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第二章 事件だらけのケモナー

帰宅もしくはホラーハウス

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 ミルデイに背負ってもらいながら、屋敷にたどり着いたら、やはり夕方になっていた。
 歩き慣れていないミルディを思い、休憩をはさんではいたんだが、ミルディは全然疲れていない。むしろまだまだ元気だ。
 一方、ケルンはどうかというと。

「お腹減ったねー」
 
 絶賛、腹ペコだ。
 いや、魔力を使うと疲労が凄いだけじゃなく、腹が減るんだなと学べてよかった。道中、ミルディが鳥を捕まえて食べるかきいてきたが、生肉は遠慮だ。魔法で焼けるとは思うが、練習しないと調整ができずに、高い可能性で消し炭な気がする。

「食べ物は」
「あ、大丈夫!今日はねーごちそうなの!」

 誕生日会でごちそうなんだが…あー…ヤバい。誕生日会が、そろそろ始まるよ…間に合わないな。

 いや、その前に、ミルデイのこととか、どう説明しようか。売られていたから、買ってきたとか、嫌な子供だぞ。

 というより、考えたくなくて逃避していたが、事故とはいえ勝手に抜け出してしまったのは非常にまずい。

 あー…屋敷の門が見えてきた…どう説明しようか…疲れすぎて、頭が回らないんだって…思考が時折、飛ぶんだよ。睡魔というか…思考の加速化が上手くいかない。

 道中、何もなかったんだけど…嵐の前の静けさというか、フラグだよな…そういえばミルディは人間をみたことがあまりなかったのか、街を不思議そうにみていた。
 あのに檻は外から見えないように布をかけてあったから、みえなかったというが…一発殴っておけばよかったな。急いで離れなきゃよかった。

「坊っちゃま、あそこですか?」
「うんー…あの門を入ったらお屋敷だよー…ごめんね?疲れた?」
「いいえ。大丈夫です」

 汗一つかかないミルデイには、悪いけど、街からずっと背負われっぱなしだ。じわじわと魔力の回復がしているようで、まぁ、歩けなくもないけど、それとは別にお昼寝してないから、睡魔が軽めのジャブをしてきている。

 しかし、困った。秋とはいえ、汗をかかないのは少しまずいのではないだろうか。なるべく、ミルディは普通の子として生きて欲しいのだけど…容姿は目立っているけどな。

 もしかしたら、蛇人間になったミルデイは、汗をかかないのかもしれない。
 蛇は汗をかかないからというより、変温動物だからな。人間になったことで、冬眠はないだろうけど…いや、元が魔物だから、元々冬眠はないのかもしれない。

 でも、冬になる前に、様子をみよう。直接聞くのは…なんていうのかな…魔物として見られているとミルディに思ってほしくないし、本人も触れて欲しくないかもしれないからな。

 魔物から、人間になったばかりで、ほぼ、刷り込みのように、ケルンに懐いているけど、落ち着いたら、きっと、本来のミルデイになるだろうからな…狂暴な性格ではないと思う。ケルンに対して、ちょっとした気づかいとか優しいし。魔物についての図鑑とかないからな…学園にはあるといいな。

 図書館とか引きこもりそう。図鑑の海とかだといいな。

 さて、それんしても、二人とも汚れているし帰ったら、風呂かな。それに着替えもしないと…着替え?

 今の服装。

 上着は消えてる。
 シャツ、ミルデイの血がついてる。そういや、治し忘れてて、血は止まってるけど、頬の傷そのまま。

 ヤバい。

 今日は誰々くるかって、屋敷の使用人が全員集合なんだよ!もちろん、三兄弟のあ、ナザドをのぞく、二人も!
 減点されるぅぅぅ!

 安心なのは、ナザドがいないことだ。

「来年からは、僕が!坊ちゃまと、二人で!この僕が!お誕生日をお祝いしますからね!」

 と、珍しく闇のない、いや、病みはあるかもだけど、笑顔でいってくれたから、問題はないんだけど。

 代わりに昨日、欲しかった羽ペンを貰った。珍しい羽で、赤い羽だったから、何の羽?って尋ねたら、犬のっていわれた。

 この世界の生き物は、空に憧れでもあんのか。
 どうして、みんな空に飛ぶんだよ!くっそ!見てぇぇ!いや、どんな犬種なんだろうか。是非、その姿を絵にしたい。

「空を飛ぶ犬ってみたことある?」
「…みたとありますが…危ないです」

 ミルディはみたことがあるのか。いいなぁ。
 なんて、軽くテンションあげて、怒られる心の準備という、精神ゲージをあげていたら、もう、屋敷が目の前にある。

 とりあえず、屋敷に入って…って、何だ?悲鳴?怒鳴り声?
「あれぇ?」
「縄張り争い?」

 ミルディの言葉に頷きかけた。それほどの気迫がここまで届いているのだ。

「貴様ら!何をしていたぁ!」

 まだ、門をくぐって、距離がかなりあるのに、ここまで響く声が…考えたくない。
 このダンディな声は…カ、カル、ドじゃ、ない、よね、ね?

