はじまりと終わりの間婚

便葉

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ホワイトデー

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今年のホワイトデーは運よく土曜日で、ミチャの誕生日に旅行へ行けなかった私の無念を晴らすために、急遽、奥日光へ一泊二日で行く事になった。
奥日光になった理由は、また前回と同様で、二人とも行った事がなかったから。
それに、飛行機とか新幹線に乗って、遠出はできない。
なぜなら、ミチャが三月十四日の土曜日の朝に、母校の大学のロボットサークルに呼ばれていて、何だか新しいロボットのお披露目会に参加するらしい。
そのイベントを途中で抜け出して出発する強行スケジュールだった。
 
そして、私達の微妙な関係を改善するための旅行でもあるらしかった。
バレンタインデーに私が提案したあの問題も、実はまだミチャの答えをもらっていない。
ミチャの予定では、その答えもその時に発表するらしい。
ホワイトデーはバレンタインデーのチョコの贈り物のお返しをする日なんでしょ?と聞いてくるミチャは、あまりホワイトデーを知らない。
きっと、楽しそうなイベントの一つだと思っている。
ミチャの中では、その日にお互いの行く道を決定して、笑い合って二人で納得しようなんて考えているみたい。

私にとっては審判を下されるドキドキの日なのに…。
それにミチャがそんな事を考える時点で、私にとっては嬉しい答えじゃない気がして、あまりその旅行には乗り気じゃなかった。


でも、その日は快晴だった。
ミチャは早朝に家を出たため、私は洗濯やら家の事を細々と片付けた。
まだ三月の中旬なのに、その日は春のような陽気だった。
そして、春の到来とともに、私の留学の準備も淡々と進んでいる。
向こうの学校に問い合わせてみると入学は月の初めと決まっていて、五月一日の入学で決定した。
住む場所も学校が斡旋してくれるアパートを仮契約した。
 
「イタリアに出向いて、自分の目で探した方がいいんじゃない?
そのための旅費は僕が出すから」
 
そうミチャは言ってくれたけど、私にとってミチャと過ごせる残り僅かな日々をそんな旅行なんかで無駄にしたくない。
だから、イタリアには行かず日本女流西洋画家協会のイタリア人の職員さんに全てを委ねている。
彼女は普段の仕事がよほど暇なのか必要以上に張り切ってくれて、毎日確認のメールか電話が必ず二回は入った。
出発日は日本時間の四月二十六日の日曜日。
チケットも彼女がスムーズに購入してくれた。
 
「出発は日曜日にしておきました。
家族の皆様もお見送りに来れるように」
 
一つ一つフィレンツェへ向けて準備が整っていく。
気持ちがそれに追いつかず、何度も何度も後ろ向きな事ばかり考えて泣いてしまう。
ミチャに恋する気持ちは止まらず膨らむ一方で、それなのに、ミチャの決断次第では離婚という形で完全に切り離されてしまう事が怖かった。
八方塞がりとはこの事だ。
自分の夢を叶えるために利用したこの結婚に、心も体も何もかもを差し出してしまっている。

こうやって、最近の私は、時間さえあれば色々考えて落ち込んでしまう。
たった一泊の旅行だけど、私は絵を描く道具を持っていく事にした。
ミチャと過ごす二人だけの時間を、美しい思い出として心に留めたい。
私にとって絵を描く事は、ありのままの心を写し出す無意識の作業。
ミチャと見るありのままの風景を残しておきたかった。
 
すると、ミチャからメッセージが入った。
大学のイベントが、思いのほか早く終わったらしい。
会社の人の車で、今、家へ向かっているとの事だった。
私は慌てて準備をし始める。
心のどこかで行きたくないと泣いているのが分かるけど、でも、ミチャと向き合って話す機会はそうたくさんはない。
自分自身の問題だった。
ミチャの気持ちは変わることはなくて、私の心を騙してなだめて、前を向かせるしかなかった。
 
家へ帰ってきたミチャは、最高に機嫌がいい。
荷物が多くなった私を見て、肩をすくめて笑う。
 
「温泉に入って、美味しいもの食べて、そうだ、天気がいいから中禅寺湖の周りをハイキングしよう。
でも、奥日光って山の方だから、かなり寒いらしい。
上着を多めに持ってね」
 
ミチャは私の荷物を車に積み込みながらそう言った。
 
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