13 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー
制作活動、曇りのち
しおりを挟む
穿つ!
渾身の力を込めて、ただ一振りに全力をそそぐ。手の先の毛細血管が、ぷつりと音をたてたような気がしたが、構わずに最後の一押しをする。
まぁ、そう思ってるだけで、実際は、プリンをすくう感じなんだけどな。
あの不思議な体験のあと、カルドはすぐに父様と話をしに、父様の小場へとむかった。一応、購入したものは簡単なチェックを受けた。とはいえ、彫刻刀だけしかチェックはされなかったのだけど。他の品は特に何もいわれなかった。
特に問題もないということで、貰った彫刻刀で、早速、彫刻をすることにした。
本来、下絵から始まり、木材の平面彫り、木材彫刻を下積みに、材料を石に変え、今度は石材の平面彫りからスタートする。下絵描きで、空間認識を学び、平面彫りで、基礎の彫りを学び、一本彫りで、ある程度の修練を積む。木材も、柔らかい物から、固い物へと材質を変えながら、徐々に石像を掘れるようにしていく。
あくまで、自己流であるが、知識=経験ではない。知っているからといってできるというほど、簡単にはてきないのが、世の常である。
例えるなら、料理の味を知っていて、レシピもある。だが、切り方や調理の順番間違えたら、記憶の中にある、想像の味と違ってしまう。
故に、知識を持って、経験せねばならない。
しかし、だ。俺はただの知識ではない。絵画、鍛冶、それに彫刻。その他にも、料理や調合など。この分野においてのみ、経験での知識があるのだ。
おそらく、今までの魂の持ち主…前世といえばいいのか…俺であった者達が、似たような職種にしかつかなかったのだろう。例え、世界が違っても、同じような人生を歩んだのだろうと察しはつく。
口癖になりつつある、魔法の言葉をあえていう。
何せ、俺だからな。自分のことは、自分が一番知っている。
調合もよくやっている。
絵の具の魔石の調合、配合の調整だって、俺がやっているくらいだ。配合を間違えると、良い絵の具は、できないからな。発色も異なるし、乾いてからの色の変化も計算にいれなければ、劣化してまう。
「ふぅ~…あとちょっとだぁ!頑張るぞ!」
独り言で気合いを入れているケルンは、満面の笑みを浮かべている。
まぁ、全力で創作活動に取り組んでいるからな。子供の遊びの延長とはいえ。
「楽しいよぉ?」
まぁ、それは同じ意見ではあるが、我ながら子供らしくない遊びだな。
そうそう、今は、屋敷の庭の一角にある、こじんまりした作業場で、石像を彫っている。
小屋…小さな平屋の一軒家程度の広さはあるか…昔、父親の友人のドワーフが、鍛冶場兼作業場にしていたところで、使い勝手がいい。
机も椅子も、普通の物よりも、幾分か低く作られているから、ケルン一人でも、そこまで無理なく快適に過ごせている。
一つ、異質になりつつあるとすれば、埃を被った炉だ。
本当は、鍛冶もやりたいが、一家全員(使用人から、両親の知り合いまでも含む)から。止められてしまった。大槌や、金槌も、手が届かない場所に仕舞われている。手元には、小槌と、木製の槌が代わりに置いてある。まだ、早いか。五歳になったし、そろそろ屑鉄くらいは、溶かしたい年頃なんだけど。
ああ、今日は誕生日だった。うっかり、記憶から抜けるところだった。俺としたことが、興味があまり沸かなくて、五歳になったということしか、頭になかった。
「誕生日は楽しいがたくさんだねーでもいつも楽しいもんねー?」
そうケルンが思うくらいには、特別な日って感じではない。家族がいつも楽しませてくれてるからな。いってしまえば、毎日が誕生日だ。