「坊っちゃま!探す!坊っちゃま!どこ!俺、探す!」

 あの、片言だけど大声なのは、いつも小声のハンクか?ムササビマントが見えるが…そんなはず…いや、現実をみよう。屋根の上に、ムササビマント広げてるのは、うちの料理長か。

 どうして、お前まで空を飛ぼうとするんだ。ハンク。やめてくれ!

「もう観念して誘拐犯の共犯者は、今すぐ名乗りでなさい!さもなくば、右端のお前から指を潰していくぞ!」

 エ、エセニアさーん。鬼は鬼でも、それは地獄の獄卒ですよー!

「豆できたのかな?痛そうだからザクス先生呼ばなきゃ!」
 いや、ケルン。あの、呼ばなくていいから。

 アカン。もう何も怖くなくねぇよ。
 こえぇよ。阿鼻叫喚だよ。
 
 屋敷の中から、知らない人達の悲鳴が聞こえてるよ。ホーンテッドなの?お化け屋敷なの?ここ、俺の家だよな?間違えちゃった?

「坊っちゃま…俺と別なとこで、住む?俺、頑張って、坊っちゃまを飢えさせないようにするよ?任せて」
「ミルデイ…僕の家って、やっぱり、変かな?」

 ミルデイが、かなり真剣に聞いてくる。
 プロポーズかな?あはは。
 言葉遣いも崩れてるから、本心なんだろうな。ってか、ヒモになるつもりはないからな。仮にも主といってくれたんだから、ご飯くらいは、財布から…!

 あっ…財布…全財産が…!

 うっかり、忘れてたけど、全財産がなくなったんだよな。ミルディのお給金払えるかな…家のではなく、ケルン専属の執事だから、ケルンが給金を支払わないとな。
 俺の計算だと…まぁ、一ヶ月…銀貨二枚かな?住み込みで、食事と服は父様達が出すとして…あの財布がなくなったのはな…しかし、クレエル大金貨四枚って、金貨四千枚分持って歩いてたのか…子供に持たす金額ではないぞ。

 まさか、うち…実は貧乏ではなかったのか!

 そう色々と思って、全部ひっくるまとめて変だよな?って意味で聞いたんだが、ミルデイが、首をふる。

「俺は人間をあまり知らないけど…ここまで、殺気に満ちているのは、魔物の縄張り争いでもなかった」

 そ、そうなんだぁー。お墨付きありがたくないけど、今日から住むんだよー?
 って、ケルンにいってもらおうかとも、思ったがやめた。説得力なさすぎる。むしろ、このままどこかに連れていかれて楽しいヒモ生活が始まる気がする。

「と、とにかく!玄関まで行けば、たぶん、誰か」
「お帰りなさい、坊っちゃま…って、いいてぇけど…誰だ…俺の主に傷をつけやがったのは…」

 いきなり、目の前に立ちふさがった何者か。
 風も気配もなにもなかった。まるで最初からそこで立っていたかのように、違和感もなく声をかけてきた人物。安心できる声なんだけど、今日だけは背中がびくついた。

 おうふ…この響く野性味ある低音…そして、明らかに殺気だっているのは…一人しかいない。

「や、やっほー!ティルカ!久しぶりー!」

 髭を綺麗にそってきたから、刀傷の残る頬が日に焼けてみえる。何より、フィオナに似ている栗毛。引き締まった身体は、彫像のようだ。無駄の一切ない、全身が筋肉といってもいいほど引き締められた男。とはいえ、やたらと筋肉量があるわけではない。
 すらっとした見た目からは想像できないだろうが、あの腕も触ればまるでゴムのように固い弾力で、ランディを背中に乗せて腕立て伏せができるほどの腕力を持つ。ランディの体重は大人三人分らしい。本人の申告では大人二人と子供一人とかサバを読んでかわいいことをいってたな。

「坊ちゃま?俺の話をきいてますか?」

 にっこりと目が笑っていない三兄弟の長男が、目の前にいる。い、今は会いたくなかったな…あと、心を読まれたような気がするぞ。
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