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道也の誕生日
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しおりを挟む十一月二十三日はミチャの誕生日。
以前、私の誕生日の前に、お互いの誕生日には旅行をしようと決めた。
そう言い出したのはミチャで、だから、私の誕生日には二人で沖縄に旅行して、真夏の沖縄で、私達は最高の思い出を作った。
「次はミチャの誕生日だね」
「ミチャの誕生日はどこに行こうか?」
なんてずっと話していたのに、鈍感過ぎるミチャは、誕生日の二週間前に大切なある人との約束を思い出した。
「僕自身、忘れてたんだ。
去年の僕の誕生日に、来年の誕生日に会いましょうって電話で言われたんだけど、でも、その時の感じは全然具体的じゃなかったし、ただの社交辞令かと思ってた。
昨日、確認のメッセージが入って驚いたよ。
どうやら、社交辞令じゃなかったみたい」
実は、もう、私達は旅行の準備をしていた。
二十三日と二十四日の週末を使って、大阪で食べ歩きをするというシンプルなものだけれど。
でも、二十三日にその人と会うのであれば、大阪へ泊まりでは行けない。
だからといって、日帰りで行くのも何だか嫌だった。
「その人って誰なの…?
ミチャの誕生日に会いたいって…」
ミチャは困ったように微笑んだ。
更に、肩なんかすくめちゃって、大げさにため息をつく。
分かりやすい、ミチャ…
その人って、女の人なんでしょ?
「桜子っていって、僕が二十五歳くらいの時に付き合ってた人。
しばらく会ってなくて、去年、急に電話が来たんだ。
去年は、まさか今年がこんな事になるなんて思ってないから、何も考えずにその約束を簡単に受けた。
でも、そうだよ。
僕はまひると結婚したわけだから、それを理由に断ってもいいんだ」
ミチャは急に明るくなった。
口角を上げ半分笑いながら、何やら一人で対策を練っている。
私は、その相手が元彼女という事実に打ちひしがれていた。
元カノがミチャに何の用?
「その人と、どれくらい付き合ってたの?
その人は、今、独身?
その人と、何で別れたの?」
ダメだ…
聞きたい事だらけで、質問が止まらない。
完全に嫉妬している。
どういう理由であれ彼女だったという事は、ミチャもその人が好きだったという事。
何だか失恋した気分…
こんな鈍感でお子ちゃまなミチャだけど、不思議と皆、ミチャの魅力に惹きつけられる。
ミチャがモテないわけない。
現に、今だって、私と風磨が毎日毎日ミチャを想っている。
ミチャは私の質問攻撃にちょっとひるんでいた。
だって、さっきまでの微笑みが苦笑いに変わってるから。
「その人とは、三か月か半年とか、それくらいしか付き合ってないよ。
それに、その後、結婚したとかしてないとか、そんなのも何も知らない。
あと、何だっけ?
あ、何で別れたか?
何でだったかな…
多分、僕がふられたんだと思うよ」
この半年とちょっとのミチャとの生活の中で、私はさりげなくミチャの前の彼女の話を聞いた事がある。
ミチャの今までの人生で、私を除いて、二人の女性と付き合っていたらしい。
でも、聞き出せたのはその情報だけ。
ミチャの中で、過去の出来事はいつの間に選別されて、不必要な物はどんどん脳の中から消えてしまうらしい。
本人に言わせれば、自分の脳は容量が少ないらしく、新しい物を取り入れるには要らない物は捨てるしかないそうだ。
だから、人よりちょっと忘れている事が多いのだと。
「ミチャをふった人なのに、どうしてこんなに時間が経ってから会う必要があるの?
それも、ミチャの誕生日に…
それも、わざわざ一年前の誕生日の日に約束するなんて」
もう嫉妬の極致だ。
それに、これ以上ミチャに想いを寄せてる人に現れてほしくない。
風磨だけで十分なのに。
私のその質問に、ミチャは他人事のように首を傾げている。
何でだろう?って…
「でも、まひる、心配しなくていいよ。
僕は、今、結婚して奥さんがいるから、誕生日の日は会えないって断るから。
どうしても用があるのなら、他の日に会ってもらう。
だから、そんなに鼻息を荒立てなくても大丈夫だよ」
ミチャはそう言って、ヒヒ~ンと馬のモノマネをして楽しそうに笑った。
いや、いや、全然、笑えませんから。
ミチャの目に、今の私が、鼻息荒い愚かな雌馬に映ってても、そんなのどうでもいいんです。
その桜子って人の魂胆が知りたくてしょうがない。
何のためにミチャに会いに来るの?
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