貴族の誕生日っていうのは、派手かと思ったら、そうではなかった。
朝から、両親に笑顔で起こされ、誕生日おめでとう!といわれ、屋敷にいる全員からもおめでとうございます!といわれたぐらいで、あまり変化がなかったのが、原因だ。
両親が起こしに来るのも、いつもと同じだし、今日の主役!みたいな毎日を送っているためか、俺としては、ああ、誕生日か。と事実を受け入れるぐらいだ。ケルンとしては、誕生日!何して遊ぼう!という、喜び?平常通りな感情な気もするが、テンションは高めだ。
夜になると、ごちそうと、誕生日用のケーキがつくらしい。晩御飯は、毎日ご馳走だし、デザートにケーキの日もある。それに、誕生日プレートがついているか、ついていないかの違い。誕生日といっても、それぐらいだ。
何でも、来年の誕生日は、人を招いて盛大にやるとか。七歳の誕生日は、学校…予定では寮生活ではなかった第三分校なのだが、その分校も来年からは寮になるとかで、両親や使用人一同、衝撃を受けていた…本校は王都よりも、西にあるが、分校は、王都よりも、東側、ポルティから南におよそ三十キロのところにある、ヘリティという街にあるそうだ。そこで、迎えることになるだろうから、盛大にやるとか。
勘弁してもらいたい。今日が嬉しかったのか、朝起きて、パンツを履き替えたんだからな。
シーツの模様は、そっとスケッチした。おねしょパンダという題名にしておいた。
いつも通りなら、散歩の時間なのに、作業場で石像を彫っている理由は、誕生日だから、お屋敷内で過ごすこと。と、両親と約束したからだ。何でも、祝福をする為に、司祭様が来られるとか。
くっ…ランディのちょっとクセっ毛な、ベア毛に、もふん!て顔をうずめて、スラ吉をもにゅん!ってしたかったんだけどな!
「我慢だよぉ?」
そうだけど、残念がっているのはケルンの感情だろ?
それは夜にやるとして、時間もあるし、朝から作業場に入っている。
もうちょっとで完成するこの石像は、司祭様にあげよう。いらないと言われたら、かなり困る代物だけどな。ケルンも、司祭様に喜んでもらおう!という、気分なので、作業はスムーズに進んでいる。
この作業は、確かに便利な所もあるのだが、元々が俺用ではない為、多少不便である。
大きな…いや、かなり正直、部屋の半分が埋まってしまうぐらいでかくて、文字や模様がこれでもか!と書かれている用途不明のテーブルが置いてある。どかそうにも、部屋の入り口よりも幅がある…どうやって入れたんだろうか。中で組み立てたのか…?継ぎ目がないんだが。
そのテーブルの上には、俺が…いや。ケルンが今まで描いた絵画の下絵や、絵画。俺と一緒になってから描いた下絵や絵画が、散らばって置かれている。
窓の近くしか空いていないので。そこを石像を作る作業スペースにして、早三時間。
細かい調整をして、ようやく完成した。
窓から入る光で、キラキラと、真っ白い石材が光を放っているようだ。
高さは、俺達よりも高い、百六十センチジャスト。
真っ直ぐ、そして、見事な曲線。
たくましいほどの二の腕は、力強さを表している。
今回は、俺が納得する題名をつけれた。
題名『魔神をしめた棒神様』
ケルンはよくわかっていないから、棒神様!って題名にしているが、魔神をしめたって冠をつけた方がいいぞ。
うん、棒人間が、右手をくいって、曲げているたけなような気もしなくもないが、棒神様だと威厳があるな。
たぶん。
きちんと、下絵を描いて作ったのだが、どうも、いい構図が浮かばず、腕組みポーズもなんだかな?って思いつつ、何枚か描いて、上手く描けたのが、この石像の下絵だ。
