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犬養国司②
困惑
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一体どう言うことなんだ。
意味が分からない。
安良城ららが俺を訴える? そんなバカなことを言ってきた人間は初めてだった。
いや。正確に言うと俺に逆らった人間は初めてだった。だから喫茶店では大変、狼狽えてしまった。
俺とマッチングアプリでやり取りしていた『カスミ』と言う女は結局あのあと来なかった。しかもアプリも退会していて煙のように跡形なく、存在が消えていた。
きっとあの『林』とか名乗った優男の弁護士。アイツの美人局とか、そう言った手合いなのだろう。
今にしてみれば弁護士登録ナンバーも聞けばよかった。名刺の一つでも分取るべきだった。
その場で弁護士バッジを、確認するのも忘れていたのも腹立たしい思いだった。
「くそっ。忌々しいっ」
こうも自分の都合に反する者が出てくると今まで順風満帆だった分、苛立たしくて仕方ない。
ドンっと、居間の机を叩くとビールの空き缶が机から落ちた。拾うのも億劫で深い溜息を吐く。
「何が訴状が届くだ。わざわざ昨日、慌ててこの家に帰って来たのに。一日待っても訴状も何も届きやしない。ハッタリなんかカマしやがって、あのクソ女にクソ弁護士め。よくも俺を騙しやがって。有給まで使ったと言うのに、クソっ」
新たに開けた缶ビールに口付ける。ゴクゴクと喉に流し込めば、飲んでる間は爽快だったが、舌の上にはやけに苦味が残ると感じてしまった。
ガンと乱暴に缶を机の上に置いて、その場に寝転がると畳のイグサの匂いがした。
スマホをポケットから取り出すとまだ昼過ぎ。こんなムシャクシャした気持ちはいっそギャンブルで解消したくなった。
しかしこの近辺には、競艇場も競馬もパチンコの施設もなんにもない。あるのは鬱陶しい自然だけ。
俺にとってはこの家はただ広いだけの古い家。
狗神を一番大きな広間で祀り。
庭に犬達を埋めて贄にするだけの場。
「粧子のやつも出掛けていて、ツマんねえな」
粧子には、すぐにららが訴えて来たことを伝えた。
すると粧子は冷静に、まずは本当に訴状が届くかこの家に待機。
そして──箪笥に祀っている狗神に異変はないか、調べようということになり。
二人して昨日、慌ててこの家に戻って来た訳である。
そういった経緯で、わざわざ帰って来たのに訴状とやらは届くこともなく。狗神にも異変がなく。
一日が過ぎてあの弁護士とららに、してやられたと思った。
ハッタリをかまされた。しかし、俺が喫茶店に居ると言う居場所を掴まれたり『カスミ』なる美人局を準備していたことなど、こちらの動向を把握していたのは気になった。
「単にハッタリだけで、あそこまでやるか? それとも訴状は今日届くとかじゃないのか」
それとも──。
いい知れない不安が拭い去れない。
だから、俺はこうしてもう一日家で待機することにしたのだった。
仮にこのあと訴状が届いたら。すぐにららに、逆にこっちが迷惑を掛けられたことや、弁護士から水を掛けられたとか。
逆に訴えを起こしてやろうと思った。
出来ることなら、らら本人に直接訴えてやりたいところだったが居場所も連絡先も全く分からず。
ただ、待つだけと言うことが余計にイライラを加速させていた。
こんな時こそ、粧子を抱くと良い時間潰しになるのに。
「なのに、知り合いに占い師が出来たから今日のことを占って貰ってくる。とか呑気なもんだ」
その帰りにペットショップに寄って、格安の犬を買ってくると言う事だった。
もちろん、新たな贄にする為。
犬養の狗神は誰かを祟ることや、死を運ぶ事に適していない。言わば、受け身的な呪い。
相手からの行動が無い限り、対処のしようが無いと言うのが面倒だった。
「新たな犬を仕入れたところで、すぐに贄に出来ないのも面倒くせぇ」
庭に埋めて、餓死寸前で首を刎ねると言う手間がある。
だから一応。
昨日、念の為に粧子に隠れてこっそりと。
久々に厄除けの札を作ってみた。
すっと、ポケットの奥に仕込んでいた一枚の札を取り出す。
千円札ぐらいの大きさの白い和紙。
朱色の文字で呪い言葉の上に、髪の毛がぴったりと糊で張り付いていた。
霊力が低く、ろくに修行していない俺が普通に作っても有事の際はなんの効力を得ないだろう。
しかしこの札も『贄』を捧げることで、それなりの厄除けは期待出来る。
札に張り付いた髪こそが──贄である。
何かあればこの髪の持ち主が俺の災厄を被る羽目になる。
その効果は俺の親近者であれば、あるほど強い効果が出る。
それを見つめながら思う。
「ふふっ……一応だ。念の為。ひょとしたら、ららが直に来て暴れるかも知れないしな」
今日が問題なく終わり。
粧子の知人による占いとやらも、内容に問題なく。
贄も追加して狗神の補強が終われば、この札は破棄したらいいだろう。
それまでは身に付けておこうと思い。またポケットに札を戻し。
