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第二章 事件だらけのケモナー

助けてくれたのは

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 しまった!まさかケルンを突き落とすとは思わなかった!
 人質にして逃げるんじゃなく、ケルンを目眩ましがわりに使うなんて!
 
 まずい、空中に投げ出されては、どうすることもできない!

 何も掴むものがない!せめて、受け身を…この高さ…打ちどころによっては死ぬかもしれない。
 それか折れる。子供のうちは骨が柔らかいからもしかしたら、折れないかもしれない。でも、内蔵へのダメージは大きいだろう。背骨を打てば…最悪なことばかり考えてしまう。

 冷静に分析したって、怪我をする可能性が高いことに代わりはない。

 くそっ!思考を加速したって、いい案がうかばない!ケルンの恐怖がどんどん強く!なって!

 恐い!こわい!こわい!やだ!やだ!

 恐怖で思考領域がどんどん埋まっていく。
 せめて、何かをつかめたら!

 ちらりと、エセニアが手すりに手をかけているのが見えたが、エセニアが飛び込んでケルンを庇えば、エセニアがケルンの代わりに怪我をするかもしれない。そんなのは嫌だ。それに、マルメリーが窓から逃げようとしてやがる!

 あいつだけは逃がしたくない!
 誰でもいい!あいつを逃がさないでくれ!

 そのとき、ぱりんという音と、ひゅんっという風切り音がしたと思うと、もの凄い負荷が、お腹にかかった。

「お、お腹ぎゅーは痛い!」
 ぐえっ…く、苦しい!

 ズボンのベルトを何かが掴んだようだ。何か食べてたら口から出ていたぞ。

 とにかく、助かった!誰が掴んでくれたのか確認すると、その相手は予想外すぎた。

「ペ、ペギンくん?」

 母様の部屋に飾ってあるはずのペギンくんだ。最近はあんまり好き勝手に飛んだりせず、ペギンくん物語を読むときに、絵本と同じポーズをとって楽しませてくれている。

 そのペギンくんが、飛んできてくれた。
 いや、助けに来てくれたんだ!

「ペギンくん!ありがとう!」
 助かったぞ!ペギンくん!ちょっと苦しいけどな!

 ペギンくんにお礼をいい、ペギンくんはパタパタと小さな翼をはためかせて、ゆっくり下降していく。

 これで安心して、一階におりれそうだ。
 あ!マルメリーが!

「きっさまぁぁぁ!」

 逃げようとしていたマルメリーを捕まえる手立てを考えていると、ドゴン!っという凄まじい音が、二階から聞こえてきた。

「エ、エセニア?」
 いやいや。ケルン。エセニアのはずがないだろ。

 あんな野太い声をエセニアが出すわけがないよな。アマゾネスじゃないんだし。きっとマルメリーとかだって。

 いや!エセニアに何かあったかもしれないじゃないか!

 ペギンくんの助けもあって無事におりて、すぐに二階にかけあがると、そこには、マルメリーに馬乗りになっているエセニアがいた。

「このっ!このっ!ちっ…上手く力がはいんない!」

 文句をいいつつ、確実に顔面をぼこぼこにしている。

「エセニア!めて止めて!」
 音が肉を打つ音じゃないぞ!ガンガンいってる!死んじゃうから!ダメだって!
 
 マルメリーは白目をむいて、気絶している。顔面は鼻血で赤くなりつつあるし、美人系だったのが、怪人系になりつつある。
 どうにかエセニアをマルメリーの上からどかして、落ち着けさせる。

「しかし、坊ちゃま!こいつは坊ちゃまを危険にさらしました!坊ちゃまのお作りしたペギンくんがいなかったら…!私は…!」
「エセニアだって、飛び込んでこようとしてたでしょ?危険なんてないよ」

 ぽろぽろと悔しそうな顔で泣いている。エセニアは何にも悪くない。体だって、まだろくに動かないのに、ケルンのために二階から飛ぼうとしてくれた。ケルンが無事だとわかれば、無理してマルメリーを止めてくれたんだ。
 それで充分じゃないか。

「守ってくれてありがとー!大好きだよ!エセニア!」

 エセニアにぎゅっと抱き着く。エセニアも抱きしめ返してくれる。あんまり泣いてほしくないんだよな。

「でも、エセニア凄いね…」
 体が動かなくても、マルメリーをノックアウトしてるからな。

「ペギンくんが窓を突き破ったときに、こいつに当たりまして…しかし、こいつ頑丈ですね…変わったスキルを持っているようです」

 助けを呼んだので、ペギンくんが反応してしてくれたのか?たまたま当たったのか?運がいいな。
 
 ところで、どうしようか。外ではまだびりびり音がしているし、マルメリーはのびてる。エセニアは本調子ではないし…誰か。

「どうしたの?」
「母様!」

 え!寝ているはずじゃないのか!寝室から普通に母様が歩いてきたんだけど!

「窓が割れる音と、凄い音が聞こえて…ふぅ…私、寝ていたようね」
「それは」
「あと、フィーが雷を落としているのはなぜ?…あら、エセニア。それ、マルメリーじゃないの?もう尻尾を出したの?」

 は?母様は気づいていたのか?
「母様、知ってたの?」

 ケルンと二人そろって、きょとんって感じになった。母様が気づいていたとは思わなかった。だって、何にもいわなかったし、マルメリーにも普通に接していたからな。
 あ、母様もだけど父様も薬の影響とかあるんじゃ…?