疑似魔石ではなく、ちゃんとした魔石で作ったのが、また味わいを深めているんだろう。
きっと。
この大きさの魔石なら、高いように思えるが、実はかなり安いのだ。
彫刻刀を貰って、帰宅してから、試しに木材でやろうと思っていたら、屋敷に着くと、ポルティで買い物したものが、ちょうど、運びこまれているところだった。画材屋や、注文していた品物と一緒に、この石材を積んで、屋敷にやってきていた。
王都の教会から流れてきたもので、礼拝堂とは別にある、祭事を執り行う神殿の補強材として使われた時の余った石材を、寄付を求める意味合いからか、教会が売りにだしたそうで、画材屋の知り合いが、ケルンが何かしらの作品の材料に使うかもしれないと思って、画材屋にわざわざ話を持ちかけて、屋敷に持ってきたらしい。それならばと、買おうと思ったら、カルドが支払いをすでにしてしまっており、買ってもらってしまったのだが、銀貨一枚で済んだ。これは、俺もその場で見ていたから、間違っていない。
魔石は、小指程度の大きさで、金貨三枚。
かなり、安いのには、理由がちゃんとある。魔石の質が最も下で、利便性に欠けるのだ。
ほぼ、ただの石と変わらないが、汚れにくく、多少汚れても、自ずと綺麗になるから、建築や彫像向きな材料になっている。
価値としては、多少、魔石要素があるだけの、ありふれた建築資材なのだろう。
しかし、この彫刻刀は凄い。石工用ではないのに、本当にすいすい作れてしまう。魔法の道具みたいだが、父様も普通の道具としかわからないってことだから、ちょっと特殊な材質で作られているんだろうな。
とりあえず、シーツをかけて、掃除と運んでもらうのを頼まねばならない。自分でやろうとして、箒を盛大に窓ガラスに当ててしまい、それはそれは大変なことになった。
三兄弟が揃っていた日だから、本当、もう、言葉にできない。したくない。ケルンには家事をさせい。鍛冶はしたいけど、作りたいのは、お馬さん用の蹄鉄とか、自分用とハンク用の包丁だからな。
作業場の入口をノックする音が響く。そして、返事をする前にドアが開いた。
「ケルン。お客様が来られたらから、おいで」
「やぁ、ケルン。今日は何を作っていたんだい?」
父様と、父様よりも背が高い、白よりも銀色に近い四十代ほどの男性が作業場に入ってきた。
男性の紫を基本とした、長いローブの服装と、首につけている、丸の中に、人という字を上下逆さまにしたような、ネックレスをみれば、どのような人物かは明白である。
「司祭様!久しぶりです!今日は石像を作ってましたー!」
ひょろりと細く、背が高い司祭様は、かがんでも、まだケルンよりも目線が高い。それでも、限界までかがんで、目線を、合わせてくれようとする。
にこりと司祭様は、笑って、感心したようにいった。
「へぇー…相変わらず、凄いものを作っているね。モデルは誰だい?お父様かい?それともお母様?ああ、屋敷の誰かかな?」
「ふふふん…見てくださいー」
首をひねりながら、モデルを当てようとする司祭様と、自慢気な父様に、テンションがどんどん上がっているケルンは、鼻歌まじりで、シーツに手をかける。
「じゃじゃーん!棒神様です!」
力作を自慢するケルンが最初に見たものは、ポカーンとした様子の父様と司祭様の顔だった。あれ?いい出来だから、誉められるかと思ったんだが…あ、もしかしたら、棒神様の姿が、凄いイケメンとか、美女になっているのかもしれない。風の精霊様が、美女を象っていることを、失念していた。
失敗したなぁと、提案した俺が反省会を開こうと思っていたら、唖然としていた司祭様がはっとなって、何をしたと思う?
