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第二章の裏話

追話 フェスマルク家の家族会議

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 いつもは和やかにお茶会を楽しんでいる広間。だというのに、お茶を楽しんでいるようではない。
 手元には口をうるおすためにいつもどおりのお茶を用意されている。
 
 フェスマルク家当主、ティストール・フェスマルクは自分の妻の髪色に似た紅茶を見つめ、かたわらで常の微笑みとは異なる微笑みを浮かべる最愛の妻へと恐々と声をかける。

「なぁ、ディア。そこまで怒ることはないと思うんだが?」
「ティス。私だって怒るときは怒るわ」

 よほどのことがない限り妻がこうも自分へ怒りをぶつけることがないので、彼はどうしたものかと思案していた。
 広間には、料理長のハンク。庭師のランディ、メイドのエセニア。そして執事長のカルドとメイド長のフィオナの三男ナザド以外が集結していた。

「ティルカも私と同じ意見よね?」

 ディアニアは壁際で不機嫌そうに腕を組んでいる姿の男に問いかける。

「旦那様には申し訳ありませんが…俺も奥様に賛成ですね。嘘でも俺はそんなことを認めるのは嫌です」

 ティルカは不満気な様子のまま答えた。その様子に、眉をカルドはぴくりと動かすが、主人への答え方が気に入らなかった半面、自分の息子の主人はこの場にいない幼く、屋敷の宝である方だと脳裏に浮かべ、叱責しっせきはしない。
 広間の扉をたたく音と入室を求める声がする。ティストールが許可を出すと、メイドが入室して頭を下げた。 

「坊ちゃまはお昼寝をなされました」

 入ってきてメイド、エセニアに向けてディアニアは多少温かみを戻した笑みを浮かべた。

「エセニアも戻ってきたことだし。もう一度、話し合いましょうか。私のかわいい息子のことを…エフデのこともね」



 そもそも事の発端になったのはドワーフたちである。
 先のリンメギン国元帥のフェスマルク家襲撃は、国内外にすでに広まっている。その後のリンメギン国の対応も少しは情報を流すしかなかった。

 憎々しく思っているのが丸わかりなほど、ティルカは報告を続ける。

「あのドリュフとかいう馬鹿がポルティでも、エフデはドワーフの宝を盗んだ盗人で、そのような者の作品は全て回収だとか勝手なことぬかししやがって…画材屋と孤児院を荒らしやがるし…」

 ケルンがいつもよくしてくれているからと、画材屋にエフデからのお礼として真筆しんぴつの絵を一枚送っていた。
 騒動の発端になったペガサスが空をかけている絵だったが、目の錯覚か翼が動いて見えるという技法が組み込まれていたのだ。画材屋にはその絵を見るために、王都からも観光客がくるほどになった。

 孤児院へは、ケルンが常に絵本などができたときに、無償で送っている。お礼の手紙の中でお願いされたペギンくんが他の登場人物に囲まれて遊んでいる姿を描いた。子供たちはすごく喜んだのだ。
 
「どちらも元冒険者が営んでいるから、怪我人はいなかったし、旦那様が盗難防止の魔法をかけてくださっていたから、ことなきを得ているが…あそこまで騒がれて、エフデがドワーフにとって重要っていうのはばれない方が無理ってもんだ。観光客も見てたようだしな。だろ?」
「実際、過激派の中にはエフデはフェスマルク家に幽閉されていて、無理やり創作させられているって話も出てはいます」

 ティルカが弟に尋ねる。キャスが眼鏡を触りながらその場にいる人間へと伝える。

「それだけではありません。エフデとして冷風機を配ったことで、軍部の一部が軍事利用をしようとしている動きがあります…まだ、尻尾は掴めませんが」
「そのことで報告が。どうやら裏ギルドに依頼が出ているようでした」
「裏?またか」

 カルドが報告として伝えた言葉に、ティストールは面倒くさいというのを隠しもしないで手を振る。

「あそこの連中はほとんど、をしたんだがな。まだ受ける馬鹿がいるのか?」
「流れ者が受ける可能性はあります。そのための裏ですので」

 冒険者稼業をしていた者が犯罪を起こすなどをして国から指名手配を受けた場合、冒険者組合から抹消される。そうなると正規の仕事は受けることはできない。そのため、何かしらの犯罪行為を行ってきた冒険者は独自のルートで依頼を受ける。
 その元締めとも呼べる裏には、暗殺者なども多く在籍している。表立っては扱えない情報を売る情報屋もいるのだ。

「ご安心ください。情報操作により、坊ちゃまの安全は確保されております…ただエフデの人物像が流出しているようです」
「どのようにだ?」
「それが…若いドワーフであるとか、ドワーフの混血であるとか、若いエルフであるとか…腹正しく思いますが、旦那様が愛人に産ませたお子であるとか…それから…二十数年前に、秘密裏に死産した子供を精霊の奇跡で蘇らせ…そのことを隠しているとかです」

 カルドの最後の言葉に、何人かの目の色が変わった。その一人でもあるティストールは深くため息をついた。

「だからこそ、私はエフデをだな…うちとは関係ない。それこそエルフとかだと」
「反対よ」

 すぐに否定され、言葉につまる。 

「ディア…だがな」
「あのね、ティス。ケルンがいってたのよ。エフデは自分だけど、家族なんだって。私はね、かわいい息子を嘘でも他人なんていいたくないわ」
「だが、それだとケルンにも危険があるかもしれないんだぞ?それは君も嫌だろ?」
「もちろん、そんなのは嫌よ。でもね、エフデがケルンだと気づかせなきゃいいのよ」

