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道也の誕生日
…12
しおりを挟む「……ごめんね。
もう、今夜の事は言わない…
ミチャの誕生日に集中する」
ミチャは声を出して笑った。
「まひる、集中はほどほどにして。
まひるが集中したら怖くなっちゃうからさ」
また訳の分からない事を言う。
いや、言っている意味は分かるけど。
絵を描いている時のモンスターな私を、ミチャは思い浮かべている。
「集中しなきゃ、うじうじずっと今夜の事つついちゃうけど、それでいいの?」
「それは、嫌だ」
ミチャの顔は疲れていた。
私の集中砲火的な攻撃に精神をやられたみたいに。
私の母性はミチャの魅力にひれ伏してしまう。
優しく慰めてあげたいと。
でも、そもそもの原因は、私なのだけれども…
私はいい感じに酔いが回ってきた。
ミチャの作ってくれたケーキを、思い出したように食べ始める。
「ミチャ…
お誕生日、おめでとう…
って、もう言ったっけ?
いいよね、何度も言っても。
ミチャ、お誕生日おめでとう…」
「もうトータルで百回は聞いたかも」
「うそ、百回も言ってないよ。
それは酔っててもちゃんと分かる」
ミチャはまた笑った。
ミチャもワイン飲み過ぎてる?
何だか今日はやたら笑っている気がする。
「それと、ミチャ…」
私の呼びかけに、ミチャは身構えて私を見る。
また、私の口から何か爆弾発言が出てくるような顔をして。
「何?」
「ミチャの誕生日プレゼントなんだけど…」
壁に掛かったデジタル時計はもう11時を告げていた。
誕生日が終わってしまう前に、この話題に触れた事に自分の中でホッとする。
「実は、何も準備してないの。
ミチャと一緒…
ミチャに聞いて、ミチャの欲しいものを一緒に買いに行きたいなって思って…
ほら、本当は大阪に行く予定だったから、そこで一緒に買い物できたら、なんて思ってて」
私はハッとした。
またグダグダと今夜に至る桜子の予定に言及してしまっている。
桜子さんさえ出て来なければ、私とミチャは大阪へ旅行してたのに…と。
私はそんなネガティブな考えを頭の中で打ち消して、大げさに明るく振舞いながらミチャへ質問した。
「ミチャ…
プレゼントは何が欲しい?」
ミチャは私のクルクル変わる表情をジッと観察している。
私の頭の中を見透かしているみたいに、とても面白そうに。
「何がいいかな…」
ミチャはとりあえず考えるふりをする。
そして、困ったように微笑んで、天使のように囁いた。
「まひるが機嫌を直してくれたらそれでいいよ」
「そんなのプレゼントじゃないよ。
それに、機嫌だってもう直ってるし…」
私はそう言って下を向く。
「まひるが今一番欲しいものは何?
大阪に行きたいなら誕生日は過ぎた後になるけど他の週末に行ってもいいし、明日、近場でよければ美味しい物食べ歩きに行ってもいい。
朝早くに出れば、車で遠出も可能だし。
何がいいかな?
まひるが一番やりたい事は何だろう?」
自分の誕生日なのに私への贈り物を考える優しいミチャ。
私はお酒が回っているせいか、それとも脳が疲れすぎて思考力が低下しているせいか、本当に欲しいものを口に出してしまった。
「ミチャの…
ミチャのキスがほしい…」
私は急激に酔いが覚めた。
それも自分が発した恥ずかしい言葉のせいで。
私がミチャのキスに飢えているのがばれてしまう。
でも、もう訂正するわけにはいかない。
私は恥ずかしくて、ただひたすら下を向いていた。
ミチャの耳にその言葉が届いていない事を祈りながら。
「僕のキスで機嫌が直るんだったら、全然いいよ…」
ミチャはそう言うと、下を向いている私の顔をそっと自分へ向ける。
「や、やっぱり、キスはいいや…
キスはいいです…」
私の気まぐれにミチャは苦笑いをする。
その憂いに満ちた表情は、まるで私とのキスを楽しみにしていたみたいな、そんな残念そうな顔に見えた。
「キ、キスよりも…
キスよりも、ミチャの心が知りたい。
ミチャは私の事をどう想ってる?
好きとか、愛してるとか、嫌いとか、何とも感じてないとか…
あとは…
この先、どうしたいとか…」
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