選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
上 下
7 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー

魔法使いの父

しおりを挟む
 この世界の魔法は、よほどのことがない限り、どんな人間でも使える。才能がない者ですら魔石で魔力を補ったり、付与された魔法を使ったりしている。

 『コール』の魔法は、連絡する上で欠かせない、基本魔法の一種だ。基本、基礎、初期などといい方は変われど簡単にできる。その代わり、使用者によって、距離や制度にばらつきがでやすい魔法でもある。属性は無。と、習ったばかりだ。
 魔力の弱いものや、操作が苦手なものも、魔石や、魔道具の補助を借りれば、簡単に好きなだけ会話ができる。スキルが多い者ほど、補助に魔道具を使うらしい。
 母様は、人よりちょっとだけ、スキルが多いのと、事故の影響で苦手だった魔力操作が、さらに苦手になったそうだ。

「ティス?ケルンが倒れたらしいの。ううん。元気みたいなのだけれど、一応みてもらえるかしら?」

 相手の声は聞こえないが、会話は成立しているようだ。
 証拠に、母様かあさまがかしら?と尋ねた瞬間、その母様の隣の空間が歪んだかと思うと、父様とうさまが立っていた。

「ケルン!どこも痛いとこはないかい?父様が、すぐにみてあげるからね!」
「父様!」

 血相を変えて、わたわたとケルンの体をあちこち触る父様。
 はたから見れば、祖父と孫にみえるかもしれないが、まぎれもなく俺たちの父親だ。
 見た目六十代なのに、中身は三十代前半か、二十代後半に感じられる。妙に雰囲気が若々しい父様が、顔面を蒼白にして、ケルンを抱きしめる。ふわっとお香みたいないい匂い。さすが、父様だぜ。ナイスミドル。

 父様と母様の年齢は、同い年らしい。なのに見た目はまるで親子ほど離れて見える。
 これには、この世界での、人間の仕組みが絡んでくる。

 この世界の平均寿命は、二百から三百前後。
 人間がその年まで生きられるのは、知識の比較においても、珍しいのだが、どうやら、魔力の質がいいのか、魔力を使わない生活ならば、そのぐらいは生きられる。生命力の強さが魔力とも繋がっているらしい。
 
 精神の発達は、平均的なものだが、見た目より、中身が若い人間もいる。何せ、俺が知る中の人間の倍以上も長く生きるのだから、人によって、中身は若い人だっているだろうし、反対に老成した人間もいるだろう。

 父様は、魔法使いだからか、魔力をよく使う環境にいるからか、少し老けている。でも、父様はかっこいい!という、ケルンの感情からも、まぁ、あまり気になることではない。あまり、ケルンの知識がないから、断定できないが、大きな魔法には、ある程度の代償がいるみたいだ。

「父様はかっこいいよー?」
「ん?そうか、ありがとう!」

 俺への言葉を父様は勘違いしたようだが、まぁ、いいか。事実だし…俺の考え方はケルンに引きずられてるな、やっぱり。
 父様は、一つ呼吸を整えると真剣な目でケルンをみた。

「水の精霊よ、教えておくれ。『サーチ』」

 父様が手をかざすと、明度の低い薄い水の膜が、ケルンの頭の先から全身を包み込む。冷たくはないし、濡れる心配はない。そして、瞬きの間に終わってしまう。

「大丈夫みたいだな…よかった。もう、心配はいらないよ。ケルンは、ディアに似たから、体は丈夫だしな。でも、どうして、倒れたんだ?」

 ディアとは、母様のディアニアの愛称。父様の名前はは、ティストールという。
 名前が似ている通りエセニアは、母様の名前から名づけられたということだ。この屋敷で生まれ育った住み込みメイドだ。もちろん、両親もこの家に住んでいるし、今は家を出ているエセニアの兄弟もこの屋敷で生まれ育った。

 父様はまだ心配そうに問いかけてくるが、どう答えようか。状況を説明するのが無難かな。

「ちょうちょを追いかけて、お空を見上げたら、転んじゃった!そのまま、お空が綺麗だから見てたんだー!ふわふわなのー!」

 実際は、俺が目覚めたことによる、再起動と情報整理で、動けなくなったんだがな。情報量が多すぎると人間もショートしてしまうもんだ。
 ちらっとエセニアをみると、綺麗な姿勢で頭を下げている。

