選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第二章 事件だらけのケモナー

どこだよ、ここ

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 しんと静まり返り、誰もいないのは明白だ。それどころか、埃っぽく、薄暗い。

「ここ…どこぉ?」

 ケルンが不安気な声、うぇ!待って!
 泣きそうになってるケルンに、情報を渡さねば!泣かれるとつられ、うぇ、待ってもう少し、うぇ、情報をまとめ、うぇ!つられる!

 きょろきょろとケルンが辺りを見る。
 視界に入る情報を整理だ。ここはどこだろうか…おかしいな…寝る前までは、屋敷だったよな?

 見たこともない部屋の中だ。物置小屋か、倉庫の中だろうか。
 明かり窓は開いていて、薄暗くてもまだ日が高いのが予想される。他にある物といえば、同じような樽がそこかしこに置かれている。
 あ、扉がある。鍵はかかっていないといいんだが…とにかく、扉のとこまで行こう。

 ちょっと泣いているけど、樽から抜け出して、扉の前まで進む。

「ひっく…かくれんぼー…ひっく…エセニアー!みんなどこー…?ひっく…」
 泣くなよぉ…つられるだろ?大丈夫だって。とにかく外に出てみようぜ?
「う、うん、ひっぐ」

 頼むから、鍵がかかっていないように!
 ぎぃという音で扉が開く。
 幸いなことに、扉には鍵がかかっていなかった。

「わー!お外だ!」
 出れてよかったな!

 よし、涙は止まったし、テンションも戻った。情報を整理しよう。
 考えれるのは、誘拐か事故かってことだ。

 誘拐かとも思ったが、それはない。屋敷の中で堂々と誘拐なんてできるわけがない。誘拐犯もそばにいなかった。つまり、誘拐ではない。
 手足も縛られていないしな。見張りもいない。そもそもケルンを誘拐してもな。

 次に事故。樽の回収で気づかれなかったか。でも、人が入っていて気づかないなんて…いや待てよ…もう一度確認だ。

 果物の匂いがするから、果物屋の倉庫なんだろうかとも思っていたが…腐敗臭もちょっとする…ゴミの回収?それとも、樽屋か?それか…肥料屋か?生ごみも肥料になるから樽にまとめて売るのかもしれないな。新しい樽や綺麗なのは洗浄して再利用もできるしな。

 ケルン、扉をみてくれ。
「えーと…生ゴミ…回収…施設。立って入らないで?」
 立ち入り禁止な。

 ってことは生ごみ回収か…夏じゃなくてよかった…祭りのときに果物が多かったのも運がよかったな…じゃなかったら、酷い匂いだったろうな。

「ゴミ捨て場?なんで僕ここにいるのぉ?みんなどこぉー?」
 な、うぇ、泣くなよぉ!

 たぶん、あの玄関先の樽は回収用で置いてあったんだろう。で、空の樽とゴミとかの入った樽でわけられて…ケルンが入ってたからゴミと勘違いしてここに持ってきたのかもな。
「えー!僕、ちゃんといるよー!ってしたよー!」
 ああ、うん。確認できるようにしたよな…でも、見てた人が知らない人でばたばたしてたから…寝ている時にいなくなったのかもな。

 うん。その可能性しかないな。早く帰らないやばいぞ。

「どうしよう…おうち帰れる?」
 寝ていた時間はそんなに経っていないはずだ。そうすると、近くであることは、間違いない。人がいれば聞いてみるのもありだと思う。

 生ごみ施設から出て、とりあえず人の生活音がする方へ足をむけるようにすすめる。

「あっちいこー!人がたくさん、いるからね!」
 おー。こけないようにな。
「へーき。早く誰かに会えないかな?」
 確かにそうだな。一人は寂しいし。
「一人?エフデがいるから一人じゃないよー?」
 おう!じゃあ、寂しくないな。

