はじまりと終わりの間婚

便葉

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クリスマス

…5

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そして、ミチャが珍しく早い時間に帰宅した夜、また面倒くさい事案が発生してしまった。
その夜、私はミチャが帰った事にも気付かずにいた。
前々回に使用した衣裳を使いまわしする予定だったのに、また、新しい衣裳を一から作ってしまっている私の融通が利かない性格が、この状況を生み出したと言っても言い過ぎではない。
それくらい、私は行き詰まっていた。
 
漆黒の闇に住むエルサのイメージは、私の創作意欲を果てしないほどに掻き立てた。
森魚は漆黒の魔王。
やるからには、完璧以上を目指したい。
特に、今回のコスプレは、全員がそんな気持ちで挑んでくるから。
 
「まひる、ご飯作ったけど、こっちで食べれそう?」
 
ミチャが部屋のドアをノックした事にも気付かなかった。
もちろん、森魚だってそう。
最悪な事に、森魚はミチャを見ようともしない。
ミチャも森魚の事は完全に無視している。
ミチャの中で森魚の存在がどう映っているのか、本来ならその事を一番に知りたいと思うのに、今の私はそんな事を考える余裕もなかった。
 
「あ、どうしよう…
分かった、切りのいいところで済ませて、そっちに行くね」
 
私はちょっとだけミチャを見て、微笑んでそう言った。
ミチャは了解と囁いて、部屋から出て行く。
私はすぐに森魚にこう聞いた。
 
「森魚も一緒に行く?
ミチャの事だから、森魚の食事もちゃんと作ってるよ」
 
森魚は私のティアラを作成中だった。
森魚は小物作りのスペシャリストで、実は、私が普段に使っているピアスもネックレスもほとんどが森魚の作品だった。
もちろん、あのモアイ像のピアスだって。

「いいよ、俺はあとでコンビニで何か買ってくるから。
あ、まひるん、ここのメインは、ダイアモンド風かトルコ石風かだったらどっちがいい?」
 
「トルコ石に決まってるじゃん!
それも、深いブルーの色がいいな」
 
ダイアモンドもトルコ石もなんちゃってが付く偽物だけど。
 
私はミチャの待つダイニングへ向かった。
とりあえずシャワーは毎日浴びているし、着替えも毎日している。
私は廊下の立ち鏡に自分の姿を映してみた。
かなりやつれているけれど、創作中の私を知っているミチャなら納得してくれるはず。
私は、乱れた髪をしっかり結び直して、ダイニングのドアを開けた。
 
「ミチャ、今日は早かったんだね」
 
こうやって、ミチャと顔を合わせてちゃんと話す事がすごく久しぶりに感じる。
でも、ミチャの様子が何かおかしい。
いつものふんわり穏やかなミチャが、拗ねているように見えるのは私の気のせい?
 
「森魚君は、いいの?」
 
森魚の事を気にかけてくれているのは有難いけれど、でも、ミチャの言葉に真心がこもっていないように聞こえるのも、やっぱり私の気のせい?
 
「うん、いいって」
 
「そっか。
一応、三人分の準備はしといたんだけど…
でも、よかった。
僕もまひると二人で食べたかったから」
 
ほら、やっぱり、ミチャは拗ねている。
だって森魚が来ないと分かった途端、ミチャに笑顔が見えた。
単純過ぎるのもどうかと思うけれど、でも、ミチャのその笑顔には一体どんな意味があるのだろう。
 
「スーパーに黒毛和牛のいい肉があったから、それを買ってきた。
今日は、まひるの大好きなすき焼きにしたけど、どう?」
 
「食べたい!」
 
どや顔のミチャは、キッチンからもうすでに準備ができているすき焼きを持ってきて、電気コンロの上にセットする。
 
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