「母様!父様もお薬だいじょうぶなの?」

 母様は、少し考えるそぶりを見せたあと、にこりと笑った。 

「なるほどね…私は、ザクス先生のお薬ぐらいしか効かないのよ。心配する必要はないわ、ケルン。お父様は精霊が守っているからお薬が効かないのよ」

 その言葉にほっとした半面、母様の笑みが少しばかり怖かった。

「フィオナがおかしいのはわかってたけど…まさか経った一日で正体を現すなんてね…焦りすぎなのよ」

 家族に薬を使われて、黙っているような人たちではなかったな。これはケルンや俺以上に怒っているな。
 まぁ、母様だから許されるな。うん。

「エセニア。縛っておいてね。あ。手足じゃなく全身ね。鉄じゃなきゃダメよ?私はフィオナを止めてくるわ」
「かしこまりました、奥様」
 
 そうエセニアに頼んだあと、母様は軽い足取りで玄関にむかっていく。
 しばらくして、フィオナの悶絶した悲鳴が外から聞こえてきた。 

 しばらく、主にケモ耳組の頭と嗅覚が戻るのを待って、状況確認をすることになった。
 広間のいつもの席には座らずケルンは、母様の膝の上だ。この場にいないのは、フィオナとランディだ。

 フィオナは母様に睡眠薬を盛ったことをかなり気にして、落ち込んでしまっている。念の為にエセニアがついて見張っている。今すぐに首でも吊りそうなほど鬼気迫っていたからな。
 ランディの場合は、怪我はないが、少し焦げてしまった。あのふわふわのベア毛がちりちりになっているのだ。それと、慣れない魔法を連発したため、別室で横になって休んでいる。フィオナの攻撃を全部受けていたんだから、当然だろうけど、ランディは頑張った。

 洗濯物のことはエセニアに報告することに変更だ。

 しかし、問題は残りの二人だ。

「それにしても…カルドはそこまでかかっていないと思っていたんだけど…」
「面目ございません…殺気に反応しまして…なぜか、マルメリーの邪魔をさせないように体が…」

 左目に青タンができているカルドが、申し訳なさそうに頭を下げる。服装は整えてきているが、ボロボロで帰ってきた。
 それはカルドだけではない。

「ガマ商人。見習い、共犯者。御母堂ごぼどう、お気づき」

 珍しく、少しだけ笑っているハンク。鼻は少し曲がって、顔面がはれ上がっているし、気のせいか、足も引きずっている。

「下克上!」

 の一言でやってきたときには、腕は折れていて、それをみたケルンが大泣きした。
 すぐにザクス先生の薬を使ったけど、腕の治療が限界だった。残りは父様が帰ってからだ。ちなみに、若干泣き疲れてお眠モードだ。

「そうね。でも…マルメリーはかわいそうにね…貴族の益のために利用されるなんて」

 母様は声に少々トゲを残している。マルメリーが利用されたと思っているようだ。だが、あれは生来の性格だろう。自分から好んでやっていそうだ。
 今はカルドの足元に鎖でぐるぐるにされて、放置されている。鼻血はふかれたのかないが、凄いな。化粧がまったく落ちていない。どんな化粧なんだってぐらいだ。

「冷風機…伯爵はどこまで気づいたのかしらね?」

 母様の言葉に、ケルンはなにも感じなかった。
 だが、俺は別だ。やはり、俺が、知識という俺が今回の騒動の発端だったのだ。

「どうされますか?」
「ティスと話をして決めましょう。伯爵の真意も確かめなくてはなりません…それに、貴方たちの怪我も治さないといけないわ」

 母様は、ケルンを抱えなして、腕輪に声をかける。

「『コール』ティス?もう、尻尾を出したわ。怪我?私とケルンは無事よ。カルドとハンクは…少し怪我をしたわね。ランディも焦げてるわ。フフィオナは気落ちしてで倒れてるけど私があとで話をするから平気。エセニアはケルンが励まし済みよ…当然よ。私たちの息子なのよ?紳士に決まってるじゃないの」

 父様と話をしているようだけど、息子自慢はそこそこにお願いします。紳士じゃないです。少々シスコン入ってるだけなんで、勘弁して。

「ええ…やはり、焦ったのでしょうね。一日で終わったわ。裏まで潰したいところだったのだけど…そう…え?本人が?…伝えた方がいいわね…うん、終わったら帰ってきて」

 母様が父様と会話を終えて、しばらくすると、広間の扉をあけて父様が入ってきた。直接転移してこないなんて、どうしたんだろうか?

「ガリアン殿にもお伝えしたんだが…どうしても会いたいというので…連れてきた」
「なんということをしたんだい!愛しいマルメリー!」

 父様の後ろを筋肉でムッキムキな男が入ってきた。軽装の鎧だけど、なんか派手な鎧だな。顔面も岩みたいにごつごつだし、声もびりびり響いている。

 この人がマルメリーの婚約者か…あ、マルメリーは今、鎖で縛っている。

「…誰だ、貴様?」

 ガリアンと呼ばれたその人は、いぶかしそうにマルメリーをみたあと、部屋をキョロキョロとしだした。
 いや、マルメリーと目があったよな?

「ガリアン殿?」
「フェスマルク様。罪を犯したというマルメリーはどこですか?」
「いや、目の前に…この者ではないのか?」
「このようなケバい女はマルメリーではありませんよ?」

 その言葉に、みんなが偽マルメリーをみる。
 え?じゃあ、本物は?

「本物のマルメリーをどこにやった!」

 ガリアンの悲鳴のような雄たけびが広間に響き渡った。
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