真顔で五体倒置。
泣きそうになったのは、ケルンであって、俺ではない。つられて泣きそうだなんてこともないぞ!かなり引いたが。
子供からしたら、大人の真顔ほど、怖いものはないだろう。周囲の大人の真顔の時が、キャスとフィオナを除いて、ほとんど見ないから余計に。それから、ギャップが酷い。
五体倒置のまま、お祈り始まったんですけど。もう、半泣きなんだけど。
俺たち一心同体だからな。
渾身の力を込めて、ただ一振りに全力をそそぐ。手の先の毛細血管が、ぷつりと音をたてたような気がしたが、構わずに最後の一押しをする。
まぁ、そう思ってるだけで、実際は、プリンをすくう感じなんだけどな。
あの不思議な体験のあと、カルドはすぐに父様と話をしに、父様の小場へとむかった。一応、購入したものは簡単なチェックを受けた。とはいえ、彫刻刀だけしかチェックはされなかったのだけど。他の品は特に何もいわれなかった。
特に問題もないということで、貰った彫刻刀で、早速、彫刻をすることにした。
本来、下絵から始まり、木材の平面彫り、木材彫刻を下積みに、材料を石に変え、今度は石材の平面彫りからスタートする。下絵描きで、空間認識を学び、平面彫りで、基礎の彫りを学び、一本彫りで、ある程度の修練を積む。木材も、柔らかい物から、固い物へと材質を変えながら、徐々に石像を掘れるようにしていく。
あくまで、自己流であるが、知識=経験ではない。知っているからといってできるというほど、簡単にはてきないのが、世の常である。
例えるなら、料理の味を知っていて、レシピもある。だが、切り方や調理の順番間違えたら、記憶の中にある、想像の味と違ってしまう。
故に、知識を持って、経験せねばならない。
しかし、だ。俺はただの知識ではない。絵画、鍛冶、それに彫刻。その他にも、料理や調合など。この分野においてのみ、経験での知識があるのだ。
おそらく、今までの魂の持ち主…前世といえばいいのか…俺であった者達が、似たような職種にしかつかなかったのだろう。例え、世界が違っても、同じような人生を歩んだのだろうと察しはつく。
口癖になりつつある、魔法の言葉をあえていう。
何せ、俺だからな。自分のことは、自分が一番知っている。
調合もよくやっている。
絵の具の魔石の調合、配合の調整だって、俺がやっているくらいだ。配合を間違えると、良い絵の具は、できないからな。発色も異なるし、乾いてからの色の変化も計算にいれなければ、劣化してまう。
「ふぅ~…あとちょっとだぁ!頑張るぞ!」
独り言で気合いを入れているケルンは、満面の笑みを浮かべている。
まぁ、全力で創作活動に取り組んでいるからな。子供の遊びの延長とはいえ。
「楽しいよぉ?」
まぁ、それは同じ意見ではあるが、我ながら子供らしくない遊びだな。
そうそう、今は、屋敷の庭の一角にある、こじんまりした作業場で、石像を彫っている。
小屋…小さな平屋の一軒家程度の広さはあるか…昔、父親の友人のドワーフが、鍛冶場兼作業場にしていたところで、使い勝手がいい。
机も椅子も、普通の物よりも、幾分か低く作られているから、ケルン一人でも、そこまで無理なく快適に過ごせている。
一つ、異質になりつつあるとすれば、埃を被った炉だ。
本当は、鍛冶もやりたいが、一家全員(使用人から、両親の知り合いまでも含む)から。止められてしまった。大槌や、金槌も、手が届かない場所に仕舞われている。手元には、小槌と、木製の槌が代わりに置いてある。まだ、早いか。五歳になったし、そろそろ屑鉄くらいは、溶かしたい年頃なんだけど。
ああ、今日は誕生日だった。うっかり、記憶から抜けるところだった。俺としたことが、興味があまり沸かなくて、五歳になったということしか、頭になかった。
「誕生日は楽しいがたくさんだねーでもいつも楽しいもんねー?」
そうケルンが思うくらいには、特別な日って感じではない。家族がいつも楽しませてくれてるからな。いってしまえば、毎日が誕生日だ。
