上 下
12 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー

怪しい露店

しおりを挟む
 とくに何かを買うわけでもななく、にぎやかな祭りの雰囲気を楽しんでいる。

 食べ物を売っている露店からは、美味しそうな匂いが漂ってくる。だが、料理長のハンクから「坊ちゃま。料理は…俺のだけ。あとは、ダメ。お腹、痛くなる」って言われて、一回も食べたことないんだよな…確かに、ケルンが食べるには、味が濃そうなんだよ。酒のつまみだろうし。

 店を冷やかしながらも、昼時までは開けている画材屋で、筆などを購入していると、良い商品が入るかもしれないという、耳よりな情報を店主が教えてくれた。屋敷に届ける時にでも、詳しく聞くとしよう。

 街をふらふらと歩いて、露店をみてまわっていると、ある露店にふと、目が吸い込まれる。

 ボロボロの御座ござのようなものをひき、商品であろうか。でもガラクタ同然の割れたグラスなんかも、置いている。骨董品の露店?ごちゃごちゃしていて、けれど、わくわくしてくる。

 掘り出し物の予感!と、ケルンの感情と俺がまた一致した。

「カルド!あそこに行こう!」
「はい、坊ちゃま。参りましょう」

 カルドの手を握ったまま、走りだす。
 誰も立ち止まらない露店の前に立つと、カルドが店主のローブをまとった、性別も年齢も分かりにくい人に声をかける。

「店主、失礼する。少々、品物を見せてもらう」

 カルドが声をかけると、フードの中の顔がよくみえる。
 シワだらけのお婆さんだった。瞳が薄い灰色のまるで、魔女のような雰囲気がある。
 けれど、どこか上品にも思えるので、仮装しているのかもしれにあ。祭りだし、怪しい雰囲気は必要なんだろう。

「いいよ…ヒヒっ…このババの品物は、なかなかのもんだよ…ヒヒっ…」

 笑い方が、魔女っぽいな、おい。

「たくさんあるねー」
 ゴ…ガラクタもな。

「ヒヒっ…坊っちゃん…お好きな物を手にとって、ゆっくり見ていきな…気に入ったら、買ってくださいな…ヒヒっ…」

 魔女みたいなお婆さんがそういいながら、ニタニタと、笑っている。

「この袋の中身は何ですかー?」

 ガラクタの中にやたらと綺麗なものがあると、自然と目がひかれる。
 茶色に、金糸だろうか?金色の模様が縫い付けてある小袋を指差す。

「これはね…エルフの秘薬だよ。どんな呪いも傷もたちまち治してしまうのさ。偉大なる神ボージィン様の加護を得た、エルフの女王が、作った秘薬さ…」

 棒神様ぼうじんさま!凄い!っと、ケルンに流されそうになるが、胡散臭い。カルドも胡散臭いと思っているようだ。だが、まぁ…買おうか。ちょっと、わくわくしてるし。

「こっちは何ですか!この綺麗な石!母様の目とおんなじなの!」

 ガラクタ…もう明らかにゴミだとわかる割れた皿や、花瓶をどかしていると、ちょうど、金貨ほどの大きさの真っ赤なビー玉のような石が見えた。

「ほぅ…坊っちゃん、お目が高いね。ヒヒっ…秘薬に続いて、それを見つけるとはね…それは、古竜王の涙さ。古竜王が、生涯で一度だけ流す涙。持つだけで、癒しをもたらすとある神殿の秘宝さ」

 神殿の秘宝?まさか盗品か?ってか、嘘くせぇ。
 しかし、ケルンは凄い!凄い!とおおはしゃぎなようだ。

「この二つ下さい!おいくらですか?」

 安かったら、買ってもいいかな?ぐらいには、どちらも話としてはいい。父様や母様、屋敷の人に自慢する!っていうケルンの気持ちもまぁ、わかる。

 結局、俺もケルンも同じだからな。俺も、いいかもしれないと思っている。

「金貨二枚でいいよ。坊っちゃんならね」

 偽物なら、ゴミに金貨二枚は高すぎるし、本物なら安すぎる。まぁ、露店に本物を置くわけがないだろうし、ここは諦めて、別なものを。

「はい!金貨二枚!」
「まいどあり…ヒヒっ…いい買い物になったね…」

 くっ…負けた。感情の高ぶりを抑えきれなかったか。

 財布から嬉々として金貨二枚を取り出して、お婆さんに渡してしまった。
 まぁ、子供にとっては、ガラクタも宝物だ。カルドも止めはしなかったし。これも、勉強だ。
 宝物として、宝箱にしまっておこうと、ポケットから、宝箱を取り出してしまう。