今しばらく横になりながら、怠惰な時間を過ごそうと思うのだった。
意味が分からない。
安良城ららが俺を訴える? そんなバカなことを言ってきた人間は初めてだった。
いや。正確に言うと俺に逆らった人間は初めてだった。だから喫茶店では大変、狼狽えてしまった。
俺とマッチングアプリでやり取りしていた『カスミ』と言う女は結局あのあと来なかった。しかもアプリも退会していて煙のように跡形なく、存在が消えていた。
きっとあの『林』とか名乗った優男の弁護士。アイツの美人局とか、そう言った手合いなのだろう。
今にしてみれば弁護士登録ナンバーも聞けばよかった。名刺の一つでも分取るべきだった。
その場で弁護士バッジを、確認するのも忘れていたのも腹立たしい思いだった。
「くそっ。忌々しいっ」
こうも自分の都合に反する者が出てくると今まで順風満帆だった分、苛立たしくて仕方ない。
ドンっと、居間の机を叩くとビールの空き缶が机から落ちた。拾うのも億劫で深い溜息を吐く。
「何が訴状が届くだ。わざわざ昨日、慌ててこの家に帰って来たのに。一日待っても訴状も何も届きやしない。ハッタリなんかカマしやがって、あのクソ女にクソ弁護士め。よくも俺を騙しやがって。有給まで使ったと言うのに、クソっ」
新たに開けた缶ビールに口付ける。ゴクゴクと喉に流し込めば、飲んでる間は爽快だったが、舌の上にはやけに苦味が残ると感じてしまった。
ガンと乱暴に缶を机の上に置いて、その場に寝転がると畳のイグサの匂いがした。
スマホをポケットから取り出すとまだ昼過ぎ。こんなムシャクシャした気持ちはいっそギャンブルで解消したくなった。
しかしこの近辺には、競艇場も競馬もパチンコの施設もなんにもない。あるのは鬱陶しい自然だけ。
俺にとってはこの家はただ広いだけの古い家。
狗神を一番大きな広間で祀り。
庭に犬達を埋めて贄にするだけの場。
「粧子のやつも出掛けていて、ツマんねえな」
粧子には、すぐにららが訴えて来たことを伝えた。
すると粧子は冷静に、まずは本当に訴状が届くかこの家に待機。
そして──箪笥に祀っている狗神に異変はないか、調べようということになり。
二人して昨日、慌ててこの家に戻って来た訳である。
そういった経緯で、わざわざ帰って来たのに訴状とやらは届くこともなく。狗神にも異変がなく。
一日が過ぎてあの弁護士とららに、してやられたと思った。
ハッタリをかまされた。しかし、俺が喫茶店に居ると言う居場所を掴まれたり『カスミ』なる美人局を準備していたことなど、こちらの動向を把握していたのは気になった。
「単にハッタリだけで、あそこまでやるか? それとも訴状は今日届くとかじゃないのか」
それとも──。
いい知れない不安が拭い去れない。
だから、俺はこうしてもう一日家で待機することにしたのだった。
仮にこのあと訴状が届いたら。すぐにららに、逆にこっちが迷惑を掛けられたことや、弁護士から水を掛けられたとか。
逆に訴えを起こしてやろうと思った。
出来ることなら、らら本人に直接訴えてやりたいところだったが居場所も連絡先も全く分からず。
ただ、待つだけと言うことが余計にイライラを加速させていた。
こんな時こそ、粧子を抱くと良い時間潰しになるのに。
「なのに、知り合いに占い師が出来たから今日のことを占って貰ってくる。とか呑気なもんだ」
その帰りにペットショップに寄って、格安の犬を買ってくると言う事だった。
もちろん、新たな贄にする為。
犬養の狗神は誰かを祟ることや、死を運ぶ事に適していない。言わば、受け身的な呪い。
相手からの行動が無い限り、対処のしようが無いと言うのが面倒だった。
「新たな犬を仕入れたところで、すぐに贄に出来ないのも面倒くせぇ」
庭に埋めて、餓死寸前で首を刎ねると言う手間がある。
だから一応。
昨日、念の為に粧子に隠れてこっそりと。
久々に厄除けの札を作ってみた。
すっと、ポケットの奥に仕込んでいた一枚の札を取り出す。
千円札ぐらいの大きさの白い和紙。
朱色の文字で呪い言葉の上に、髪の毛がぴったりと糊で張り付いていた。
霊力が低く、ろくに修行していない俺が普通に作っても有事の際はなんの効力を得ないだろう。
しかしこの札も『贄』を捧げることで、それなりの厄除けは期待出来る。
札に張り付いた髪こそが──贄である。
何かあればこの髪の持ち主が俺の災厄を被る羽目になる。
その効果は俺の親近者であれば、あるほど強い効果が出る。
それを見つめながら思う。
「ふふっ……一応だ。念の為。ひょとしたら、ららが直に来て暴れるかも知れないしな」
今日が問題なく終わり。
粧子の知人による占いとやらも、内容に問題なく。
贄も追加して狗神の補強が終われば、この札は破棄したらいいだろう。
それまでは身に付けておこうと思い。またポケットに札を戻し。
今しばらく横になりながら、怠惰な時間を過ごそうと思うのだった。
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