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第一章 棒人間の神様とケモナー
街へ来た
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五歳の誕生日が明後日に近づいている。この世界では、七五三で、大きな決め事をする。
三歳で、スキル。五歳で、精霊や祖霊の加護。そして、七歳で、学園に入学が決まっている。
学園といっても、様々な事を、同じように学ぶわけではなく、適性のあるものを学ぶ。ようは、長所を伸ばす為に入学するのだ。
基本的な学習なんかは各家庭でおこなっているし、一芸に秀でていたらそれで入学も可能だったりする。例えば、スキルが多い、魔力が多いなどだ。必然的に血統主義になりそうだが、厳しく律されていて、身分が高いが学園内では通じないものとされているそうだ。
スキルが多い者は、スキルがメインの講座になり、魔力がメインの者は、魔法がメインの講座になる。
それとは別に、親の跡を継ぐ者は、その為の講座が用意されている。
七歳から、二十歳までの十三年間。各国から集まって来た子供たちが、大人になってからも友好に過ごせるようにという、初代の学長の願いから、身分や人種は問わない。
だが、身分が通じない、人種は問わないという建前はあれども、実際のところでは、あまりにも人数がいすぎる為、本校はある程度の身分や財がある者や、才能が飛びぬけた者が通い、分校にはそれこそ、身分に関係なく通う。分校で成績が優秀になると本校に転校できるらしい。
ケルンが通う予定なのは、本校ではなく、分校だ。寮生活になるが、気楽な毎日になるだろうし、そろそろ同年代の友達が欲しい。
週末になれば家に帰れるのもいい。
勉強の疲れを散歩で発散させてきたが、今日は少し遠くまででかけることにした。
家の馬車でごとごととしばらく揺られると目的地だ。
画材を買いに、たまに来る、ポルティという街にやってきた。王城セットも、ここで買ったものだ。どういうわけだか、筆の寿命がやたらと短い。一つの絵を描くのに、最低でも三本は毛が抜けてしまうか、ちびてしまって、使い物にならない。
筆先には、豚の毛や、馬の毛などが使われるのが一般的だが、ケルンがもっぱら愛用しているのは、ナッティという、兎によく似ているが魔物の毛だ。鋭い牙の生えた肉食で、毛質は馬に近く、丈夫なことから、絵描きが必ず一本は持つという。魔物というより、魔獣の一種である。比較的、大人しい魔獣であるそうだが、かといって、群れで襲われたら、人などボロ雑巾同然になるそうだが。
王都と、ドワーフの王国であるリンメギン王国に繋がるフェルシュ街道近くにある大きな街で、日用雑貨だけでなく、たいていの物が揃っている。
街の中心には、シンボルとしても、実用としても使われるポルティ大鐘楼と、棒神様の教会でおるポルティ聖堂が並立している。教会では、その土地によって、棒神様だけでなく、精霊様も祀っている。ポルティは、風の精霊様を象ったという、美女の像を本尊にしていて、棒神様の像は存在しない。
交易によって、いつも人が賑やかな街で、活気に溢れている。
そこまで大きな街ではないが、ケルンの大好きな場所の一つだ。
なによりも、今日は何といっても、祝祭日である。世界の始まりの日であるとされ、どこもかしこも、お祭り騒ぎをしている。
「坊ちゃま。何か気になる物はございましたか?」
人が多い場所に行くからと、護衛も兼ねて、今日のお供である狼系ダンディ執事こと、執事のカルドが微笑む。ちょい悪系のような、すっとした眼差しに、黒い耳、浅黒い肌に、茶色の瞳。
そして、耳がピンっと張った狼の耳。胸ポケットには、銀色のモノクルが仕舞われている。近眼ではなく、左目が、多少見えづらいらしく、書類を見るときには、必ずかけている。
つまり、かっこいいんだよ。うちの執事。お茶うまいし。完璧な執事だからな。
立ち居振る舞いは勿論、優雅な物腰と、深いバリトン…童話に出てくる赤い頭巾をストーカーした狼と違って、この狼さんなら、家まで送ってもらいたいほどだ。
