお願いいたします。 *本作品に使用されるテキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。 *本作品に使用される挿絵ですが、作者が1枚1枚AIを用い生成と繰り返し調整しています。  ただ服装や装備品の再現性が難しく統一できていません。  服装、装備品に関しては参考程度に見てください。よろしくお願いします。

婚約破棄されたのだが、友人がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ・ロレーヌ・ローザリア。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを王族に迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国第2皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第2皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。乙女ゲーム転生要素入れてみたのだけど。 キャラ名は使いまわしてます← …やっぱり、ざまァ感薄い…

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

聖獣王国物語~課金令嬢はしかし傍観者でいたい~

白梅 白雪
ファンタジー
乙女ゲームにハマっていた結城マナは見知らぬ者に襲われ、弟ソウシと共に異世界へ転生した。 目覚めれば見覚えがあるその姿──それは課金に課金を重ねて仕上げた、完璧な美しき公爵令嬢マナリエル・ユーキラスであった。 転生した異世界は、精霊や魔法が存在するファンタジーな世界──だけならまだよかったのだが、実はこの世界、弟のソウシが中学生の頃に妄想で作り上げた世界そのものだという。 『絶世の美女』『自動課金』というスキルを持つマナリエルと、『創造主』というスキルを持つソウシ。 悪女ルートを回避しようとするも、婚約破棄する気配を一切見せない隣国の王太子。 苛めるつもりなんてないのに、何かと突っかかってくるヒロイン。 悠々自適に暮らしたいのに、私を守るために生まれたという双子の暗殺者。 乙女ゲームかと思えば聖獣に呼ばれ、命を狙われ、目の前には救いを求める少年。 なに、平穏な生活は?ないの?無理なの? じゃぁこっちも好きにするからね? 絶世の美女というスキルを持ち、聖獣王に選ばれ、魔力も剣術も口の悪さも最強クラスのマナリエルが、周囲を巻き込み、巻き込まれ、愛し、愛され、豪快に生きていく物語。

処理中です...