貴族の誕生日っていうのは、派手かと思ったら、そうではなかった。
朝から、両親に笑顔で起こされ、誕生日おめでとう!といわれ、屋敷にいる全員からもおめでとうございます!といわれたぐらいで、あまり変化がなかったのが、原因だ。
両親が起こしに来るのも、いつもと同じだし、今日の主役!みたいな毎日を送っているためか、俺としては、ああ、誕生日か。と事実を受け入れるぐらいだ。ケルンとしては、誕生日!何して遊ぼう!という、喜び?平常通りな感情な気もするが、テンションは高めだ。
夜になると、ごちそうと、誕生日用のケーキがつくらしい。晩御飯は、毎日ご馳走だし、デザートにケーキの日もある。それに、誕生日プレートがついているか、ついていないかの違い。誕生日といっても、それぐらいだ。
何でも、来年の誕生日は、人を招いて盛大にやるとか。七歳の誕生日は、学校…予定では寮生活ではなかった第三分校なのだが、その分校も来年からは寮になるとかで、両親や使用人一同、衝撃を受けていた…本校は王都よりも、西にあるが、分校は、王都よりも、東側、ポルティから南におよそ三十キロのところにある、ヘリティという街にあるそうだ。そこで、迎えることになるだろうから、盛大にやるとか。
勘弁してもらいたい。今日が嬉しかったのか、朝起きて、パンツを履き替えたんだからな。
シーツの模様は、そっとスケッチした。おねしょパンダという題名にしておいた。
いつも通りなら、散歩の時間なのに、作業場で石像を彫っている理由は、誕生日だから、お屋敷内で過ごすこと。と、両親と約束したからだ。何でも、祝福をする為に、司祭様が来られるとか。
くっ…ランディのちょっとクセっ毛な、ベア毛に、もふん!て顔をうずめて、スラ吉をもにゅん!ってしたかったんだけどな!
「我慢だよぉ?」
そうだけど、残念がっているのはケルンの感情だろ?
それは夜にやるとして、時間もあるし、朝から作業場に入っている。
もうちょっとで完成するこの石像は、司祭様にあげよう。いらないと言われたら、かなり困る代物だけどな。ケルンも、司祭様に喜んでもらおう!という、気分なので、作業はスムーズに進んでいる。
この作業は、確かに便利な所もあるのだが、元々が俺用ではない為、多少不便である。
大きな…いや、かなり正直、部屋の半分が埋まってしまうぐらいでかくて、文字や模様がこれでもか!と書かれている用途不明のテーブルが置いてある。どかそうにも、部屋の入り口よりも幅がある…どうやって入れたんだろうか。中で組み立てたのか…?継ぎ目がないんだが。
そのテーブルの上には、俺が…いや。ケルンが今まで描いた絵画の下絵や、絵画。俺と一緒になってから描いた下絵や絵画が、散らばって置かれている。
窓の近くしか空いていないので。そこを石像を作る作業スペースにして、早三時間。
細かい調整をして、ようやく完成した。
窓から入る光で、キラキラと、真っ白い石材が光を放っているようだ。
高さは、俺達よりも高い、百六十センチジャスト。
真っ直ぐ、そして、見事な曲線。
たくましいほどの二の腕は、力強さを表している。
今回は、俺が納得する題名をつけれた。
題名『魔神をしめた棒神様』
ケルンはよくわかっていないから、棒神様!って題名にしているが、魔神をしめたって冠をつけた方がいいぞ。
うん、棒人間が、右手をくいって、曲げているたけなような気もしなくもないが、棒神様だと威厳があるな。
たぶん。
きちんと、下絵を描いて作ったのだが、どうも、いい構図が浮かばず、腕組みポーズもなんだかな?って思いつつ、何枚か描いて、上手く描けたのが、この石像の下絵だ。
疑似魔石ではなく、ちゃんとした魔石で作ったのが、また味わいを深めているんだろう。
きっと。
この大きさの魔石なら、高いように思えるが、実はかなり安いのだ。
