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兵は詭道なり
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「御大将、ここから見える範囲では、敵はざっと3千くらだ。」
「なんだ、まだそれくらいしか集まってないのか。やけにチンタラしているな。罠か?」
「絶対にないとは言い切りませんが、とてもそうは見えませんね。
見張りはいても、緊張感はない。
ほら、あいつなんか兜もしてない。腑抜けてますぜ。」
「いや、俺には見えんよ、アギン。」
「そうでした、『遠見』で見てると、どうにもうっかり忘れてしまいますね。」
ここは、西のイネア領と北のズミア領の連合軍が集結しつつある陣から、十キロ近く離れた山の中腹。
はるか遠くに見える敵陣を見下ろすように、千人のブラジュ人が山の中に息をひそめている。
これだけの大人数がいるのに、話しをしているのは指揮官だけだ。
もともとは狩猟民であり、獲物を追って山で暮らす人も珍しくないブラジュ人にとって、ここは庭も同然。
しかも、山の谷間で歩きやすい街道が続くこの一本道は、大軍が侵攻する唯一のルートと言っても過言ではない。
過去に何度も争ったこともある場所で、交通の要所。
チョークポイントだ。
ということは、この場所で戦いが起きることなど、子供でも予想できる。
にもかかわらず、なぜ敵軍はここまで警戒が薄れているのか?
「…やはり御大将。どう見ても奴さんは油断しきっている。
どうやら、ブラジュ人との戦が久しぶりすぎて、我らの戦い方を忘れているらしいぜ。」
「そうか、なら好機だ。攻めよう。」
「とはいえ、あの森の中に上手く隠れられてた場合、予想外の場所から手痛い反撃を受けるかもしれません。」
「そうか、ならそいつらも攻めよう。」
「まあどうせ、居ても居なくても、やることは一つ。」
「ああ、攻めよう。東にも敵を抱えているんだ。あまりチンタラやってはいられないだろう。」
「違いありません。」
人口一万人程度のブラジュ領は、決して小さくはないが、大きくも無い。
そのため、周辺勢力と比べて動員兵数が必ずしも大きいわけでは無い。
そんなブラジュ人は、戦い方に大きな特徴がある。
まず、ここにいる「千人」という動員兵数に現れている。
人口1万人程度で千人を動員するなど、はっきり言って異常な動員だ。
それこそ根こそぎ動員したと言っていいだろう。
つまり、今ブラジュ領はもぬけの殻となっているに等しい。
しかし、アルト山脈によって平地が分断されているこの地形では、この戦い方が最適解となる。
もし、ブラジュが防御に回ってしまっては最後、各個撃破をされるか、大兵力で押しつぶされるしかない。
いくらブラジュ人であっても、肌が刃を弾くわけでは無いのだ。
切られれば血が出るり、血が出れば死ぬ。
そのため、「やられるより前に殺る」がブラジュ人の生活様式にまで浸透したドクトリン(戦闘教義)なのだ。
即座に領地全体が一つの固まった兵力となって、限られた敵の侵入ルートに結集し、敵が一塊になる前にこちらから仕掛けて「各個撃破」する。
もし、殲滅に時間をかけてしまえば、それだけで時間と共に不利になるのだ。
攻めて、攻めて、攻め切るしかない。
そのため、部隊展開の仕方、隊の移動、個々人の戦い方に至るまで、「とにかく攻撃」することが根付いている。
この包囲戦に対する先制攻撃こそ、ブラジュ人が最も得意とする戦い方だ。
そのため今回も、昨日の昼まではブラジュ軍は影も形も無かったのに、
領主の号令一つで、すぐに西の国境付近の山中に突如として軍が出現したのだ。
そして、その成果を今、身を持って体験しつつあるケイブは、目の前で行われる父とアギンの作戦会議を聞きながら、思索する。
(『兵は詭道なり。能く士卒の耳目を愚にし、これを知ること無からしむ』。
いくさとは、相手を欺くことである。敵の耳目を欺き、軍の計画を知らせないようにするとは、よく言ったものだね。)
古今東西の歴史の中で、戦術的勝利が、戦略的敗北を覆した例は、意外に多いのだ。
そして、少数の兵が勝つ場合は、たいてい奇襲である。
「父上、あの辺りには敵はいませんよ。」
「おぉ、ケイブ。そういえばお前の神力、「鳥瞰」といったか。わかるのか?」