今日のお祭り気分に、ケルンのテンションもガンガン上がっているようで、相乗作用なのか、俺も調子がいい。思考スピードが少々上がっている気がする。
「お祭りだから、欲しいものがあったら、買っていいんだよね?」
「ええ。坊ちゃまのお小遣いは、坊ちゃまのものですからね。お好きにお使いください」
そういって、カルドは、一礼してみせる。
ふわっと香る、森の中にいるような香水だろうか?なんで、こんなに、紳士なんだろうか。
財布を握っている手に力が入る。さて、何を買おうか。
四歳児にしては、稼いでますからね。活版印刷で、俺の絵が描かれた本、画集や物語の挿し絵、自作の絵本の収入が、そのまま小遣いになっている。まぁ、家族が自費出版して、家族が買っていると思うので、そんなにあるわけではないだろう。一般的な貴族の息子が持つ金額としてだが。
スキルがあれば生活できるということを教える教育の一環なんだろう。
あくまで、俺が稼いだっていうことにして、才能を伸ばそうとしているのだろうな。
何せ、この街では見たことがない。本は、屋敷にはあるが、こんなに大きな町で、しかも、近場で見当たらないんだからな。王都のどこか自費出版でも、扱ってる書店なら置いてるかもしれないが。
財布の中も軽いものだ。通貨は四種類ある。
クレエル銅貨、クレエル銀貨、クレエル金貨、クレエル大金貨。クレエル大金貨だけは、材質が金ではなく、ミスリルでできており、見たことはない。
おそらく、大金貨ともなれば、かなり大きいのだろう。なんと、金貨千枚分だからな。金貨が、そうだな…レヌート銀貨並、五百円玉を二周り大きくさせたぐらいか…かなり大きいからな。
財布の中には、くすんだ色の小さな銅貨が三枚、銀貨が十枚、金貨が三枚入っている。ちょっと多すぎるような気もするが、使いきるわけではないし、画材代は結構かかる。そらと、子供にありがちなことだが、全財産を持って歩いているだけだ。
決して、もしも可愛い動物を見かけたら購入しようだとか、いつでもオヤツを貢げるぜ!というわけではない。
「いいことあるといいねー?」
いい天気のいい日には、いいことあるさ。
三歳で、スキル。五歳で、精霊や祖霊の加護。そして、七歳で、学園に入学が決まっている。
学園といっても、様々な事を、同じように学ぶわけではなく、適性のあるものを学ぶ。ようは、長所を伸ばす為に入学するのだ。
基本的な学習なんかは各家庭でおこなっているし、一芸に秀でていたらそれで入学も可能だったりする。例えば、スキルが多い、魔力が多いなどだ。必然的に血統主義になりそうだが、厳しく律されていて、身分が高いが学園内では通じないものとされているそうだ。
スキルが多い者は、スキルがメインの講座になり、魔力がメインの者は、魔法がメインの講座になる。
それとは別に、親の跡を継ぐ者は、その為の講座が用意されている。
七歳から、二十歳までの十三年間。各国から集まって来た子供たちが、大人になってからも友好に過ごせるようにという、初代の学長の願いから、身分や人種は問わない。
だが、身分が通じない、人種は問わないという建前はあれども、実際のところでは、あまりにも人数がいすぎる為、本校はある程度の身分や財がある者や、才能が飛びぬけた者が通い、分校にはそれこそ、身分に関係なく通う。分校で成績が優秀になると本校に転校できるらしい。
ケルンが通う予定なのは、本校ではなく、分校だ。寮生活になるが、気楽な毎日になるだろうし、そろそろ同年代の友達が欲しい。
週末になれば家に帰れるのもいい。
勉強の疲れを散歩で発散させてきたが、今日は少し遠くまででかけることにした。
家の馬車でごとごととしばらく揺られると目的地だ。
画材を買いに、たまに来る、ポルティという街にやってきた。王城セットも、ここで買ったものだ。どういうわけだか、筆の寿命がやたらと短い。一つの絵を描くのに、最低でも三本は毛が抜けてしまうか、ちびてしまって、使い物にならない。
