選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
53 / 229
第二章 事件だらけのケモナー

天使と那由多

しおりを挟む
 光が舞い降りたと思ったら、何かを話した。その瞬間に全ては終わった。

 誰も動かなくなった。

 男達も、蛇も動かない。空を飛んでいる鳥もその場毛止まり、風も感じない。わずかに聞こえていた生活音もきこえなくなった。
 そう、世界が止まったのだ…何も動かず、無音になったのだ。

 切り取られたかのような静寂に、あの謎の領域も静かになっていく。まるで俺が五感を得たような感覚も今は収まった。

「はーい。ケルン元気かな?」

 光が話しかけてきた。なんか、軽いかんじだな?棒神様ぼうじんさまの登場と似てるけど、声からして女の人かな?

 とはいえ、この現象を起こした何者かだ。ただ者であるはずはないだろう。

 気をつけろよ。
「げ、元気です。誰ですか?」
 おい!ケルン!答えなくてもいいぞ!

「あれ?変かな?」
「ぴかぴかしてるよー」

 眩しく思いながら、ケルンが律儀に答えると、光は笑い声をあげた。

「ごめん、ごめん。すっごく久しぶりだったから、形を忘れてた。いや~…いきなり呼ばれるから、慌てちゃった」

 そういうと、光は徐々に形を作り、強く輝くと、一人の女性が現れた。

 人間ではないだろう。なぜなら、四枚の翼が生えた二十代ぐらいの女性だったからだ。

 女性は、真っ白いワンピースを着ていて、胸元に…ダイヤモンドだろうか?光があたると、虹色に反射するブローチをつけている。
 金よりは、茶色に近い髪に、真っ青な瞳。クウリィエンシア国でよく見かけるのだが、やはり、人間にはあまりいないほどの美形ではある。
 
 母様の次に美人かもしれない。
 ただ、雰囲気がやたらと、軽くて、台無しだ。

「確か、こんな感じだったかしら?もっと若かったかな~。でも、いいよね、これで。若すぎて若作りになっちゃうのもね~」
「おねぇさんは、誰ですか?」

 ノリが軽いというか…頭が軽いような気がする。大丈夫かな、この人。とにかく、何者か答えてくれるかもな、これだけ軽いと。

 四枚の翼のうち、右の一番上の翼が、右手と同期しているのか、同じ動きをする。
 なんか、残念だなこの人。あ、人じゃないか。翼があるから翼人よくじん

「あれー?もしかして、ボージィン様から聞いてないの?…ああ、黙っておくのね…んー。そうね、天使よ!天使!美人な天使で覚えといて」

 誰かの声を聞いているのか、遠くを見つめて、そちらと会話をしていた。
 
 嘘臭い。
 ふーん…そういう対応するなら、俺も、分離状態だっての内緒にしておこう。棒神様みたいに心が読めるなら、ばれているかもだけど…それにしても…さっきからの行動がまるっきりあれだ。

 気になって仕方ないことがある。右手と右の翼が動いているんだけど…おばさんの動きだよな。うん。

「天使のおねぇさん。どうして、僕とおねぇさんしか、動いていないの?」

 ケルンと、この自称天使のおねぇさんしか、動いていない。空を見上げても、雲も動いていないし、何より…さっきの光景のままなのだ。
 この異常事態を起こした本人に尋ねるのが一番早いだろう。

「美人な天使のおねぇさんが、答えてあ、げ、る」

 美人のウィンクなんだけど…何だろうか…仕草も古い。まるで…アイドル崩れみたいな…時代が古い…いや、この世界だと、まだまだ未来に流行るかもしれないポーズだけどさ…時代が追い付いてないんだな。そうだ、きっと。

 あと、ここまで無反応だということは、棒神様みたく心は読めないのかもしれないな。

 天使のおねぇさんが、両手をあわせた。

「今はね、時を止めてるの。そう願ったでしょ?」

 そういって、首をかしげる。まさかのぶりっこか。ぶりっこ・残念・美女天使。セカンドネームが一番的を得ているな。

 しかし、願い…確かに、叫んだ時に、止まれって思ったけど…まさか、ケルンと同じタイミングになるとはな…そんなことありえないと思っていたんだがな。

 思考の加速している俺と、普通に生きているケルンとでは、ズレがある。例えば、知識の俺にとっての一秒とケルンの一秒では、かなりの差がある。
 そうだな…感覚的に時間ぐらいか。平均するとだが、おそらく、思考の加速だけに集中すれば、何日分にもなるだろうが、感情や視覚情報からの推測であるとかの要因があると、一時間ぐらいで、答えを出している。あくまで、例えばの話だけどな。

 天使のおねぇさんが、にやりと笑った。

「ケルン。貴方、自分の魔力がどれぐらいあるか、ボージィン様から聞いてないのかしら?魔法使いを選んでるでしょ?」

 突然、そういわれてもケルンはきょとんとしている。
 棒神様との話は俺しか知らないからな。
 
 あー…棒神様の力の砂粒程度、一滴ほどを貰って…それに、魔力が多目に転生したのは聞いたが…そういえば、棒神様からは数値では聞いてないな。一滴ってぐらいしか聞いていない。
 祝福の時に、五千とあったから、一滴分が五千なのかな?