「はい。敵は、川の下流で飲み水を確保しながら、友軍を待っているのでしょう。
追い落とすチャンスです。」
「わかった。では、いつもの通りやるぞ。」
そういって、各部隊長に指示を飛ばす、ヒムシン。
わずかな打ち合わせを終えると、緑色の迷彩をした千人の群れが、小部隊となってバラバラに散っていく。
ケイブが率いる部隊が目指すは、敵が布陣する川の上流方向の高所の一角。
各部隊が、定刻までに敵に見つからないように持ち場にたどり着くため、その行軍ルートはバラバラだ。
ケイブもまた、戦い慣れた兵士を30人引き連れ、持ち場へと向かう。
アギンの「遠見」や、ケイブの「鳥瞰」のように、索敵に適した神力を持っている人間は、比較的少ない。
そのため、各隊に1人はそういった能力を持つ人間が配属される。
ケイブもまた、隊長かつ索敵要因として配属され、今まさに30人ほどの青年で集めた部隊を引き連れることになった。
とはいっても、彼らは普段から朝の調練に一緒に顔を合わせてる本村の面々であり、知った仲でもある。
彼らもまた、一様に動きやすく、迷彩が施された防具を身に着けており、歩きにくいはずの山道を軽々と進む。
ケイブのすぐ後ろに付き従う男は、時折振り返っては、ついてくる隊員たちの体調や疲労度を見ている。
特に、この部隊が作戦に使用する「石」を通りがかりの地面から、たくさん拾い集めさせており、全員の石の獲得具合には気を使っている。
ケイブもチラっと隊員の様子を伺うと、各員、背中に背負った籠いっぱいに石を集めきったようだ。
相当な量だろう。
「御曹司。石の収集は上々です。いつでも配置に着けます。」
「ありがとう、バダラ。ちょうど目的地に着きそうです。
ただ、敵兵が500メートル先の木陰に3人いるみたい。」
「了解です。ちょっとばかり待機位置から近いですが、敵の本陣もすぐそこです。
一旦隠れるのも「有り」かもしれません。
「なるほど、、、
いや、ここは排除しておこう。何人かで仕留めに行って!」
「了解しました。
…バレる可能性もありますよ?」
「そん時はそん時です。とにかく、我々は騒いで敵を驚かせる役割。もしバレても、作戦が、ちょっとばかり早まるだけです。」
「わかりました!
…ということだ、行け。」
「「「「「ハッ!ぶち殺してきます!」」」」」
そういって、後ろの5人を先行させ、排除するように指示をするのは、19歳の男、バダラ。
ケイブ隊の副官となった男だ。
ケイブが索敵しながら、進む道や敵情視察をする間、代わって隊をよく統率している。
若くして、ブラジュ領でもその冷静さにおいては、五本の指に入る人であり、命令には忠実。
一番軍人らしい人だ。
(まあ、こんなところで問題が発生していては、『お話にならない』わけだけど、油断は禁物…か。)
指揮官が油断をしてしまえば、軍全体の緊張感が弛緩し、軍が「溶解」する。
ましてや、ケイブは初陣であり、しかも相手は3倍の兵だ。
指揮官の大きな仕事の一つは、軍を溶かさないことだ。
人はそれを「統率」と言ったりする。
そういった緊張感や上下関係があるからこそ、攻撃するにしろ撤退するにしろ、兵が死ぬことを恐れず、命令を守らせることができる。
それに、ケイブが攻撃を命令するということは、「命の危険をさらしてこい」といってるのと同じだ。
それで明日を生きれない人が出るわけだから、その責任は重大だ。
ただし、ブラジュ人は戦いで死ぬことを恐れない。
どちらかというと、逸る部下たちを先走らせないことの方が、主な仕事になるだろう。
とはいっても、隊長が舐められない限り、「攻撃するな」といえば、その命令を守るだけの軍規がブラジュ軍にはある。
そのため、指揮官の存在意義は、もう一つの大きな役割に重点が置かれる。
それは、ほとんど唯一の仕事と言っても過言ではない、重大な仕事だ。
―――決心。
いくら鳥瞰があっても、戦場はわからないことだらけだ。
今どちらが勝っているのかなんて分からないし、敵も味方も予定通りに動いてくれるとは限らない。
誤情報だって飛び交う。
例えば、指揮官が「負けた」と思って味方を置いて戦場から逃走したところ、実は置いてきた味方が巻き返して会戦に勝利し、指揮官は撤退する最中に危うく死にかけた事例もある。
なんという愚将だと思うだろうか?
