はじまりと終わりの間婚

便葉

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道也の誕生日

…6

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私と風磨はどういうわけか二人でコンビを組んで、ミチャを奪還するために赤坂へ向かっている。
何だか嬉しかった。
こんなモヤモヤな最低な気分を分かち合える友がいた事が。
 
風磨がピンポイントでお店を知っていたので、私達はタクシーでその場所へ向かう事ができた。
でも、タクシーの中で、二人とも少しだけ冷静になってしまう。
そして、夕方の六時はもうとっくに過ぎていた。
平然と座っている風磨の横顔のその先には、夜の街に変わりつつある都会の風景が見える。
私はあまり深く考えないようにした。
どのみち、家の中にいても変な妄想ばかりをして腐っていただけだから。
風磨と二人なら何も怖くない。
ミチャの反応が最悪だったとしても。
 
「着いたぞ」
 
風磨は恐れを知らない。
恋をする男は失う何かをきっと考えない。
いや、何かを失うなんてこれっぽっちも思っていないし、何を失うんだ?ってそもそものところで脳の構造が違うのかもしれない。
私は、ミチャとの信頼を一瞬で失くしそうで怖いのに…
 
「風磨…
やっぱり、怖いよ…
私達のこの行動って、本当はめちゃくちゃまずくない?」
 
風磨は軽く笑った。
 
「まずくないよ。
俺とまひるは、ミチャも出かけていないから、ご飯を食べにここへ来た。
別にミチャを探しに来たわけじゃなく、この店のカツレツを食べに来ただけ。
ミチャがそこに居るなんて知らないし、居たら、あ、ミチャも居たんだみたいなそんな感じでいいんだよ」

そっか、確かにミチャの行く先を私達は何も知らない。
私は、風磨の潔さに、ちょっとだけ風磨を男として好きになる。
この期に及んで何事?だけど…
 

ビストロMAKIはレトロな雰囲気の老舗の洋食レストランだった。
店内はジャズ喫茶のような落ち着いた音楽が流れ、そして、テーブルごとにランプが灯されているせいでしっとりとした空気が漂っている。
全席予約制のこの店に、私と風磨は何も知らずに何も考えずに入って行く。
 
「お客様、今日は何時のご予約でしょうか?」
 
案内係の初老の男性に声をかけられ、私はビクッとしてしまう。
 
「予約は入れてないです。
すみません、忘れてました」
 
私は風磨の陰に隠れて、そっと店内を見渡してみる。
その店の人は予約リストを確認すると、肩をすくめながら私達に笑いかけた。
 
「先ほど、二人掛けのテーブルのお客様から予約のキャンセルがありまして、そのお席なら案内できますが、どうされますか?
一番奥のテーブルになりますけれど」
 
風磨は返事をする前に、堂々と店内を見回している。
 
「あ、じゃ、それでお願いします。
名前は向井と言います」
 
明らかに私達は目立っている。
何よりも風磨の体のデカさとラフ過ぎる恰好はこの店にはそぐわないし、それに私の挙動不審者のような動きも目立つ要因だった。
店の人に案内されてそのテーブルまで歩いて行く間に、私はミチャを見つけた。
もちろん、風磨だって気付いている。
私達のミチャへの執着は、地球上のどの生物よりも勝っているから、ミチャを見つける事は息をするくらい容易い。
テーブルに着いた私達は無言で目配せをした。
 
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