 帰ってからどう謝るかをああでもないこうでもないと考え込んでいると、人が行き来する表通りにでてきた。
 表通りに出て、確信した。

 ここはこの前も買い物に来た、屋敷からも近場にある街、ポルティだ。

 いつも歩いている通りにきたから、ケルンは安心したのだが、俺はここに来るには馬車で来ていたと思い、帰宅時間を計測して焦りを覚えている。今のケルンが歩いてだと…どれくらいかかるんだろうか…途中で休憩とかするだろ?誕生日会には、間に合うだろうか…厳しいような気がする。

 それ以前に、お昼ご飯も怪しいな。今日は誕生会とはいえ、ゆっくりは食べれないから、お昼を遅めにしていつもより豪華にする予定だった。ちっこいケーキもついてきて、大きいのは夜の本番とのことで、わくわくしていたんだけどなぁ。

 くぅぅぅ。

「お腹なっちゃったぁーえへへー」
 おっと、恥ずかしいな。
「お腹すいちゃった…」
 腹の虫が鳴るということは、お昼はきているだろうな。何か食べ物探すか。街だから、何かあるだろ。

「いい匂いを探しまーす!」
 よし、なんでもいいぞー。

 鼻をひくひくさせていると、いい匂いがしている方向がある。ドーナツを揚げた匂いみたいだな。
 そういえば、通りすぎるだけで、買ったことないドーナツ屋があったな。買ってもよかったのだけど、ハンクがすねるんだよな。あと、カルドかエセニアは、毒味するから、お店の人に申し訳ないし。

 くぅぅぅ。

「…ハンク怒るかな?」
 すねるかもな…うん。
「あとでごめんってしたらいい?」
 それとご飯をほめろ。それでなんとかなるはずだ。
「わかったーいつも美味しいから、ありがとうもいうねー」

 背に腹はかえられない。むしろ、背中がお腹にくっつきそうだ。家まで持たないんじゃ、歩いて帰れないからな。財布は…あ、入れっぱなしだった。ちょうどいいな。

 ドーナツ屋の前までくると、店主のおじさんが、ハチマキを巻いていた。このおじさん、顔とかに傷があってぱっとみ怖いんだけど、カルドとも顔見知りみたいでたまに立ち話をしているのをみるから、安心だな。

 しかし、いつも思うのだが、ドーナツ屋なのに、何でラーメン屋のおっさん、みたいな格好なんだ?似合ってるけど。

「若様、今日はお供の方々は?」

 おじさんが、そういって、話しかけてきた。一応、フェスマルク家の嫡男だと知っている人なので、問題はない。

「ちゃんといるよ!一人じゃないよー」

 俺をカウントしちゃだめだがな。
 確か、カルドがそろそろ買い物に来ているはず。

「あー…買い物の練習ですか?前にカルドさんから話は聞いてましたが…今日だったかな?」
「うん!ぼくねー今日は、お客さんなの!」
「そうですか。では、ドーナツをどうぞ!揚げたてですよ!」
「わーい!ありがとう!おいくらですか!」

 カルドが何か頼んでいたようだが、買い物の練習か…そういえば、出店で買ったのが初めて自分でした買い物だったな。あのあと、カルドがケルンの財布を確認して、減っていて驚いていて、きちんと練習しましょうといっていたが、あれのことか?

 そうこうしていると、おじさんが、熱々のドーナツに粉砂糖をかけて、紙に包んで渡してくれた。財布を出そうとすると、おじさんは手を振った。

「とんでもねぇ!フェスマルク家の若様から金を取るなんて、そんなことしたら、商売できなくなりますよ!どうぞ、食べてくたさい、お代はあとでカルドさんから頂戴しますから!」
「いいの?僕、ちゃんとお金持ってるよ?」

 家の威光…あるのか…いやないか。とにかく、貴族だからとお金も払っていないのに食べるのはよくない。貴族は、貴族として、きちんとしなくてはいけない!せっかく、花丸もらって、世界鼠図鑑とフクロウ図鑑をゲットしたばかりなんだからな!

