選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

元住人のお客様

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 原因不明のままだが、あれからとくに問題を起こすことなく、すっかりペガは屋敷に溶け込んでいる。ペガ雄が完成してから、一週間と少し。ペガ雄をみたキャスは、それはそれは驚いていた。
 ティルカとナザドは手紙だったのだが、ティルカはおそらく満面の笑みを浮かべて書いたと推測できる。

「さすが、坊ちゃま!きっと、坊ちゃまなら、すげぇ芸術家になるな!護衛なら任せてくれよ!」

 という、やっぱりなと予想通りの内容だった。もう少し大人な手紙を、そうだな…たまにはケルンを叱るとか?そう期待したんだが、ある意味、安定的な内容であったのだ。
 が、ナザドからの手紙だと…うすら寒い。
 まず、一行目が怖い。

「坊ちゃま。もし、その馬が坊ちゃまのご命令を聞かないとなりましたら、僕を呼んでください。ちりにしてやります」

 そこから、学園の愚痴をこれでもかと書いていたので、なるべく早くナザドを里帰りさせるように父様とカルドに頼んだのは、仕方ないだろう。
 半年ほど顔をみてないからな…痩せてたりしたら、転職をすすめよう。
 そして、学園の生徒の無事を祈った。

「もぐたー!」
「きゅー!きゅー!」

 今日も森をランディたちと散歩としゃれこんでいた。朝の日課である散歩は体力づくりもだが、一番は森の動物たちとの触れ合いを楽しめる場でもあるからだ。

「今日はもぐたがぎゅーの日ねー!いいこー!」
「きゅきゅー!」

 そして、ただいま絶賛、大ハリネズミの『もぐた』と触れ合っているところだ。大ハリモグラも愛玩動物というよりはかなり危険な動物である。人を襲うし、針には殺傷能力もある。
 ただ、このもぐたは、ランディが拾って育てた生き物なのだ。怪我をしていたのを拾って介抱したからか、ランディにとても懐いていて、ランディのいうことは絶対に従う。
 ケルンを傷つけてはいけないというランディからの約束を守っている。

 しかし、ちょくちょくこうやって遊んでモフっていたおかげか、もぐたとはランディを抜きにしても仲良しになっている。
 ちなみに、もぐたと名付けたのはランディだ。あと、もぐたはメスだ。

 他にも動物たちがいるんだが、各々なわばりがあって、そこから毎日離れることはしていない。こうやって時々誰かしらが顔をだしている。
 
 大ハリネズミの針は殺傷能力が高いと図鑑でも書いていたのだが、実は大ハリネズミは玻璃の硬度を変えることができる生き物だったのだ。それをランディに教わってからというもの、もぐたに会うと必ず柔らかいお腹だけでなく、背中も抱きしめるようにしている。

「もふもふねー」
「きゅー」

 お昼ご飯も食べたから、なんだか、少し眠くなってきたような。
「もぐたーなんだか眠たいやー」
 ケルンそれはいけない。きちゃいけない何かがきちゃう。 

「あ、坊ちゃま、寝たらいけねぇだよぉ。エセニアちゃん、坊ちゃまを」
「はい、おじさま。坊ちゃま?おねむですか?」

 ランディとエセニアの声をききつつ、こてりと意識が遠のいていた。

「ふわあぁぁ…あれ?おうちだー」

 散歩をして、おやつを食べて、ついもぐたのもふもふで、眠気が来てしまってそのままお昼寝していた。二時間ぐらいか。部屋に時計がないが、外の景色が、そろそろ空を夕焼けに染め始める頃合いだった。冬が近づいてきているから、陽が沈むのが早いぜ。

