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第二章 事件だらけのケモナー

変な人たち

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 裏路地に入ると、表通りがどれほど綺麗だったかということがわかる。
 まず、ゴミだらけで、嘔吐物まで落ちている。そこかしこから、すえた嫌な臭いがして、風の通りも悪いようだ。生活臭に紛れて異臭がしている。

「変な匂いー…変な匂いー…どこまで、行こうか、変な匂いー…」
 気を付けていくんだぞー。
「わかったー」

 小声で歌いつつ、奥へと進む。歌って、勇気を出してはみるのだが…窓からちらちら見られているな…何人かと目が合ったぞ。
 そんな注目されるほどか?
 そういえば…今日は誕生日で、人が来るからといつもより普段着でも服の質がいい。

 礼服みたないな服を着替える前だったからよかったが、それでも明らかに、貴族の子供ですよ!ってぐらいの格好だ。
 いつもは、もっとラフな格好なんだけど、今日はスーツっぽい服装だ。誕生会だと燕尾服のようなものを着るらしい。

 ただ、家の紋章はつけてないけどな。我が家の紋章は、大きな葉っぱに、杖が二本クロスしていて下に「我らは旅する」という文字がある。貴族には、文字がある家紋と、文字がない家紋があって、章院所しょういんしょという場所が、管理している。

 章院所は、元々は戦争で戦死した貴族の為に作られたという施設らしい。

 なぜ、貴族の為かというと、貴族は、スキルや魔力が高い者が多く、戦争になると真っ先に戦場に行かねばならない。無論、権力がある貴族は、最前線などには滅多に行かないが、ある程度の貴族は…捨て駒なんだろうな。
 最前線に送り込まれれば、死亡率はあがる。
 戦死した貴族は爵位があがるわけではなく、功績によって、家紋が豪華になっていく。国に貢献したからということだ。

 文字の有無は、戦績や、国に貢献してきていた年数によるものらしい、文字があるのは少ないから、すぐにわかるそうだ。例外なく文字をいれているのは、王族や有力貴族のみらしい。
 
 我が家の場合、残念ながら会うことができなかった、お祖父様とお祖母様のおかげで、紋章の格があがったということだ。

 先祖の功績を汚さず、背負って生きねばならない。貴族とは本来そうあるべきである。

 と、習ったのだが、俺は家紋が豪華になるのは嬉しくもない。功績といっても、戦死したからというのが、まったく理解できない。どんな姿でも、生きて帰って来てくれた方がいい。

 ただ、魔法のある世界での戦死は…形が残ればまだいい。亡骸も魔法に使われることもある。別な世界では、そういった魔法があったようなのだ。見たことはないが、この世界にも、あるかもしれない。

 ん?なんか怒鳴り声がしたか?

「誰かいるー!」

 思考の波に浸っていると、ケルンが怒鳴り声のする方へと、走り出した。
 待って!こっそり近づいて、まずは情報を!

「くそっ!死にかけてたら、売れやしねぇじゃねぇか!」
「そりゃー、おめぇが、鱗を剥ぎすぎたんだ」
「何だと!てめぇらだって、こいつの鱗を売った金で良い思いしたじゃねぇか!」

 聞こえてきた声は男の声で、かなり苛立っているようだった。
 死にかけ?鱗?魚か何か売ってるんだろうか?

 奥まった路地の、さらに細い路地を、壁越しにのぞく。流石に、ケルンもそのまま突撃はしないようだ。

「こそっとみよ」
 静かにな。気づかれないようにしないと。

 視界に入ったのは、男が四人。男たちに隠れてよく見えないが馬車を改造したのか?荷台部分が鉄の檻の中に、何かが入っているようで、檻の前で酒だろうか?何かの液体を飲みつつ、騒いでいる。

「珍しいもんだからって、貴族様が買ってくれるったってよ。死んだらいらねぇんだろ?」

 歯が抜けた髭男が、檻の中に唾を吐いた。

「だから、売れやしねぇっていってるじゃねぇか!」

 ハゲ頭の…何でセーラー服?…コスプレ?している太った男が檻を蹴る。

 後の二人は…あの男は寝ているのか?…かなり痩せている男が微動だにせず目をつぶっている。その姿はまるでミイラみたいだ。骨と皮だけのような細身で…あれはハサミか?腰にハサミを何本もさしている。

 もう一人は、正直、性別がよくわからない。体型から男だと思うのだが、やけに肩の筋肉が発達している。そのうえ、仮面をつけていて顔はわからないが、なんというか変な仮面だな。
 真っ黒なんだ。それに…嫌な感じが強くなる。

「なぁ、だったら、鱗を全部売ろうぜ?銀なんだろ?いい金になるだろ?」

 歯抜けがそういいつつ、酒を煽る。口から溢れて、茶色い服が、さらに茶色くなった。目もとろけていて、アルコール中毒か、麻薬中毒おようにしかみえない。

「ちっ…何十枚も剥いで、ようやく銀貨だろうが!こいつ一匹で、クレエル大金貨だったってのによ!」

 セーラー服のコスプレ男は、そういいつつ、また檻を蹴った。
 男たちはいったい、何をあの檻に捕まえているんだ?

「あの人たち、なにしてるんだろうね?」
 そうだな、少し待ってくれ。

 情報整理だ。

 何かを売るつもりだ。馬車サイズの移動型の檻とうことは、それは大型の生き物である可能性がある。そして、鱗がある。今はまだ生きているが、死にかけている。

 鱗がある生き物。魚は水がないから除外。では、爬虫類か。かなり希少な生き物。貴族が欲しがる。
 素材目的か?観賞用か?
 今まで見てきた図案の中でも何種類か大型の希少な動物が浮かぶが、どれもあの檻よりも大型なはずだ。

 そうであるなら…子供か?

 そして、売っている男達だ。

 ハンター?冒険者?…とにかく、街で見ない類いだ。やたらわめいているところを見ると、リーダー格は、あのセーラー服のおっさんだろう?いや…仮面の男か?あ、の男から、危険な…言葉にしづらい嫌な感じがする。凄く後ろ頭がチリチリするのだ。

 さて、今のケルンになにができるだろうか。
 いや、なにもできないだろう。ケルンはただの子供だ。

「もー!エフデー!助けるよ!そんでねー、父様に治してもらうの!あ、ザクス先生でもいいよ!」
 だよな。俺ならそうする…よし、ケルンがそう決めたなら、俺は従うのみだ。

 生き物であるなら、助けたい。今日は誕生日だからな。日頃お世話になった人に感謝して、産まれたことに感謝する。だから、助けたいってのもあるし、知らないふりは、嫌だ。

 どんな者が捕らわれているんだろうか?ちょっとでも、姿が見えないかな?

「くそっ!このっ!動いてみろっ!」

 ガン、ガン、ガン、と、檻を蹴るセーラー服の…長いからセーラーおっさんな。セーラーおっさんが、言葉を区切る度に蹴ると、中の生き物がちらりと、見えた。

 あの肌。汚れても煌めく鱗。何より、遠目で見てもしっとりしている肌。

 蛇だ。

 ひんやりしつつ、つぶらな瞳を持っていて、本当は臆病で、こちらが危害を与えないと攻撃をしてこない。爬虫類の中でスレンダー部門(俺提案)堂々首位を取り続けている。

 蛇だ。

 おい、セーラおっさんお仕置きしてやるぞ。俺のアイドルになにしてくれてんだ。
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