「いいんですよ!貴族は直接、店に支払いをしないんです。あとで屋敷に行くかお付きの人が支払うようにしてくださるんですよ?カルドさんの買い物をみていませんか?」
「あっ!やってたー」

 うちの家紋が押された紙を渡したり、現金をカルドが渡していたな。あー…だから出店のお婆さんに支払ったあと、あんな顔をしていたのか。
 でも、カルドってば支払ってるときも、その後も何もいわなかったんだけどな…疲れて見えなかったとか?

「しかし…本当なら無料にしたいぐらいですよ。うちの商品をフェスマルク家の人に食べてもらえたら、それだけで満足です!」

 そこまでうちの家、凄くないんだけどなー。敷地は広いけど、ほぼ森だし、領地もこの街の一部だけらしいし。

「あと…それから、若様。お供の人が側にいない時に、お金があることを知られてはいけませんよ?最近…流れ者がうろついてるようですから」
「うん。気を付ける。ありがとう!」

 笑顔でドーナツを受け取り、その場を離れる。
 んー…忠告か…しかし、流れ者がいるか…危険かもしれないな…それにしても…うん。

「ハンクのドーナツの方が好きだな…」

 不味まずくはないんだけど、舌がハンクに馴染んでるからな。ノーハンクノーライフ状態だ。

 とにかく、カルドが行きそうなところに、行こう!


 服屋にもいない…困ったな…あとは、画材屋とか?昨日、行ってもらったしな。
 休憩と考えをまとめるのを兼ねて、通りに置いてある椅子に腰かけて人の流れの中に見知った顔がいないか探す。
 通りをみて、時間がすぎていく。

 鼠の尻尾のあるおじさん。
 寅の手足のお姉さん。
 ワニの瞳のお兄さん。ん!あれは!フクロウの顔をしたおばさんか!

 え…筋肉質のおじさんの耳が…ウサギ…おじさんなのに。
 ちょっと可愛いと思ってしまったんだが、あれは…ない…いや、ギャップが…ありか…なしか…いや、えーと。

 まだまだケモナー道を、極めてないな…棒神様はきっとあのおじさんでもモフれるだろうな。
 しかし、見ていて気づいたのだが、全身獣。全ケモがいないな。一部の人達ばかりだし。

 全ケモとは、全身ケモノ。つまり、二足歩行の動物さんだ。手足が人間のような全ケモさんや、動物のままのケモさんもいるのだ!なんたる神秘!
 みなぎり!たぎるぜ!

「エフデどうしたのー?たぎるってなーに?」
 あ…ケルン。なんでもないぞー。暇すぎるってだけだぞー。
「ひまだねー」

 あぶねぇ。せめて思春期までは真っ白でありたい。ケルンは俺自身ではあるけども。

 しかも、何人か見てきて、猫はなし。
 ハ虫類も少ない。ワニの瞳のお兄さんぐらいだった。
 亀の人とかいないかな…甲羅触りたい…なでなでした。

 猫耳スイッチは、常にオフ状態だ。はぁ…もふりたい…顔をうずめたい。

 ふらりと立ち上がって、とことこ歩いていると、気づいたら来たことない大通りの道に来ていた。
 聖堂が、右斜め後ろにあるとうことは…中心から南西の位置か。ちょっと治安が良くないと聞いたところ付近かもしれないな。
 元の場所に戻るかなー。そうケルンに、提案しようと思った。

 首の後ろがチリチリする。

 何だろうか…気になって、違和感が強くなる方角を探す…裏路地の方か?
 いつだったか、ティルカがこういっていたな。

「坊っちゃま。勘は大事なんだぜ?例えば、買わないといけないなって、思う時に買わないともう手に入らないこともある…だから、坊っちゃま。欲しい物があったら、すぐいってくれよ!」

 関係ないことまで、思い出した…でも、勘か…よし!

 何かに呼ばれたような…気がする!つまり!
「!かくれんぼ!」
 鬼はケルンの番ってことだ!
「かくれんぼー!かくれんぼー!僕が探すよ!かくれんぼー!」

 もしかしたら、カルドが探しに来たのかもしれない。
 とにかく突撃だ!
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