「エセニアー」

 起きてすぐに、エセニアを呼んだ。そうすると、ノックしたあとで、エセニアは寝室に入ってきた。

「おはようございます、坊ちゃま」
「おはよー!喉かわいちゃったー」

 寝起きで、喉が渇いたので、お茶か水が欲しかったので、エセニアに用意してもらうように頼もうと思った。

「はい、坊ちゃま。それでは、広間でお茶にしましょう。今日は旦那様がすでにお戻りですよ」
「父様が!早く行こう!」

 ベッドから飛び起きて、エセニアと連れだって広間に向かうと、父様と母様が、お茶をしていた。給仕はフィオナがしている。

「おはよう、ケルン。ただいま」
「父様、おはよう!お帰りなさい!」

 父様が、帰ってきた嬉しいケルンは、早速、座っている父様に飛び込んで甘えた。

「ふふ、ケルン、よく寝れたかしら?」
「うん、母様!ぐっすり!」
「あら、それじゃ、夜寝れるかしら?」
「寝れるよ!大きくなるためだもん!」

 母様は、優しく笑って、でも、ちょっと、寂しいような気持ちがあったのだろうか。お昼寝も一人でできるようになったから、寂しく思えてるんだろう。

「ふふ、ゆっくり大きくなればいいのよ」
「そうだぞ、ケルン。子供の時代は短いんだ。ゆっくり大きくなればいいんだ」

 両親の言葉には、一緒にいれる時間が短いことも含んでいるのだろう。かなり遅くにケルンは産まれた。父様や母様ぐらいの年齢なら、本当はケルンは孫くらいの年齢差がある。

 それに、俺はわかった。子供の時間は、大人になってから、後悔しても帰ってこない。ただ一度だけの、許された時間だ。
 父様の膝からおりて、自分の席に座ってから、返事をした。

「うん!」

 ケルンも俺も…自由に楽しく過ごしているよ。
 両親に、たくさんの家族。精霊様が決めてくれたという、俺の家族。幸せだよ。
 俺とケルンの守らないといけない世界なんだ。

 家族でお茶とお菓子を楽しみつつ、今日の出来事を話し合っていると、いやカルドがノックをして失礼しますと断って広間に入ってきた。
 いつもは静かに入ってくるのにどうしたのだろうか。

「旦那様。お客様がおみえです」
「客?…来客の予定はなかったはずだが…誰だ?」

 入り口で止まったままのカルドに、強い視線をむけているのは、フィオナだ。まるで、悪戯した時に怒った時のような表情だった。

「お懐かしいお客様です」

 そういって、ティルカがケルンに見せる表情によく似た、ちょっとしたサプライズが成功して喜んだ時のようなそんな表情のカルドの後ろから、のっそりと表れた人物。

 その人物はいうなれば、歩く石像のような体格だった。隆起りゅうきした筋肉はみせかけのような筋肉ではなく、まるで無駄のないつきかたをしている。一歩進むだけで。地響きがとどろきそうな太く、大地をしっかりと踏み込む足。
 ひげ面に、逞しい二の腕、額には、大きな刀傷がついているが、あの団子鼻…間違いない。

 ドワーフだ!この世界で初めてみた!
 俺はドワーフをみたことはあったが、ケルンとしては初めてのドワーフだ。

「じかに会うのは四年ぶりだな!ティス」

 お客様のドワーフが、手をあげて父様に挨拶をすると、父様は、立ち上がって、近寄った。

「ヴェルム!久しぶりだな!元気だったか?」
「おいおい、ちょっと前に話しただろ?っていっても三か月も前か…お前こそどうだ?また仕事さぼっていないか?」

 肩を叩きあうかわりなのか、拳を付き合わせている。ドワーフ式の挨拶なんだろうな。

「時々、後進に仕事を渡しているようですわ」

 母様は、俺を連れだって、お客様のとこに向かった。
 父様が、仕事が時々早いのは、早く引退したいからと聞いている。だけど…もしかして、さぼり魔なの?父様。

「これは、奥方!相変わらず、お綺麗でありますね」

 そういって、母様の手をとって、膝をついた。あれ?貴族式の挨拶をしているんだけど、もしかして、お客様って、貴族?
 きょとんとしてケルンがドワーフを見ている。まぁ、絵本でしかみたことがない種族だからな。しかも知らない大人だ…

