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第二章の裏話
追話 ある副官の手記 ①
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本日も任務は無事終了した。
本来であるなら、私が指揮をとるはずではなかった。なのに、私の上官は任務放棄をまたもやしでかした。今月
にはいって。これで四度目だ。
そもそも、私は何故、あの人の部下に任命されているのだろうか。王への忠誠心に、揺るぎはないのだが、この件に関しては、まったく理解できない。
私の生家は、建国貴族であっても、序列は十位に位置する。時の王の従者の家系であるから、誰かの下につくことに、忌避感はない。
それどころか、我が家伝来の『スキル』は全て補佐用だ。誰かがいないと効果が薄い。
建国貴族は、初代クウリィエンシア王に従った十人の者たちである騎士、魔法使い、魔術使い、商人、魔獣使い、医師、鍛冶職人、司祭、舞踏家、そして、従者達の末裔になる。
建国貴族同士の婚姻や、現王朝に成り代わるときに、失われてしまった家もあるが、建国貴族の立場は変わることがなかった。
魔術使いと魔獣使いは、スキル消失によって、元々の生業とは別に商いを起こしていたり、騎士と舞踏家は、クレエル王朝に忠誠を誓っていた為に、北に流れ、今は分家が王都に住まいを構えている。
私の家も従者であるなら、北に行くべきだったのかもしれないが、主を選ぶのは血筋ではないという家訓にあるように、求められた相手がいるならば、その人となりで、主とする。
これは、初代クウリィエンシア王に許された我が家の特権である。
だからこそ、なんだかんだと副官の仕事も楽しく思うのだろう。
本日の記録。今日も無事に帰ってこれた。
討伐遠征について両親や親族、屋敷の者がまた小言をいってきた。弟だけは目をきらきらさせて励ましてくれたがそれだけで、頑張れるような気がする。
王の盾として、親衛隊に所属する者が、一族の大半にいる中で、私は軍に所属している。
変わり者の多い第五軍の中でも、私の上官は、とても変わっている方だ。
両親は高名な方に使え、上官の父上も、我が国有数の冒険家であり、爵位を与えられてもおかしくない功績を持っておられる。
実際に爵位を与えられという話もあったが、主は国王ではないと、断られた。反感を持つ者が多くいたのだが、我が家は、これぞ従者のあるべき姿であると、私や私の父は尊敬していたのだ。例え王が相手でも、自分の主が誰であるかと明確にいえるのが従者の務めである。
そのような立派な方の息子が、こうも傍若無人で、考えもない、野良犬のような人物であるとは…誰も思わなかっただろう。
弟君は、宰相閣下の覚えめでたく、宰相家への婿入りも噂されておられる。もう一人の弟君もロイヤルメイジの次席であるというのに…私の上官である、ティルカ将軍には、困ったものである。
本日の記録。
上官の代わりに始末書を代筆。明日は全休にする。しばらく数字と苦情の類はみたくない。
本日の記録。
今日の任務も、無事に…いや、無事に終わっていない。
魔族の討伐の任につくことになった。相手は情報によると子爵位。そして、こちらは百人足らず。
上官は軍の嫌われ者だ。
いつだったか…三年ほど前か。確か、世界の始まりの日を祝って数日が立った日だった。
王から名誉貴族の爵位を承るという大事な場で、上官はその場に来なかったのだ。
「俺の主が産まれるんだから、行くわけねぇだろ」
そう、前日にいきなりいった上官は、本当に来なかった。結局、フェスマルク家の意向もあり、爵位は授与されることはなくなった。
軍に所属する者は、みな王に剣を捧げている。だというのに、上官は剣を捧げていない。
なぜ、将軍を上官と呼ばないといけないのかも、上官が私たち部下を集めていった言葉が原因だ。
「俺を将軍と呼んだら、腹筋その場で五百な」
我が国始まって以来、わずか二十二歳という若さで将軍になったというのに、十数年の付き合いではあるが、上官はまったく進歩されていない。
ただ、今度の任務でも副官としての務めを果たそうとは思う。
本日の記録。
生きて帰れた。
魔族の子爵討伐は、大雨の中で行われた。百人の隊員達のうち、半数が学園を出たばかりの殻付きだった。まだまともな戦闘をしたことがない、卒業したての者を殻付きという。
そして、あろうことか、貴族の者は誰もいない。一般庶民の出の者ばかりだった。
まだ、貴族の出の者がいたら、多少なりと役にたっただろう。
私は、惨たらしく魔族に殺されるだろう兵士達が憐れだった。自分の身すら守れぬ彼らは、確実に死ぬだろう。
だからこそ、私は先陣を勤めるつもりであった。序列十位とはいえ、建国貴族の末裔にして、第五軍副官の勤めであるからだ。
そんな決意を嘲笑うかのように、上官は、騎乗すらされず、一人で戦いに行くといわれた。
私は酷く誇りを傷つけられたような気がした。
「上官、私も連れていってください。私は貴族です。民の為にも私は戦わねばなりません」
そう申したというのに、上官は笑っていわれた。
「悪いが、魔族は全て俺の獲物だ。例えお前が貴族だとしても、俺の部下である以上、俺に従ってもらう。あいつは、俺が殺す。手を出すんじゃねぇぞ」
そこからはまるで夢をみているかのようだった。
子爵を相手に、剣一本で討伐を成功させた。
「な?俺一人で充分だろ?」
兵士達は歓声をあげていた。誰しも、上官に畏怖と憧れを抱いただろう。
