85 / 97
出発日前日
…2
しおりを挟む「お願いします…」
そんな風に言っちゃうミチャは、やっぱり可愛らしい。
「二人が離婚届を準備していつでも出せるようにしておくっていうアイディアにはすごく驚いた。
でも、驚いたけど、すごくホッとした…」
ミチャの顔色が少し変わった。
そして、すぐに質問をする。
「ホッとした…?」
沙織先輩はうんと頷いて、窓の向こうに目をやった。
「ミチャさん…
その離婚届け…
そんな遠くない未来に出す事になると、私は思ってる。
だから、ミチャさんは、そのつもりでいてください。
その方がお互いのためだと私は思うから」
「沙織先輩、それはないよ!」
すると、ミチャが私の腕を優しく掴んだ。
そして、先輩にどうぞ続けて下さいと目で合図する。
「まひるが、今、誰よりも何よりもミチャさんの事を愛してるっていう事は、私が一番よく知ってます。
今のまひるは、絵を描く事よりも、ミチャさんと一緒にいたいって思ってる事も…
まひるって、こんな感じでいつも全力投球で、だから長続きしない」
「もう、だから、ミチャは違うんですって」
私の泣きそうな顔を見て、先輩は笑った。
でも笑顔の先に怒った顔も見える。
私は怖くなって、ちょっと黙った。
「ミチャさん、絵を描いてる時のまひるを知ってますよね?
人格が変わったみたいに、自分の世界に没頭する。
本当にすごい作品を描いてる時なんて、一か月は軽く家の中から出て来ない。
その部屋は、絵の具の油っぽい匂いとまひるの情熱と魂しかない。
本物の芸術家なんです。
だから、大学の教授も友達も家族も、まひるがこれだけの賞を取って世界へ羽ばたいて行く事は、ちゃんと予想してました。
まひるは、絵を描くために生まれてきた。
絵を描く事がまひるの全てなんです。
その実力は、新進気鋭の若手画家として、日本ではもう有名です。
そんなまひるが、憧れていたヨーロッパへ行って一流の先生達から絵を学んで、のめり込まないわけがない。
今、ミチャさんへ寄せている想いだって、その勢いに押されていつの間にか消えてなくなってしまう。
まひるの中で、絵を描く事以上のものはないんです。
それが、ミチャさんであっても」
私は何も言い返せなかった。
ミチャと結婚してから、油絵はほとんど描いていない。
結婚当初に、描きかけの作品をちょっとだけ描いた時期があったけれど、絵を描く私がモンスターのようだって言ったミチャが気になって、油絵を描く事はしないで水彩画ばかり描いていた。
ミチャに、私の事を好きになってもらいたかったから。
「だから、ミチャさん…
ミチャさんの方が覚悟しておいてください。
捨てられるのはミチャさんの方だって事を」
「もう、捨てるとか言わないでよ。
そんなひどい言い方…」
ミチャは呆然と先輩を見ている。
先輩の言葉はミチャの心臓を突き破ったみたい。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
君の中で世界は廻る
便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、
二年つき合った彼にフラれた
フラれても仕方がないのかも
だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから…
そんな私は田舎に帰ることに決めた
私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島
唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい
看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた
流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため……
田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た
「島の皆さん、こんにちは~
東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。
よろしくお願いしま~す」
は??? どういうこと???
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
さつきの花が咲く夜に
橘 弥久莉
ライト文芸
国立大学の教務課で働く桜井満留は、病床
に臥す母親を抱えながらひとり、鬱々とした
日々を過ごしていた。余命幾ばくもない母の
ため、大学と同一敷地内に隣接する国立病院
に泊まり込みで看病をしていた満留は、ある
夜、お化けが出ると噂のある中庭で一人の
少年と出会う。半年前に亡くなった祖母を
想いながらこの中庭によく足を運ぶのだと話
をしてくれた少年、満に、自分と同じ孤独を
垣間見た満留はひと時の癒しを求め中庭で会
うように。
一方、大学でタイムマシンの原理を研究し
ているという風変わりな准教授、妹崎紫暢
ともある出来事をきっかけに距離が縮まり、
意識するようになって……。
誰とでも仲良くなれるけれど「会いたい」
「寂しい」と、自分から手を伸ばすことが
出来ない満留はいつもゆるい孤独の中を
生きてきた。けれど、母の手紙に背中を
押された満留は大切な人たちとの繋がり
を失わぬよう、大きな一歩を踏み出す。
勇気を出して手を伸ばした満留が知る
真実とは?
母娘の絆と別れ。親子のすれ違いと再生。
異なる種類の孤独を胸に抱えながらもそれ
を乗り越え、心を通わせてゆくヒューマン・
ラブストーリー。
※エブリスタ新作セレクション選出作品。
2022.7.28
※この物語は一部、実話を交えています。
主人公の母、芳子は四十九歳の若さで他界
した作者の祖母の名であり、職業こそ違う
ものの祖母の人生を投影しています.
※この物語はフィクションです。
※表紙の画像はミカスケ様のフリーイラスト
からお借りしています。
※作中の画像はフリー画像サイトpixabayから
お借りしています。
※作中に病気に関する描写がありますが、
あくまで作者の経験と主観によるものです。
=====
参考文献・参考サイト
・Newtonライト3.0 相対性理論
ゼロからわかる相対性理論入門書
・タイムマシン、空想じゃない
時空の謎に迫る研究者
https://www.asahi.com/articles/
ASNDS2VNWND2PISC011.html
・日本物理学会
https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/
files/71-09_70fushigi.pdf
・メンタル心理そらくも
https://sorakumo.jp/report/archives/125
仮初家族
ゴールデンフィッシュメダル
ライト文芸
エリカは高校2年生。
親が失踪してからなんとか一人で踏ん張って生きている。
当たり前を当たり前に与えられなかった少女がそれでも頑張ってなんとか光を見つけるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる