選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
61 / 229
第二章の裏話

追話 ある副官の手記 ①

しおりを挟む
 本日も任務は無事終了した。

 本来であるなら、私が指揮をとるはずではなかった。なのに、私の上官は任務放棄をまたもやしでかした。今月
にはいって。これで四度目だ。
 そもそも、私は何故、あの人の部下に任命されているのだろうか。王への忠誠心に、揺るぎはないのだが、この件に関しては、まったく理解できない。

 私の生家は、建国貴族であっても、序列は十位に位置する。時の王の従者の家系であるから、誰かの下につくことに、忌避感はない。
 それどころか、我が家伝来の『スキル』は全て補佐用だ。誰かがいないと効果が薄い。
 
 建国貴族は、初代クウリィエンシア王に従った十人の者たちである騎士、魔法使い、魔術使い、商人、魔獣使い、医師、鍛冶職人、司祭、舞踏家、そして、従者達の末裔になる。
 建国貴族同士の婚姻や、現王朝に成り代わるときに、失われてしまった家もあるが、建国貴族の立場は変わることがなかった。

 魔術使いと魔獣使いは、スキル消失によって、元々の生業とは別に商いを起こしていたり、騎士と舞踏家は、クレエル王朝に忠誠を誓っていた為に、北に流れ、今は分家が王都に住まいを構えている。

 私の家も従者であるなら、北に行くべきだったのかもしれないが、主を選ぶのは血筋ではないという家訓にあるように、求められた相手がいるならば、その人となりで、主とする。
 これは、初代クウリィエンシア王に許された我が家の特権である。
 だからこそ、なんだかんだと副官の仕事も楽しく思うのだろう。


 本日の記録。今日も無事に帰ってこれた。

 討伐遠征について両親や親族、屋敷の者がまた小言をいってきた。弟だけは目をきらきらさせて励ましてくれたがそれだけで、頑張れるような気がする。

 王の盾として、親衛隊に所属する者が、一族の大半にいる中で、私は軍に所属している。
 変わり者の多い第五軍の中でも、私の上官は、とても変わっている方だ。

 両親は高名な方に使え、上官の父上も、我が国有数の冒険家であり、爵位を与えられてもおかしくない功績を持っておられる。
 実際に爵位を与えられという話もあったが、主は国王ではないと、断られた。反感を持つ者が多くいたのだが、我が家は、これぞ従者のあるべき姿であると、私や私の父は尊敬していたのだ。例え王が相手でも、自分の主が誰であるかと明確にいえるのが従者の務めである。

 そのような立派な方の息子が、こうも傍若無人で、考えもない、野良犬のような人物であるとは…誰も思わなかっただろう。

 弟君は、宰相閣下の覚えめでたく、宰相家への婿入りも噂されておられる。もう一人の弟君もロイヤルメイジの次席であるというのに…私の上官である、ティルカ将軍には、困ったものである。


 本日の記録。

 上官の代わりに始末書を代筆。明日は全休にする。しばらく数字と苦情のたぐいはみたくない。


 本日の記録。

 今日の任務も、無事に…いや、無事に終わっていない。
 魔族の討伐の任につくことになった。相手は情報によると子爵位。そして、こちらは百人足らず。

 上官は軍の嫌われ者だ。
 
 いつだったか…三年ほど前か。確か、世界の始まりの日を祝って数日が立った日だった。
 王から名誉貴族の爵位を承るという大事な場で、上官はその場に来なかったのだ。

「俺の主が産まれるんだから、行くわけねぇだろ」

 そう、前日にいきなりいった上官は、本当に来なかった。結局、フェスマルク家の意向もあり、爵位は授与されることはなくなった。

 軍に所属する者は、みな王に剣を捧げている。だというのに、上官は剣を捧げていない。
 なぜ、将軍を上官と呼ばないといけないのかも、上官が私たち部下を集めていった言葉が原因だ。

「俺を将軍と呼んだら、腹筋その場で五百な」

 我が国始まって以来、わずか二十二歳という若さで将軍になったというのに、十数年の付き合いではあるが、上官はまったく進歩されていない。
 ただ、今度の任務でも副官としての務めを果たそうとは思う。

 本日の記録。
 生きて帰れた。

 魔族の子爵討伐は、大雨の中で行われた。百人の隊員達のうち、半数が学園を出たばかりの殻付きだった。まだまともな戦闘をしたことがない、卒業したての者を殻付きという。
 そして、あろうことか、貴族の者は誰もいない。一般庶民の出の者ばかりだった。
 まだ、貴族の出の者がいたら、多少なりと役にたっただろう。
 私は、惨たらしく魔族に殺されるだろう兵士達が憐れだった。自分の身すら守れぬ彼らは、確実に死ぬだろう。

 だからこそ、私は先陣を勤めるつもりであった。序列十位とはいえ、建国貴族の末裔にして、第五軍副官の勤めであるからだ。
 そんな決意を嘲笑うかのように、上官は、騎乗すらされず、一人で戦いに行くといわれた。
 私は酷く誇りを傷つけられたような気がした。

「上官、私も連れていってください。私は貴族です。民の為にも私は戦わねばなりません」

 そう申したというのに、上官は笑っていわれた。

「悪いが、魔族は全て俺の獲物だ。例えお前が貴族だとしても、俺の部下である以上、俺に従ってもらう。あいつは、俺が殺す。手を出すんじゃねぇぞ」

 そこからはまるで夢をみているかのようだった。
 子爵を相手に、剣一本で討伐を成功させた。

「な?俺一人で充分だろ?」

 兵士達は歓声をあげていた。誰しも、上官に畏怖と憧れを抱いただろう。
 だが、傷だらけの上官をみて、私は強くなりたいと願った。
 私は、あの人の副官なのだから。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...