しかし、これは何を隠そう、かの有名なフリードリッヒ大王の初陣。実話だ。
大王はこれを人生の教訓として、その後の華々しい軍歴を重ねることになった。
何が言いたいかと言うと、それだけ、戦場では不確定なことばかりで、何が起きているかなんてわからないということだ。
そんな霧の中においても、『今、何をするか』を決心しなければならない。
それは、前世で戦争をしたことは無くても、戦記や軍事学を齧ったケイブは心得ている。
「それでバダラ、持ち場はこの辺りでいいかな?」
「はい。周囲の様子はいかがですか?」
「味方は周辺に布陣できているよ。僕らが一番遠い位置に布陣しているからね。遅れている隊は無いよ」
「それは重畳。…敵兵を排除させる決断も、味方が配置につき終わってるのがわかってたからですね。」
「えへへ、まあね!
じゃあさっきの五人が戻ってきたら、作戦開始だ。」
「わかりました」
各々が、思い思いに体を休める。
誰もが瞬時に動けるように構えつつ、実にリラックスしている。
実に慣れたものだ、
「御曹司。緊張の具合はどうですか?」
「バダラ、まだ実感が無いのか、そこまで緊張してないかな」
「それは結構。ガチガチに緊張するよりはだいぶマシでしょう。」
「とはいっても、あっちにいる、3倍の敵兵に対陣するわけだからね。まだ実感が無いだけかも」
「ええ、侮るよりはよっぽど良いかと思います。御曹司」
―――バダラは、年齢の割には随分、大人びているというか、落ち着いている。
19歳で僕の副官になるくらいだから、大したものだ。
僕への教育も兼ねているんだろうけど、研究者にも向いているかも。
心のメモに、バダラの特性を刻みつつ、その時を待つ。
戦いのときはそこまで迫っていた。
「なんだ、まだそれくらいしか集まってないのか。やけにチンタラしているな。罠か?」
「絶対にないとは言い切りませんが、とてもそうは見えませんね。
見張りはいても、緊張感はない。
ほら、あいつなんか兜もしてない。腑抜けてますぜ。」
「いや、俺には見えんよ、アギン。」
「そうでした、『遠見』で見てると、どうにもうっかり忘れてしまいますね。」
ここは、西のイネア領と北のズミア領の連合軍が集結しつつある陣から、十キロ近く離れた山の中腹。
はるか遠くに見える敵陣を見下ろすように、千人のブラジュ人が山の中に息をひそめている。
これだけの大人数がいるのに、話しをしているのは指揮官だけだ。
もともとは狩猟民であり、獲物を追って山で暮らす人も珍しくないブラジュ人にとって、ここは庭も同然。
しかも、山の谷間で歩きやすい街道が続くこの一本道は、大軍が侵攻する唯一のルートと言っても過言ではない。
過去に何度も争ったこともある場所で、交通の要所。
チョークポイントだ。
ということは、この場所で戦いが起きることなど、子供でも予想できる。
にもかかわらず、なぜ敵軍はここまで警戒が薄れているのか?
