47 / 97
道也の誕生日
…6
しおりを挟む私と風磨はどういうわけか二人でコンビを組んで、ミチャを奪還するために赤坂へ向かっている。
何だか嬉しかった。
こんなモヤモヤな最低な気分を分かち合える友がいた事が。
風磨がピンポイントでお店を知っていたので、私達はタクシーでその場所へ向かう事ができた。
でも、タクシーの中で、二人とも少しだけ冷静になってしまう。
そして、夕方の六時はもうとっくに過ぎていた。
平然と座っている風磨の横顔のその先には、夜の街に変わりつつある都会の風景が見える。
私はあまり深く考えないようにした。
どのみち、家の中にいても変な妄想ばかりをして腐っていただけだから。
風磨と二人なら何も怖くない。
ミチャの反応が最悪だったとしても。
「着いたぞ」
風磨は恐れを知らない。
恋をする男は失う何かをきっと考えない。
いや、何かを失うなんてこれっぽっちも思っていないし、何を失うんだ?ってそもそものところで脳の構造が違うのかもしれない。
私は、ミチャとの信頼を一瞬で失くしそうで怖いのに…
「風磨…
やっぱり、怖いよ…
私達のこの行動って、本当はめちゃくちゃまずくない?」
風磨は軽く笑った。
「まずくないよ。
俺とまひるは、ミチャも出かけていないから、ご飯を食べにここへ来た。
別にミチャを探しに来たわけじゃなく、この店のカツレツを食べに来ただけ。
ミチャがそこに居るなんて知らないし、居たら、あ、ミチャも居たんだみたいなそんな感じでいいんだよ」
そっか、確かにミチャの行く先を私達は何も知らない。
私は、風磨の潔さに、ちょっとだけ風磨を男として好きになる。
この期に及んで何事?だけど…
ビストロMAKIはレトロな雰囲気の老舗の洋食レストランだった。
店内はジャズ喫茶のような落ち着いた音楽が流れ、そして、テーブルごとにランプが灯されているせいでしっとりとした空気が漂っている。
全席予約制のこの店に、私と風磨は何も知らずに何も考えずに入って行く。
「お客様、今日は何時のご予約でしょうか?」
案内係の初老の男性に声をかけられ、私はビクッとしてしまう。
「予約は入れてないです。
すみません、忘れてました」
私は風磨の陰に隠れて、そっと店内を見渡してみる。
その店の人は予約リストを確認すると、肩をすくめながら私達に笑いかけた。
「先ほど、二人掛けのテーブルのお客様から予約のキャンセルがありまして、そのお席なら案内できますが、どうされますか?
一番奥のテーブルになりますけれど」
風磨は返事をする前に、堂々と店内を見回している。
「あ、じゃ、それでお願いします。
名前は向井と言います」
明らかに私達は目立っている。
何よりも風磨の体のデカさとラフ過ぎる恰好はこの店にはそぐわないし、それに私の挙動不審者のような動きも目立つ要因だった。
店の人に案内されてそのテーブルまで歩いて行く間に、私はミチャを見つけた。
もちろん、風磨だって気付いている。
私達のミチャへの執着は、地球上のどの生物よりも勝っているから、ミチャを見つける事は息をするくらい容易い。
テーブルに着いた私達は無言で目配せをした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
愛のカタチ
如月あこ
ライト文芸
ビアンである姉が、偽装結婚をすると言いだした。
「偽装結婚」に納得のできない愛花だったが、そんなとき、高校の同級生且つ友人である琴音に妊娠の可能性が!
付き添いで向かった病院にいたのは、愛想のいいお医者さん。
その医者こそ義姉の「偽装結婚」の相手で、実は無愛想な人だった。
メインは、姉の偽装結婚相手の医者×ヒロイン。
愛とは何か、をテーマにしています。
物語としてお楽しみください。
追記:迷ったのですが、カテゴリーを変更しました。
※性癖、関係性など、話に出てくる諸々を否定しているわけではありません。
※一部、性的な表現があります
君の中で世界は廻る
便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、
二年つき合った彼にフラれた
フラれても仕方がないのかも
だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから…
そんな私は田舎に帰ることに決めた
私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島
唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい
看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた
流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため……
田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た
「島の皆さん、こんにちは~
東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。
よろしくお願いしま~す」
は??? どういうこと???
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡
結城芙由奈
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした―
大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。
これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。
<全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました>
※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています
幽霊アパート、満室御礼!
水瀬さら
ライト文芸
就職活動に連敗中の一ノ瀬小海は、商店街で偶然出会った茶トラの猫に導かれて小さな不動産屋に辿りつく。怪しげな店構えを見ていると、不動産屋の店長がひょっこりと現れ、小海にぜひとも働いて欲しいと言う。しかも仕事内容は、管理するアパートに住みつく猫のお世話のみ。胡散臭いと思いつつも好待遇に目が眩み、働くことを決意したものの……アパートの住人が、この世に未練を残した幽霊と発覚して!? 幽霊たちの最後の想いを届けるため、小海、東奔西走!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる