選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第二章の裏話

追話 ある副官の手記 ②

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 本日の記録

 今日は非番であった。
 なのに、私は任務につくことになった。上官の命令でだ。

 本日は、私は非番であったということで、前々から計画していた王都での観劇を満喫するはずだった。
 私がまだ、二歳の頃にあった大戦を基にした、今話題になっている舞台であった。
 
 光の王を顕現させたというフェスマルク家当主であられる、法王ティストール様のお話ということで、心待ちにして非番を待っていたのだ。
 物語も佳境かきょうをむかえ、ついに、裏切りの国へ精霊達の怒りが落ちるという場面で、いきなり『コール』がかかった。

「俺だ。今すぐ任務についてもらう」
「自分は、非番であります」

 小声で返答するが、上官の命令には逆らえないのは、わかっていた。だが、非番である私でなくても部下は何人もいるではないか。

「そういうな。命令ではなく、お願いなんだからよ」

 苦笑混じりでの申し出を断ることはできそうになかった。

「はぁ…わかりました。何をすればいいですか?」
「ポルティの…そうだな…刃物を持っていて、気絶している者が、勾留されているだろうから、仕事場まで、連行しろ。数は…二人、いや、三人ぐらいか。お前は俺が行くまで、待ってろ」

 ポルティといえば、馬で二時間近くかかるのだが、上官のご実家といえばいいのか、使えている主家近くの町である。何事か不穏なことがあったのだろうか。
 その時の私はそう思った。

「あと、尋問するから、地下室あけておけ。見つかったら、連絡寄越せ。以上だ。ああ、観劇は最後までしておけ。命令だ。楽しめよ?」

 観劇を終えて、私は任務についた


 本日の記録

 本日は…いや、今日は、あれほどまでに胸糞の悪いものをみたことがない。
 上官の勘の良さは、スキルによるものであるから、疑いがなく、いわれたとおりの人物三人を勾留所から、駐留地へ連行した。
 上官は詳しく話さない方だが、決して、間違って処罰をするような方ではない。

 上官は、何やら祝い事があったらしく、いつもなら、深夜でも尋問をなされるのだが、終わるまでは来られないと申された。時間的にも翌日に来られると思った私は軽く尋問をした。

何故なにゆえ、あの場で倒れていた?」

 おそらくリーダー各であろう細身の男に質問する。
 だが、この男は、ただ者ではないのは、すぐにわかった。街中で気絶するようゴロツキではない。目を見れば、殺人鬼特有の狂気に満ちていたのだ。

「さぁな。仕事を終えて…ああ、品物を売っていた。他の奴も同じこといってたろ?俺らは普通の商人だよ」
「品とは、何だ?」
「何でもさ。珍しくて、金になるものなら、何でも。商売相手も様々でな。何を扱っているかと聞かれると、何でも屋と答える」

 すでに、こいつらの容疑は、容疑ではないことなど、調べがついている。
 盗み、恐喝、誘拐、殺人。それだけでも外道であるが、この男には、さらにもう一つの容疑がある。ことと次第によっては、国王直々に裁きをする可能性がある。

「そうか、では…貴様達の所持品に、さる貴族の紋章が入った袋があったが、どこで手に入れたものだ?」

 この男達がもっていた大金の入った袋には、この国で、いや、他国でも比べる相手のいない魔法使いであり、建国貴族、序列三位のフェスマルク家の紋章が刻まれていた。
 フェスマルク家に手を出せば、精霊が怒る。
 そう建国当初よりいわれ続けるほど、高い魔力を持っている。それだけでなく、執事におさまっているが、かの影狼かげろうの主の家に侵入するなど、普通ならばありえない。

 だから、私は気になった。そして、質問をしたことで、気分が悪くなった。

「へぇー…あのガキ…やはり、いいとこのガキだったか…おしいことしたなぁ…」

 男の目の狂気が増した。

「俺は金に興味はねぇんだよ。ただ、相棒に化粧してやりたくたくてなぁ…」

 腰元を触るが、刃物は全てとりあげていた。刃の部分はとりあげていたが、持ち手には、血が渇いてこびりついていた。私が持つ『鑑定』スキルでは、最低でも、四十人以上…それも子供と若い女性ばかりの血が付着しているのがわかった。そのほとんどが…死んでいることもだ。

「若い女もいいが、やはり、貴族の子供の肌は違ったな!あんなにも柔らかくて、綺麗に血が流れてたんだ…ああ、惜しいことしたなぁ…」

 フェスマルク家に、待望の嫡男が誕生したことは、建国貴族の家の者全てが知っていた。
 魔力の高さからも、血統が断絶する可能性が高く、先の内乱のおりなど、先代当主と奥様が戦場で亡くなり、現当主のみを残すだけとなり、建国貴族序列三位の血が絶えると思われた。
 
 そこに産まれた若君は、一部の貴族のみが存在を知っている程度にとどまっている。
 他の貴族は養子だと思っているようだが、実子だ。
 まさか、若君に手を出したのかと、戦慄を覚えると、扉が閉まる音が聞こえた。不思議と開く音は一切しなかった。

「ほぉー。そうか。惜しいことをしたな」
「上官!」

 上官が、笑って立っておられた。いや、あの笑みは魔族を前にした時もみた、あの獲物を得た獣の笑みだった。

「いやぁー。悪いな。非番なのに、頼んでしまって。まさか寝ずに調書を書いてたのか?少し寝てこいよ。ここからは、俺が調書を書くからよ」
「はい、自分は側におります。どうぞ、調書をなさってください」

 軍属というものは、否定する時も肯定せねばならない。もちろん、命令であっても、私は離れる気などなかった。
 上官は冷静ではない。
 私のスキル『推察』は、少しの情報があればわかってしまうのだ。

「寝てきていいっていってだがな…まぁ、いいか、さて、ハサミ野郎の名前は…ガーネイねぇ…出身は不明と…ふーん…」

 偽名であるのはわかっている。しかし、上官のスキルなのだろうか?ハサミを使うことがわかったのだろう。他にも刃物がある中で、よくおわかりになったものだ。

「ああ、そうだ。お前、ハサミで、子供を二人傷つけただろう?」

 椅子に座りつつ、上機嫌に尋問を始める。上官のスキルの一つが、展開されていくのが、わかる。
 魔法にも似たこのスキルは、間違いなく『審判』だ。質問に答えると、嘘偽りがつけなくなる、尋問官でも、少人数が持ち、誰が持っているか秘匿される。
 上官のスキルのことは、聞いていたが、いざ目の当たりにすると、こうも楽になると思わなかった。
 光のない瞳になって、ガーネイは語りだした。

「蛇のガキと貴族のガキのことか?…ああ、やったよ。蛇の親も殺した。捕まえた蛇のガキは、いくらなぶっても、泣きもしねぇが、貴族のガキは、ちょっと斬ったら、ビービー泣いてよー…楽しかったぜ?興奮して思わずいっちまいそうだった」

 尋問部屋に汚い笑い声が響いた。

「そうか」

 上官は、冷めた声を、笑顔のまま放った。

「どうせ、貴族を傷つけたら、良くて奴隷。悪くて死刑なんだ。あーあ…最期にあのガキの腹を切り裂いて、泣き叫ぶところがみたかったんだがな…惜しいなぁ…」

 男は恍惚な表情を浮かべていた。
 上官は、拳を作り、人差し指をあげる。

「一つ、この国では、三十年も前から奴隷の売買は禁止されている。また、獣人保護法もあんのは知ってるか?」

 次は中指だった。

「それから、建国貴族に手を出した奴は死刑だ。これも知ってるな?」

 次に薬指を。

「ああ、最期にもう一つあったな…俺の主を傷つけた罪は、ただ死ぬだけではすまさねぇからな」

 そういって、拳を握ると、ガーネイはうめき声をあげて、体を震わせ、頬を掻きむしり、両の指全てがあらぬ方向へとまがり、気絶した。

 ああ、上官はスキルを使われたようだ。私も詳しく知らないが、一人で魔族の子爵を討伐したおりも同じスキルを使われていた。
 主の敵を滅ぼすスキルとは、どのようなものであろうか。

「生きて、死ね。死にながら生きて、殺されても、死ねず、腐りながら生きて、死ね。魂すらも、死ね」

 まるで呪いをかけるように、酷く陰鬱いんうつな声音でガーネイに語りかけた。
 いつもの太陽のような声からは想像もできない。
 私は、あえて上官に尋ねた。

「上官、他二名はどうなさいますか?」

 上官は、興味がなくなったように、軽く手をふられた。

「国の法で裁け。俺は、調書をまとめる」

 そういって、ガーネイを牢へ連れていくように命令をくだされたあと、私に申された。

「そうだ、副官。少しは強くなったか?」

 私は何も答えれなかった。どうすれば、いいのかわからない。

「まぁ、お前もよくやってる。だが、まだ弱い」

 いつか、上官と肩を並べて任務をこなせる日がくるよう、日々精進あるのみだ。



 クウリィエンシア皇国第五軍副官 ベルマリー・メルヴィアム

追記
 護送が決まり法廷へ搬送しようと、牢に行くと、三人とも何者かに殺害されていた。鋭利な刃物で首を切断されており、なかなかの手練れと思われる。
 上官は、心当たりがあるようであったが、対処をすると申されて、この話はないことになった。
 軍の施設に入り込み、監視の目すら掻い潜るとは…一体、何者であろうか。






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副官は女性でした。
日付がないのはわざとです。貴族のたしなみが日記ですが、守秘義務の高い場合は、本人しか読めない魔道具を使ってたりします。そのことはいずれ触れると思います。

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誰かが読んでいるんだと思うだけで、書く気持ちが強くなるんです。

裏話はあと何作か書いたら終わりですので、三章は来週ぐらいの予定です。
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