 宝箱は、十五センチに満たない、幾何学模様きかがくもようが刻んである箱で、この箱は本当の意味で宝箱だ。

 父様が誕生日にくれたものだからというのもあるが、なんと、この箱は物がどんなに大きくても、どれほどいれても重たくならないという、魔法の箱なのだ。

 何でも、知り合いに頼んで作ってもらった箱に、収納の魔法をかけているからだとかで、大変重宝している。

 宝箱にしまうと、お婆さんの近くに隠すように置かれている小箱に目が吸い込まれる。

「お婆さん、その小箱の中身は何ですか?」
「驚いたね…坊っちゃんは、どれだけ目利きがあるんだい?…残念だけど、これは売り物じゃないんだよ」
「見せてもらえませんか?」

 いぶかし気にしながら、箱をケルンから遠ざける。それでもケルンはまっすぐにお婆さんを見つめた。

 カルドが不思議そうな顔でケルンをみる。確かに、いつものケルンらしくはないな。だけど、かなり気になるんだ。ざわめきというか、言葉にならない何かがある。

 じっとみていると、お婆さんは折れてくれた。

「いいよ…だけど、触れないようにね。持ち主以外には、懐かない子なんだよ」

 渋々といったように、小箱をケルンに渡す。さっそく、中を見てみると、小さな刀…いや、彫刻刀…平刀がそこには入っていた。木工用の彫刻刀だろうか?それにしては、刃が厚すぎるような気もする。何より、持ち手の先が丸く、木槌を打てるような作りになっていた。

 ノミなのか?しかし、ノミにしては、小さい。

 深い緑色の…この世界にあるのかは知らないが、全てが翡翠で出来たような彫刻刀だった。

「綺麗な緑色!でも、刃先まで緑色?見るだけで、使えないのかな?」

 翡翠のノミなんて、あっても使えないから、これは美術品なんだろうか。
「綺麗だねー」
 そうだな。なんの石だろうな?

「何だって!そんな!」

 ひったくるように、小箱をケルンの手から奪い、信じられないものをみた顔をしたあと、呆然としたようにいう。

「まさかね…そうかい…お前さんもとうとう…」

 お婆さんは、少し涙ぐんでいた。まるで、肩の荷がおりたみたいだ。
 不思議に思っていると、先ほどまでの魔女のような雰囲気ではなく、どこか気品を感じさせる瞳がそこにはあった。

「坊っちゃん。これはね…エルフの女王が、心から愛した、とっても優しくて…争いが嫌いで…ただ、物を作ることが大好きだった…偉大なドワーフの王の彫刻道具さ。これ一本で材質も問わず、持ち主の考えをくんで、形を変える、万能の彫刻道具さ」

 材質も問わず、一本で足りてしまう彫刻道具…便利だな。魔法のかかっている道具なんだろうか。

「たくさんの作品を作って、たくさんの人達を喜ばしたドワーフ王の相棒さ」

 人を喜ばす。ただそれだけが、どんなに難しく、どれほど自分も嬉しくなるか。四歳児でしかないケルンにもわかったようだ。

「すごいねー!王様!やさしいね!」
 喜ばそうという気持ちがなければ、作品なんてできないもんな。

「だけど、戦争に使われるようになってしまってね…自分の作品をほとんど、壊したそうだよ。もう、争いには使わせないと…エルフの女王にいって、これを、渡したあと、すぐに病で亡くなったんだよ」

 戦争に自分の作品を使われる…ドワーフといえば鍛冶だ。剣に彫刻したりすることがある。剣の耐久が下がるのだが、この世界では線、つまりは模様をつけた剣は、魔法の効果を付与しやすい。

 棒神様の世界だからか、模様をつけた剣の効果は高いそうだ。

 それで、争いをされる…争いで使われる物だから仕方ないとはいえるが、王様の立場でどれほど苦しんだろうか。争いをしたくなくても、国を守るためならば、争わねばならなかったんだろうな。心労による病死だろう。

「坊っちゃん、よかったら…これを譲ろう。この子も、そろそろ仕事をしなきゃならんようだ。お代は…この子をたくさん使って、人を喜ばしてやっておくれ」

 お婆さんはそういって、小箱をケルンに渡す。

 ケルンは何もいえず、俺もケルンに提案もできず、ただ、頷いただけだった。

「まったく、ボージィン様の導きなのかね…ヒヒっ…このババにも、わからないことは、まだこの世にあるもんだねぇ…」

 しみじみとそういったお婆さんは、また、魔女のような笑いをあげた。
 気のせいだろう。でも、小箱が、不思議な温もりと、今は少し重く感じる

「さ、もう店じまいだよ…頑張りな」

 そうお婆さんの言葉を聞いた後、カルドといつの間にか馬車の前にいた。

「あれぇ?」
「なんと…これは…」
 
 今まで見たことがないような張り詰めた顔のカルドを横目に、なんともいえない気持ちになった。興奮とは違う、ドキドキとした、そう不思議なものを目の当たりにしたときの高揚感。
 買い物はすませていたし、問題はないんだが、なんとも不思議な体験となって、俺たちは足早に帰宅した。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

処理中です...