筆先には、豚の毛や、馬の毛などが使われるのが一般的だが、ケルンがもっぱら愛用しているのは、ナッティという、兎によく似ているが魔物の毛だ。鋭い牙の生えた肉食で、毛質は馬に近く、丈夫なことから、絵描きが必ず一本は持つという。魔物というより、魔獣の一種である。比較的、大人しい魔獣であるそうだが、かといって、群れで襲われたら、人などボロ雑巾同然になるそうだが。
王都と、ドワーフの王国であるリンメギン王国に繋がるフェルシュ街道近くにある大きな街で、日用雑貨だけでなく、たいていの物が揃っている。
街の中心には、シンボルとしても、実用としても使われるポルティ大鐘楼と、棒神様の教会でおるポルティ聖堂が並立している。教会では、その土地によって、棒神様だけでなく、精霊様も祀っている。ポルティは、風の精霊様を象ったという、美女の像を本尊にしていて、棒神様の像は存在しない。
交易によって、いつも人が賑やかな街で、活気に溢れている。
そこまで大きな街ではないが、ケルンの大好きな場所の一つだ。
なによりも、今日は何といっても、祝祭日である。世界の始まりの日であるとされ、どこもかしこも、お祭り騒ぎをしている。
「坊ちゃま。何か気になる物はございましたか?」
人が多い場所に行くからと、護衛も兼ねて、今日のお供である狼系ダンディ執事こと、執事のカルドが微笑む。ちょい悪系のような、すっとした眼差しに、黒い耳、浅黒い肌に、茶色の瞳。
そして、耳がピンっと張った狼の耳。胸ポケットには、銀色のモノクルが仕舞われている。近眼ではなく、左目が、多少見えづらいらしく、書類を見るときには、必ずかけている。
つまり、かっこいいんだよ。うちの執事。お茶うまいし。完璧な執事だからな。
立ち居振る舞いは勿論、優雅な物腰と、深いバリトン…童話に出てくる赤い頭巾をストーカーした狼と違って、この狼さんなら、家まで送ってもらいたいほどだ。
今日のお祭り気分に、ケルンのテンションもガンガン上がっているようで、相乗作用なのか、俺も調子がいい。思考スピードが少々上がっている気がする。
「お祭りだから、欲しいものがあったら、買っていいんだよね?」
「ええ。坊ちゃまのお小遣いは、坊ちゃまのものですからね。お好きにお使いください」
そういって、カルドは、一礼してみせる。
ふわっと香る、森の中にいるような香水だろうか?なんで、こんなに、紳士なんだろうか。
財布を握っている手に力が入る。さて、何を買おうか。
四歳児にしては、稼いでますからね。活版印刷で、俺の絵が描かれた本、画集や物語の挿し絵、自作の絵本の収入が、そのまま小遣いになっている。まぁ、家族が自費出版して、家族が買っていると思うので、そんなにあるわけではないだろう。一般的な貴族の息子が持つ金額としてだが。
スキルがあれば生活できるということを教える教育の一環なんだろう。
あくまで、俺が稼いだっていうことにして、才能を伸ばそうとしているのだろうな。
何せ、この街では見たことがない。本は、屋敷にはあるが、こんなに大きな町で、しかも、近場で見当たらないんだからな。王都のどこか自費出版でも、扱ってる書店なら置いてるかもしれないが。
財布の中も軽いものだ。通貨は四種類ある。
クレエル銅貨、クレエル銀貨、クレエル金貨、クレエル大金貨。クレエル大金貨だけは、材質が金ではなく、ミスリルでできており、見たことはない。
おそらく、大金貨ともなれば、かなり大きいのだろう。なんと、金貨千枚分だからな。金貨が、そうだな…レヌート銀貨並、五百円玉を二周り大きくさせたぐらいか…かなり大きいからな。
財布の中には、くすんだ色の小さな銅貨が三枚、銀貨が十枚、金貨が三枚入っている。ちょっと多すぎるような気もするが、使いきるわけではないし、画材代は結構かかる。そらと、子供にありがちなことだが、全財産を持って歩いているだけだ。
決して、もしも可愛い動物を見かけたら購入しようだとか、いつでもオヤツを貢げるぜ!というわけではない。
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