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まひるの誕生日
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しおりを挟む「それで?
ピッタリだと思ったけど、どうしたの?」
ミチャは手を伸ばせばすぐそこにある私の頬を、躊躇もせずの優しく撫でる。
「まひるが納得する完璧な着ぐるみを作るには、三か月かかるって言われた…
絶対、間に合わない、残念ながら」
「着ぐるみを作ろうと思ったの?」
私はご当地マスコットの着ぐるみ達が目に浮かんだ。
いや、ミチャの事だから、そのシーサーは着ぐるみというよりゴジラとかの方に近い気がする。
それもちょっとロボット体型の…
「そう、でも、着ぐるみってシーサーの良さが出ないんだ。
だから、やめた。
まひるは、コスプレに関しては、完璧でストイックだろ?
それを考えたら、絶対に気に入らないって思った」
私は自分なりに納得しているミチャに、単純な答えをプレゼントする。
「ミチャ…
着ぐるみってコスプレじゃないんだよ。
着ぐるみって顔も全部隠れるやつでしょ?
全部隠れちゃったら、つまんないじゃん。
せめて顔だけは出さないと」
ミチャはちょっとだけホッとした顔をしている。
二人だけのシーサーのコスプレのイベントを決行しなくてよかったと。
「じゃ、この誕生日のイベントで正解だったのかな?
僕の中じゃ、すごい挑戦だったんだ。
今までの人生で、女性のために何かをしてあげたいって思った事が初めてだから。
何をどうしてあげれば、まひるが喜ぶのか何も分からなくてさ。
だから、まひるへの誕生日プレゼントだって、実は、何も準備してない。
今日のこの日に、まひるに聞こうと思ってた。
誕生日のプレゼントは何がほしい?って」
リクライニングシートに寝転んでいるミチャは、私の方を向いて片肘をつく。
お互い向かい合って片肘をついて、何だか不思議な気分。
でも、そんな不思議な何かが、私の閉ざしている心の扉を開いた。
「プレゼントは… 何でもいいの?」
ミチャは大きく頷いて、そして、私の大好きな笑みを浮かべる。
昼間の海辺を歩いたせいで、ミチャの鼻の頭は赤く日焼けをしていた。
私にはしつこく日焼け止めを勧めていたくせに、自分の事には無頓着なミチャが本当に愛おしい。
でも、こんなに近くにいる二人なのに、私達の関係性は遠く離れている。
ミチャを近くで感じたい…
「ミチャの…
ミチャのキスがほしい…」
キスなんて、こんな風にお願いして、してもらうものじゃない。
でも、どんな形でもいいから、私はミチャとキスがしたかった。
そんな切なる想いは、また涙を伴ってあふれ出す。
ミチャは何も言わず、私の事を見つめている。
私はそんなミチャを見る事ができず、自分が発してしまった言霊の行方だけを追っていた。
「キスなんてプレゼントには入らないから…」
ミチャはそんな言葉を残して、そっと私にキスをした。
それは、軽くて甘い高校生のようなキス。
でも、私はそんなキスじゃ満足しない。
「ミチャ、今、私達は夫婦だよね…?
偽物だとしても…」
私の言葉を聞いて困ったように微笑むミチャは、右手で私の頬を引き寄せた。
ミチャのキスは大人のキスだった。
こんなキス、初めて…
優しくて、控えめで、でも、何だか強引で。
ミチャの柔らかいくちびるは、私の全ての感情を支配する。
ミチャは私のもの…
私もミチャのもの…
たった一回のキスで、私の思考は完全に乗っ取られてしまった。
「ミチャ…?」
「…うん?」
キスを終えたミチャに、私はいきなり話しかける。
「ミチャって、キス、上手なんだ…」
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