「おっ!もしかして、ケルンか?大きくなったなー!」

 目線がケルンと、同じぐらいになったことで、気付いたことがある。
 声がでかい。身体を震わすほど、声がでかい。流石、ドワーフ。

「おじさん、だぁーれ?」

 母様の、後ろに隠れるようにして、尋ねた。父様が、ヴェルムと名前を呼んでいたから、ヴェルムさんなんだろうけど。挨拶がない人は知らない人っていうケルンの感情がある。

 挨拶があっても、知らない人なんだけどな、ケルン。

「おお!俺は、ヴェルム!おじさんはな、お前の父ちゃんの友達だ。覚えてないだろうが、一歳になるか、ならないかぐらいの頃に会ったことがあるんだぞー?ああ、あの作業場の元住人といった方がわかりやすいな。ケルンが遊び場にしていることは、ティスの手紙と、自慢話の『コール』で聞いているからな」

 そういって、じろりと、父様を睨んだ。

「お前ぐらいだぞ、ティス。子供の自慢で通信魔法使うような奴は。無駄なことに魔力使ってんじゃねぇよ。有事のとき困るだろうが」

 そんなことしてたの、父様。し、仕事は終わってから、やっているよね?…どうなんだろ…

「無駄ではない!」
「いや、無駄だろ。嫁自慢と息子自慢と使用人自慢だらけの通信魔法使うような無駄な奴は、お前ぐらいだぞ!仕事しろ!」
「家族自慢が、私の生き甲斐だ!それに、仕事はしている!お前こそ、長い反抗期を卒業したと思ったら、今度は仕事場から出てこないらしいではないか!」
「うるせぇ!見合いが面倒なんだよ!」

 口喧嘩しているようだけど、父様は楽しそうに見える。仲がいいんだろうな。ちょっと、羨ましいかもしれない。

「あらあら…お父様ってば、はしゃいでいるわね」
「いいなー!…僕も同じくらいの友達欲しいな…」

 同年代の子供が周りにいないから、ケルンは少しだけ、すねたようだ。
 幼児教育として、同じぐらいの年頃の友達がいたほうが情操教育にもいいはずなんだが、貴族のしがらみ…というか、ケルンの立場が微妙なのが大きいだろうな。
 魔法が使えないというのはそれだけ下にみられるということだ。

 まぁ、いい出会いがあれば友達なんてすぐできる。
「友達できたらなー…」
 動物はたくさん友達になれたんだが、人間はこれから友達になっていけばいい。 

 少し落ち込んだケルンを母様は優しく抱きしめて、ひたいにキスをする。

「学園に入ったら、たくさん友達ができるわ!友達ができたら、お屋敷に連れてきてもいいわよ」
「ほんと!」

 いつか、友達てきたら、必ず連れてこよう!それで、みんなを紹介するんだ!
 という、ケルンの決意。まぁ、俺も反対はしない。友達…できれば、同志がいればいいんだけどな。

 そのまま抱き上げて膝に座って、頭を撫でる。ケルンと母様の、親子の会話を、自慢気に父様はヴェルムおじさんにみせて、ドヤ顔をしている。

「見ろ!妻と息子の会話を!素晴らしいだろ!」
「だからな…!独りもんには、胸焼けがするってんだよ!ったく」

 どかっと、ソファに座り込むヴェルムおじさんは、さっきまでの和やかな会話が嘘のように、真剣な表情をみせた。

「王都に寄った帰りだが、お前がいるなら、寄らずにここに来ればよかったな」
「何だ、私に用があったのか?」

 父様も雰囲気が変わっていた。
 なにかぴりってするな。

「柄じゃねぇが、別れの挨拶をしている」

 カルドがお茶をいれていた。かちゃっと、珍しく茶器が当たったのか、音がする。

「何があった?どこか病んだのか?『鉄塊てっかいのヴェルム』ともあろうドワーフが」

 『鉄塊』?なんだ?二つ名?
 父様の言葉に、そうじゃねぇよ。とヴェルムおじさんは、酒を煽るかのように、お茶を飲み干して、ぽつりと呟いた。

「戦だ」
「どういうことだ」

 戦争。父様は、酷く怒っているようだった。母様も、手が震えた。
 戦争は嫌いだ。悲しい。
 でも、何で、戦争が起きるんだ?

 ヴェルムおじさんは、前のめりになって話を続けた。
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