選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

どくきのこは触れても危険

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 あまりにもな態度をするキノコ元帥に、我が家の家族たちは怒り度数の表情が止まらないようだ。

「ここを、クウリィエンシア皇国、首席ロイヤルメイジ『法王』ティストール・フェスマルク様のお屋敷と知っての狼藉ですかな?」

 カルドが大きな声で言い返していた。首席ロイヤルメイジっていうのは、父様の勤め先のことなのはわかる。首席ロイヤルメイジっていう部門があると思うのだが、つまり、部長という役職みたいなものだろうな。

 きっと閑職かんしょくなんだ。
 間違いないな。だって、うち、貧乏だから使用人も少ないんだからな。

 でも、『法王』って何だ?教会の人間ではないんだけど?

 エセニアに聞こうかと思ったら、キノコ元帥が剣を抜いた。
 思わず息を飲んだ。

「たかだか執事風情が!我らの宝物を盗んだ大罪人をかばいだてするか!」

 カルドが、父様を庇い何かいったようだが、よく聞こえなかった。流石に、距離があるからな。カーテンで身を隠しながら、もう少し様子をうかがうか。

 窓を開けるのは流石にバレるから危ないかな?
 幸いなことに、エセニアもキノコ元帥の行動が気になるのか、こうして盗み見を止めようとはしない。

「大罪人…?」
 
 エセニアが険しい表現のまま、ぽつりといった。持っていた皿がヒビが入ったんだけど、怪我してないよな?
 その時、ペガ雄がこちらを見た。助けを求めるような視線であった。

 「ペガ雄?」

 しきりに何かを訴えてくるような目線だ。ペガ雄を作ってから、なんとなく、ペガ雄のいっていることがわかっていたんだが、何故か、今は布越しといえばいいのか、一枚扉を挟んだ状態といえばいいのか…何かで邪魔されているような深いな気持ちだ。 

 キノコ元帥は、ペガ雄に股がったまま、剣で、ペガ雄の頭を叩いた。

「見よ、この石像を!いやしくもただの人が『造物』スキルを使えるはずもない!すなわちぃ!エフデなるものはぁ!我らの偉大なる王イムルの遺産を持ち出し、なおかつ、我が物として、鍛冶長を騙した罪は重いぞ!」

 言葉尻を強くしながら、剣で叩くのをやめない。
 ペガ雄を物のように扱ってる癖に!剣で叩くなんて!それでも、ドワーフなのか!

「なんで、酷いことするのぉ?」
 わからない。ドワーフは、自分の作品も、他の人が作った作品も、決して粗末に扱わないと聞いたのに、何でだ!
「ペガ雄は僕が作ったのに…あんな酷いこと…」

 ちょっと泣きそうだな。俺も同じだ。頑張ったのに、あの言われよう…ぎゅっと、拳を握った。悔しいな…ん?

 再度ペガ雄からの視線を感じた。

 かわいそうなペガ雄。見るからに重そうなキノコ元帥を乗せて、変な飾りをつけられて…ん?飾り?
 ペガ雄の首に変な首輪がつけられていた。あんなもの、俺はケルンに作るような提案はしてないし、ケルンだって作っていないぞ?

 あと、エセニア。皿潰すのは、危ないぞ。

「一つ、尋ねる」

 父様が、かなり怒っている。普段から、父様はどちらかというと、落ち着きがある方なのだが、母様やケルン、屋敷の使用人が貶されると、声量が大きくなるのだ。

 例えば、ランディの悪口をいったメイド見習いは、父様の声量が大きくなっていることに気付かず、ケルンを遠回しに屋敷の子としては、役に立たないといったのだ。スキルが少なく、魔法が使えないのでは、結婚相手がいないのではないかとな。

 あの時は、屋敷が揺れたな。即追い出されてたし。次の日父親の貴族も来たけど、父様とあの母様が二人そろって、怒ったから…おねしょしたな。

 怖すぎた。

 それには、気付いていないキノコ元帥は、鼻で笑ったようだ。

「何だ、ティストール・フェスマルク首席殿」
「エフデという者をどうなさるおつもりで?」

 まだ、父様の怒りボルテージは上がりきっていないけど、エセニアの怒りボルテージは計測不能ですよ。

「決まっておる!国で裁く!そして、私の元で国に奉仕させるのだ」

 え?奉仕ってことは、タダ働き?ってか、キノコ元帥の元でとか嫌なんだけど。

「…す」

 エセニアさん。何をいったか聞き取れなかったけど、顔がティルカそっくりですね、流石兄妹!ハイライトのなくなり方なんて、ナザドそっくりだよ!