「旦那様!申し訳ありません!私の早とちりで」

 ほっとしている、フィオナの横で、エセニアは、さらに深く頭を下げた。

「エセニア、気にすることはない。むしろ、ありがとう。ケルンをここまで、連れてきたのだろう?もし、何かあったとしたら、手遅れになっていたかもしれない。そう思えば、君は、きちんと仕事をした。それを私がどうして叱れるんだ?」
「もったいない…お言葉です」

 父様の言葉に、エセニアは、声を震わせていた。

 気分を変えるように、父様は、ケルンを抱き上げた。見た目は老人に近くても、身体は若い証拠だ。
 それに、こうやって、使用人だからと当然だと、感謝を述べない貴族の中で、何をしても感謝を伝える父様は、かっこいいんだ。見習わないといけないな。

「さて、父様は、お仕事に戻るかな!ケルン、もうしばらく、母様とお留守番くぉ頼んだよ」

 にこにこと、ほおずりする父様。髭が柔らかいって、どんな魔法なんだろうか。ぜひ、教えてもらいたい。

「うん!…お留守番してるよ?」

 返事をしたときに、俺にまで響くような感情があった。

 さびしい。いやだなぁ。

 ケルンの感情が、強く流れてくる。まだ、父様と一緒にいたいのだろう。でも、父様は、夕ご飯直前まで、毎日仕事にでかけている。忙しいのだろう。
 家族と使用人たちのお給与のためにも毎日のように、短時間でも屋敷の外にでて仕事をしている。

「あら?ケルン?何かしら?」
「うんとね…我慢するから、いいの!」

 ケルンの様子に気づいた母様が、父様に抱かれたままのケルンの頭をなでながら、尋ねてくる。母親の直感は、騙せないようだ。

「ケルン、やっぱりどこか痛いのかい?」

 ケルンをおろして、しゃがんで、覗き込む父様は、また心配顔に戻っている。仕事に行かないといけないのに、このままでは行けないだろ?しっかり説明しないと。

「ううん!そうじゃなくて!…えっとね、おやつを食べるんだ」

 真剣な表情な父様と、くすりとわらっている母様が視界にはいる。まだ順序立てて話すことは苦手なのだから。母様も笑わないでほしい。まぁ、嫌な笑いではないんだけどな。

「だから、父様もご一緒して欲しかったんだけど、お仕事あるから、僕、我慢して、母様達と食べるね」

 ちゃんと説明できて、よくやったとケルンに伝えれば、にっこりだ。
 うん。わがままばかりせず、こうやって良い方向に持っていこう。まぁ、ケルンはあまりわがまを言わないが、甘やかされすぎるのもよくないからな。きちんと、知識としての俺の影響もあるようだ。

 そんなケルンのいじらしさに、メイド親子はなぜか涙ぐみ、父様はくっと呟いて顔をそらした。
 いや、泣く要素ないだろ。

「…『コール』…ああ、私だ。もう少し時間がかかる。何?つまり、私にしかできないというのか?…ああ、そうだろう。君にも、できる。なら、まだ時間はあるな?うん、君には期待しているからな。ああ、もう少ししたら、 戻ろう」

 母様と違い、父様は道具が必要ないのか、耳に手を当てて、コールの魔法を使った。あと、その内容から察するに、仕事を別な人に押し付けたな。

「フィオナ、小腹が減ったので、少し休んでから、仕事に戻る。私の分も用意してもらうよう、ハンクに伝えてくれ」

 そういって、再び、ケルンを抱き上げて、母様と連れ立って、庭の東屋に向かう。天気のいい日は、外でおやつを食べるから、そこへむかうのだ。

 うちの家族、甘すぎるだろ。

 だが、嫌いじゃない。愛情は、伝わりにくいものだ。
 ケルンの喜びに負けたわけではない!そうだ、知識としては、何もいうまい。

「わーい!嬉しいー!」

 父様大好き!おっと。溢れた。ケルンの感情だからな!俺じゃないぞ!
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...