あの夏に僕がここに来た理由

便葉

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存在

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ひまわりは一睡もできなかった。
ひまわりの事を心配したさくらは、家には帰らずひまわりの隣で寝てくれた。
ひまわりはさくらがいてくれたおかげで、どうにか正気を保っていられた。
でも、それでも、ひまわりは朝日が昇ると同時に身支度を整え、寝ているさくらを起こさないように玄関へ向かう。

「…ひまちゃん」

さくらは寝ぼけた声で、ひまわりを呼んだ。

「さくら、私、海人さんを捜しに行ってくるね。
さくらは家で待っててくれる?
もしかしたら、海人さんがここへ帰ってくるかもしれないから。
さくら、心配させてごめんね…」

「ううん、大丈夫。何かあったら、すぐに電話するね」

さくらは小さい時からいつもひまわりを困らせてばかりいたが、気がつけば、必ず、ひまわりの味方でいてくれた。さくらが側にいてくれて、本当に良かった…

外に出ると、朝日がとても眩しかった。
ひまわりは焦る気持ちを抑えながら、海人と出会ったあの公園へ向かって走り出した。海人はあのベンチで夜を過ごしたに違いないと確信しているひまわりは、途中のコンビニで二人分のおにぎりと飲み物を買って一目散に公園へ向かった。
森を超えた先に階段が見えてきた。
ひまわりは最後の力を振り絞り、そこを上りきった。

「海人さん、いる? 海人さん…」

ひまわりは肩で息をしながら大きな声で海人を呼んだが、公園は静まり返っている。
ひまわりは恐ろしい程の胸騒ぎを感じ、立ち尽くしてしまった。
海人は、ここにはいない…
しんと静まり返った誰もいない早朝の公園で、ひまわりは自分の存在がなくなっていくような喪失感を覚えた。

私は、ひまわりという名前が嫌いだった。
小学生の頃、クラスでひまわりを育てたことがある。
その時に、ひまわりの育て方と特性を学んだ。
ひまわりはいつも太陽ばかりを見ている。
太陽の行く方ばかりを首を振って追いかける。
その切ない特徴のせいで、ひまわりは、日当たりが悪いと大きく元気になれない。
その頃の私の太陽は、父だった。
父の事が大好きで、父の後ばかりをついて回っていた。
父が家を出てからは、私は以前のように笑えなくなった。
そして、今の私は、それ以上の悲しみに打ちひしがれている。
海人がいなくなった今の私は、首が折れて枯れてしまったひまわりと同じだ。
ひまわりは時間が経つのも忘れ、ベンチに座っていた。
ここにじっとしていると、もしかしたら海人は過去へ帰ってしまったのかもしれないと思えてくる。
働くために出て行ったのではなく、お母さん達の元へ戻ったのだと。
私がどんなに海人と一緒にいたいと願っても、どのみち、海人は私の元から離れていくのだろう。
だけど、どうしても、海人に会いたい。
どうすれば、もう一度、海人に会える?
ひまわりは涙で濡れたままの顔で捜すあてもなく、ただ、そこにずっと座っていた。
ひまわりは公園のベンチに座り子供達の遊ぶ様子を見ていると、少しだけ元気になれたような気がしていた。
これからどうしようかと思っていると、タイミングよくさくらから電話が入った。

「ひまちゃん、どこにいるの?」

さくらはホッとしたのか泣きそうな声をしている。

「高台の公園に来てる。でも、今から帰るところ」

「よかった…
早く、帰ってきてね。待ってるから」

さくらはそう言うと電話を切った。
ひまわりは、疲れ過ぎて何も考えたくなかった。早く帰って寝てしまいたい。
ひまわりの心も体も現実から目を背けたがっていた。
海人を捜す事さえ足取りが重くなっている。
やっと自分だけの太陽を見つけたひまわりは、今は、真っ暗闇で生きているのと同じだった。
海人さん、早く帰ってきて…
太陽の光がないと、ひまわりは枯れて死んでしまう…

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