だが、傷だらけの上官をみて、私は強くなりたいと願った。
私は、あの人の副官なのだから。
本来であるなら、私が指揮をとるはずではなかった。なのに、私の上官は任務放棄をまたもやしでかした。今月
にはいって。これで四度目だ。
そもそも、私は何故、あの人の部下に任命されているのだろうか。王への忠誠心に、揺るぎはないのだが、この件に関しては、まったく理解できない。
私の生家は、建国貴族であっても、序列は十位に位置する。時の王の従者の家系であるから、誰かの下につくことに、忌避感はない。
それどころか、我が家伝来の『スキル』は全て補佐用だ。誰かがいないと効果が薄い。
建国貴族は、初代クウリィエンシア王に従った十人の者たちである騎士、魔法使い、魔術使い、商人、魔獣使い、医師、鍛冶職人、司祭、舞踏家、そして、従者達の末裔になる。
建国貴族同士の婚姻や、現王朝に成り代わるときに、失われてしまった家もあるが、建国貴族の立場は変わることがなかった。
魔術使いと魔獣使いは、スキル消失によって、元々の生業とは別に商いを起こしていたり、騎士と舞踏家は、クレエル王朝に忠誠を誓っていた為に、北に流れ、今は分家が王都に住まいを構えている。
私の家も従者であるなら、北に行くべきだったのかもしれないが、主を選ぶのは血筋ではないという家訓にあるように、求められた相手がいるならば、その人となりで、主とする。
これは、初代クウリィエンシア王に許された我が家の特権である。
だからこそ、なんだかんだと副官の仕事も楽しく思うのだろう。
本日の記録。今日も無事に帰ってこれた。
討伐遠征について両親や親族、屋敷の者がまた小言をいってきた。弟だけは目をきらきらさせて励ましてくれたがそれだけで、頑張れるような気がする。
王の盾として、親衛隊に所属する者が、一族の大半にいる中で、私は軍に所属している。
変わり者の多い第五軍の中でも、私の上官は、とても変わっている方だ。
両親は高名な方に使え、上官の父上も、我が国有数の冒険家であり、爵位を与えられてもおかしくない功績を持っておられる。
実際に爵位を与えられという話もあったが、主は国王ではないと、断られた。反感を持つ者が多くいたのだが、我が家は、これぞ従者のあるべき姿であると、私や私の父は尊敬していたのだ。例え王が相手でも、自分の主が誰であるかと明確にいえるのが従者の務めである。
そのような立派な方の息子が、こうも傍若無人で、考えもない、野良犬のような人物であるとは…誰も思わなかっただろう。
弟君は、宰相閣下の覚えめでたく、宰相家への婿入りも噂されておられる。もう一人の弟君もロイヤルメイジの次席であるというのに…私の上官である、ティルカ将軍には、困ったものである。
本日の記録。
上官の代わりに始末書を代筆。明日は全休にする。しばらく数字と苦情の類はみたくない。
本日の記録。
今日の任務も、無事に…いや、無事に終わっていない。
魔族の討伐の任につくことになった。相手は情報によると子爵位。そして、こちらは百人足らず。
上官は軍の嫌われ者だ。
いつだったか…三年ほど前か。確か、世界の始まりの日を祝って数日が立った日だった。
王から名誉貴族の爵位を承るという大事な場で、上官はその場に来なかったのだ。
「俺の主が産まれるんだから、行くわけねぇだろ」
そう、前日にいきなりいった上官は、本当に来なかった。結局、フェスマルク家の意向もあり、爵位は授与されることはなくなった。
軍に所属する者は、みな王に剣を捧げている。だというのに、上官は剣を捧げていない。
なぜ、将軍を上官と呼ばないといけないのかも、上官が私たち部下を集めていった言葉が原因だ。
「俺を将軍と呼んだら、腹筋その場で五百な」
我が国始まって以来、わずか二十二歳という若さで将軍になったというのに、十数年の付き合いではあるが、上官はまったく進歩されていない。
ただ、今度の任務でも副官としての務めを果たそうとは思う。
本日の記録。
生きて帰れた。
魔族の子爵討伐は、大雨の中で行われた。百人の隊員達のうち、半数が学園を出たばかりの殻付きだった。まだまともな戦闘をしたことがない、卒業したての者を殻付きという。
そして、あろうことか、貴族の者は誰もいない。一般庶民の出の者ばかりだった。
まだ、貴族の出の者がいたら、多少なりと役にたっただろう。
私は、惨たらしく魔族に殺されるだろう兵士達が憐れだった。自分の身すら守れぬ彼らは、確実に死ぬだろう。
だからこそ、私は先陣を勤めるつもりであった。序列十位とはいえ、建国貴族の末裔にして、第五軍副官の勤めであるからだ。
そんな決意を嘲笑うかのように、上官は、騎乗すらされず、一人で戦いに行くといわれた。
私は酷く誇りを傷つけられたような気がした。
「上官、私も連れていってください。私は貴族です。民の為にも私は戦わねばなりません」
そう申したというのに、上官は笑っていわれた。
「悪いが、魔族は全て俺の獲物だ。例えお前が貴族だとしても、俺の部下である以上、俺に従ってもらう。あいつは、俺が殺す。手を出すんじゃねぇぞ」
そこからはまるで夢をみているかのようだった。
子爵を相手に、剣一本で討伐を成功させた。
「な?俺一人で充分だろ?」
兵士達は歓声をあげていた。誰しも、上官に畏怖と憧れを抱いただろう。
だが、傷だらけの上官をみて、私は強くなりたいと願った。
私は、あの人の副官なのだから。
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