 キャスのツッコミが恋しいよ。

「それは、王の…国の決定でございますか?」

 父様の怒りボルテージも最大値までいったようだ。空気が何だか、ビリビリしてる。

「私の決定は、王の…ひいては、国民の為である!」

 あ、つまり、王様に黙ってエフデ、つまり俺を連れていくってことか。

 そうか、冗談ぬきで死ぬぞ。

 熱烈なファンがいたことがあって…エフデを専属絵師にしたいと、どこかの貴族がわざわざ来たことがあったが…社会的に抹殺したと薄々気づいたからな。

 身なりが良かった貴族が、ボロボロの衣装で謝罪しにきたのを、ちらりと目撃したからな。何をしたのかは…わからないけど。

「ほぉ…あなたの決定だけであると…」
「ふん!私は元帥であるぞ!」

 本当に胸をはって自慢げにするやつがいるなんて、さすが毒キノコ。胞子が頭につまっているだけはあるな。

 父様が何かいっているようだけど、聴き取れはしなかった。代わりにヴェルムおじさんを睨みつけている様子はみてとれた。

「ヴェルム!どういうことか、詳しく聞こうか!話によってはうちと…ヴェルム?」

 父様が、ヴェルムおじさんに尋ねるのだが、おじさんは、まったく反応を返さない。何だか、ゾンビみたいだ。おかしいな。キノコ元帥のいうことを聞くような人ではないと思ったのだけど。

「おい、ヴェルム?」

 心配げな表情で父様が再度呼びかけた。

「おい、鍛冶長!ここにきて、膝をつけ!このような下劣な地へ、私の清潔な足をつけさせるつもりか?」

 その問いに答えることもなく。おじさんは、キノコ元帥の横にふらふらとしながら近寄り、膝をついた。
 膝をついたおじさんを「遅い!」といっってキノコ元帥は足で蹴った。おじさんは、そのまま倒れこんでしまう。

 ヴェルムおじさんの様子が、やはり変だ。どういうことなのか、よくわからないが、とりあえず、まずは、ペガ雄を助けないとな!

「エセニアー!お願いがあるの!」

 落ち着いたと思うエセニアに、一つお願いすることにした。

「何でしょうか坊っちゃま?坊っちゃまの大切な作品に許可もなく勝手に乗っている肉塊でしたら、私の父がすぐに始末しますよ?」

 エセニアさん、マジ切れか。仕事中なのに、父とかいってるし、ワンブレスでいい切ったよ。まぁ、俺もケルンが怒っているから、キノコ元帥を片付けたいのには同意するけど、どかす意味だよな?

「退いて欲しいけど、ペガ雄が嫌だったら、乗せてないと思うんだー。何か理由があると思う!」
「理由ですか…」
「あの首輪変じゃない?」

 首輪を、正確には、あの黒いような紫のような宝石を見ると、首の後がちりちりとするのだ。

 そもそも、装飾として、馬に首輪をするというのは、俺としては反対だ。石像だから関係ないかもしれないが、馬のたてがみが、風になびくからこそ、雄々しさが増すと思うのだ。もちろん、式典とかで、飾り付けるのはわかる。だがな、自然の風にまさる衣装があるか!あのたてがみが、風になびいている姿だけで、馬の良さの何割かを担ってるんだぞ!

 いや、それだけではない!覇気が足りないんだ!折角の胸筋が、変な宝石のついた首輪によって、よく見えないじゃねぇか!わかるか!あの胸筋からの躍動感を出す為に、世界最高の馬の胸筋を思い出して、にやけてしまって、カルドに心配されたんだぞ!

 魂にディープな衝撃くらったわ!だが、めげない!

 それに、俺には伝わるのだ。ペガ雄の助けを求める声が!制作者にとって、作品は子供だ。子供が助けを求めるなら、どうすればいいか。

 お父さん、頑張っちゃう!
「おー!」
 おい、ケルン返事するな。エセニアが首をかしげたぞ。

 ただ、俺の力では何もできないので、側にいる人を頼ることにしたのだ。

 エセニアは、少し考えてから、懐刀から、小刀を取り出した。護身用とは聞いていたが、あまり見たことがなかった。森では、ランディの管理で動物にでくわしても、問題はなかった。

 むしろ、やけに馬鹿でかいハリネズミこと、大ハリネズミのもぐたや、猫みたいに懐いてくれている虎のハクに囲まれて幸せになったぐらいだ。針も毛皮も、柔らかくて、しかも、目に入らないように配慮してくれていたので、会うたびに全力でモフる。うっかりモフりすぎて、鼻血が出たのは、いい思い出だ。

 鼻血のたびに、引退していて暇だからとすぐに来てくれるザクス先生には申し訳なく思っている。

 ザクス先生、粘膜が弱いとか、子供だからでなくてごめんなさい。ケモナーの持病の一つなんです。
 あと、先生の家の猫連れてきてください。毛が付いているので、わかりますよ。
 子猫拾ったんですね!三毛とアメショですね!モフりたい!

「にゃんにゃんさん!」
 おっと、またうっかり思考の波に溺れるところだった。この情熱も…ケモナーの持病の一つなのさ…。
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