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道也の誕生日
…5
しおりを挟む「スケジュール帳??
え、でも、何で、ミチャはスケジュール帳を家に置いてるの?」
「それは、ミチャだから。
ミチャにとって、スケジュール帳はとりあえず書いてた方がいいかなくらいのもの。
大切な事は、ちゃんと頭の中に入ってる人間だから」
そっか… 確かにそう。
ミチャに関しては、ミチャの常識がある。
それは不可解で、すごく魅力的でもあるんだけど…
「でも、ミチャは桜子さんの事好きだったんでしょ?
付き合ったくらいだから」
風磨は私の質問を聞き終える前から、首を横に振っている。
「それはないな。
ミチャは付き合ってって言われれば、たぶん、誰とも付き合う。
ミチャの中ではボランティアと一緒なんだ。
その人がそれで喜ぶのなら、いいですよみたいな。
好きとか嫌いとかそんなものどうでもよくて、付き合ってって言ってくれることに感謝してる感じかな」
それは、風磨が勝手にそう思っている事。
本当にミチャがそんな風に思っているのなら、あんた何様なの?って言ってやりたい。
「そんな事ないよ…
その時は、ミチャだって桜子さんの事が少しは好きだった。
好きだから、付き合うんだよ。
特に、ミチャみたいな不器用な人は、そうじゃなきゃ付き合えない」
風磨と私。
微妙な関係。
ミチャと付き合いたいけど付き合えない風磨と、ミチャと結婚しているけど結婚していない私。
全く違う二人だけど、何だか似ている二人…
「ま、どっちでもいいけどさ。
とにかく、桜子は何を考えてるのか分からない人間なのは、確か」
私はまた体の力が抜ける。
「風磨…
その桜子さんが、何で今頃になってミチャに用があるの?
それも誕生日に…
それも、結婚したって言ったのに…」
風磨もため息をつく。
本当に、桜子の魂胆が分からないみたいに。
「まひる、ミチャと桜子の会ってる店って分かる?
どこで待ち合わせって言ってた?」
最近の私は、ミチャへのあれこれの質問を自粛していた。
口を開けば元カノとの関係を問いただしてばかりいる私に、私自身が嫌気が差してたから。
ミチャは何も言わないけれど。
「店の名前は聞いてない…
時間は六時だって言ってたけど。
でも、いつも行くお店だって言ってた。
僕が、唯一、常連として人を連れて行ける場所だって」
風磨は急に立ち上がった。
「まひる、行くぞ」
「行くって? どこに?」
風磨はリビングに置いている立ち鏡を覗き込んで、今日の自分の恰好をチェックしている。
「その店だよ。
ミチャの愛して止まない、ビストロ・MAKI」
私は、ミチャとは真逆で、感情が八割の人間だ。
理性なんて米粒程度しか持ち合わせていない。
どうやら、風磨もそのタイプの人間だったみたい。
「行く! 行きたい。
ちょっとだけ準備するから、五分待って」
私はそう言いながら、慌てて着替えるために部屋へ入った。
何を着ていこうと悩んだ結果、ミチャが、一目瞭然、私だと分かる格好にした。
そう、あのアルプスの少女ハイジみたいな格好と、モアイ像のピアス。
私って怖い女かもしれない。
でも、風磨も同罪だよね、うん、絶対…
私の格好もどうかと思うけど、風磨のスウェットの上下もどうかと思った。
だって、どう見ても部屋着にしか見えない。
髪の寝ぐせは私がどうにかして直したけど、この格好で赤坂の街に繰り出すの?
「風磨、ミチャの洋服、借りる?
そのビストロMAKIって、そんなスウェットで入っても大丈夫な店なの?」
風磨はもう一度自分の姿を鏡に映す。
「ミチャの服は入らないよ。
俺、こう見えてムッキムキだからさ」
今、そんな笑いは要らない。
そうは思っても、ミチャの変顔とポージングについ笑ってしまう。
「っていうか、大丈夫だよ。
そんなかしこまった店じゃないし、俺みたいな人間でもちゃんともてなしてくれる、いいお店だから」
「風磨も行った事あるの?」
「え?
逆に、まひるなないの?
それは意外だな」
私は風磨以上の変顔をして、玄関へ向かった。
風磨との言い合いの時間さえ、もったいなくて仕方ない。
「風磨、行くよ。
私をその店まで連れて行って」
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