「…やはり御大将。どう見ても奴さんは油断しきっている。
どうやら、ブラジュ人との戦が久しぶりすぎて、我らの戦い方を忘れているらしいぜ。」
「そうか、なら好機だ。攻めよう。」
「とはいえ、あの森の中に上手く隠れられてた場合、予想外の場所から手痛い反撃を受けるかもしれません。」
「そうか、ならそいつらも攻めよう。」
「まあどうせ、居ても居なくても、やることは一つ。」
「ああ、攻めよう。東にも敵を抱えているんだ。あまりチンタラやってはいられないだろう。」
「違いありません。」
人口一万人程度のブラジュ領は、決して小さくはないが、大きくも無い。
そのため、周辺勢力と比べて動員兵数が必ずしも大きいわけでは無い。
そんなブラジュ人は、戦い方に大きな特徴がある。
まず、ここにいる「千人」という動員兵数に現れている。
人口1万人程度で千人を動員するなど、はっきり言って異常な動員だ。
それこそ根こそぎ動員したと言っていいだろう。
つまり、今ブラジュ領はもぬけの殻となっているに等しい。
しかし、アルト山脈によって平地が分断されているこの地形では、この戦い方が最適解となる。
もし、ブラジュが防御に回ってしまっては最後、各個撃破をされるか、大兵力で押しつぶされるしかない。
いくらブラジュ人であっても、肌が刃を弾くわけでは無いのだ。
切られれば血が出るり、血が出れば死ぬ。
そのため、「やられるより前に殺る」がブラジュ人の生活様式にまで浸透したドクトリン(戦闘教義)なのだ。
即座に領地全体が一つの固まった兵力となって、限られた敵の侵入ルートに結集し、敵が一塊になる前にこちらから仕掛けて「各個撃破」する。
もし、殲滅に時間をかけてしまえば、それだけで時間と共に不利になるのだ。
攻めて、攻めて、攻め切るしかない。
そのため、部隊展開の仕方、隊の移動、個々人の戦い方に至るまで、「とにかく攻撃」することが根付いている。
この包囲戦に対する先制攻撃こそ、ブラジュ人が最も得意とする戦い方だ。
そのため今回も、昨日の昼まではブラジュ軍は影も形も無かったのに、
領主の号令一つで、すぐに西の国境付近の山中に突如として軍が出現したのだ。
そして、その成果を今、身を持って体験しつつあるケイブは、目の前で行われる父とアギンの作戦会議を聞きながら、思索する。
(『兵は詭道なり。能く士卒の耳目を愚にし、これを知ること無からしむ』。
いくさとは、相手を欺くことである。敵の耳目を欺き、軍の計画を知らせないようにするとは、よく言ったものだね。)
古今東西の歴史の中で、戦術的勝利が、戦略的敗北を覆した例は、意外に多いのだ。
そして、少数の兵が勝つ場合は、たいてい奇襲である。
「父上、あの辺りには敵はいませんよ。」
「おぉ、ケイブ。そういえばお前の神力、「鳥瞰」といったか。わかるのか?」
「はい。敵は、川の下流で飲み水を確保しながら、友軍を待っているのでしょう。
追い落とすチャンスです。」
「わかった。では、いつもの通りやるぞ。」
そういって、各部隊長に指示を飛ばす、ヒムシン。
わずかな打ち合わせを終えると、緑色の迷彩をした千人の群れが、小部隊となってバラバラに散っていく。
ケイブが率いる部隊が目指すは、敵が布陣する川の上流方向の高所の一角。
各部隊が、定刻までに敵に見つからないように持ち場にたどり着くため、その行軍ルートはバラバラだ。
ケイブもまた、戦い慣れた兵士を30人引き連れ、持ち場へと向かう。
アギンの「遠見」や、ケイブの「鳥瞰」のように、索敵に適した神力を持っている人間は、比較的少ない。
そのため、各隊に1人はそういった能力を持つ人間が配属される。
ケイブもまた、隊長かつ索敵要因として配属され、今まさに30人ほどの青年で集めた部隊を引き連れることになった。
とはいっても、彼らは普段から朝の調練に一緒に顔を合わせてる本村の面々であり、知った仲でもある。
彼らもまた、一様に動きやすく、迷彩が施された防具を身に着けており、歩きにくいはずの山道を軽々と進む。
ケイブのすぐ後ろに付き従う男は、時折振り返っては、ついてくる隊員たちの体調や疲労度を見ている。
特に、この部隊が作戦に使用する「石」を通りがかりの地面から、たくさん拾い集めさせており、全員の石の獲得具合には気を使っている。
ケイブもチラっと隊員の様子を伺うと、各員、背中に背負った籠いっぱいに石を集めきったようだ。
相当な量だろう。
「御曹司。石の収集は上々です。いつでも配置に着けます。」
「ありがとう、バダラ。ちょうど目的地に着きそうです。
ただ、敵兵が500メートル先の木陰に3人いるみたい。」
「了解です。ちょっとばかり待機位置から近いですが、敵の本陣もすぐそこです。
一旦隠れるのも「有り」かもしれません。
「なるほど、、、
いや、ここは排除しておこう。何人かで仕留めに行って!」
「了解しました。
…バレる可能性もありますよ?」
「そん時はそん時です。とにかく、我々は騒いで敵を驚かせる役割。もしバレても、作戦が、ちょっとばかり早まるだけです。」
「わかりました!