彫刻刀を貰って、帰宅してから、試しに木材でやろうと思っていたら、屋敷に着くと、ポルティで買い物したものが、ちょうど、運びこまれているところだった。画材屋や、注文していた品物と一緒に、この石材を積んで、屋敷にやってきていた。
王都の教会から流れてきたもので、礼拝堂とは別にある、祭事を執り行う神殿の補強材として使われた時の余った石材を、寄付を求める意味合いからか、教会が売りにだしたそうで、画材屋の知り合いが、ケルンが何かしらの作品の材料に使うかもしれないと思って、画材屋にわざわざ話を持ちかけて、屋敷に持ってきたらしい。それならばと、買おうと思ったら、カルドが支払いをすでにしてしまっており、買ってもらってしまったのだが、銀貨一枚で済んだ。これは、俺もその場で見ていたから、間違っていない。
魔石は、小指程度の大きさで、金貨三枚。
かなり、安いのには、理由がちゃんとある。魔石の質が最も下で、利便性に欠けるのだ。
ほぼ、ただの石と変わらないが、汚れにくく、多少汚れても、自ずと綺麗になるから、建築や彫像向きな材料になっている。
価値としては、多少、魔石要素があるだけの、ありふれた建築資材なのだろう。
しかし、この彫刻刀は凄い。石工用ではないのに、本当にすいすい作れてしまう。魔法の道具みたいだが、父様も普通の道具としかわからないってことだから、ちょっと特殊な材質で作られているんだろうな。
とりあえず、シーツをかけて、掃除と運んでもらうのを頼まねばならない。自分でやろうとして、箒を盛大に窓ガラスに当ててしまい、それはそれは大変なことになった。
三兄弟が揃っていた日だから、本当、もう、言葉にできない。したくない。ケルンには家事をさせい。鍛冶はしたいけど、作りたいのは、お馬さん用の蹄鉄とか、自分用とハンク用の包丁だからな。
作業場の入口をノックする音が響く。そして、返事をする前にドアが開いた。
「ケルン。お客様が来られたらから、おいで」
「やぁ、ケルン。今日は何を作っていたんだい?」
父様と、父様よりも背が高い、白よりも銀色に近い四十代ほどの男性が作業場に入ってきた。
男性の紫を基本とした、長いローブの服装と、首につけている、丸の中に、人という字を上下逆さまにしたような、ネックレスをみれば、どのような人物かは明白である。
「司祭様!久しぶりです!今日は石像を作ってましたー!」
ひょろりと細く、背が高い司祭様は、かがんでも、まだケルンよりも目線が高い。それでも、限界までかがんで、目線を、合わせてくれようとする。
にこりと司祭様は、笑って、感心したようにいった。
「へぇー…相変わらず、凄いものを作っているね。モデルは誰だい?お父様かい?それともお母様?ああ、屋敷の誰かかな?」
「ふふふん…見てくださいー」
首をひねりながら、モデルを当てようとする司祭様と、自慢気な父様に、テンションがどんどん上がっているケルンは、鼻歌まじりで、シーツに手をかける。
「じゃじゃーん!棒神様です!」
力作を自慢するケルンが最初に見たものは、ポカーンとした様子の父様と司祭様の顔だった。あれ?いい出来だから、誉められるかと思ったんだが…あ、もしかしたら、棒神様の姿が、凄いイケメンとか、美女になっているのかもしれない。風の精霊様が、美女を象っていることを、失念していた。
失敗したなぁと、提案した俺が反省会を開こうと思っていたら、唖然としていた司祭様がはっとなって、何をしたと思う?
真顔で五体倒置。
泣きそうになったのは、ケルンであって、俺ではない。つられて泣きそうだなんてこともないぞ!かなり引いたが。
子供からしたら、大人の真顔ほど、怖いものはないだろう。周囲の大人の真顔の時が、キャスとフィオナを除いて、ほとんど見ないから余計に。それから、ギャップが酷い。
五体倒置のまま、お祈り始まったんですけど。もう、半泣きなんだけど。
俺たち一心同体だからな。
10
お気に入りに追加
319
あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる