選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

さらばどくきのこ

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「わかりました。坊っちゃま、下がっていてください」
 エセニアはそういうと窓を開けて、スカートをまくし上げるなり、足に装着していたナイフを投げつけた。
 ナイフは風を切って、ペガ雄の首輪にまっすぐ向かっていく。ペガ雄に。エセニアの腕前はよく知っている。二十メートル先の木のみを割らずに落とせるほど得意なのだ。
 ギィーン!という、凄まじい音がして、宝石が砕けた。

「ヒヒィーン!」
「うわぁぁぁぁ!」

 宝石が割れた変化はすぐに出た。ペガ雄は、キノコ元帥を振り落とすと、二階の部屋まで飛んできた。うん、喜んでいるなー。そう思いながら、叩かれた頭を撫でてやる。
 かわいそうに…元が魔石とはいえ建築用だ。簡単に削れたりへこんだりはしなくても、金属で叩かれたら、多少傷つくかもしれない。

 生き物ではないペガ雄の場合では自然治癒などできるはずがない。と、するなら削ることになるかもしれない。一部を削って補修で済めばいいが、全体を補修しなければならなくなったら…そもそも、スキルで動いているといわれても、原理が理解できないのだ。
 下手すれば、動かなくなるかもしれないと思うと補修に手を出すのは二の足を踏んでしまう。

 とりあえず、ぱっとみは問題ないようだ。しきりに頭をつきだすのは、痛いからか?
「ペガ雄、痛いの?」
 石像でも痛覚あるかも…なのか?

「いたいの、いたいの…とんでけー!」
「いつもの変わった詠唱ですね。ペガ雄?痛くない?」

 魔法が使えなくても、おまじないなら!…使えるといいな…自信ないんだよ…気持ちはだいぶこめてあるんだけど。
 効果があったのか、顔をすりよせる。んー。もし効いたら、ナザドを入れて二人目…いや、一人と一頭か。
 とにかく、たぶん、横からみたら、かなりシュールな光景だろうな。だって、窓に空飛ぶ馬が首を突っ込んでいるんだ。
 
 ホラーか。いや、そんな物語があったが…あれはベッドに投げ込まれるんだっけか。

「僕、ぷんぷんだよ!めっしたい!」
 おーケルンが珍しくお怒りモードしているな。けれど完全同意だ。俺の思考領域でも可決だ。文句の一つもいいたい。

「ええ。めっしましょう」

 うちのメイドさんも乗り気なんだ。ちょっとニュアンスが違うような気もする。

「エセニアー。下に行ってもいい?」

 とはいえ、下におりていいのかわからない。父様たちは危険があると思えばおりるのを禁止するだろうし、とりあえず、ダメ元で聞いてみる。

「少々、お待ち下さい。『コール』坊っちゃまが、下におりたいと申されておりますが、そちらは片付きましたか?…ええ。わかりました。坊っちゃまと、そちらへ参ります」

 相手はカルドかな?それとも、フィオナかな?

「坊っちゃま。執事長様に確認したところ、旦那様のおそばにいらっしゃるほうが、安心できるとのことで、下におりてもよいとのことです。安全は確保されていますので、参られますか?」
「うん!」

 父様のそばにいた方がいいっえちうのは、いざってときに、どこかに『転移』するつもりなんだろうか?父様いわく、家族全員ぐらいなら『転移』はできるっていっていた。
 ああ、そうか。キノコ元帥も『転移』を使ってきたのかもしれないな。父様いわく簡単だっていっていた。ナザドは苦手だから自分一人が限界とはいっていたけど『転移』使えるわけだし。学園の先生が使えるんだから偉い人のお付きの魔法使いとか余裕だろう。

 おりてびっくり。キノコ元帥は、顔まで紐でぐるぐる巻きにされていた。鎧とかをはがされて、呼吸できるのか、あれ。
 ぴっちぴちの…美味しくなさそうなハム?なんか、紫色になってるけど、大丈夫?

 他の護衛の兵士も抵抗したのか、ちょっと汚れた服装になっているのだが、全員地面に倒れている。何人か髪の毛がアフロになっているのは、フィオナが雷でも落としてたのかな?それか感電させたのかな?雷系の魔法しか使えないけど、フィオナは我が家の『歩く家電』だからな。料理の温めから、自分の息子に物理的な雷を落とすまでなんでもござれだ。

 あっというまに縛って回っているのはうちの料理長のハンクだ。調理で縛ることもあるし手馴れているんだろう。ほら、チャーシュー作るし。ハムも作るから。

 比較的、元気そうな兵士をみてみるが、口をあけてよだれが出ていたり、目の焦点があっていなかったり、不気味だ。
 何だろう…生気がないというか、本当にゾンビのようだ。紐で縛られているけど、キノコ元帥のように、暴れるでもなく、反省しているわけでもなく、他の反応も特にないし…変だ。
 あ、毛を逆立ててランディがキノコ元帥の上に座った。ランディも怒っているんだろうな、遠慮がない。でも、きのこ元帥…潰れてないよな…「めきょぉ!」って聞こえ…なかった、うん。なにも聞こえなかった。
 
 汁がでているけど、気にしない。

 一人何もされず、立ち尽くしているドワーフがいる。
 快活な表情が削げ落ちたヴェルムおじさんが、頭をふらふらとさせながら揺れている。

 ヴェルムおじさんも、やはりおかしい。ぼんやりと立ちっぱなしだ。何も話さない。キノコ元帥に反抗すらしなかったのだ。
 父様が近寄ろうとすると、おじさんが父様に殴りかかった。

「なっ!ヴェルム!やめろ!」

 父様が声をかけても止まらない。体勢を崩した父様に当たるかと思った。その時。

「ヴェルム様、失礼いたします」

 いつのまにか、母様が父様とヴェルムおじさんの間に割り込んでおじさんの拳を片手でいなし、足でおじさんのアゴをけりあげていた。
 けれど、その蹴りをおじさんは避けて見せた。

「あら、けるのは無粋ぶすいでしてよ?殿方とのがたなら受け止めてくださらないと」

 そういって、思いっきり、母様は平手打ちをした。

 速度もだが、振りぬいた音が凄まじい。鉄同士ががぶつかりあったような、ゴンっ!という音だった。

 凄い音がして、痛そうで半泣きになってしまった。エセニアが抱っこしてあやしてくれているが、母様のいうことは、絶対に逆らわないようにしような。

 大人の男がぶっ飛ぶスイングって、どんだけだよ。

「いってぇ…」

 壁をへこませて止まったおじさんから、やっと言葉をきくことができた。生きててよかった。

「ヴェルム!正気に戻ったか!」

 父様がそういって近寄ろうとすると、ヴェルムおじさんは目を血走らせながら叫んだ。

「近付くな…!隷属を…食らった…」

 おじさんは、そういって、自分の頭を自分で殴った。

 隷属の魔法。この国では使う人がほとんど途絶えた魔法とキャスの歴史の授業で習った。

 隷属の魔法は、奴隷にかける魔法らしく、反抗を抑える為らしい。奴隷制度のある国はあるし、奴隷のいる地方もある。奴隷にも生活があるから、奴隷制度を無くせ!とは言わないが…反抗されると思っているから、魔法で従わせるのは、ズルいのではないだろうか。

 状況から推測するに、ヴェルムおじさんや兵士の人に隷属をかけたのは、キノコ元帥だろうな。

「耐性…持ってても…ろくに…」

 おじさんは、凄く苦しそうだ。反抗したら、苦しめる効果があるのだろう。

「待ってろ!すぐに解く!精霊よ、力を貸してくれ『サーヴァントリリース』!」

 父様が魔法を使うと、おじさんは、あの嫌な宝石の小さい物を吐き出した。宝石は吐き出されると、自然とヒビが入って割れた。

「助かった…あいつ、隷属の魔石なんてもの持ってやがった。くっそ…あんなやつにこきつかわれるなんざ、今まで生きてきた中で二番目の恥だ!…だが…これで、証明されたな」

 隷属の魔石なんてものがあったのか!初級魔法のかかった魔石は疑似魔石ぎじませきだったら絵の具の材料でっくってもらっている。
 だから知っている。人工的にできるものではないということを。父様がいっていたのだ。

「いいかい?ケルン。四大元素…火、水、風、土っていうのが精霊様が一番得意なんだ。氷は水に、雷は風に属しているけど、魔石にこうして付与ふよ…効果を与えるのは少し難しい。もちろん、初級なら氷だって雷だって簡単だ。でも、上級は誰にもできない」
「父様も?」
「そう、父様でもできない。だから、難しい魔法は付与できない。すまないな」
「ううん!ありがとう!大事に描くね!」

 そう、お願いした時に聞いていたんだ。
 隷属は上級だ。意識を従わせるんだ。自然にどういった魔石がどっかで発掘されたのだろうか。
 
 しかし、今はわからないことは考えないようにしよう。気になることをヴェルムおじさんがいったのだ。証明されたって、何がだろうか?

「隷属の魔石は、生物にしか効果がでない。つまり、このペガサスは生きているということだ」

 二階の窓からケルンのそばにおりて頭をずっとこすりつけているペガ雄。かわいい。
 あらためていうのってなんだか、嫌な気分だ。いや、前提が嫌なんだ。ペガ雄が生きているって、変だよな。だって、ペガ雄は自由に飛んだりしてるし。生きてるじゃん。

「ペガ雄ー。苦しくなかった?」

 ペガ雄に聞くとペガ雄は、気にしないでというように、顔をすりよせてきた。

「そうかー…ごめんね?僕が頼んだから、悲しいことになっちゃったよね…」

 それは違うぞ。
 俺が提案したばかりに、ペガ雄に酷いことが起こっただけではなく、ヴェルムおじさんにも迷惑がかかってしまった。
 
 俺がもっと思考すればよかったんだ。ごめんな。
「…ううん、だいじょーぶ!」

 ケルンは少しだけ本当にお兄さんになったな。自分の行いを反省して、次からはしないと決めている。それを俺がきちんとサポートしていけばいい。

「すまねぇ…ケルン…まさか、お前の馬を利用されるとは思いもよらなかった…」

 おじさんがそういうが、それこそおじさんは悪くないだろう。戦争を止めるつもりだったんだから。

「そこの転がってるやつは、ドワーフの作品を私利私欲の為に売り捌いている疑惑があってな。戦争支持派でもあったんだ。上手く戦争を回避できたら、更迭して取り調べる予定だった。ペガサスを王都まで連れていってから、やたらと旅の護衛につくとほざいていたが、必要ねぇと断って、内密に国を出たんだ」

 そのういいながら、キノコ元帥を蹴ったら、キノコ元帥が動いた。よかった生きてたようだ。これで事故物件は回避できた。

「ドリュフの野郎は、どこで嗅ぎ付けたのか、襲撃をかけてきやがったんだ。ご丁寧に、隷属の魔石なんてもんを持ってな!俺の弟子どもを人質に取りやがって…宰相殿は、弟子どもと、途中の宿に縛られたままだ。すぐに助けにいかねぇと」

 父様は兵士たち全員の隷属を解くと、兵士たちは全員深く頭をさげた。彼らも被害者に変わりないように思う。
 そのままヴェルムおじさんが、偉そうにしてたキノコ元帥を国に連れて帰るといって、二日後のことだった。

 屋敷にいる全員に『コール』がかかったのだ。






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