 二人の共通した心配事は、息子に害がおよばないかということだけだ。

「どうするんだ?」
「せっかく、私の産んだ子って噂があるんでしょ?それに付け加えるのよ。ケルンではないってことだけはっきりさせればいいの。それをカルド、流してくれる?」
 
 ディアニアは人外の美貌に勝利の笑みを乗せた。それは女神が微笑んだと思えるほどの自信と神聖さを感じさせた。

「どのような内容になさいますか?」

 見慣れたとはいえ、多少のめまいを覚えるほどの笑みをカルドはなんとか耐え抜いた。

「そうね…体が不自由で自由には動かせないけど、家族に囲われてて、年の離れた弟を弟子にして、あっと驚くことをいきなりしはじめて…家族が大好きで、動物がたまらなく好きで」
「おいおい、それだとケルンじゃないか」

 妻の言葉をきいていると命よりも大切な息子の性格そのままになってきているのに気づき、思わず苦笑する。

「あとは、なんでも自分が背負いそうな子なのよね、エフデは。長男体質っていうのかしら?たまに考えすぎてるけど…ケルンがいれば平気よね…」

 ぼそぼそと呟いた言葉に頷いたのはティルカだけであった。

「まぁ、あとはそうね…ドワーフではないわね」
「そうだな」

 その場にいた全員が頷いた。
 嘘でもドワーフと流して信じられてしまえば、ただでさえリンメギン国からの婚約者希望が増えるのは明白だからだ。
 フェスマルク家と関係ないといえば喜んでエフデを連れていきそうだなと、全員の脳裏に浮かんだ。
 そのこともあって、みなの意見は一つの方向にむかう。それとは別に懸念していることが一つあった。

「あと噂の伯爵の件は?」
「ああ…フレーシュ伯な…人となりを知っているが…そんなことをする人ではないと思ったんだが…隷属の可能性もあるし…もう少し調べたい」

 ティストールは酷く残念そうな表情をした。
 裏で嗅ぎまわっているのがフレーシュ伯ではないかという証拠がいくつかでてきたのだ。
 一番は、エフデが酪農家に贈った冷風機の紛失が最初に起こったのが、フレーシュ地方で、その後もフレーシュ伯の関係者が訪れた場所付近の冷風機が盗難被害にあっている。

 資金提供ができるほどの財産を有している伯爵ならば、可能かもしれない。

 牛以外、取り柄のない領地。そういわれていたフレーシュ地方がほんの十数年前に、砂糖が作られるようになるや、領地の規模が一変した。
 これまで砂糖は国内での生産はほとんどなく、他国からの貿易で成り立っていた。それが国内で砂糖が生産できるようになり、それにともなって様々な甘味が開発され、いまではフレーシュ地方は王都の乙女たちと、甘味好きにとっての憧れの地へと代わり、観光地にもなっていた。

 そのため、皇国でも有数の資産家となっている。

「いきなり領地改革をはじめて、わずか数年で伯爵領を我が国最大の農産地や観光地に変えたのだ。そこまで何世代もかかることを数年でだぞ?…いったいどのようなからくりなのだろうな…」
「お子さんが優秀だった…って可能性もあるわね」
「うちみたいいにか?」
「そう、我が家の坊やみたいにね」

 くすくすと広間に笑い声が響き、ディアニアの意見に従うように動くこととなった。
 解散となったとき、いつもはこっそりと寝顔をみにいく人物が帰ろうとしているのに気付いたディアニアが声をかけた。

「あら?ケルンの寝顔をみて帰らないの?」
「坊ちゃまの前でこんな姿をみせたくないんで…いつまでこの仕事をすればいいですか?」

 とても嫌そうに、今すぐにも軍服を脱ぎたいと顔に出ているティルカの様子に思わず笑みがこぼれた。

「そうね…もうしばらくは頑張って。師匠命令よ!がんばりなさい、ティルカ将軍!…ふふっそんな嫌そうにしなくても、ケルンと遊ぶのはいつでも許可したでしょ?」
「…わかりましたよ、奥様」

 自分の唯一の弟子でもあるティルカがカルドに勝てたときの約束をディアニアは覚えていた。ただ、師匠である自分から一本を取るまでは、ティルカには軍を押さえてもらう予定なのだった。

 フレーシュ伯爵から娘、砂糖の生産方法の確立や様々なお菓子、それに伴う領地改革の案をだした、マルメリーが花嫁修業にくることが決まる数日前のことだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マルメリーはケルンと同じ転生者です。ただ、ケルンと違うのは農家の娘そのままに転生したってことですね。

『豚と呼ばれた私が田舎貴族の娘になりました。団子ください』

というタイトルできっと農家の娘の知識と、食へのあくなき探求心で領地改革したんでしょう。
生前は結婚も諦めて、農場と牧場の経営を頑張っていたんでしょうが、馬に蹴られて気づけばモフーナに転生しちゃったのでしょう。チートもなにもなく、ただ、雑学とか家畜関係の医学を知っていて、なんやかんやがあったのでしょう。

裏話は、本編のケルンやエフデ視点ではないので、こんなことがあったのかっていうぐらいの流しで大丈夫です。ただ、知っていると面白いと思います。
隠しコンセプトに勘違い物ってのもあるので。

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