…ということだ、行け。」
「「「「「ハッ!ぶち殺してきます!」」」」」
そういって、後ろの5人を先行させ、排除するように指示をするのは、19歳の男、バダラ。
ケイブ隊の副官となった男だ。
ケイブが索敵しながら、進む道や敵情視察をする間、代わって隊をよく統率している。
若くして、ブラジュ領でもその冷静さにおいては、五本の指に入る人であり、命令には忠実。
一番軍人らしい人だ。
(まあ、こんなところで問題が発生していては、『お話にならない』わけだけど、油断は禁物…か。)
指揮官が油断をしてしまえば、軍全体の緊張感が弛緩し、軍が「溶解」する。
ましてや、ケイブは初陣であり、しかも相手は3倍の兵だ。
指揮官の大きな仕事の一つは、軍を溶かさないことだ。
人はそれを「統率」と言ったりする。
そういった緊張感や上下関係があるからこそ、攻撃するにしろ撤退するにしろ、兵が死ぬことを恐れず、命令を守らせることができる。
それに、ケイブが攻撃を命令するということは、「命の危険をさらしてこい」といってるのと同じだ。
それで明日を生きれない人が出るわけだから、その責任は重大だ。
ただし、ブラジュ人は戦いで死ぬことを恐れない。
どちらかというと、逸る部下たちを先走らせないことの方が、主な仕事になるだろう。
とはいっても、隊長が舐められない限り、「攻撃するな」といえば、その命令を守るだけの軍規がブラジュ軍にはある。
そのため、指揮官の存在意義は、もう一つの大きな役割に重点が置かれる。
それは、ほとんど唯一の仕事と言っても過言ではない、重大な仕事だ。
―――決心。
いくら鳥瞰があっても、戦場はわからないことだらけだ。
今どちらが勝っているのかなんて分からないし、敵も味方も予定通りに動いてくれるとは限らない。
誤情報だって飛び交う。
例えば、指揮官が「負けた」と思って味方を置いて戦場から逃走したところ、実は置いてきた味方が巻き返して会戦に勝利し、指揮官は撤退する最中に危うく死にかけた事例もある。
なんという愚将だと思うだろうか?
しかし、これは何を隠そう、かの有名なフリードリッヒ大王の初陣。実話だ。
大王はこれを人生の教訓として、その後の華々しい軍歴を重ねることになった。
何が言いたいかと言うと、それだけ、戦場では不確定なことばかりで、何が起きているかなんてわからないということだ。
そんな霧の中においても、『今、何をするか』を決心しなければならない。
それは、前世で戦争をしたことは無くても、戦記や軍事学を齧ったケイブは心得ている。
「それでバダラ、持ち場はこの辺りでいいかな?」
「はい。周囲の様子はいかがですか?」
「味方は周辺に布陣できているよ。僕らが一番遠い位置に布陣しているからね。遅れている隊は無いよ」
「それは重畳。…敵兵を排除させる決断も、味方が配置につき終わってるのがわかってたからですね。」
「えへへ、まあね!
じゃあさっきの五人が戻ってきたら、作戦開始だ。」
「わかりました」
各々が、思い思いに体を休める。
誰もが瞬時に動けるように構えつつ、実にリラックスしている。
実に慣れたものだ、
「御曹司。緊張の具合はどうですか?」
「バダラ、まだ実感が無いのか、そこまで緊張してないかな」
「それは結構。ガチガチに緊張するよりはだいぶマシでしょう。」
「とはいっても、あっちにいる、3倍の敵兵に対陣するわけだからね。まだ実感が無いだけかも」
「ええ、侮るよりはよっぽど良いかと思います。御曹司」
―――バダラは、年齢の割には随分、大人びているというか、落ち着いている。
19歳で僕の副官になるくらいだから、大したものだ。
僕への教育も兼ねているんだろうけど、研究者にも向いているかも。
心のメモに、バダラの特性を刻みつつ、その時を待つ。
戦いのときはそこまで迫っていた。
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