選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

クマさん農園、最高

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 やべぇ三兄弟(次男はまだまともか)のことを思い出して、若干疲れた気持ちになりながらも、農園につくと、さっそく、ランディとスラ吉が仕事を始める。

 一目見て、青々とした葉物野菜やたわわに実る果実など、豊作なのがわかる菜園。やたらとカラフルな鳥が地面に隠れた虫をほじろうとして、スラ吉に威嚇されて逃げ出している。

 ランディは、作物に肥料や、水をやり、収穫をする。別の畑でスラ吉は、作物の上を転がっていく。作物についた、害虫を捕食しているのだ。

 ここで、スラ吉の職人技。回転して転がっていったら、葉についていた虫や、表面の傷んだところだけでなく、中に隠れている虫や、痛んだところも、綺麗になるのだ。洗わずとも、そのまま食べられるから、よく、とれたての野菜をその場で食べる。
 スライム洗浄の野菜は、下手な水で洗わるよりも清潔なのだ。
 この世界に野菜は、色んな世界の野菜が集まっている。名前が違うだけで、中身が同じ物も多々ある。中には、一度もみたことない野菜もあるし、別な世界での食べ方と違うものもある。

 一度もみたことがない野菜は、例えば、ローディシュの実だ。外見は、カボチャなのに、簡単に割れる。そして、中身は紫芋。食べ方の違うものも、とうもろこしが、ゆでなくても、そのまま食べれるとか、牛蒡が土臭くないとかなので、知識との混乱は少ない。

 あ、唯一混乱したものがあった。
 それは玉ねぎ。名前だけで全く別物なのだ。

 野菜ではなく、果物で、味がブドウ。生え方も、ブドウの木に実っている。茶色の皮を剥いて、中の紫の皮を食べたときの衝撃は、記憶に新しい。ネギはネギであるのに、玉ねぎだけは、本当に意表をつかれた。玉ねぎの代わりが、ネギの下にあるネギ根という、真っ白い球根なのだが、茶色の皮がない玉ねぎに、玉ねぎ?ってなってしまうのは仕方ないだろう。ネギ根だから。
 
 そう、ネギ根。玉なのに根。

 ちょうど、ネギとネギ根の上をスラ吉が転がっている。とうもろこしゾーンは、見事なジャンプで、まったく潰されず、包み込む職人芸で、もう終わったようだ。

 驚異的な速度での農作業なので、短時間で作業は終わるだろう。
 ただ、広大な農園の害虫を食べるので、スライムの種族特性として、肥大化される。それだと、いうものスラ吉が描けないので、あまり食べないように頼んだのだ。

 ささっと、スケッチする。こちらを向いて、にこりと笑って手を振るランディと、そばに寄り添って、楽しそうなスラ吉。
 エセニアは。昼食の場所の確保という掃除で少し離れている。今日は木陰かな?それとも作業小屋付近かな?

 手をぶんぶんと振り返して、幼いながらも集中しだしたケルンの気持ちが、俺にまで届く。

 仲良しなのはいいことだ。
「仲良しさんはいいことなんだよー?」
 そうだな。

 会話をしながらも手は止まらない。よし、ランディの笑っている感じがいい。スラ吉のぽよんぽよん感が、もう少し欲しいが、ランディいわく、スラ吉は女の子だから、かわいく描いて欲しいということなので、あまり、ぽよんとさせない方がいいだろう。スタイリッシュにしよう。

 ん?女の子なら、スラ吉なんて名付けるな?ははっ。ランディの悪口は、俺が許さないぞ。
「?んー?なにー?」
 いや暇だから自分でつっこんだだけだ。気にするな。

 誰に聞かせるわけもないボケと突っ込みを、上手くまとめて、思考のすみっこにぽいしてっと。情熱に任せて描く。
 ケルンは棒神様に認められた俺という魂の知識を解放する前から使えていたが、今は俺のサポートも全力で出せる。
 そんな俺たちは鉛筆に想いをのせている。

 熊さん描くの楽しいぃぃぃぃ!スライムもかわいぃぃぃぃ!
 そうこんな気持ちだ。

「坊ちゃま、興奮されますと、本当に今日、おねしょしますよ?」
「うん、楽しいけど、気を付けるねー!」

 エセニアに心配されてしまった。大丈夫、鼻血は出てない、ちょっと、鼻息が荒くなっただけだ。

 色付けは、屋敷でするとして、何枚か描く。完成したら、ランディにあげよう。
 気に入った物は、優しげに笑うランディと、収穫を手伝うスラ吉。スラ吉の体が、一部のびて、ローディシュの実をランディに渡し、それを笑顔で受け取っている。

 本来は、人を襲うはずの魔物。弱いとはいえ、魔物のスライムが、獣人と一緒に作業する。俺が目指している姿は、ここにある。

 魔物や獣人だからと、差別せず、一緒に暮らせるなら、一緒に暮らせばいい。棒神様も、きっと許してくれる。
 だって、二人の間には、優しい空気が流れている。言葉はなくても、意思が通じ合っている。

 良いお手本として、心に刻み、その空間を絵に残す。もう少し、大人になったら、世界中をこんな景色で満たしたい。ケルンの感情も、俺は覚えていくのだ。

「坊ちゃま。そろそろお昼にするべ?オラ、腹減っただ」

 空腹を訴える熊さんみて、生存本能が叫ばないのは、お腹をさすって、空腹をアピールする姿と、思わず、はちみつ大樽一丁!となる俺のせいだ。困り顔の熊さんって、どこの絵本だ。
 現実万歳。

「はんざーい?」
 違う。ば、ん、ざ、い。それはアウトだ、これはセーフだ。
「せいふぅ?」

 首をかしげながら、変な妖精さんねーって思っているようだが、いや俺はお前だし。

「もう、おじさまったら。坊ちゃま、今日は、サンドイッチの中に、山鳥が入ってるそうですよ。いっぱい召し上がってください。それと、デザートは、はちみつのシフォンケーキです」
「うん!今日も、僕一人だと、お腹いっぱいになりそうだから、ランディもエセニアも、もちろんスラ吉も!みんなで食べようね?」

 掃除と食事を並び終え、くすくす笑うエセニアに、いつも通りの注文をする。
 ランディも、持ってきているが、デザートとサンドイッチを、エセニアと二人で分け合っても余裕で残るだろう。ハンクは、多めに作ってくれるからな。

 しかし、ハッスルしすぎた。腹が減っては、創作できない。

「坊ちゃま、いっぱい食べるんだぞぉ?」
「うん!いっぱい食べるよ!ランディもいっぱい食べて大きくなってねー?」

 ご飯を食べるときにいわれる言葉をランディにいえば、エセニアと二人で目を白黒させて、賑やかな笑い声が昼食のおともになった。
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