「んーとね…五千?でも、僕…魔法…使えないよ?」

 まったくもって、発動しません。

 魔力の数値化というのは、実は精霊と契約したりすると、明確に出るらしい。らしいというのも、基礎魔法…基礎元素魔法と無属性の魔法は、精霊、意識はなく力だけの存在である、下級精霊と勝手に契約している状態であるから、簡単に使えるのだとか。

 誰でも、精霊と契約しているのに、なぜ、ケルンは使えないのか…誰にもわからない。精霊とは契約しているのはわかるそうだが…どうにも、上手く発動しない。

「五千?あら?それって祝福で出た数値でしょ?それは元々の素質で…もしかして知らないの?」

 おー。棒神様とは関係なく五千もあったのか。それが凄いのかわからないけど…あれ?棒神様の力はどこにいった?

「しらないよー」
 まぁ、そもそも聞いていなけど。

「この世界で一番魔力が多くて…ずうっと昔の人族が出したのが生命力込みで十万。現代だと、その半分くらいね」

 なるほど。最大値が五万な現代だとすると、ケルンの五千は多い方かもしれないな。

「で、貴方はね…命数法に直すと…万って十の四乗なの」

 若干、目をそらしだしたけど、なんで算数?

「十のよんじょー?」
 十を四回かけるってことな。

「えーとね。六十乗なのよね。十の」

 はい?
「どれぐらいー?」
 十を六十回だから…まじか。

「那由多よ。那由多。多すぎて、誤魔化すのも大変で、精霊達が目隠ししたのよね。もう、びっくりよね。ボージィン様の一滴分の力って聞いてたけど、それで那由多なんて、信じられないわ」

 目隠しってことは、あの数値は嘘?本当は…那由多?那由多って、どれぐらいなんだっけ?…えっと…ごめんなさい。数学の知識検索かけても、何がなんやら、理解できない。
 阿僧祇あそうぎの上、不可思議の下ってくらいしかわからねぇな。とにかく世界一多いということはわかった。

 天使のおねぇさんは、どこか感心したように、続ける。

「しかも、器が溢れると思ったら…すっかり、ボージィン様の力が魔力になっているんだもの。まだのびるかもしれいわよねー。けどね、貴方…加護は精霊の保護対象になってるでしょ?」

 ああ、あの、天然記念物扱いのあれか。

「あれね、精霊が世界を保護をするための対象って意味なの。つまり、危険人物ってこと」
「きけん人物?」
 危ない人ってことだ。
「僕危なくないもん!」
「いやいや。あのね、子供でしょ?今みたいに癇癪起こして魔法でも使われてみなさいよ。世界が変わっちゃうわ。だから、魔法が使えないのよ。許可がないとね。あんまりにも魔力が強すぎるから、使えないようにプロテクトを、精霊達がしたの。美人な天使のおねぇさんがいうんだから、信じなさい」

 ということは、ケルンが魔法を使えにないのは、魔力が多すぎるからってことか?

「精霊様が…」

 驚いた。まさか、精霊様から、拒否されるとは…ということは…今後魔法が使えないのか!困る!今すぐ魔法が使いたいんだ!

「でも、ケルンは魔法が使いたいのよね?そう願ったのも聞こえたわよ?」

 今も絶賛願い中ですよ。

「おねぇさん!僕、治癒の魔法が使いたい!」

 色んな魔法が使いたいが、今すぐ必要な魔法だ。

「へぇー…何で?」

 天使のおねぇさんは、値踏みをするように、目を細めた。さっきまでの気安さがなくなり、急にまるで裁判官みたいだ。
 質問の答えによって、なにか罰せらるような気がした。

 それでもケルンも俺も答えは決めている。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する

八又ナガト
ファンタジー
大人気VRMMORPG『クレスト・オンライン』。 通称『クレオン』は、キャラクリエイト時に選択した紋章を武器とし、様々な強敵と戦っていくアクションゲームだ。 そんなクレオンで世界ランク1位だった俺は、ある日突然、ゲーム世界の1000年後に転生してしまう。 シルフィード侯爵家の次男ゼロスとして生まれ変わった俺に与えられたのは、誰もが「無能」と蔑む外れギフト【無の紋章】だった。 家族からの失望、兄からの嘲笑。 そんな中、前世の記憶と知識を持つ俺だけが知っていた。 この【無の紋章】こそ、全てのスキルを習得できる“最強の才能”だということを。 「決まりだな。俺はこの世界でもう一度、世界最強を目指す!」 ゲーム知識と【無の紋章】を駆使し、俺は驚く程の速度で力を身に着けていく。 やがて前世の自分すら超える最強の力を手にした俺は、この世界でひたすらに無双するのだった――

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...